27 / 39
第二章 変動
26話 私の事情
しおりを挟む
別視点です。
※※※※※※※※
後宮にある使用人たちに用意された部屋。二人部屋に、ルリアはいた。今、同居人はいないので、部屋の中には一人だけだ。
机に向かっているルリアの前には、真っ白な便箋。書くことが決まらず、悶々としている状況だった。差出人は決まっている。最近、ルリアのことを良く気にかけてくれている公爵子息で、第一師団の部隊長をも勤めるシアリィルドだ。男性が苦手なルリアが、唯一平気な相手でもある。
ルリアの主でもあるサレーテヌ王妃殿下からの勧めもあって、こうして手紙のやり取りをするようになった。だが、相手は軍の中でも幹部の人で、多忙だ。
「・・・あまり、たくさん書くと迷惑だよね・・・」
それに、あちらからしてみれば、ルリアはカレンという姉の付属品だ。カレンが王子殿下の侍女で、シアリィルドとも友人だからルリアとの繋がりが出来ているだけ。姉がいなければ、ルリアのことなど知らなかっただろう。
そう思うと、気が重くなってしまう。向こうには、そのくらいの対象でしかないのだ。
シアリィルドは覚えていないようだったが、王宮で助けてもらう以前にも話をしたことはある。ルリアにとって、大切な思い出だ。
『大丈夫?ごめん・・・可愛い顔を汚して。ちゃんと謝らせるから』
初めて母に連れられて王宮に来た日。庭園でカレンと母と手を繋いでいたら、ジークランスに突き飛ばされたのだ。カレンも母もジークランスに怒った。怒られた本人は、ケラケラと笑って逃げ回っていて、一方ルリアは転んで服も顔にも土が付いてしまった。
泣きそうになりながらも我慢してたら、そっと手が伸ばされた。その手を取って立ち上がると、その手の主はとても可愛らしい少年だった。今でもルリアは鮮明に覚えている。服装が違えば、女の子だと思ったかもしれない。間違いなく、ルリアよりも可愛かった。
服に付いた土を払い、ハンカチで顔も拭いてくれた。ポンポンと頭を撫でられれば、涙が溢れて抱きついて泣いてしまったのだ。
あれが、ルリアの初恋だった。しかし、ルリアはジークランスが苦手で、その日以来城に来ることはなかったから忘れられても仕方ないと思う。
「はぁ・・・」
思わず深く息を吐いてしまう。すると、ドアがノックされる音が届く。
「はい」
同居人ならばノックをしない。誰だろうと、扉を開けると、そこにはカレンが立っていた。
「姉様?」
「こんにちは、ルリア。今、いい?」
「は、はい」
にっこりと笑みを見せるカレンをルリアは部屋に招く。誰もいないので、話をするならば部屋の中の方がいいだろう。決して広くはない部屋に、小さいテーブルと椅子しかないが、何度も来ているカレンは戸惑うこともなく空いている椅子に座った。
「姉様、紅茶でいいですか?」
「ええ、ありがとう。ルリアの紅茶はとても美味しいから、嬉しいわ」
「姉様・・・ありがとうございます」
尊敬する姉に褒められることは、ルリアにとってとても嬉しいことだ。気分が上がることを自覚しながらも、手順を間違えないように気を付けて紅茶を淹れる。
「どうぞ」
「ありがとう・・・うん、いい香りね」
満足そうに飲むカレンに、ルリアも自分へと淹れた紅茶のカップを手にして、その前の椅子へ座る。
「あの、姉様、何か合ったのですか?その・・・」
「・・・ううん。大丈夫よ。シアリィルド様に何かあった訳ではないわ。安心して」
「・・・えっと」
何も言わずともわかってしまうことに、ルリアは思わず顔が火照るのを感じた。確かにルリアが考えていたのはシアリィルドのことだが、それほどに分かりやすいのだろうか。
頬に両手を当てて隠すようにしているルリアを見てカレンはクスリと笑った。
「ふふ、本当に貴女は・・・顔に出てるわ」
「ね、姉様・・・」
「とても可愛いわよ、今の貴女。去年とは大違いね」
「・・・その、申し訳、ありませんでした。あの時は・・・」
去年は、元婚約者のことで、ルリアは色々と追い詰められていたのだ。
彼はルリアとのことは仕方なく受け入れていた節があった。侯爵家と伯爵家なら家格も悪くないし、ルリアの母も姉も王家との関わりがあるため、利を得られると考えていたのだろう。だが、学院での出逢いがその考えを変えてしまった。その子は、思ったことをハッキリと口に出す人で、おどおどしているルリアとは正反対の性格だった。男性と女性とで、雰囲気が変わることに、反感も持たれていたので、友人はあまりいなかったように思う。それでも、彼は彼女に惹かれてしまった。最後にはルリアへの暴言を吐いて。
最初から仕方なく受け入れた婚約だったと告げられた。同じく仕方ないという想いだったルリアの言葉など一切聞かず、何故かルリアが彼に想いを抱いていたことになっていて、困惑するばかりだった。それでも、彼の言葉には傷ついたし、他にも同様に婚約破棄を突きつけられた令嬢もいて、ルリアは男性に絶望感を抱いた。屋敷に引きこもり、このまま修道院にでも行こうかと本気で思ったものだ。
それを救ったのは、姉であるカレン。男性との接触が少ない後宮という場所を勧めてくれたのだ。
「あの時の貴女は、本当に見ていられなかったもの。侍女として後宮に来たときも同じ。王妃殿下も心苦しく思っていらしてたし・・・けれど、最近の貴女は以前と同じ、いえそれ以上に笑うようになった。吹っ切れたのでしょう?」
「姉様・・・そう、かもしれません」
未だに心の中で燻る想いはないわけではない。また同じようにあの冷たい目で見られると思うと、身体がすくむ。完全に吹っ切った訳ではないだろう。それでも、気持ちの上では前に向いている自分がいる。
「あの時、私は外に出ることが怖かったのです。今も怖いと思うことはあります。でも・・・」
「でも?」
「その・・・わたしは・・・」
今のこの気持ちは何なのかわからない。けれど、想っていると勇気が出てくる。助けてくれて嬉しかったし、救われた気持ちになる。何かを返したい、そう思える。初恋だった人に、また会えて、話ができて、手紙を交換できて、それだけで満たされた気持ちになっていた。
上手く説明できないけれど、ゆっくりと途切れながら話すのを、カレンはじっと待っていてくれた。
「だから・・・私も、少しだけ・・・頑張ろうって思いました」
「・・・そう。ねぇ、ルリア・・・貴女が前を向き始めたこと、お父様もお母様も喜んでいるわ・・・」
「そうだと、良いのですが・・・」
「一つだけ確認をさせて。貴女は・・・シアリィルド様に恋をしている?」
「え・・・それは、その・・・」
再び全身の熱が顔に集中するのを感じた。恥ずかしさからルリアは下を向くが、コクンと頷く。
「・・・初恋、だった、から・・・私」
「そう・・・そうよね。それが、今の貴女の原動力になっている」
「・・・はい。でも、私は想っていられるだけでいいんです!あの方の邪魔をするようなことはしませんから・・・だから、その」
まだカレンの妹としか認識されていないので、それ以上の関係など求めてはいない。いや、求めてはいけないのだとルリアは考えている。世間的には、ルリアは婚約者に捨てられた女性。シアリィルドと関われば、彼の醜聞になってしまう。また、誰かにあのような目で見られるのは嫌だし、それがシアリィルドならば今度はもう耐えられない。
「お願いします、姉様・・・」
涙が溢れてしまう。だが、カレンは立ち上がってそっとルリアの肩を抱き締めた。突然の温もりに、ルリアは顔をあげる。カレンは、目を細めて微笑んでいた。とても優しい顔だ。
「姉様・・・」
「大丈夫。あの方は邪魔だなんて思っていないから。もし嫌なら手紙なんて送ってこないわ」
「でもそれは、私が姉様の妹だからで・・・」
「確かに、無いとは言わないけれど・・・それでも、迷惑なら迷惑と伝えてくる人よ。そうして、何人もの女性を泣かせてきた方なのだし」
本当に迷惑ではないのだろうか。カレンは、大丈夫だとルリアを抱き締める腕の力を強くする。
「・・・でもね、想うだけでは駄目。ちゃんと伝えなさい。貴女が言わなければ、あの方には伝わらない」
「私は、それでも」
「駄目よ。・・・ちゃんと、伝えなさい」
「姉様?」
「・・・お父様は貴女の縁談をまとめようとしている。元気な貴女を見て、吹っ切れたと思ったのね。だから、嫁ぐ相手を見繕っているわ」
「・・・そう、ですか」
見合いをさせられるのだ。ルリアも貴族令嬢。家のために嫁ぐことは、納得できているし、仕方のないことだと思っている。
もし、父が見合いを考えているのなら、なおのこと伝えることは出来ないだろう。しかし、カレンは首を横に振る。
「駄目よ、ちゃんと伝えて。私は、貴女に幸せになってもらいたい。次は貴女が望む相手と」
「・・・ありがとうございます。でも」
「でもじゃないのよ。それとも、貴女の想いは簡単に諦められるものなの?」
「それは・・・」
会えない期間が長かったが、それでも忘れられなかった。もしかすると、シアリィルドに触れられても平気なのは、幼い頃のことがあったからなのかもしれない。
婚約が決まって、未来を定められて諦めてきた。けれど、もう諦めなくてもいいとカレンは言う。しかし、一度失った自信は簡単には戻ってこない。どうしても悪い方向にしか考えられないのだ。
「でも・・・でも、きっと迷惑で、私なんか」
「迷惑かどうかは、貴女が決めることじゃないでしょ。ちゃんと、シアリィルド様に聞きなさい」
「姉様・・・でも」
「でもはもう止めなさい。全く・・・そうねぇ、言葉で言えないのなら・・・別の方法で伝えればいいわ」
「別の方法?」
良いことを思い付いたとカレンは、ルリアから離れて本棚を物色し始めた。そこで、一つの本を手に取る。
「これなら、出来るでしょ?」
「・・・花、言葉ですか?」
「気づいてくれるかは、賭けになるけれど、貴女にはちょうどいいかもしれないわ」
こうしてルリアはカレンに発破をかけられ、その助言の下で、行動を始める。
※※※※※※※※
後宮にある使用人たちに用意された部屋。二人部屋に、ルリアはいた。今、同居人はいないので、部屋の中には一人だけだ。
机に向かっているルリアの前には、真っ白な便箋。書くことが決まらず、悶々としている状況だった。差出人は決まっている。最近、ルリアのことを良く気にかけてくれている公爵子息で、第一師団の部隊長をも勤めるシアリィルドだ。男性が苦手なルリアが、唯一平気な相手でもある。
ルリアの主でもあるサレーテヌ王妃殿下からの勧めもあって、こうして手紙のやり取りをするようになった。だが、相手は軍の中でも幹部の人で、多忙だ。
「・・・あまり、たくさん書くと迷惑だよね・・・」
それに、あちらからしてみれば、ルリアはカレンという姉の付属品だ。カレンが王子殿下の侍女で、シアリィルドとも友人だからルリアとの繋がりが出来ているだけ。姉がいなければ、ルリアのことなど知らなかっただろう。
そう思うと、気が重くなってしまう。向こうには、そのくらいの対象でしかないのだ。
シアリィルドは覚えていないようだったが、王宮で助けてもらう以前にも話をしたことはある。ルリアにとって、大切な思い出だ。
『大丈夫?ごめん・・・可愛い顔を汚して。ちゃんと謝らせるから』
初めて母に連れられて王宮に来た日。庭園でカレンと母と手を繋いでいたら、ジークランスに突き飛ばされたのだ。カレンも母もジークランスに怒った。怒られた本人は、ケラケラと笑って逃げ回っていて、一方ルリアは転んで服も顔にも土が付いてしまった。
泣きそうになりながらも我慢してたら、そっと手が伸ばされた。その手を取って立ち上がると、その手の主はとても可愛らしい少年だった。今でもルリアは鮮明に覚えている。服装が違えば、女の子だと思ったかもしれない。間違いなく、ルリアよりも可愛かった。
服に付いた土を払い、ハンカチで顔も拭いてくれた。ポンポンと頭を撫でられれば、涙が溢れて抱きついて泣いてしまったのだ。
あれが、ルリアの初恋だった。しかし、ルリアはジークランスが苦手で、その日以来城に来ることはなかったから忘れられても仕方ないと思う。
「はぁ・・・」
思わず深く息を吐いてしまう。すると、ドアがノックされる音が届く。
「はい」
同居人ならばノックをしない。誰だろうと、扉を開けると、そこにはカレンが立っていた。
「姉様?」
「こんにちは、ルリア。今、いい?」
「は、はい」
にっこりと笑みを見せるカレンをルリアは部屋に招く。誰もいないので、話をするならば部屋の中の方がいいだろう。決して広くはない部屋に、小さいテーブルと椅子しかないが、何度も来ているカレンは戸惑うこともなく空いている椅子に座った。
「姉様、紅茶でいいですか?」
「ええ、ありがとう。ルリアの紅茶はとても美味しいから、嬉しいわ」
「姉様・・・ありがとうございます」
尊敬する姉に褒められることは、ルリアにとってとても嬉しいことだ。気分が上がることを自覚しながらも、手順を間違えないように気を付けて紅茶を淹れる。
「どうぞ」
「ありがとう・・・うん、いい香りね」
満足そうに飲むカレンに、ルリアも自分へと淹れた紅茶のカップを手にして、その前の椅子へ座る。
「あの、姉様、何か合ったのですか?その・・・」
「・・・ううん。大丈夫よ。シアリィルド様に何かあった訳ではないわ。安心して」
「・・・えっと」
何も言わずともわかってしまうことに、ルリアは思わず顔が火照るのを感じた。確かにルリアが考えていたのはシアリィルドのことだが、それほどに分かりやすいのだろうか。
頬に両手を当てて隠すようにしているルリアを見てカレンはクスリと笑った。
「ふふ、本当に貴女は・・・顔に出てるわ」
「ね、姉様・・・」
「とても可愛いわよ、今の貴女。去年とは大違いね」
「・・・その、申し訳、ありませんでした。あの時は・・・」
去年は、元婚約者のことで、ルリアは色々と追い詰められていたのだ。
彼はルリアとのことは仕方なく受け入れていた節があった。侯爵家と伯爵家なら家格も悪くないし、ルリアの母も姉も王家との関わりがあるため、利を得られると考えていたのだろう。だが、学院での出逢いがその考えを変えてしまった。その子は、思ったことをハッキリと口に出す人で、おどおどしているルリアとは正反対の性格だった。男性と女性とで、雰囲気が変わることに、反感も持たれていたので、友人はあまりいなかったように思う。それでも、彼は彼女に惹かれてしまった。最後にはルリアへの暴言を吐いて。
最初から仕方なく受け入れた婚約だったと告げられた。同じく仕方ないという想いだったルリアの言葉など一切聞かず、何故かルリアが彼に想いを抱いていたことになっていて、困惑するばかりだった。それでも、彼の言葉には傷ついたし、他にも同様に婚約破棄を突きつけられた令嬢もいて、ルリアは男性に絶望感を抱いた。屋敷に引きこもり、このまま修道院にでも行こうかと本気で思ったものだ。
それを救ったのは、姉であるカレン。男性との接触が少ない後宮という場所を勧めてくれたのだ。
「あの時の貴女は、本当に見ていられなかったもの。侍女として後宮に来たときも同じ。王妃殿下も心苦しく思っていらしてたし・・・けれど、最近の貴女は以前と同じ、いえそれ以上に笑うようになった。吹っ切れたのでしょう?」
「姉様・・・そう、かもしれません」
未だに心の中で燻る想いはないわけではない。また同じようにあの冷たい目で見られると思うと、身体がすくむ。完全に吹っ切った訳ではないだろう。それでも、気持ちの上では前に向いている自分がいる。
「あの時、私は外に出ることが怖かったのです。今も怖いと思うことはあります。でも・・・」
「でも?」
「その・・・わたしは・・・」
今のこの気持ちは何なのかわからない。けれど、想っていると勇気が出てくる。助けてくれて嬉しかったし、救われた気持ちになる。何かを返したい、そう思える。初恋だった人に、また会えて、話ができて、手紙を交換できて、それだけで満たされた気持ちになっていた。
上手く説明できないけれど、ゆっくりと途切れながら話すのを、カレンはじっと待っていてくれた。
「だから・・・私も、少しだけ・・・頑張ろうって思いました」
「・・・そう。ねぇ、ルリア・・・貴女が前を向き始めたこと、お父様もお母様も喜んでいるわ・・・」
「そうだと、良いのですが・・・」
「一つだけ確認をさせて。貴女は・・・シアリィルド様に恋をしている?」
「え・・・それは、その・・・」
再び全身の熱が顔に集中するのを感じた。恥ずかしさからルリアは下を向くが、コクンと頷く。
「・・・初恋、だった、から・・・私」
「そう・・・そうよね。それが、今の貴女の原動力になっている」
「・・・はい。でも、私は想っていられるだけでいいんです!あの方の邪魔をするようなことはしませんから・・・だから、その」
まだカレンの妹としか認識されていないので、それ以上の関係など求めてはいない。いや、求めてはいけないのだとルリアは考えている。世間的には、ルリアは婚約者に捨てられた女性。シアリィルドと関われば、彼の醜聞になってしまう。また、誰かにあのような目で見られるのは嫌だし、それがシアリィルドならば今度はもう耐えられない。
「お願いします、姉様・・・」
涙が溢れてしまう。だが、カレンは立ち上がってそっとルリアの肩を抱き締めた。突然の温もりに、ルリアは顔をあげる。カレンは、目を細めて微笑んでいた。とても優しい顔だ。
「姉様・・・」
「大丈夫。あの方は邪魔だなんて思っていないから。もし嫌なら手紙なんて送ってこないわ」
「でもそれは、私が姉様の妹だからで・・・」
「確かに、無いとは言わないけれど・・・それでも、迷惑なら迷惑と伝えてくる人よ。そうして、何人もの女性を泣かせてきた方なのだし」
本当に迷惑ではないのだろうか。カレンは、大丈夫だとルリアを抱き締める腕の力を強くする。
「・・・でもね、想うだけでは駄目。ちゃんと伝えなさい。貴女が言わなければ、あの方には伝わらない」
「私は、それでも」
「駄目よ。・・・ちゃんと、伝えなさい」
「姉様?」
「・・・お父様は貴女の縁談をまとめようとしている。元気な貴女を見て、吹っ切れたと思ったのね。だから、嫁ぐ相手を見繕っているわ」
「・・・そう、ですか」
見合いをさせられるのだ。ルリアも貴族令嬢。家のために嫁ぐことは、納得できているし、仕方のないことだと思っている。
もし、父が見合いを考えているのなら、なおのこと伝えることは出来ないだろう。しかし、カレンは首を横に振る。
「駄目よ、ちゃんと伝えて。私は、貴女に幸せになってもらいたい。次は貴女が望む相手と」
「・・・ありがとうございます。でも」
「でもじゃないのよ。それとも、貴女の想いは簡単に諦められるものなの?」
「それは・・・」
会えない期間が長かったが、それでも忘れられなかった。もしかすると、シアリィルドに触れられても平気なのは、幼い頃のことがあったからなのかもしれない。
婚約が決まって、未来を定められて諦めてきた。けれど、もう諦めなくてもいいとカレンは言う。しかし、一度失った自信は簡単には戻ってこない。どうしても悪い方向にしか考えられないのだ。
「でも・・・でも、きっと迷惑で、私なんか」
「迷惑かどうかは、貴女が決めることじゃないでしょ。ちゃんと、シアリィルド様に聞きなさい」
「姉様・・・でも」
「でもはもう止めなさい。全く・・・そうねぇ、言葉で言えないのなら・・・別の方法で伝えればいいわ」
「別の方法?」
良いことを思い付いたとカレンは、ルリアから離れて本棚を物色し始めた。そこで、一つの本を手に取る。
「これなら、出来るでしょ?」
「・・・花、言葉ですか?」
「気づいてくれるかは、賭けになるけれど、貴女にはちょうどいいかもしれないわ」
こうしてルリアはカレンに発破をかけられ、その助言の下で、行動を始める。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる