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第一章 始まり
5話 晩餐
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仕事着のまま向かうのは良くないのかもしれないが、今回は仕事で訪れたためそれ以外の服は持ってきていない。ジークランスは、食堂まで腕を離さなかったので、そのまま入ることになってしまった。
「どうぞ、殿下はこちらへ」
「あぁ」
宮から付いてきた侍女に促され、ようやくジークランスは腕を離した。示された席へと座る。
「シアリィルド様も、どうぞ」
「カレン・・・すまない」
「いえ・・・殿下の我が儘にお付き合い頂きありがとうございます」
シアリィルドの席はジークランスの隣だ。椅子を引こうとしたカレンがの手を制し、椅子へ座った。ニジムも遅れてやって来て、所定の席へと座る。その傍にいるのは、見たことがない侍女なので代官邸に勤めている侍女なのだろう。
「では、ジークランス殿下、シアリィルド公子。今宵はゆっくりと晩餐をお楽しみ下さい」
「そうだな。こうして、爺と酒を交わすことができる。それだけて、来たかいがあるというものだ」
「ありがとうございます。私も、あの幼子たちが成長され、こうしてグラスを交わせるというのは、恐悦至極でございますよ」
「・・・大げさだろう、ランドルフ公」
グラスにそれぞれワインを注がれると、グラスを掲げ乾杯をする。甘い香りがするそのワインの味は、疲れているからなのか味もとても甘く感じた。
「美味いな」
「このワインは、街で作られている果実を熟成させて造ったものでございます。おきに召していただけたなら、何よりです」
「あぁ、気に入った。シアはどうだ?」
「・・・飲みやすいと思う。だが・・・少し甘さが残る」
美味しいのは間違いない。だから、率直な感想を伝えた。だが、その答えを聞いたニジムは僅かに目を見開き、給仕役の侍女に何かを指示した。
少しすると、その侍女が別のワインを持ってくる。
「爺?」
「申し訳ありません、ご説明は後程。シアリィルド様、こちらを召し上がってみていただけますか?」
「・・・わかった」
侍女により新しく注がれたワインは、先ほどの紫色とは違う透明色だった。似たような香りはする。口に含んでみると、酸味が強く感じた。それでも、後味はほどいい程度の甘さだ。飲みやすさで言うならば、こちらの方がシアリィルドには合っている。
「如何でしょうか?」
「・・・こちらの方が飲みやすい」
「そうですか・・・」
「そうなのか?私にも飲ませてほしい」
別のグラスにワインが注がれ、ジークランスの元へと置かれる。それをひとのみすると、ジークランスは眉を寄せた。
「ジーク?」
「これ、酸っぱくないか?」
「いや・・・俺にはそこまで感じないが」
味覚がおかしいということはないはずだ。しかし、二人とはいえ感じ方がここまで違うのもおかしい。
何かを知っていそうなニジムを二人で見れば、当の本人は侍女と話をしている。
「爺、どういうことだ?」
「じゃあ、頼みますよ」
「かしこまりました」
侍女が下がるのを見届けてから、ニジムはジークランス、シアリィルドと二人に視線を向けた。
「種明かしではありませんが、これらのワインにはある効能がございます」
「効能?」
「はい。先ほどシアリィルド様が飲まれた透明なワインですが、こちらは疲労回復の効能があり、疲労度が高い方ほどとても美味しく感じられるのですが、元々酸味が強いものですので、そうでない方は酸っぱいと感じるでしょう」
即ち、ジークランスは疲れているとはいえそれほど心配することではないが、これを美味しく感じたシアリィルドは極度の疲労状態にあるということだ。最初に飲んだワインが甘く感じたのも、その為だったらしい。だから、シアリィルドの感想を聞いてニジムは驚いたということだ。
「こちらのワインは、酸味が強すぎてあまり日常的に飲むものではないのです。ご自覚がないようですね、シアリィルド様。出すぎたことを申し上げますが、あまり無理をなされないよう、お身体をご自愛下さい」
「だとさ」
「・・・特段変わったことはないけどな」
疲れていない訳ではないが、それでも仕事に支障が出るほどの体調ではない。戦いに出ている訳でもなく、護衛任務と雑務を片付けている程度だ。最近は、鍛練の時間が少ないことが憂鬱ではあるものの、その程度だった。
しかし、シアリィルドの答えはジークランスには不満をだったらしい。
「へぇ・・・なら、今日はカレンに添い寝でもお願いするか?」
「はあ?何を言ってるんだ。醜聞もいいところだ」
「美人が傍にいれば良く眠れるだろ?」
「眠れないだろうが・・・」
当人がそこにいるというのに、こういうことを言うのは主君としていかがなものかと思う。ちらりとカレンを見れば、口元に笑みを浮かべているもののその眼は笑っていない。あとで文句を言われるのはジークランスの方なので、シアリィルドに非はない。とはいえ、プライベートな空間ではないのだから、冗談も多少選んでほしいものだ。この場で本気にする者がいないのが、せめてもの救いだろう。
そうして時折ジークランスの冗談に付き合いつつ、和やかな雰囲気で晩餐を終えたのだった。
「どうぞ、殿下はこちらへ」
「あぁ」
宮から付いてきた侍女に促され、ようやくジークランスは腕を離した。示された席へと座る。
「シアリィルド様も、どうぞ」
「カレン・・・すまない」
「いえ・・・殿下の我が儘にお付き合い頂きありがとうございます」
シアリィルドの席はジークランスの隣だ。椅子を引こうとしたカレンがの手を制し、椅子へ座った。ニジムも遅れてやって来て、所定の席へと座る。その傍にいるのは、見たことがない侍女なので代官邸に勤めている侍女なのだろう。
「では、ジークランス殿下、シアリィルド公子。今宵はゆっくりと晩餐をお楽しみ下さい」
「そうだな。こうして、爺と酒を交わすことができる。それだけて、来たかいがあるというものだ」
「ありがとうございます。私も、あの幼子たちが成長され、こうしてグラスを交わせるというのは、恐悦至極でございますよ」
「・・・大げさだろう、ランドルフ公」
グラスにそれぞれワインを注がれると、グラスを掲げ乾杯をする。甘い香りがするそのワインの味は、疲れているからなのか味もとても甘く感じた。
「美味いな」
「このワインは、街で作られている果実を熟成させて造ったものでございます。おきに召していただけたなら、何よりです」
「あぁ、気に入った。シアはどうだ?」
「・・・飲みやすいと思う。だが・・・少し甘さが残る」
美味しいのは間違いない。だから、率直な感想を伝えた。だが、その答えを聞いたニジムは僅かに目を見開き、給仕役の侍女に何かを指示した。
少しすると、その侍女が別のワインを持ってくる。
「爺?」
「申し訳ありません、ご説明は後程。シアリィルド様、こちらを召し上がってみていただけますか?」
「・・・わかった」
侍女により新しく注がれたワインは、先ほどの紫色とは違う透明色だった。似たような香りはする。口に含んでみると、酸味が強く感じた。それでも、後味はほどいい程度の甘さだ。飲みやすさで言うならば、こちらの方がシアリィルドには合っている。
「如何でしょうか?」
「・・・こちらの方が飲みやすい」
「そうですか・・・」
「そうなのか?私にも飲ませてほしい」
別のグラスにワインが注がれ、ジークランスの元へと置かれる。それをひとのみすると、ジークランスは眉を寄せた。
「ジーク?」
「これ、酸っぱくないか?」
「いや・・・俺にはそこまで感じないが」
味覚がおかしいということはないはずだ。しかし、二人とはいえ感じ方がここまで違うのもおかしい。
何かを知っていそうなニジムを二人で見れば、当の本人は侍女と話をしている。
「爺、どういうことだ?」
「じゃあ、頼みますよ」
「かしこまりました」
侍女が下がるのを見届けてから、ニジムはジークランス、シアリィルドと二人に視線を向けた。
「種明かしではありませんが、これらのワインにはある効能がございます」
「効能?」
「はい。先ほどシアリィルド様が飲まれた透明なワインですが、こちらは疲労回復の効能があり、疲労度が高い方ほどとても美味しく感じられるのですが、元々酸味が強いものですので、そうでない方は酸っぱいと感じるでしょう」
即ち、ジークランスは疲れているとはいえそれほど心配することではないが、これを美味しく感じたシアリィルドは極度の疲労状態にあるということだ。最初に飲んだワインが甘く感じたのも、その為だったらしい。だから、シアリィルドの感想を聞いてニジムは驚いたということだ。
「こちらのワインは、酸味が強すぎてあまり日常的に飲むものではないのです。ご自覚がないようですね、シアリィルド様。出すぎたことを申し上げますが、あまり無理をなされないよう、お身体をご自愛下さい」
「だとさ」
「・・・特段変わったことはないけどな」
疲れていない訳ではないが、それでも仕事に支障が出るほどの体調ではない。戦いに出ている訳でもなく、護衛任務と雑務を片付けている程度だ。最近は、鍛練の時間が少ないことが憂鬱ではあるものの、その程度だった。
しかし、シアリィルドの答えはジークランスには不満をだったらしい。
「へぇ・・・なら、今日はカレンに添い寝でもお願いするか?」
「はあ?何を言ってるんだ。醜聞もいいところだ」
「美人が傍にいれば良く眠れるだろ?」
「眠れないだろうが・・・」
当人がそこにいるというのに、こういうことを言うのは主君としていかがなものかと思う。ちらりとカレンを見れば、口元に笑みを浮かべているもののその眼は笑っていない。あとで文句を言われるのはジークランスの方なので、シアリィルドに非はない。とはいえ、プライベートな空間ではないのだから、冗談も多少選んでほしいものだ。この場で本気にする者がいないのが、せめてもの救いだろう。
そうして時折ジークランスの冗談に付き合いつつ、和やかな雰囲気で晩餐を終えたのだった。
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