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第一章 始まり
19話 過去の遺産
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お茶会が終わり、シアリィルドは椅子から立ち上がろうとしたが、その場に崩れ落ちる。
「シアっ」
「シアリィルド!」
すぐ隣にいたマナフィールが駆け寄り抱き抱える。その身体は火照っていた。
「・・・疲れたみたいだね、シアリィルド。無理をするなと言ったのに、仕方のない子だ」
「あ、にうえ・・・」
「心配しなくていいよ。私が運ぶ。お前は、もう休みなさい」
本当にしんどいのか、そのままシアリィルドは目を閉じた。両手に抱えるようにマナフィールは抱き上げる。
「王妃殿下、ジークランス殿下も。このような形で申し訳ありませんが、失礼させていただきます」
「いいえ。無理をさせてしまってごめんなさい・・・それにありがとうございます、マナフィール殿。シアリィルドを宜しくお願いしますわ」
「お任せ下さい」
王族を前に失礼ではあるだろうが、いまのところマナフィールにとってはシアリィルドの状態の方が重要だ。軽く頭を下げて、マナフィールは庭から出ていく。
すると、それをジークランスが追いかけてきた。
「マナフィール」
「・・・何ですか、殿下」
振り返らずにマナフィールは足を止めた。ジークランスはマナフィールに近づき、小さな声でも聞こえる距離で止まった。
「西の森で、魔族を発見した。どうやら最悪な事態が起きている」
「・・・」
「リンガルは知っているな?」
「・・・えぇ、かつて五百年ほど前に滅ぼされた国ですね」
五百年ほど前。世界はかつてない危機に瀕していた。魔物が狂暴化し、人々や動物たちを襲っていた。多くの人が死に絶えた時代だ。太陽が隠れ、作物は育たず、飢餓に苦しむ人が溢れたという。やがて、魔物たちを統率する者たちが現れた。それが、魔族。消滅してもその姿さえ残らない異形な存在。それらを束ねているのが魔王だった。
当時のアルリア法国と共に、魔王討伐に乗り出したのがリンガル帝国だった。世界で最大規模の国と、女神の加護を持つ国が協力し、戦った。その結果、魔王を中心とした魔族の襲撃によりリンガル帝国が戦場となった。精鋭たち、後の勇者と呼ばれた者らが魔王を倒し、魔族らを殲滅したことで人々は安寧を取り戻したと言われている。当時の精鋭らが魔王を倒した武器は、今でもアルリア法国に奉納されているが、戦場となったリンガル帝国は後に国の形をなくし、今では廃墟となっているはずだった。
知らない人などいない有名な話だ。
「そのリンガルに、どうやら魔族らが集結しているという報告があがっている」
「・・・復活した、と?」
「その可能性が高いと、法国からも同時期に伝令が来ていた。ちょうど、私たちが視察に向かった頃だ」
ということは、魔族が現れ始めていることを国は知っていたということになる。ここでマナフィールは、なるほどなと、納得した。父であるルトギアスの怒りはここにもあったのかと。シアリィルドを王都から連れ出す要因はここにもあったのだ。
「法国は、次代の勇者となるべき者たちを探している。各国に協力を要請してきた」
「・・・仰りたいことはわかりましたが、シアリィルドは向かわせません。これは、当主である父も同意すると思います」
出自や実力から、候補としてシアリィルドが選ばれることは想像するに難くない。だが、軍には実力者は他にもいる。別にシアリィルド出なくてはならないことはなく、選ばれるとは限らない。選ばれたとしても、公爵家が承諾することはないが、念のため線引きは必要だ。
マナフィールの含む意味を正確に読み取ったジークランスは、理解していると両手を上げた。
「・・・既に父上から話をして断られている。シアに向かわせるつもりはない。白騎士団長が既に向かった」
「そうですか・・・それで、私に何を?」
そこまで決まっているのなら、何故マナフィールを呼び止めたのか。尋ねれば、バツが悪そうにジークランスは顔を背ける。
「・・・シアに、伝えるかどうかはマナフィールに任せる。公爵に言えば、伝わることは絶対にないからな」
「私なら伝える、と?」
「あんたなら、シアが望むなら嫌とは言えない。違うか?」
「・・・承知しました、とだけ言っておきます。では、私は失礼します」
「あぁ・・・」
一度も振り返ることなく、マナフィールはそのまま出ていく。既に奥宮の入り口にはダリアが控えていた。見送りのためだ。
「・・・お願いします、キャシリア殿」
「はっ」
腕の中を見下ろせば、既に意識を飛ばしているようで、シアリィルドは寝息を立てている。微かだが、その呼吸は乱れている。
「本当に・・・仕方のない子だ」
苦笑しながらシアリィルドを抱え直し、ダリアの後を付いていった。
「シアっ」
「シアリィルド!」
すぐ隣にいたマナフィールが駆け寄り抱き抱える。その身体は火照っていた。
「・・・疲れたみたいだね、シアリィルド。無理をするなと言ったのに、仕方のない子だ」
「あ、にうえ・・・」
「心配しなくていいよ。私が運ぶ。お前は、もう休みなさい」
本当にしんどいのか、そのままシアリィルドは目を閉じた。両手に抱えるようにマナフィールは抱き上げる。
「王妃殿下、ジークランス殿下も。このような形で申し訳ありませんが、失礼させていただきます」
「いいえ。無理をさせてしまってごめんなさい・・・それにありがとうございます、マナフィール殿。シアリィルドを宜しくお願いしますわ」
「お任せ下さい」
王族を前に失礼ではあるだろうが、いまのところマナフィールにとってはシアリィルドの状態の方が重要だ。軽く頭を下げて、マナフィールは庭から出ていく。
すると、それをジークランスが追いかけてきた。
「マナフィール」
「・・・何ですか、殿下」
振り返らずにマナフィールは足を止めた。ジークランスはマナフィールに近づき、小さな声でも聞こえる距離で止まった。
「西の森で、魔族を発見した。どうやら最悪な事態が起きている」
「・・・」
「リンガルは知っているな?」
「・・・えぇ、かつて五百年ほど前に滅ぼされた国ですね」
五百年ほど前。世界はかつてない危機に瀕していた。魔物が狂暴化し、人々や動物たちを襲っていた。多くの人が死に絶えた時代だ。太陽が隠れ、作物は育たず、飢餓に苦しむ人が溢れたという。やがて、魔物たちを統率する者たちが現れた。それが、魔族。消滅してもその姿さえ残らない異形な存在。それらを束ねているのが魔王だった。
当時のアルリア法国と共に、魔王討伐に乗り出したのがリンガル帝国だった。世界で最大規模の国と、女神の加護を持つ国が協力し、戦った。その結果、魔王を中心とした魔族の襲撃によりリンガル帝国が戦場となった。精鋭たち、後の勇者と呼ばれた者らが魔王を倒し、魔族らを殲滅したことで人々は安寧を取り戻したと言われている。当時の精鋭らが魔王を倒した武器は、今でもアルリア法国に奉納されているが、戦場となったリンガル帝国は後に国の形をなくし、今では廃墟となっているはずだった。
知らない人などいない有名な話だ。
「そのリンガルに、どうやら魔族らが集結しているという報告があがっている」
「・・・復活した、と?」
「その可能性が高いと、法国からも同時期に伝令が来ていた。ちょうど、私たちが視察に向かった頃だ」
ということは、魔族が現れ始めていることを国は知っていたということになる。ここでマナフィールは、なるほどなと、納得した。父であるルトギアスの怒りはここにもあったのかと。シアリィルドを王都から連れ出す要因はここにもあったのだ。
「法国は、次代の勇者となるべき者たちを探している。各国に協力を要請してきた」
「・・・仰りたいことはわかりましたが、シアリィルドは向かわせません。これは、当主である父も同意すると思います」
出自や実力から、候補としてシアリィルドが選ばれることは想像するに難くない。だが、軍には実力者は他にもいる。別にシアリィルド出なくてはならないことはなく、選ばれるとは限らない。選ばれたとしても、公爵家が承諾することはないが、念のため線引きは必要だ。
マナフィールの含む意味を正確に読み取ったジークランスは、理解していると両手を上げた。
「・・・既に父上から話をして断られている。シアに向かわせるつもりはない。白騎士団長が既に向かった」
「そうですか・・・それで、私に何を?」
そこまで決まっているのなら、何故マナフィールを呼び止めたのか。尋ねれば、バツが悪そうにジークランスは顔を背ける。
「・・・シアに、伝えるかどうかはマナフィールに任せる。公爵に言えば、伝わることは絶対にないからな」
「私なら伝える、と?」
「あんたなら、シアが望むなら嫌とは言えない。違うか?」
「・・・承知しました、とだけ言っておきます。では、私は失礼します」
「あぁ・・・」
一度も振り返ることなく、マナフィールはそのまま出ていく。既に奥宮の入り口にはダリアが控えていた。見送りのためだ。
「・・・お願いします、キャシリア殿」
「はっ」
腕の中を見下ろせば、既に意識を飛ばしているようで、シアリィルドは寝息を立てている。微かだが、その呼吸は乱れている。
「本当に・・・仕方のない子だ」
苦笑しながらシアリィルドを抱え直し、ダリアの後を付いていった。
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皆様ありがとうございます😘
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めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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