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プロローグ
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とある焼き肉店の休憩室。
簡易テーブルを挟み、若い二人が椅子に腰かけていた。
一人は眼鏡をかけた青年。大学生の霧崎丸慈(二十一歳)。
もう一人は同じく大学生の青戸孝也(二十一歳)。こちらは髪を茶色に染めている。
時刻はまもなく二十一時半。客足は途絶え始めている。
「なぁ、丸慈。次の土曜なんだけどさ――」
「だめだ」
「まだ何も言ってないじゃん!」
「ローテの変更は、一週間以上前に伝えるのが原則だ」
孝也は押し黙った。
相手の読み通りローテの変更がしたかったのだ。
そして、こういう時の丸慈は梃子でも動かない。ルールを破ることはもちろんのこと、破ろうとするその心すら許さない。
その氷の心と辣腕から、彼はスタッフ間で『鬼チーフ』と呼ばれている。
「よう、丸慈」
休憩室に他のスタッフがやって来た。
金髪に細い眉でいかにも不良といった風貌だ
「俺の知り合いがバイト捜してんだけど、うちで雇えねぇ?」
「だめです」
「頼むよ、そいつ学費で困ってんだ」
「相手とのご関係は?」
「……………………………………………………俺の彼女」
「だめです。仕事に専念できなくなる可能性があります」
しぶしぶ引き下がる金髪のスタッフ。
入れ替わるように別の男が入って来た。
今度は純朴そうな青年だった。
「丸慈君、明日なんだけど遅れてもいいかな? コンビニ強盗事件の証言をしないといけなくて……」
「だめです、明日は金曜ですよ。何があっても時間通りに来てください」
「……わかったよ。意識不明の目撃者が奇跡的に助かることを祈ってる」
「僕も祈ってますよ」
孝也は嫌悪を隠そうともせず、丸慈を睨んだ。
「たまには頼みを聞いてやれよ。冷たい奴だって思われるぞ」
「大袈裟だよ」
「そうか? この前、募金を頼まれたときになんて言った?」
「……働いて稼げって」
「小学生に向かってな」
「少年野球で使う金属バットと軟式ボールを買うための募金だぞ? 生意気だ。
おもちゃのバットとボールで十分じゃないか。怪我の心配がなくなる」
「でも、このままじゃスタッフにも嫌われるぜ?」
今度は丸慈が押し黙った。
彼も決して嫌われようとしているわけではない。
職務に対して、人一倍真面目に取り組んでいるだけなのだ。
「わかったよ。次の頼まれごとにはオーケーで答えてみせる」
「できるのか?」
「たぶんね。突拍子もない頼み事じゃなきゃいいけど」
一呼吸置いて、休憩室の出入り口に人影。
「霧崎丸慈様。私と異世界へ来ていただけますか?」
「オーケー。……………………………………え?」
丸慈が振り向くと、そこには見慣れぬ風景が広がっていた。
簡易テーブルを挟み、若い二人が椅子に腰かけていた。
一人は眼鏡をかけた青年。大学生の霧崎丸慈(二十一歳)。
もう一人は同じく大学生の青戸孝也(二十一歳)。こちらは髪を茶色に染めている。
時刻はまもなく二十一時半。客足は途絶え始めている。
「なぁ、丸慈。次の土曜なんだけどさ――」
「だめだ」
「まだ何も言ってないじゃん!」
「ローテの変更は、一週間以上前に伝えるのが原則だ」
孝也は押し黙った。
相手の読み通りローテの変更がしたかったのだ。
そして、こういう時の丸慈は梃子でも動かない。ルールを破ることはもちろんのこと、破ろうとするその心すら許さない。
その氷の心と辣腕から、彼はスタッフ間で『鬼チーフ』と呼ばれている。
「よう、丸慈」
休憩室に他のスタッフがやって来た。
金髪に細い眉でいかにも不良といった風貌だ
「俺の知り合いがバイト捜してんだけど、うちで雇えねぇ?」
「だめです」
「頼むよ、そいつ学費で困ってんだ」
「相手とのご関係は?」
「……………………………………………………俺の彼女」
「だめです。仕事に専念できなくなる可能性があります」
しぶしぶ引き下がる金髪のスタッフ。
入れ替わるように別の男が入って来た。
今度は純朴そうな青年だった。
「丸慈君、明日なんだけど遅れてもいいかな? コンビニ強盗事件の証言をしないといけなくて……」
「だめです、明日は金曜ですよ。何があっても時間通りに来てください」
「……わかったよ。意識不明の目撃者が奇跡的に助かることを祈ってる」
「僕も祈ってますよ」
孝也は嫌悪を隠そうともせず、丸慈を睨んだ。
「たまには頼みを聞いてやれよ。冷たい奴だって思われるぞ」
「大袈裟だよ」
「そうか? この前、募金を頼まれたときになんて言った?」
「……働いて稼げって」
「小学生に向かってな」
「少年野球で使う金属バットと軟式ボールを買うための募金だぞ? 生意気だ。
おもちゃのバットとボールで十分じゃないか。怪我の心配がなくなる」
「でも、このままじゃスタッフにも嫌われるぜ?」
今度は丸慈が押し黙った。
彼も決して嫌われようとしているわけではない。
職務に対して、人一倍真面目に取り組んでいるだけなのだ。
「わかったよ。次の頼まれごとにはオーケーで答えてみせる」
「できるのか?」
「たぶんね。突拍子もない頼み事じゃなきゃいいけど」
一呼吸置いて、休憩室の出入り口に人影。
「霧崎丸慈様。私と異世界へ来ていただけますか?」
「オーケー。……………………………………え?」
丸慈が振り向くと、そこには見慣れぬ風景が広がっていた。
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