公爵家次男の巻き込まれ人生

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第一章 始まり

11話 状況の確認

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またまた別視点です。


※※※※※※※※※

手当てを終え、ケイオスが部屋を出るとそこにはカレンが立っていた。顔を見るなりカレンが淑女の礼を取り頭を下げる。

「フォーニック嬢」
「ブルネーシア様、王子殿下のご指示により参りました。以後のシアリィルド様のお世話は、私にお任せください」
「・・・そうですか。わかりました。では、隊長をお願いします」
「かしこまりました。では、失礼致します」

頭を上げるとカレンはケイオスの横をすり抜け部屋へと入る。
ジークランスの命令ならば、ケイオスも従う他ない。カレンはジークランスの乳姉弟ということから、信用もできる存在だ。任せるのが一番だろう。

ならば、ケイオスがやるべきことは後始末だ。隊長であるシアリィルドの代わりに、現状の把握をしなければならない。戻ってきた部下たちから話を聞かなくては。シアリィルドの部屋へ一礼すると、ケイオスはその場を離れた。


応接室に向かえば、疲れて座り込んだ者や手当てを受けている者、手当てをしている者がいる。顔を見れば部隊の全員がここに集まっていることがわかった。大きな負傷は見受けられない。

「皆さん、ご苦労様でした」
「ケイオス殿」
「副隊長っ」

声を掛ければ此方を見る。手当てをしている者もその手を止めてしまっていた。

「手当てが先です。気にせず続けなさい」
「は、はい」
「それと、カルフィー卿。立たなくて結構です。そのままで」
「・・・はい」

エルゼフィドは呼ばれたことに対して、反射的に立ち上がったがケイオスがそれを制す。

「報告をお願いします」
「・・・はっ」

エルゼフィドを初めとして、一体何があったのかわからずに、シアリィルドに指示されるまま門へと向かった。門の騒がしさから、何かが起こっていることを知り、外へと出たのだ。そこには、魔物に教われている馬車があり、叫び逃げている人たちがいた。シアリィルドが魔法を使い、襲われている現場へと一足先に向かい、エルゼフィドらは走ってその場に駆けつけた。
たどり着いた先で見たのは、負傷しているシアリィルドと呆然としている少女。更に馬車の方には魔物が押し寄せてきており、その正体がレッドウルフだった。後は、レッドウルフを殲滅し、馬車を含め襲われていた者たちを警護隊へ任せ、撤退してきた。
これが、エルゼフィドからの詳細な報告だった。

「その馬車の荷は?」
「恐らくは、奴隷かと。少年少女ばかりでしたし、その服装もあまり良い状態とは言えませんでした」
「なるほど・・・回り道をするのではなく、最短で街に向かうために森を抜けた。そう考えるのが妥当ですが・・・」

むしろそれ以外には考えられない。奴隷を売買すること自体は珍しいことではなく、今までも同じように行き来したことがあるのかもしれない。その辺りの調査は街の警護隊へ任せるとして、問題はレッドウルフだ。

「レッドウルフがあの森に出ることは確認されていません」
「は、はい。で、ですが紛れもなくあれはレッドウルフでした」
「別に疑っているわけではありませんよ。まぁ、どちらにしても隊長が遅れをとるような相手ではありませんが・・・状況から聞くに、その少女を助けるためには仕方なかったのかもしれませんが・・・」

仕方ない。その場で見捨てることは選択肢にないのだ。だが、シアリィルドが負傷しては本末転倒も良いところだ。ケイオスならば、見捨てる選択肢を取る。奴隷少女とシアリィルド。傷つくのなら迷うことなく、シアリィルドを選ぶ。
それが出来ないシアリィルドだからこそ、ケイオスはここにいる。

「ふ、副隊長・・・あの、隊長は」

その瞬間、室内が沈黙に染まった。誰もが気にしていることだからだろう。ケイオスは眼鏡の縁を上げた。

「・・・予断は許されません。今は、あの方の生命力を信じ、祈るしかないでしょう」
「・・・」

聞いた本人、そして聞いていた部下たちも何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。
軍人である以上は、怪我をすることは当たり前であり、時にはそれが命に関わることもなくはない。それでも、ここまで雰囲気が重くなるのはシアリィルドが部隊の中で最年少であるからか。それとも、貴族の中でも上位である公爵家の人間だからか。恐らくはその両方だろう。

「こういうことがあった以上、殿下も直ぐに帰還するはずです。森周辺を通る際は、警戒を強める必要がありそうですね」

再び魔物が現れることは十分に考えられる。もう少し街の近くにも寄ってくることもだ。ならば、ジークランスを速めに王都へ戻した方がいい。シアリィルドの容態もある。ジークランスも否とは言わないはずだ。
身体を休め、今回護衛に回ったルドルフ班を中心に、帰路の対策を整える。出来れば明日の日中には出たいところだが・・・。


**************

コンコン。

「入るぞ」

ジークランスが部屋の中に入れば、ベッドの横の椅子にカレンが座っていた。その手にはタオルがある。

「殿下」
「様子はどうだ?」

カレンに問いかけつつも、その視線はシアリィルドに向けられていた。汗で張り付いた前髪。その奥にある橙色の瞳は見ることは出来ない。苦しげに潜めている眉と、荒い呼吸。何よりも、目の前が現実であることを示していた。

「・・・熱が高く下がる様子はありません。傷によるものでしょうから、鎮痛剤も意識がなければ使えませんし」
「ただ、見守るしかできない、か」
「はい・・・」

いくつか怪我に対処する薬は持ってきている。だが、どれも本人が口にする必要があり、意識が戻らなければ使えなかった。意識さえ戻れば、薬を飲むことができる。

「シア、聞こえるか?シア!」

ベッドの傍で声をかけるものの、反応はない。聞こえるのは、息遣いだけだ。

「カレン・・・シアは移動させても大丈夫だと思うか?」
「・・・わかりません」
「そう、か」

カレンとて侍女に過ぎない。専門的な知識は持たず、ただ世話をすることしかできないのだ。ジークランスに対して、助言をするような知識も立場もない。ジークランスがただ同意を求めているだけだとわかっていても、同意することはできなかった。

「・・・カレン、伝令を飛ばす。明日の朝一で城に戻る。母上に、シアリィルドの治療を依頼してくれ」
「承知しました。直ぐに」
「頼む」

カレンは急ぎ、部屋を出ていく。残されたジークランスは、ベッドの横にある椅子へと座った。

「待っていろ・・・シア」

ジークランスは、負傷していないシアリィルドの右手をそっと握り、持ち上げると己の額に当てる。シアリィルドの手は体温が高く、自分の額がやけに冷たく感じた。



ジークランスは、その日のうちに翌朝王都へ帰還することを伝え、準備を行った。視察の日程を繰り上げることになるが、コラールの街にとって今回の件はただ事ではない。視察の中止は、致し方ないことだ。
今後、住人の安全も考えて、今回の件はランドルフ公からも改めて国に報告を上げることになった。しばらくは、森への出入りを禁ずることとし、王都方面に向かう場合は徒歩以外の手段で向かう場合を除いて街の外へ出ることも禁ずる触れを出すことになる。街の混乱は必至だ。そのため、ジークランスは朝一番に街を出発することとした。



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