公爵家次男の巻き込まれ人生

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第一章 始まり

3話 部下との距離

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夕食を強制的に摂らされた後、シアリィルドはジークランスと別れた。私室に入るところまでは見送ったが、その先はプライベートな場所だ。友人としてなら入ったこともあるし許されているが、今は任務中なので入るわけにはいかない。
宮の入り口まで戻れば、ケイオスらと交代となった夜勤のメンバーが待機していた。

「お疲れ様です」
「・・・えぇ、隊長もご苦労様です」

眼鏡紳士という言葉が似合うカレイド・フォン・ギーニスが、騎士礼を取り頭を下げる。顔を上げればそのフレームを指で上げながら挨拶をしてきた。部下の中では最年長で、ケイオスよりも古株だ。子爵家出身で、どちらかというと剣を取って戦うよりも魔力が高いので魔法師と呼ばれる後方支援タイプだ。それもあってか、どこか理屈っぽい人物であり、シアリィルドは少し苦手とする相手だった。

「本日は、隊長と私が中での護衛となるようですから、宜しくお願いします」
「・・・こちらこそ、お願いします」
 
年長者ということもあり、シアリィルドも丁寧に返す。だが、それが気にくわないのかカレイドは灰色の瞳を細め鋭い目付きでシアリィルドを睨む。

「隊長」
「・・・何ですか?」
「若いとはいえ、貴方は隊長という立場にいます。私たちのような部下に、そのような態度を取る必要はありません」
「ギーニス卿」
「カレイド、で結構です。そもそも、貴方は公子であらせられるのですから、あまり遜った態度を取るのも他の者へ示しがつきません。我々は王子殿下の護衛部隊です。貴方が率いることに、何の問題もないのですから」

この場にはカレイドとシアリィルドだけ。この話を聞いているものはいない。だからなのか、別室で説教を受けている気分だった。
しかし、カレイドが言うことも間違ってはいない。シアリィルドとて、その程度は理解している。

「それでも、不平不満を申すものがいるならば、他へ異動させればいいことです」

それは権力の横暴だと思うが、口にはしない。あまり多くを話したことはなかったが、どうやらカレイドという男は、貴族意識が高い人物のようだ。
軍の中にも貴族至上主義というか、身分に重きをおいている者は多い。主に貴族出身者が、それに当たる。そういう連中は逆に、平民出身者からは嫌悪されていた。シアリィルドの部下にも、平民出身者はおり、それは決して他人事ではない。

「聞いていますか、ファルシース隊長」
「・・・聞いています。ただ、それはギーニ・・・カレイドの考えです。私は、私の考えで動いています。身分はともかく、同僚に対して年長者に敬意を払うのは間違いではないと思います」
「同僚、ですか・・・。なるほど、それは確かに一理あります。・・・ただ、あまり下手にでない方が宜しいかと思いますよ」
「助言として受け取っておきます」

話は終わりだ。シアリィルドは、カレイドから視線を外し周囲を伺った。人の気配は、部屋の外にいる部下たちのみであることを確認する。
更に念のため、侵入者対策のため薄い結界を張ろうと目を閉じ、魔力を練り上げた。

「ほぅ・・・」
「・・・」

ジークランスの部屋を中心にして組み上げるので、差ほど魔力は使わない。上手くいったのを確認し、シアリィルドは目を開けた。

「驚きました」
「・・・何が、ですか?」

思わずといったように紡がれた言葉は、沈黙の空間ではやけに響く。無視を決め込むこともできるが、流石に二人だけという状況では難しいだろう。相手は部下であり、これからも接していかなければならないのだ。苦手だからと避けるわけにはいかない。
チラリとカレイドを見れば、腕を組み考え込むような姿勢だった。

「噂は単なる噂だということですね。隊長は、剣を得意としていると聞いていましたが、それほどの制御ができるなら魔法師でもおかしくはありません」
「・・・別段、宣言をしているわけではありません」
「そう、ですか・・・」

魔法という力は、ウェルダン王国では一般的なものだ。平民であれ、貴族であれ少なからず魔力を持っている。それを扱えるものとなれば、限られてくるが珍しいわけではない。
魔力を持ち、その力を自由に操れる者を魔法師と呼んでいる。魔法師となれる素質を持っているのであれば、魔法の技術を伸ばしていくのが普通だ。そのため、剣技と両立している人はほとんどいない。魔法が使えるなら、剣を使えなくとも十分に生きていけるからだ。だから、剣を扱える者で魔法師ほどの実力を持つことは非常に稀だった。
その少数に、シアリィルドは属している。カレイドからすれば、不思議だったのだろう。未だに考え込んでいるようだった。その様子を見ながら、長い夜になりそうだとシアリィルドはため息をついた。






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