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第二章 変動
23話 公爵家の事情
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第二邸の使用人たちと一通り顔合わせをすると、用意されたシアリィルドの部屋へ案内される。そこには既にオリヴァーとナタリアが来ており、荷物を整えているところだった。
「二人とも、もう来ていたのか?」
「シアリィルド様」
「はい。先ほど、カルナ様にもご挨拶を済ませましたので、まずはお部屋を整えようと」
「そうか」
オリヴァーがいうカルナとは、第二邸を統括している筆頭侍女だ。カルナ・トマワーズ。シアリィルドのことも知っている人物で、クレーネがファルシース公爵家に嫁ぐ際に実家から共についてきたという数少ない人物だった。
「シアリィルド様、ずっとこちらに滞在されるのですか?」
「・・・分からない。だが、今はその方がいいとも思う。母上を随分と不安にさせていたようだから」
困ったように笑みを見せるシアリィルド。倒れて目が覚めるまで、多くの人に心配をかけてしまった。だが、クレーネにはやはり一番不安にしていたのだと感じたのだ。会えない時間が長かったから余計にそう感じたのかもしれない。
「シアリィルド様・・・その、どのような方なのか聞いてもよろしいですか?」
「母上のことか?」
「はい・・・申し訳ありませんが、私もナタリアもお会いしたことがございません。お話もそれほど・・・」
オリヴァーが公爵家の領地に来るのは、これが初めてだ。ナタリアも王都の屋敷のみで、同行してきたことはない。第二邸というものがあることも知らなかったらしい。
「まぁ・・・そうだな。王都では、あまり母上について話すことはなかったか。マークからも聞いてないか?」
「・・・父からは、お身体が弱い方であまり領地から出られないという風にお聞きしていますが、それ以外は特にありませんでした」
マークは公爵家の事情をよく知っている。だが、あまり話してはいないようだ。シアリィルドを気遣い、あまり広めるべきでないと考えたのかもしれない。
「そうか・・・隠している訳ではないんだ。母上は正妻としてファルシース公爵家に嫁いだ。だが、実際に女主人として責務を果たすことが出来なかった。強いて言うならば、俺を産んだこと位だろう」
「シアリィルド様・・・」
シアリィルドは二人から視線を逸らす。オリヴァーもナタリアも、悲しそうな顔をしていたからだ。既に乗り越えた話題だが、敢えて口にするとどこか自嘲的に聞こえたのかもしれない。
「病弱ということで社交界からは遠ざかっているが、その辺りは代わりにレスティ様が担ってくれている。そのお陰が、兄上が後継となることにも文句は出ていない」
本来ならば、シアリィルドが後継ぎであっても不思議ではなかった。クレーネはディルケイド公国という北方の大国の一つの公女だったからだ。歴史はヴェルダン王国より浅いもののおよそ500年前から続いている国である。
ヴェルダン王国の侯爵家の出であるレスティ自身も国の中では高位だが、公女であるクレーネの方が当然ながら血筋は上。その息子であるシアリィルドもまた、その血を受け継ぐ者だ。それでも、クレーネはマナフィールを後継に推したという。ルトギアスも同意見だったらしく、そのままマナフィールが次期当主となっている。
シアリィルド自身も公爵家を継ぎたいという想いはないので、王国軍へと入ったのだ。
「・・・俺が話せるのはそのくらいだ。恐らくこちらでは皆が知っていることだから、知っておいた方がいいだろうな」
「・・・はい、わかりました」
「私も、承知しました」
オリヴァーもナタリアもそれ以上は聞いてこなかった。実際、聞かれたとしてもシアリィルドが答えられることは少ない。幼き頃を含め、それほど共に過ごした時間はないからだ。王都にいても手紙はたくさん送られてきており、シアリィルドの返信がなくともそれが絶えることはなかった。だから、シアリィルドはクレーネからの愛を疑ったことはない。愛されていると理解している。理解しているからこそ、クレーネには心配をさせてはいけないと思っていた。結局、身体の弱いクレーネを不安にさせ負担を強いてしまったが。
コンコン。
そこで、扉が突如叩かれた。誰か来たのだろうか。ナタリアがシアリィルドへ確認を取り、扉を開ける。
「失礼いたします、シアリィルド様」
「カルナか、どうした?」
「旦那様がお呼びとのことでした。只今、第二邸の応接室にいらしております」
「父上が・・・わかった。直ぐに行く」
そもそも何故領地にシアリィルドを連れてきたのかも聞いていなかった。その辺りの話があるのかもしれない。
部屋を二人に任せると、シアリィルドはカルナに案内されて応接室へと向かうのだった。
「二人とも、もう来ていたのか?」
「シアリィルド様」
「はい。先ほど、カルナ様にもご挨拶を済ませましたので、まずはお部屋を整えようと」
「そうか」
オリヴァーがいうカルナとは、第二邸を統括している筆頭侍女だ。カルナ・トマワーズ。シアリィルドのことも知っている人物で、クレーネがファルシース公爵家に嫁ぐ際に実家から共についてきたという数少ない人物だった。
「シアリィルド様、ずっとこちらに滞在されるのですか?」
「・・・分からない。だが、今はその方がいいとも思う。母上を随分と不安にさせていたようだから」
困ったように笑みを見せるシアリィルド。倒れて目が覚めるまで、多くの人に心配をかけてしまった。だが、クレーネにはやはり一番不安にしていたのだと感じたのだ。会えない時間が長かったから余計にそう感じたのかもしれない。
「シアリィルド様・・・その、どのような方なのか聞いてもよろしいですか?」
「母上のことか?」
「はい・・・申し訳ありませんが、私もナタリアもお会いしたことがございません。お話もそれほど・・・」
オリヴァーが公爵家の領地に来るのは、これが初めてだ。ナタリアも王都の屋敷のみで、同行してきたことはない。第二邸というものがあることも知らなかったらしい。
「まぁ・・・そうだな。王都では、あまり母上について話すことはなかったか。マークからも聞いてないか?」
「・・・父からは、お身体が弱い方であまり領地から出られないという風にお聞きしていますが、それ以外は特にありませんでした」
マークは公爵家の事情をよく知っている。だが、あまり話してはいないようだ。シアリィルドを気遣い、あまり広めるべきでないと考えたのかもしれない。
「そうか・・・隠している訳ではないんだ。母上は正妻としてファルシース公爵家に嫁いだ。だが、実際に女主人として責務を果たすことが出来なかった。強いて言うならば、俺を産んだこと位だろう」
「シアリィルド様・・・」
シアリィルドは二人から視線を逸らす。オリヴァーもナタリアも、悲しそうな顔をしていたからだ。既に乗り越えた話題だが、敢えて口にするとどこか自嘲的に聞こえたのかもしれない。
「病弱ということで社交界からは遠ざかっているが、その辺りは代わりにレスティ様が担ってくれている。そのお陰が、兄上が後継となることにも文句は出ていない」
本来ならば、シアリィルドが後継ぎであっても不思議ではなかった。クレーネはディルケイド公国という北方の大国の一つの公女だったからだ。歴史はヴェルダン王国より浅いもののおよそ500年前から続いている国である。
ヴェルダン王国の侯爵家の出であるレスティ自身も国の中では高位だが、公女であるクレーネの方が当然ながら血筋は上。その息子であるシアリィルドもまた、その血を受け継ぐ者だ。それでも、クレーネはマナフィールを後継に推したという。ルトギアスも同意見だったらしく、そのままマナフィールが次期当主となっている。
シアリィルド自身も公爵家を継ぎたいという想いはないので、王国軍へと入ったのだ。
「・・・俺が話せるのはそのくらいだ。恐らくこちらでは皆が知っていることだから、知っておいた方がいいだろうな」
「・・・はい、わかりました」
「私も、承知しました」
オリヴァーもナタリアもそれ以上は聞いてこなかった。実際、聞かれたとしてもシアリィルドが答えられることは少ない。幼き頃を含め、それほど共に過ごした時間はないからだ。王都にいても手紙はたくさん送られてきており、シアリィルドの返信がなくともそれが絶えることはなかった。だから、シアリィルドはクレーネからの愛を疑ったことはない。愛されていると理解している。理解しているからこそ、クレーネには心配をさせてはいけないと思っていた。結局、身体の弱いクレーネを不安にさせ負担を強いてしまったが。
コンコン。
そこで、扉が突如叩かれた。誰か来たのだろうか。ナタリアがシアリィルドへ確認を取り、扉を開ける。
「失礼いたします、シアリィルド様」
「カルナか、どうした?」
「旦那様がお呼びとのことでした。只今、第二邸の応接室にいらしております」
「父上が・・・わかった。直ぐに行く」
そもそも何故領地にシアリィルドを連れてきたのかも聞いていなかった。その辺りの話があるのかもしれない。
部屋を二人に任せると、シアリィルドはカルナに案内されて応接室へと向かうのだった。
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