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第一章 始まり
12話 意図せぬ帰宅
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「うっ・・・」
明るい光に誘われるように、ゆっくりと重たい瞼を上げる。目を開けた時に映った光景は、見覚えのある天井だった。だが、王城にある王国軍の宿舎ではない。宿舎はここまで高い天井ではないからだ。
「・・・お、れは・・・」
掠れはするものの声は出る。起き上がろうと身体を起こせば、酷い眩暈が襲ってくる。支える間もなく、シアリィルドはそのままベッドに倒れこんだ。
バタン。
「シアリィルド様っ!お気づきになられましたかっ!!」
「「坊ちゃん!!」」
「シアリィルド様!!」
部屋の中から音がしたことに気が付いたのか、ノックもなしに人が飛び込んできた。誰もが見知った人物だ。
執事姿の老紳士であるマーク・スペイド。筆頭侍女であるメリサ・フォン・デューク。そして、侍女のオリヴァー・フォン・シグムントと、ナタリア・スペイドだ。それ以外にもドタドタと足音が聞こえる。扉が開く音で、駆けつけてきたのだろうか。彼らは部屋に入らず入口で、中を覗き込んでいた。
そう、ここは王都にあるファルシース公爵家の本邸だ。この部屋は、シアリィルドの自室ということになる。道理で見覚えがあるはずだった。
「・・・み、な」
「オリヴァー、水を!」
「は、はい。只今!!」
慌ただしく出て行くオリヴァー。然程時間もかからずに彼女は戻ってきた。オリヴァーから水をマークが受け取る。
「・・・少しお飲みになられますか?」
「あぁ・・・」
メリサに支えられながら、少しだけ身体を起こす。腕に力が入らないため、マークに支えられてコップの水を口に含んだ。飲むことが出来たのは少しだけだ。それでも、渇きを潤すには十分だった。
再び、ベッドに身体を沈めて、ふうと息をつく。
「・・・どれ、くらいだ?」
「シアリィルド様が屋敷に戻られてからは、5日ほどでございます」
「そんなに、か・・・」
「はい。心配でございました・・・本当に、お目覚めになられてようございました」
目元に涙を浮かべるマーク。メリサもオリヴァーも、目元を拭っている。意識不明の状態で戻ってきたのだ。よほど不安にさせてしまったのだろう。それは恐らく屋敷のものだけではないはずだ。
「ジーク、は?」
「王子殿下も共にお戻りになられております。視察を切り上げてこられたようでございます」
切り上げてきた。シアリィルドが負傷したこともあるだろうが、一番の要因はレッドウルフだろう。街からも遠くない場所に、魔族が現れたのだ。警戒を強めて当然のこと。今頃、師団内でも方針が協議されているはずだ。
事情を話す立場にあるシアリィルドだが、身動き一つできない状態では何もできることはない。それが酷く悔しい。
右手でそっと左腕に触れる。包帯が巻かれているが、痛みはない。力が入らないため、それ以上の確認は無理だ。
「坊ちゃん、どうされました?」
「いや・・・・・・俺の、状態は聞いているか?」
一瞬迷ったが、聞く方が早い。問われたメリサはオリヴァーらに指示をし、マークとメリサ以外を下がらせる。
「メリサ?」
「いえ・・・坊ちゃんも目が覚めましたので、職務に戻るように伝えただけでございます。ゴホン、まずは到着された時でございますが・・・坊ちゃんが、この屋敷にお戻りになられた時は、危篤状態でございました」
長時間の移動により負担がかかったということらしい。屋敷に着くなり、魔法師が呼ばれ治療に当たったという。
ジークランスが既に手配済みで、治療に入るのは早かった。だが、状態が重く、完全治癒は出来なかった。最優先で解毒を行い、腕の傷も出来るだけ癒す。それ以上のことは出来ず、失った血も戻らない。毒がなくなったことで、熱は引くだろうが完全に傷がふさがったわけではないため、炎症による発熱の可能性は残る。
案の定、一旦引いた熱をぶり返し、シアリィルドは再び生死の境を彷徨うこととなった。熱が引いたのは、昨夜のこと。あまりに長引いたので、屋敷内も沈み込んでいたという。
「ちょうど、マナフィール様が滞在しておられまして、事情もご存知です。お目覚めになったことも、早馬にて知らせておりますので、じきに戻られることでしょう。本当に・・・お目覚めになられて安心致しました」
「・・・そう、か。済まなかった・・・」
「いいのです。坊ちゃんが、こうしてここにおられるだけで私たちは満足でございますから」
「そうでございます。・・・まだお疲れでございましょう。しばしお休みくださいませ」
「・・・あぁ・・・」
起きたばかりということもあり、シアリィルド自身も眠気を感じていた。まだ聞きたいことはあったが、眠気には逆らえずそのまま目を閉じれば、眠りに落ちて行った。
明るい光に誘われるように、ゆっくりと重たい瞼を上げる。目を開けた時に映った光景は、見覚えのある天井だった。だが、王城にある王国軍の宿舎ではない。宿舎はここまで高い天井ではないからだ。
「・・・お、れは・・・」
掠れはするものの声は出る。起き上がろうと身体を起こせば、酷い眩暈が襲ってくる。支える間もなく、シアリィルドはそのままベッドに倒れこんだ。
バタン。
「シアリィルド様っ!お気づきになられましたかっ!!」
「「坊ちゃん!!」」
「シアリィルド様!!」
部屋の中から音がしたことに気が付いたのか、ノックもなしに人が飛び込んできた。誰もが見知った人物だ。
執事姿の老紳士であるマーク・スペイド。筆頭侍女であるメリサ・フォン・デューク。そして、侍女のオリヴァー・フォン・シグムントと、ナタリア・スペイドだ。それ以外にもドタドタと足音が聞こえる。扉が開く音で、駆けつけてきたのだろうか。彼らは部屋に入らず入口で、中を覗き込んでいた。
そう、ここは王都にあるファルシース公爵家の本邸だ。この部屋は、シアリィルドの自室ということになる。道理で見覚えがあるはずだった。
「・・・み、な」
「オリヴァー、水を!」
「は、はい。只今!!」
慌ただしく出て行くオリヴァー。然程時間もかからずに彼女は戻ってきた。オリヴァーから水をマークが受け取る。
「・・・少しお飲みになられますか?」
「あぁ・・・」
メリサに支えられながら、少しだけ身体を起こす。腕に力が入らないため、マークに支えられてコップの水を口に含んだ。飲むことが出来たのは少しだけだ。それでも、渇きを潤すには十分だった。
再び、ベッドに身体を沈めて、ふうと息をつく。
「・・・どれ、くらいだ?」
「シアリィルド様が屋敷に戻られてからは、5日ほどでございます」
「そんなに、か・・・」
「はい。心配でございました・・・本当に、お目覚めになられてようございました」
目元に涙を浮かべるマーク。メリサもオリヴァーも、目元を拭っている。意識不明の状態で戻ってきたのだ。よほど不安にさせてしまったのだろう。それは恐らく屋敷のものだけではないはずだ。
「ジーク、は?」
「王子殿下も共にお戻りになられております。視察を切り上げてこられたようでございます」
切り上げてきた。シアリィルドが負傷したこともあるだろうが、一番の要因はレッドウルフだろう。街からも遠くない場所に、魔族が現れたのだ。警戒を強めて当然のこと。今頃、師団内でも方針が協議されているはずだ。
事情を話す立場にあるシアリィルドだが、身動き一つできない状態では何もできることはない。それが酷く悔しい。
右手でそっと左腕に触れる。包帯が巻かれているが、痛みはない。力が入らないため、それ以上の確認は無理だ。
「坊ちゃん、どうされました?」
「いや・・・・・・俺の、状態は聞いているか?」
一瞬迷ったが、聞く方が早い。問われたメリサはオリヴァーらに指示をし、マークとメリサ以外を下がらせる。
「メリサ?」
「いえ・・・坊ちゃんも目が覚めましたので、職務に戻るように伝えただけでございます。ゴホン、まずは到着された時でございますが・・・坊ちゃんが、この屋敷にお戻りになられた時は、危篤状態でございました」
長時間の移動により負担がかかったということらしい。屋敷に着くなり、魔法師が呼ばれ治療に当たったという。
ジークランスが既に手配済みで、治療に入るのは早かった。だが、状態が重く、完全治癒は出来なかった。最優先で解毒を行い、腕の傷も出来るだけ癒す。それ以上のことは出来ず、失った血も戻らない。毒がなくなったことで、熱は引くだろうが完全に傷がふさがったわけではないため、炎症による発熱の可能性は残る。
案の定、一旦引いた熱をぶり返し、シアリィルドは再び生死の境を彷徨うこととなった。熱が引いたのは、昨夜のこと。あまりに長引いたので、屋敷内も沈み込んでいたという。
「ちょうど、マナフィール様が滞在しておられまして、事情もご存知です。お目覚めになったことも、早馬にて知らせておりますので、じきに戻られることでしょう。本当に・・・お目覚めになられて安心致しました」
「・・・そう、か。済まなかった・・・」
「いいのです。坊ちゃんが、こうしてここにおられるだけで私たちは満足でございますから」
「そうでございます。・・・まだお疲れでございましょう。しばしお休みくださいませ」
「・・・あぁ・・・」
起きたばかりということもあり、シアリィルド自身も眠気を感じていた。まだ聞きたいことはあったが、眠気には逆らえずそのまま目を閉じれば、眠りに落ちて行った。
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