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第一章 始まり
15話 もう一人の幼馴染
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翌日、カーテンが開けられる音で目が覚めた。目を開ければ、オリヴァーがそこには立っている。
「オリヴァー・・・?」
「あ、おはようございます、シアリィルド様」
「おはよう」
挨拶を返し身体を起こそうとすれば、それを見たオリヴァーがさっと近づき、シアリィルドの背を支えてくれた。支えられることで身体を起こす。背にクッションを入れられると、姿勢が安定する。こうして起きている方が、今のシアリィルドは楽だった。
昨日よりは、怠さも和らいでいる気もする。とは言え、ベッドから出ることは出来ないだろう。
「助かる。すまない」
「何を仰るんですか。この程度、いつでも申し付けてください。・・・今日のご気分はどうですか?何か召し上がれます?」
「・・・そう、だな。少しだけもらう」
「わかりました。少々お待ちください」
そう言って、オリヴァーが部屋の外に声をかける。部屋の前には、侍女が待機していたようで彼女に指示を伝えているようだ。伝え終わると、オリヴァーは戻ってくる。青緑色の髪をツインテールにし、その灰色の大きな瞳を持っている彼女は、控えめに言って美人だった。シグムント子爵家の令嬢でもあり、作法も教養もしっかりと身に着けており、公爵家の侍女たちの中でも信頼できる人物だ。
だが、シアリィルドが学院を卒業して以来、屋敷に戻っていないこともあり、こうして会って話をするのは久しぶりだった。
「オリヴァー・・・そういえば、お前は実家に帰るはずじゃなかったのか?」
「・・・そういえば、そんなことも言っておりましたね。って、それ一年前の話ですよ」
呆れたように肩を落とすオリヴァー。確かに、最近の話ではない。だが、子爵家に戻るという話は確かにあった。オリヴァーはシアリィルドの一つ上だ。貴族女性ならば、結婚適齢期である。結婚のために実家に戻るという風にシアリィルドは聞いていた。だから、屋敷にいないはずだったのだ。
昨日は、それどころではなかったので聞きそびれた。当たり前のように侍女として仕事をしているということは、破談になったのかもしれないが、シアリィルドは事情を知っておきたかった。
「・・・シアリィルド様はご存知だと思いますが、私の母は奥様の妹です。そのため、ファルシース公爵家と縁が得られると考えた先方からお話がありました。実家は子爵家ですから、相手方である伯爵家からのお話は断りすることが出来なかったのです」
「・・・どこの、だ?」
「ロドリゲス卿です。ご存知ですか?」
「・・・あぁ。最悪だな」
「はい・・・最悪だったんです」
ロドリゲス伯爵。貴族の間では有名な人物だった。年は30を過ぎたところだが、金遣いが荒く、娼館に通い詰めているらしい。借金も相当あると聞いていた。元々は、由緒正しい伯爵家の者として品行方正だったらしく、結婚をすれば元の真面目な青年戻ってくれるのではないかと、両親は結婚相手を探していたという。たが、伯爵というプライドもあって、誰でも良いわけではない。それなりの家柄の令嬢をと探したところ、シグムント家に至ったらしい。
「何度かパーティーで話しかけられたことがありまして、そこで私を見初められたとお話があったようです。息子の初恋だから、どうしても叶えたいのだと・・・」
「・・・話の文句としてはあり得る、か」
「はい。・・・伯爵家からの縁談ですから、初めは両親も喜びましたが、実際の婚約が決まると色々とありまして」
貴族の子女にとって、婚約すれば破棄されることはほとんどないため、結婚することは確定だ。家同士の決まり事である以上、個人的な感情でこれを無にすることはできない。
だからこそ、相手側も大きく出たのか、嫁入りのためのお金である支度金を直ぐに渡すように要求してきたのだった。それも金額まで指定する始末。恐らくは借金の返済の為だろう。更には、愛人がいることもわかった。伯爵なのだから、愛人の一人や二人は許容するように言われたが、結婚前からそのような存在がいるのは、全くもって別の話である。
共にパーティーに出ると、公爵家の名前を出す始末。このままでは、ファルシース公爵家にも迷惑がかかると判断したオリヴァーの母は、姉であるファルシース公爵夫人に相談することにした。
結果、公爵が働きかけて婚約を白紙に戻すことが出来た。白紙扱いなので、オリヴァーの名誉は守られた形だ。
「本当に、酷い方でした・・・」
「・・・変な奴に目をつけられたな・・・」
「はい・・・ですので、今はちょっと結婚は考えられません。ということで、お屋敷に戻らせていただいたんです」
結婚をしなければならないのは理解するが、少し時間を置きたいということらしい。社交界へもそれからは出ていないようだった。
シグムント子爵もオリヴァーの自由にしていいと、承諾書したとのことで、気がすむまで働くことも出来るという。
「お前・・・ずっと公爵家にいるのか?」
「それも一つの人生かとも思います。もしくは・・・シアリィルド様が結婚したら、そのお屋敷に筆頭侍女としてついていけるかなとは、考えておりますよ」
「・・・気が早いだろ」
「いいえ、遅いくらいです」
キッパリとオリヴァーは告げる。容赦のない態度ではあるが、これがシアリィルドとオリヴァーの間では普通だ。
マナフィールの従妹として行儀見習いとして公爵家に来てから侍女となったオリヴァーは、学院に入るまでは共に過ごしていた。ジークランスとは違うが、オリヴァーもシアリィルドにとっては大切な幼馴染の一人なのだ。
この幼馴染が苦労するのなら、白紙になって良かったとシアリィルドは安堵するのだった。
「オリヴァー・・・?」
「あ、おはようございます、シアリィルド様」
「おはよう」
挨拶を返し身体を起こそうとすれば、それを見たオリヴァーがさっと近づき、シアリィルドの背を支えてくれた。支えられることで身体を起こす。背にクッションを入れられると、姿勢が安定する。こうして起きている方が、今のシアリィルドは楽だった。
昨日よりは、怠さも和らいでいる気もする。とは言え、ベッドから出ることは出来ないだろう。
「助かる。すまない」
「何を仰るんですか。この程度、いつでも申し付けてください。・・・今日のご気分はどうですか?何か召し上がれます?」
「・・・そう、だな。少しだけもらう」
「わかりました。少々お待ちください」
そう言って、オリヴァーが部屋の外に声をかける。部屋の前には、侍女が待機していたようで彼女に指示を伝えているようだ。伝え終わると、オリヴァーは戻ってくる。青緑色の髪をツインテールにし、その灰色の大きな瞳を持っている彼女は、控えめに言って美人だった。シグムント子爵家の令嬢でもあり、作法も教養もしっかりと身に着けており、公爵家の侍女たちの中でも信頼できる人物だ。
だが、シアリィルドが学院を卒業して以来、屋敷に戻っていないこともあり、こうして会って話をするのは久しぶりだった。
「オリヴァー・・・そういえば、お前は実家に帰るはずじゃなかったのか?」
「・・・そういえば、そんなことも言っておりましたね。って、それ一年前の話ですよ」
呆れたように肩を落とすオリヴァー。確かに、最近の話ではない。だが、子爵家に戻るという話は確かにあった。オリヴァーはシアリィルドの一つ上だ。貴族女性ならば、結婚適齢期である。結婚のために実家に戻るという風にシアリィルドは聞いていた。だから、屋敷にいないはずだったのだ。
昨日は、それどころではなかったので聞きそびれた。当たり前のように侍女として仕事をしているということは、破談になったのかもしれないが、シアリィルドは事情を知っておきたかった。
「・・・シアリィルド様はご存知だと思いますが、私の母は奥様の妹です。そのため、ファルシース公爵家と縁が得られると考えた先方からお話がありました。実家は子爵家ですから、相手方である伯爵家からのお話は断りすることが出来なかったのです」
「・・・どこの、だ?」
「ロドリゲス卿です。ご存知ですか?」
「・・・あぁ。最悪だな」
「はい・・・最悪だったんです」
ロドリゲス伯爵。貴族の間では有名な人物だった。年は30を過ぎたところだが、金遣いが荒く、娼館に通い詰めているらしい。借金も相当あると聞いていた。元々は、由緒正しい伯爵家の者として品行方正だったらしく、結婚をすれば元の真面目な青年戻ってくれるのではないかと、両親は結婚相手を探していたという。たが、伯爵というプライドもあって、誰でも良いわけではない。それなりの家柄の令嬢をと探したところ、シグムント家に至ったらしい。
「何度かパーティーで話しかけられたことがありまして、そこで私を見初められたとお話があったようです。息子の初恋だから、どうしても叶えたいのだと・・・」
「・・・話の文句としてはあり得る、か」
「はい。・・・伯爵家からの縁談ですから、初めは両親も喜びましたが、実際の婚約が決まると色々とありまして」
貴族の子女にとって、婚約すれば破棄されることはほとんどないため、結婚することは確定だ。家同士の決まり事である以上、個人的な感情でこれを無にすることはできない。
だからこそ、相手側も大きく出たのか、嫁入りのためのお金である支度金を直ぐに渡すように要求してきたのだった。それも金額まで指定する始末。恐らくは借金の返済の為だろう。更には、愛人がいることもわかった。伯爵なのだから、愛人の一人や二人は許容するように言われたが、結婚前からそのような存在がいるのは、全くもって別の話である。
共にパーティーに出ると、公爵家の名前を出す始末。このままでは、ファルシース公爵家にも迷惑がかかると判断したオリヴァーの母は、姉であるファルシース公爵夫人に相談することにした。
結果、公爵が働きかけて婚約を白紙に戻すことが出来た。白紙扱いなので、オリヴァーの名誉は守られた形だ。
「本当に、酷い方でした・・・」
「・・・変な奴に目をつけられたな・・・」
「はい・・・ですので、今はちょっと結婚は考えられません。ということで、お屋敷に戻らせていただいたんです」
結婚をしなければならないのは理解するが、少し時間を置きたいということらしい。社交界へもそれからは出ていないようだった。
シグムント子爵もオリヴァーの自由にしていいと、承諾書したとのことで、気がすむまで働くことも出来るという。
「お前・・・ずっと公爵家にいるのか?」
「それも一つの人生かとも思います。もしくは・・・シアリィルド様が結婚したら、そのお屋敷に筆頭侍女としてついていけるかなとは、考えておりますよ」
「・・・気が早いだろ」
「いいえ、遅いくらいです」
キッパリとオリヴァーは告げる。容赦のない態度ではあるが、これがシアリィルドとオリヴァーの間では普通だ。
マナフィールの従妹として行儀見習いとして公爵家に来てから侍女となったオリヴァーは、学院に入るまでは共に過ごしていた。ジークランスとは違うが、オリヴァーもシアリィルドにとっては大切な幼馴染の一人なのだ。
この幼馴染が苦労するのなら、白紙になって良かったとシアリィルドは安堵するのだった。
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