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第一章 始まり
17話 後宮からの招待
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それから四日後。
何とか少しならば歩ける程度に回復したシアリィルドは、マナフィールと共に登城することとなった。王妃であるサレーテヌから招待を受けたのだ。シアリィルドの目が覚めたと聞いて、領地へ行ってしまう前にちゃんと顔をみたいということだった。場所は、後宮にある王妃の庭だ。
城はシアリィルドにとって職場でもあり、後宮にも出入りしている。しかし、庭にはまだ行ったことはなかった。特別な用がない限り、行くことは許されない場所だからだ。そんな場所に貴族子息が招待されるのは、異例のことだった。
ふと、正面に座っているマナフィールが目を細めてシアリィルドを見ていることに気づく。
「そういう姿も久しぶりなのかな」
「・・・はい」
久しぶりの格好、これは公爵家子息としての正装だ。軍服ばかりを着ていたので、こういう服装をするのは学院卒業時のパーティー以来だった。だからなのか、息が詰まるように感じてしまう。貴族として何度もパーティーには出ているが、ここ最近は警備等で裏方に徹していたので尚更だ。
「着いたみたいだね。シアリィルド、立てるかい?」
「はい。大丈夫です」
公爵家の馬車が城へ到着したようだ。
馬車から降りる時には、マナフィールが手を差し伸べてくれた。段差を考えてだろうが、流石にシアリィルドは眉を寄せ手を取らなかった。
「・・・兄上、悪ふざけが過ぎます。一人でも平気ですから」
「そうかい?だが、これからまだ距離を歩くのだから少しでも支えてやりたいと思ったのだが・・・」
招待された庭へは、ここから大回廊を通り、城の中枢を抜けて奥にある後宮へと向かわなければならないのだ。距離があるための親切心なのだろうが、人目があるところでは歓迎したくない行為だった。
今回は案内として、王妃付きの侍女と護衛隊長が来ているのだ。見ればどちらも面識程度はある相手だった。兄にエスコートされている様など、見せたくない。たが、その様子は好ましく映ったようで、護衛隊長である女性が笑い声を漏らしていた。思わず重い息を吐いてしまう。
「・・・キャシリア隊長」
「うふふ、申し訳ありません。ファルシース隊長と兄君がとても仲が宜しくて、微笑ましく思っておりました」
「貴女が唯一の女性隊長であるキャシリア殿でしたか。いつも、弟がお世話になっています。兄のマナフィール・フォン・ファルシースと申します」
「こちらこそ、宜しくお願い致します。私は、王妃殿下の護衛隊長をしております、ダリア・フォン・キャシリアでございます」
マナフィールが名乗ると、ダリアは騎士礼として胸に手を当て目礼する。マナフィールは公爵家の次期当主。この場で最も身分が高いことになる。普通、貴族同士では、身分が下の者から話しかけるのはマナー違反として失礼ににあたる。シアリィルドとダリアは同僚同士という関係性で話をしていたので問題はないが、公爵家の人間として接するならシアリィルドから話しかけるまで口を開くことは出来なかったはずだ。
仕切り直しとして、シアリィルドは一歩前に出た。
「改めまして、キャシリア殿・・・今日は宜しくお願いします」
「お任せ下さい、シアリィルド公子様」
「それと・・・ルリア嬢も、宜しく」
シアリィルドは侍女にも声をかける。名を呼ばれてビクッ身体を強張らせていたが、ゆっくりと顔を上げるとシアリィルドに視線を合わせてくる。訝し気に首を傾げれば、ルリアは侍女の制服であるスカートの裾を持ち上げ頭を下げた。
「宜しくお願いいたします、シアリィルド様」
その様子にシアリィルドは頷くと、ルリアはほっとした顔を見せる。
「シアリィルド、彼女は知り合いかい?」
「はい。彼女はカレンの妹です。ルリア、兄のマナフィール・フォン・ファルシースだ」
「ルリア・フォン・フォーニックでございます」
次はマナフィールの向かい頭を下げた。カレンの妹ならばシアリィルドと知己であることに不思議はない。挨拶が済んだところで、ダリアの案内で城内へと入っていく。ダリアを先頭に、その横にルリア。後ろにシアリィルドとマナフィールが付いていく。
「・・・聞いていいかい?フォーニック嬢とは、どういう関係なのかな?」
「?どういう、ですか・・・たまに話をする程度の関係ですが」
「それだけ、かい?」
「・・・兄上・・・」
ルリアには聞こえないくらいの小声でマナフィールが尋ねる。聞こえていないとはいえ、ここでするような話ではない。シアリィルドは、困った末に屋敷に戻ったら説明すると逃げた。大した話ではないが、ここには多くの人の目がある。なぜか興味津々であるマナフィールだが、人目があることは理解しているので、それ以上追及してくることはなかった。
そうしているうちに後宮へと到着する。警備を担当しているのは、第一師団だ。シアリィルドの同僚である。今回は、軍服ではなく貴族子息として来ているため、あちらから話しかけられることはない。騎士礼を取り、頭を下げる彼らの横を何も言わずに通ろうとすると。小さく声をかけられる。
「・・・ご無事で何よりです。どうかご自愛くださるよう」
「・・・はい・・・ありがとう、ございます」
立ち止まりそうになるのを堪えて、シアリィルドはそれだけを返す。通り切るまで彼らは顔を上げられないのだ。
それ以上は何も言わずに、そのまま通り過ぎて奥宮へと入っていった。
何とか少しならば歩ける程度に回復したシアリィルドは、マナフィールと共に登城することとなった。王妃であるサレーテヌから招待を受けたのだ。シアリィルドの目が覚めたと聞いて、領地へ行ってしまう前にちゃんと顔をみたいということだった。場所は、後宮にある王妃の庭だ。
城はシアリィルドにとって職場でもあり、後宮にも出入りしている。しかし、庭にはまだ行ったことはなかった。特別な用がない限り、行くことは許されない場所だからだ。そんな場所に貴族子息が招待されるのは、異例のことだった。
ふと、正面に座っているマナフィールが目を細めてシアリィルドを見ていることに気づく。
「そういう姿も久しぶりなのかな」
「・・・はい」
久しぶりの格好、これは公爵家子息としての正装だ。軍服ばかりを着ていたので、こういう服装をするのは学院卒業時のパーティー以来だった。だからなのか、息が詰まるように感じてしまう。貴族として何度もパーティーには出ているが、ここ最近は警備等で裏方に徹していたので尚更だ。
「着いたみたいだね。シアリィルド、立てるかい?」
「はい。大丈夫です」
公爵家の馬車が城へ到着したようだ。
馬車から降りる時には、マナフィールが手を差し伸べてくれた。段差を考えてだろうが、流石にシアリィルドは眉を寄せ手を取らなかった。
「・・・兄上、悪ふざけが過ぎます。一人でも平気ですから」
「そうかい?だが、これからまだ距離を歩くのだから少しでも支えてやりたいと思ったのだが・・・」
招待された庭へは、ここから大回廊を通り、城の中枢を抜けて奥にある後宮へと向かわなければならないのだ。距離があるための親切心なのだろうが、人目があるところでは歓迎したくない行為だった。
今回は案内として、王妃付きの侍女と護衛隊長が来ているのだ。見ればどちらも面識程度はある相手だった。兄にエスコートされている様など、見せたくない。たが、その様子は好ましく映ったようで、護衛隊長である女性が笑い声を漏らしていた。思わず重い息を吐いてしまう。
「・・・キャシリア隊長」
「うふふ、申し訳ありません。ファルシース隊長と兄君がとても仲が宜しくて、微笑ましく思っておりました」
「貴女が唯一の女性隊長であるキャシリア殿でしたか。いつも、弟がお世話になっています。兄のマナフィール・フォン・ファルシースと申します」
「こちらこそ、宜しくお願い致します。私は、王妃殿下の護衛隊長をしております、ダリア・フォン・キャシリアでございます」
マナフィールが名乗ると、ダリアは騎士礼として胸に手を当て目礼する。マナフィールは公爵家の次期当主。この場で最も身分が高いことになる。普通、貴族同士では、身分が下の者から話しかけるのはマナー違反として失礼ににあたる。シアリィルドとダリアは同僚同士という関係性で話をしていたので問題はないが、公爵家の人間として接するならシアリィルドから話しかけるまで口を開くことは出来なかったはずだ。
仕切り直しとして、シアリィルドは一歩前に出た。
「改めまして、キャシリア殿・・・今日は宜しくお願いします」
「お任せ下さい、シアリィルド公子様」
「それと・・・ルリア嬢も、宜しく」
シアリィルドは侍女にも声をかける。名を呼ばれてビクッ身体を強張らせていたが、ゆっくりと顔を上げるとシアリィルドに視線を合わせてくる。訝し気に首を傾げれば、ルリアは侍女の制服であるスカートの裾を持ち上げ頭を下げた。
「宜しくお願いいたします、シアリィルド様」
その様子にシアリィルドは頷くと、ルリアはほっとした顔を見せる。
「シアリィルド、彼女は知り合いかい?」
「はい。彼女はカレンの妹です。ルリア、兄のマナフィール・フォン・ファルシースだ」
「ルリア・フォン・フォーニックでございます」
次はマナフィールの向かい頭を下げた。カレンの妹ならばシアリィルドと知己であることに不思議はない。挨拶が済んだところで、ダリアの案内で城内へと入っていく。ダリアを先頭に、その横にルリア。後ろにシアリィルドとマナフィールが付いていく。
「・・・聞いていいかい?フォーニック嬢とは、どういう関係なのかな?」
「?どういう、ですか・・・たまに話をする程度の関係ですが」
「それだけ、かい?」
「・・・兄上・・・」
ルリアには聞こえないくらいの小声でマナフィールが尋ねる。聞こえていないとはいえ、ここでするような話ではない。シアリィルドは、困った末に屋敷に戻ったら説明すると逃げた。大した話ではないが、ここには多くの人の目がある。なぜか興味津々であるマナフィールだが、人目があることは理解しているので、それ以上追及してくることはなかった。
そうしているうちに後宮へと到着する。警備を担当しているのは、第一師団だ。シアリィルドの同僚である。今回は、軍服ではなく貴族子息として来ているため、あちらから話しかけられることはない。騎士礼を取り、頭を下げる彼らの横を何も言わずに通ろうとすると。小さく声をかけられる。
「・・・ご無事で何よりです。どうかご自愛くださるよう」
「・・・はい・・・ありがとう、ございます」
立ち止まりそうになるのを堪えて、シアリィルドはそれだけを返す。通り切るまで彼らは顔を上げられないのだ。
それ以上は何も言わずに、そのまま通り過ぎて奥宮へと入っていった。
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