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第二章 変動
21話 領地へ
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王都を離れ、王家直轄領を通り過ぎたところにファルシース公爵家の領地はある。馬車で揺らされること半日。移動にも疲労を感じ始めたところに、丘の上にある立派な屋敷が見えてきた。公爵家の屋敷だ。
シアリィルドがここで過ごしたことは、ほとんどない。ジークランスの友人として王都の屋敷にいることが多く、学院に入学する前でも、年に一度来るか来ないかという程度だ。
懐かしいと思えるほどの思い出もなく、感慨に更けることもない。ただ、馬車より見える景色を眺めているだけだ。
馬車の中にいるのは、ルトギアスとシアリィルド。別の馬車には、オリヴァーとナタリアの二人が付いてきている。周囲は公爵家お抱えの騎士団の護衛たちだった。家紋が装飾された馬車なので、ファルシース公爵家であることは見れば直ぐにわかる。筆頭公爵家なのだ。このように仰々しい状況に置かれることは、精神的な疲労を感じる。ジークランスに付きそう場合でも、シアリィルドは外で馬に乗っていることが多いし、馬車の中にいたとしてもジークランスがいるからか、あまり気にならない。しかし、今は父と二人きりの状態だ。
「・・・」
「・・・」
二人の間に会話はない。シアリィルドも熱が下がったばかりでもあるし、無駄な体力を使いたくはなかったので、道中は半分以上を寝て過ごしていた。特に起こされることもなかったので、問題はないのだろう。元々、療養という名目出来ているのだから。
そうこうしているうちに屋敷の前へと到着する。
「着いたな。お前も降りなさい」
「・・・はい」
馬車の扉が開けられ、ルトギアスが先に降りる。その後をシアリィルドが続いた。護衛の騎士らに囲まれつつ、前を見れば・・・立ち並ぶ執事や侍女たち。当主の帰宅なのだから当然なのかもしれないが、シアリィルドには慣れない。
ルトギアスは何でもない風に向かっているところをみると、やはりこれが通常なのだろう。
「シアリィルド様?」
「・・・いや、何でもない」
「そうですか?ご気分が悪いのでしたら」
「大丈夫だ・・・」
立ち止まったままのシアリィルドが気にかかったのだろう。無用な心配をかけてしまったことに、苦笑しながらシアリィルドはルトギアスの背をゆっくりと追う。
王都にある屋敷と遜色ないほどに立派だ。ルトギアスの後ろに着けば、彼らは一斉に腰を折った。
「「お帰りなさいませ、旦那様、シアリィルド様」」
「・・・あぁ、皆ご苦労だ」
「・・・」
ルトギアスの声に、再び一斉に姿勢を戻す。そして、執事と何やら話をしながらルトギアスは中へと入っていった。
「シアリィルド様?」
「・・・あ、あぁ」
促されてシアリィルドも屋敷の中へと入る。中には、ルトギアスが女性と話をしていた。マナフィールの母のレスティ・フォン・ファルシースだった。
シアリィルドに気がつくと、ふわりと笑い駆け寄ってくる。
「ようこそ来てくださいました、シア様」
「・・・ご無沙汰しております、レスティ様」
目の前で止まると、レスティは折り目正しく頭を下げた。その間に、ルトギアスは一人奥へと去っていく。
「・・・いいんですか?」
「はい。旦那様は、お忙しいですから・・・シア様は、第二邸へ行かれますか?」
「・・・はい、そのつもりです」
「かしこまりました。では、案内致しますね」
「お願いします」
まるでシアリィルドの方が、立場が上のような扱いをするレスティ。その理由は、シアリィルドの母が正妻扱いだからである。レスティは第二夫人。高位貴族が妻を複数人持つことは珍しいことではない。本来ならば、当主不在の間は正妻としてシアリィルドの母が屋敷を取り仕切るべきなのだが、ここではレスティが行っている。
本邸の少し離れた場所に第二邸はある。本邸よりは小さいが、屋敷としては十分に大きい。
案内されるまま庭を通り、第二邸へと到着する。屋敷の前には、女性が掃除をしていた。近づくシアリィルドらを見て、手を止める。
「これはレスティ様」
「ミリーさん、クレーネ様はどうされてますか?」
「奥様は、サンルームでお茶をしておりますが・・・お会いになられますか?」
「はい。お願いします」
彼女はミリーというらしいが、シアリィルドは会ったことがない。シアリィルドを見ても、頭を下げるだけだ。レスティの客人、とでも思ったのだろう。シアリィルドは、そのまま彼女の横を通りレスティの後に付いていった。
エントランスに入れば、本邸よりも幾分あっさりした装飾だった。だが、到るところに花瓶が置かれており、綺麗な花が活けてある。
「・・・」
「それはクレーネ様がお好きな花だそうです。毎日、変えられているのですよ」
「そう、ですか」
「さぁ、サンルームはこちらです」
「はい」
エントランスから奥に向かうと、扉があった。そこがサンルームらしい。レスティが中へ声をかける。
「奥様、レスティです」
「レスティ?はい、どうぞお入りなさい」
「失礼します」
扉を開け、レスティは中に入る。開かれた隙間から、シアリィルドはソファーに座っている女性を見た。
「・・・母上」
「シア?」
シアリィルドを見て、彼女は驚きに目を見開いていた。
シアリィルドがここで過ごしたことは、ほとんどない。ジークランスの友人として王都の屋敷にいることが多く、学院に入学する前でも、年に一度来るか来ないかという程度だ。
懐かしいと思えるほどの思い出もなく、感慨に更けることもない。ただ、馬車より見える景色を眺めているだけだ。
馬車の中にいるのは、ルトギアスとシアリィルド。別の馬車には、オリヴァーとナタリアの二人が付いてきている。周囲は公爵家お抱えの騎士団の護衛たちだった。家紋が装飾された馬車なので、ファルシース公爵家であることは見れば直ぐにわかる。筆頭公爵家なのだ。このように仰々しい状況に置かれることは、精神的な疲労を感じる。ジークランスに付きそう場合でも、シアリィルドは外で馬に乗っていることが多いし、馬車の中にいたとしてもジークランスがいるからか、あまり気にならない。しかし、今は父と二人きりの状態だ。
「・・・」
「・・・」
二人の間に会話はない。シアリィルドも熱が下がったばかりでもあるし、無駄な体力を使いたくはなかったので、道中は半分以上を寝て過ごしていた。特に起こされることもなかったので、問題はないのだろう。元々、療養という名目出来ているのだから。
そうこうしているうちに屋敷の前へと到着する。
「着いたな。お前も降りなさい」
「・・・はい」
馬車の扉が開けられ、ルトギアスが先に降りる。その後をシアリィルドが続いた。護衛の騎士らに囲まれつつ、前を見れば・・・立ち並ぶ執事や侍女たち。当主の帰宅なのだから当然なのかもしれないが、シアリィルドには慣れない。
ルトギアスは何でもない風に向かっているところをみると、やはりこれが通常なのだろう。
「シアリィルド様?」
「・・・いや、何でもない」
「そうですか?ご気分が悪いのでしたら」
「大丈夫だ・・・」
立ち止まったままのシアリィルドが気にかかったのだろう。無用な心配をかけてしまったことに、苦笑しながらシアリィルドはルトギアスの背をゆっくりと追う。
王都にある屋敷と遜色ないほどに立派だ。ルトギアスの後ろに着けば、彼らは一斉に腰を折った。
「「お帰りなさいませ、旦那様、シアリィルド様」」
「・・・あぁ、皆ご苦労だ」
「・・・」
ルトギアスの声に、再び一斉に姿勢を戻す。そして、執事と何やら話をしながらルトギアスは中へと入っていった。
「シアリィルド様?」
「・・・あ、あぁ」
促されてシアリィルドも屋敷の中へと入る。中には、ルトギアスが女性と話をしていた。マナフィールの母のレスティ・フォン・ファルシースだった。
シアリィルドに気がつくと、ふわりと笑い駆け寄ってくる。
「ようこそ来てくださいました、シア様」
「・・・ご無沙汰しております、レスティ様」
目の前で止まると、レスティは折り目正しく頭を下げた。その間に、ルトギアスは一人奥へと去っていく。
「・・・いいんですか?」
「はい。旦那様は、お忙しいですから・・・シア様は、第二邸へ行かれますか?」
「・・・はい、そのつもりです」
「かしこまりました。では、案内致しますね」
「お願いします」
まるでシアリィルドの方が、立場が上のような扱いをするレスティ。その理由は、シアリィルドの母が正妻扱いだからである。レスティは第二夫人。高位貴族が妻を複数人持つことは珍しいことではない。本来ならば、当主不在の間は正妻としてシアリィルドの母が屋敷を取り仕切るべきなのだが、ここではレスティが行っている。
本邸の少し離れた場所に第二邸はある。本邸よりは小さいが、屋敷としては十分に大きい。
案内されるまま庭を通り、第二邸へと到着する。屋敷の前には、女性が掃除をしていた。近づくシアリィルドらを見て、手を止める。
「これはレスティ様」
「ミリーさん、クレーネ様はどうされてますか?」
「奥様は、サンルームでお茶をしておりますが・・・お会いになられますか?」
「はい。お願いします」
彼女はミリーというらしいが、シアリィルドは会ったことがない。シアリィルドを見ても、頭を下げるだけだ。レスティの客人、とでも思ったのだろう。シアリィルドは、そのまま彼女の横を通りレスティの後に付いていった。
エントランスに入れば、本邸よりも幾分あっさりした装飾だった。だが、到るところに花瓶が置かれており、綺麗な花が活けてある。
「・・・」
「それはクレーネ様がお好きな花だそうです。毎日、変えられているのですよ」
「そう、ですか」
「さぁ、サンルームはこちらです」
「はい」
エントランスから奥に向かうと、扉があった。そこがサンルームらしい。レスティが中へ声をかける。
「奥様、レスティです」
「レスティ?はい、どうぞお入りなさい」
「失礼します」
扉を開け、レスティは中に入る。開かれた隙間から、シアリィルドはソファーに座っている女性を見た。
「・・・母上」
「シア?」
シアリィルドを見て、彼女は驚きに目を見開いていた。
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