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第二章 変動
26話 私の事情
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別視点です。
※※※※※※※※
後宮にある使用人たちに用意された部屋。二人部屋に、ルリアはいた。今、同居人はいないので、部屋の中には一人だけだ。
机に向かっているルリアの前には、真っ白な便箋。書くことが決まらず、悶々としている状況だった。差出人は決まっている。最近、ルリアのことを良く気にかけてくれている公爵子息で、第一師団の部隊長をも勤めるシアリィルドだ。男性が苦手なルリアが、唯一平気な相手でもある。
ルリアの主でもあるサレーテヌ王妃殿下からの勧めもあって、こうして手紙のやり取りをするようになった。だが、相手は軍の中でも幹部の人で、多忙だ。
「・・・あまり、たくさん書くと迷惑だよね・・・」
それに、あちらからしてみれば、ルリアはカレンという姉の付属品だ。カレンが王子殿下の侍女で、シアリィルドとも友人だからルリアとの繋がりが出来ているだけ。姉がいなければ、ルリアのことなど知らなかっただろう。
そう思うと、気が重くなってしまう。向こうには、そのくらいの対象でしかないのだ。
シアリィルドは覚えていないようだったが、王宮で助けてもらう以前にも話をしたことはある。ルリアにとって、大切な思い出だ。
『大丈夫?ごめん・・・可愛い顔を汚して。ちゃんと謝らせるから』
初めて母に連れられて王宮に来た日。庭園でカレンと母と手を繋いでいたら、ジークランスに突き飛ばされたのだ。カレンも母もジークランスに怒った。怒られた本人は、ケラケラと笑って逃げ回っていて、一方ルリアは転んで服も顔にも土が付いてしまった。
泣きそうになりながらも我慢してたら、そっと手が伸ばされた。その手を取って立ち上がると、その手の主はとても可愛らしい少年だった。今でもルリアは鮮明に覚えている。服装が違えば、女の子だと思ったかもしれない。間違いなく、ルリアよりも可愛かった。
服に付いた土を払い、ハンカチで顔も拭いてくれた。ポンポンと頭を撫でられれば、涙が溢れて抱きついて泣いてしまったのだ。
あれが、ルリアの初恋だった。しかし、ルリアはジークランスが苦手で、その日以来城に来ることはなかったから忘れられても仕方ないと思う。
「はぁ・・・」
思わず深く息を吐いてしまう。すると、ドアがノックされる音が届く。
「はい」
同居人ならばノックをしない。誰だろうと、扉を開けると、そこにはカレンが立っていた。
「姉様?」
「こんにちは、ルリア。今、いい?」
「は、はい」
にっこりと笑みを見せるカレンをルリアは部屋に招く。誰もいないので、話をするならば部屋の中の方がいいだろう。決して広くはない部屋に、小さいテーブルと椅子しかないが、何度も来ているカレンは戸惑うこともなく空いている椅子に座った。
「姉様、紅茶でいいですか?」
「ええ、ありがとう。ルリアの紅茶はとても美味しいから、嬉しいわ」
「姉様・・・ありがとうございます」
尊敬する姉に褒められることは、ルリアにとってとても嬉しいことだ。気分が上がることを自覚しながらも、手順を間違えないように気を付けて紅茶を淹れる。
「どうぞ」
「ありがとう・・・うん、いい香りね」
満足そうに飲むカレンに、ルリアも自分へと淹れた紅茶のカップを手にして、その前の椅子へ座る。
「あの、姉様、何か合ったのですか?その・・・」
「・・・ううん。大丈夫よ。シアリィルド様に何かあった訳ではないわ。安心して」
「・・・えっと」
何も言わずともわかってしまうことに、ルリアは思わず顔が火照るのを感じた。確かにルリアが考えていたのはシアリィルドのことだが、それほどに分かりやすいのだろうか。
頬に両手を当てて隠すようにしているルリアを見てカレンはクスリと笑った。
「ふふ、本当に貴女は・・・顔に出てるわ」
「ね、姉様・・・」
「とても可愛いわよ、今の貴女。去年とは大違いね」
「・・・その、申し訳、ありませんでした。あの時は・・・」
去年は、元婚約者のことで、ルリアは色々と追い詰められていたのだ。
彼はルリアとのことは仕方なく受け入れていた節があった。侯爵家と伯爵家なら家格も悪くないし、ルリアの母も姉も王家との関わりがあるため、利を得られると考えていたのだろう。だが、学院での出逢いがその考えを変えてしまった。その子は、思ったことをハッキリと口に出す人で、おどおどしているルリアとは正反対の性格だった。男性と女性とで、雰囲気が変わることに、反感も持たれていたので、友人はあまりいなかったように思う。それでも、彼は彼女に惹かれてしまった。最後にはルリアへの暴言を吐いて。
最初から仕方なく受け入れた婚約だったと告げられた。同じく仕方ないという想いだったルリアの言葉など一切聞かず、何故かルリアが彼に想いを抱いていたことになっていて、困惑するばかりだった。それでも、彼の言葉には傷ついたし、他にも同様に婚約破棄を突きつけられた令嬢もいて、ルリアは男性に絶望感を抱いた。屋敷に引きこもり、このまま修道院にでも行こうかと本気で思ったものだ。
それを救ったのは、姉であるカレン。男性との接触が少ない後宮という場所を勧めてくれたのだ。
「あの時の貴女は、本当に見ていられなかったもの。侍女として後宮に来たときも同じ。王妃殿下も心苦しく思っていらしてたし・・・けれど、最近の貴女は以前と同じ、いえそれ以上に笑うようになった。吹っ切れたのでしょう?」
「姉様・・・そう、かもしれません」
未だに心の中で燻る想いはないわけではない。また同じようにあの冷たい目で見られると思うと、身体がすくむ。完全に吹っ切った訳ではないだろう。それでも、気持ちの上では前に向いている自分がいる。
「あの時、私は外に出ることが怖かったのです。今も怖いと思うことはあります。でも・・・」
「でも?」
「その・・・わたしは・・・」
今のこの気持ちは何なのかわからない。けれど、想っていると勇気が出てくる。助けてくれて嬉しかったし、救われた気持ちになる。何かを返したい、そう思える。初恋だった人に、また会えて、話ができて、手紙を交換できて、それだけで満たされた気持ちになっていた。
上手く説明できないけれど、ゆっくりと途切れながら話すのを、カレンはじっと待っていてくれた。
「だから・・・私も、少しだけ・・・頑張ろうって思いました」
「・・・そう。ねぇ、ルリア・・・貴女が前を向き始めたこと、お父様もお母様も喜んでいるわ・・・」
「そうだと、良いのですが・・・」
「一つだけ確認をさせて。貴女は・・・シアリィルド様に恋をしている?」
「え・・・それは、その・・・」
再び全身の熱が顔に集中するのを感じた。恥ずかしさからルリアは下を向くが、コクンと頷く。
「・・・初恋、だった、から・・・私」
「そう・・・そうよね。それが、今の貴女の原動力になっている」
「・・・はい。でも、私は想っていられるだけでいいんです!あの方の邪魔をするようなことはしませんから・・・だから、その」
まだカレンの妹としか認識されていないので、それ以上の関係など求めてはいない。いや、求めてはいけないのだとルリアは考えている。世間的には、ルリアは婚約者に捨てられた女性。シアリィルドと関われば、彼の醜聞になってしまう。また、誰かにあのような目で見られるのは嫌だし、それがシアリィルドならば今度はもう耐えられない。
「お願いします、姉様・・・」
涙が溢れてしまう。だが、カレンは立ち上がってそっとルリアの肩を抱き締めた。突然の温もりに、ルリアは顔をあげる。カレンは、目を細めて微笑んでいた。とても優しい顔だ。
「姉様・・・」
「大丈夫。あの方は邪魔だなんて思っていないから。もし嫌なら手紙なんて送ってこないわ」
「でもそれは、私が姉様の妹だからで・・・」
「確かに、無いとは言わないけれど・・・それでも、迷惑なら迷惑と伝えてくる人よ。そうして、何人もの女性を泣かせてきた方なのだし」
本当に迷惑ではないのだろうか。カレンは、大丈夫だとルリアを抱き締める腕の力を強くする。
「・・・でもね、想うだけでは駄目。ちゃんと伝えなさい。貴女が言わなければ、あの方には伝わらない」
「私は、それでも」
「駄目よ。・・・ちゃんと、伝えなさい」
「姉様?」
「・・・お父様は貴女の縁談をまとめようとしている。元気な貴女を見て、吹っ切れたと思ったのね。だから、嫁ぐ相手を見繕っているわ」
「・・・そう、ですか」
見合いをさせられるのだ。ルリアも貴族令嬢。家のために嫁ぐことは、納得できているし、仕方のないことだと思っている。
もし、父が見合いを考えているのなら、なおのこと伝えることは出来ないだろう。しかし、カレンは首を横に振る。
「駄目よ、ちゃんと伝えて。私は、貴女に幸せになってもらいたい。次は貴女が望む相手と」
「・・・ありがとうございます。でも」
「でもじゃないのよ。それとも、貴女の想いは簡単に諦められるものなの?」
「それは・・・」
会えない期間が長かったが、それでも忘れられなかった。もしかすると、シアリィルドに触れられても平気なのは、幼い頃のことがあったからなのかもしれない。
婚約が決まって、未来を定められて諦めてきた。けれど、もう諦めなくてもいいとカレンは言う。しかし、一度失った自信は簡単には戻ってこない。どうしても悪い方向にしか考えられないのだ。
「でも・・・でも、きっと迷惑で、私なんか」
「迷惑かどうかは、貴女が決めることじゃないでしょ。ちゃんと、シアリィルド様に聞きなさい」
「姉様・・・でも」
「でもはもう止めなさい。全く・・・そうねぇ、言葉で言えないのなら・・・別の方法で伝えればいいわ」
「別の方法?」
良いことを思い付いたとカレンは、ルリアから離れて本棚を物色し始めた。そこで、一つの本を手に取る。
「これなら、出来るでしょ?」
「・・・花、言葉ですか?」
「気づいてくれるかは、賭けになるけれど、貴女にはちょうどいいかもしれないわ」
こうしてルリアはカレンに発破をかけられ、その助言の下で、行動を始める。
※※※※※※※※
後宮にある使用人たちに用意された部屋。二人部屋に、ルリアはいた。今、同居人はいないので、部屋の中には一人だけだ。
机に向かっているルリアの前には、真っ白な便箋。書くことが決まらず、悶々としている状況だった。差出人は決まっている。最近、ルリアのことを良く気にかけてくれている公爵子息で、第一師団の部隊長をも勤めるシアリィルドだ。男性が苦手なルリアが、唯一平気な相手でもある。
ルリアの主でもあるサレーテヌ王妃殿下からの勧めもあって、こうして手紙のやり取りをするようになった。だが、相手は軍の中でも幹部の人で、多忙だ。
「・・・あまり、たくさん書くと迷惑だよね・・・」
それに、あちらからしてみれば、ルリアはカレンという姉の付属品だ。カレンが王子殿下の侍女で、シアリィルドとも友人だからルリアとの繋がりが出来ているだけ。姉がいなければ、ルリアのことなど知らなかっただろう。
そう思うと、気が重くなってしまう。向こうには、そのくらいの対象でしかないのだ。
シアリィルドは覚えていないようだったが、王宮で助けてもらう以前にも話をしたことはある。ルリアにとって、大切な思い出だ。
『大丈夫?ごめん・・・可愛い顔を汚して。ちゃんと謝らせるから』
初めて母に連れられて王宮に来た日。庭園でカレンと母と手を繋いでいたら、ジークランスに突き飛ばされたのだ。カレンも母もジークランスに怒った。怒られた本人は、ケラケラと笑って逃げ回っていて、一方ルリアは転んで服も顔にも土が付いてしまった。
泣きそうになりながらも我慢してたら、そっと手が伸ばされた。その手を取って立ち上がると、その手の主はとても可愛らしい少年だった。今でもルリアは鮮明に覚えている。服装が違えば、女の子だと思ったかもしれない。間違いなく、ルリアよりも可愛かった。
服に付いた土を払い、ハンカチで顔も拭いてくれた。ポンポンと頭を撫でられれば、涙が溢れて抱きついて泣いてしまったのだ。
あれが、ルリアの初恋だった。しかし、ルリアはジークランスが苦手で、その日以来城に来ることはなかったから忘れられても仕方ないと思う。
「はぁ・・・」
思わず深く息を吐いてしまう。すると、ドアがノックされる音が届く。
「はい」
同居人ならばノックをしない。誰だろうと、扉を開けると、そこにはカレンが立っていた。
「姉様?」
「こんにちは、ルリア。今、いい?」
「は、はい」
にっこりと笑みを見せるカレンをルリアは部屋に招く。誰もいないので、話をするならば部屋の中の方がいいだろう。決して広くはない部屋に、小さいテーブルと椅子しかないが、何度も来ているカレンは戸惑うこともなく空いている椅子に座った。
「姉様、紅茶でいいですか?」
「ええ、ありがとう。ルリアの紅茶はとても美味しいから、嬉しいわ」
「姉様・・・ありがとうございます」
尊敬する姉に褒められることは、ルリアにとってとても嬉しいことだ。気分が上がることを自覚しながらも、手順を間違えないように気を付けて紅茶を淹れる。
「どうぞ」
「ありがとう・・・うん、いい香りね」
満足そうに飲むカレンに、ルリアも自分へと淹れた紅茶のカップを手にして、その前の椅子へ座る。
「あの、姉様、何か合ったのですか?その・・・」
「・・・ううん。大丈夫よ。シアリィルド様に何かあった訳ではないわ。安心して」
「・・・えっと」
何も言わずともわかってしまうことに、ルリアは思わず顔が火照るのを感じた。確かにルリアが考えていたのはシアリィルドのことだが、それほどに分かりやすいのだろうか。
頬に両手を当てて隠すようにしているルリアを見てカレンはクスリと笑った。
「ふふ、本当に貴女は・・・顔に出てるわ」
「ね、姉様・・・」
「とても可愛いわよ、今の貴女。去年とは大違いね」
「・・・その、申し訳、ありませんでした。あの時は・・・」
去年は、元婚約者のことで、ルリアは色々と追い詰められていたのだ。
彼はルリアとのことは仕方なく受け入れていた節があった。侯爵家と伯爵家なら家格も悪くないし、ルリアの母も姉も王家との関わりがあるため、利を得られると考えていたのだろう。だが、学院での出逢いがその考えを変えてしまった。その子は、思ったことをハッキリと口に出す人で、おどおどしているルリアとは正反対の性格だった。男性と女性とで、雰囲気が変わることに、反感も持たれていたので、友人はあまりいなかったように思う。それでも、彼は彼女に惹かれてしまった。最後にはルリアへの暴言を吐いて。
最初から仕方なく受け入れた婚約だったと告げられた。同じく仕方ないという想いだったルリアの言葉など一切聞かず、何故かルリアが彼に想いを抱いていたことになっていて、困惑するばかりだった。それでも、彼の言葉には傷ついたし、他にも同様に婚約破棄を突きつけられた令嬢もいて、ルリアは男性に絶望感を抱いた。屋敷に引きこもり、このまま修道院にでも行こうかと本気で思ったものだ。
それを救ったのは、姉であるカレン。男性との接触が少ない後宮という場所を勧めてくれたのだ。
「あの時の貴女は、本当に見ていられなかったもの。侍女として後宮に来たときも同じ。王妃殿下も心苦しく思っていらしてたし・・・けれど、最近の貴女は以前と同じ、いえそれ以上に笑うようになった。吹っ切れたのでしょう?」
「姉様・・・そう、かもしれません」
未だに心の中で燻る想いはないわけではない。また同じようにあの冷たい目で見られると思うと、身体がすくむ。完全に吹っ切った訳ではないだろう。それでも、気持ちの上では前に向いている自分がいる。
「あの時、私は外に出ることが怖かったのです。今も怖いと思うことはあります。でも・・・」
「でも?」
「その・・・わたしは・・・」
今のこの気持ちは何なのかわからない。けれど、想っていると勇気が出てくる。助けてくれて嬉しかったし、救われた気持ちになる。何かを返したい、そう思える。初恋だった人に、また会えて、話ができて、手紙を交換できて、それだけで満たされた気持ちになっていた。
上手く説明できないけれど、ゆっくりと途切れながら話すのを、カレンはじっと待っていてくれた。
「だから・・・私も、少しだけ・・・頑張ろうって思いました」
「・・・そう。ねぇ、ルリア・・・貴女が前を向き始めたこと、お父様もお母様も喜んでいるわ・・・」
「そうだと、良いのですが・・・」
「一つだけ確認をさせて。貴女は・・・シアリィルド様に恋をしている?」
「え・・・それは、その・・・」
再び全身の熱が顔に集中するのを感じた。恥ずかしさからルリアは下を向くが、コクンと頷く。
「・・・初恋、だった、から・・・私」
「そう・・・そうよね。それが、今の貴女の原動力になっている」
「・・・はい。でも、私は想っていられるだけでいいんです!あの方の邪魔をするようなことはしませんから・・・だから、その」
まだカレンの妹としか認識されていないので、それ以上の関係など求めてはいない。いや、求めてはいけないのだとルリアは考えている。世間的には、ルリアは婚約者に捨てられた女性。シアリィルドと関われば、彼の醜聞になってしまう。また、誰かにあのような目で見られるのは嫌だし、それがシアリィルドならば今度はもう耐えられない。
「お願いします、姉様・・・」
涙が溢れてしまう。だが、カレンは立ち上がってそっとルリアの肩を抱き締めた。突然の温もりに、ルリアは顔をあげる。カレンは、目を細めて微笑んでいた。とても優しい顔だ。
「姉様・・・」
「大丈夫。あの方は邪魔だなんて思っていないから。もし嫌なら手紙なんて送ってこないわ」
「でもそれは、私が姉様の妹だからで・・・」
「確かに、無いとは言わないけれど・・・それでも、迷惑なら迷惑と伝えてくる人よ。そうして、何人もの女性を泣かせてきた方なのだし」
本当に迷惑ではないのだろうか。カレンは、大丈夫だとルリアを抱き締める腕の力を強くする。
「・・・でもね、想うだけでは駄目。ちゃんと伝えなさい。貴女が言わなければ、あの方には伝わらない」
「私は、それでも」
「駄目よ。・・・ちゃんと、伝えなさい」
「姉様?」
「・・・お父様は貴女の縁談をまとめようとしている。元気な貴女を見て、吹っ切れたと思ったのね。だから、嫁ぐ相手を見繕っているわ」
「・・・そう、ですか」
見合いをさせられるのだ。ルリアも貴族令嬢。家のために嫁ぐことは、納得できているし、仕方のないことだと思っている。
もし、父が見合いを考えているのなら、なおのこと伝えることは出来ないだろう。しかし、カレンは首を横に振る。
「駄目よ、ちゃんと伝えて。私は、貴女に幸せになってもらいたい。次は貴女が望む相手と」
「・・・ありがとうございます。でも」
「でもじゃないのよ。それとも、貴女の想いは簡単に諦められるものなの?」
「それは・・・」
会えない期間が長かったが、それでも忘れられなかった。もしかすると、シアリィルドに触れられても平気なのは、幼い頃のことがあったからなのかもしれない。
婚約が決まって、未来を定められて諦めてきた。けれど、もう諦めなくてもいいとカレンは言う。しかし、一度失った自信は簡単には戻ってこない。どうしても悪い方向にしか考えられないのだ。
「でも・・・でも、きっと迷惑で、私なんか」
「迷惑かどうかは、貴女が決めることじゃないでしょ。ちゃんと、シアリィルド様に聞きなさい」
「姉様・・・でも」
「でもはもう止めなさい。全く・・・そうねぇ、言葉で言えないのなら・・・別の方法で伝えればいいわ」
「別の方法?」
良いことを思い付いたとカレンは、ルリアから離れて本棚を物色し始めた。そこで、一つの本を手に取る。
「これなら、出来るでしょ?」
「・・・花、言葉ですか?」
「気づいてくれるかは、賭けになるけれど、貴女にはちょうどいいかもしれないわ」
こうしてルリアはカレンに発破をかけられ、その助言の下で、行動を始める。
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