乙女ゲームの攻略対象者から悪役令息堕ちポジの俺は、魂の番と幸せになります

琉海

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36.蒼玉の番

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「えー、どうしてそんな…」
「ん?」

少しあっけに取られた顔をしたヒナが呟いた声が聞こえてそちらを見る。

「えっとぉ…孔雀…様のその髪色と目は…」
「ヒナ、弁えろ」
「えー」

ぷぅと顔を膨らませて不満げな顔をしたヒロインを見ながら違和感がどんどん大きくなるのが分かる。
前世でも彼女は天真爛漫であったし、礼節に欠ける言動を取ってはいたがこんなに稚拙ではなかったと記憶している。

「ヒナ、もうそろそろ休憩時間が終わるぞ。教室まで送っていこう」
「やったぁ♡」
「レティシア様、しばし離れてしまうことをお許しください」
「いいのよ。あなたは護衛ではないのよ?」
「…では」

ヒナが蒼玉の腕に腕を絡ませてくねくねとしながら歩き去る後ろ姿を見送る。
はたから見るとラブラブなカップルなんだが…。
なぜかしっくりこない。あと、ヒロインが誰とどれだけくっつこうとも好きなだけやればいいとは思うが、推しだと複雑な気分である。

「あの2人って恋人同士ってことなのかな?」
「番ですわ」
「はっ?!番?」

レティシアは少ししまったという顔をした後に、諦めた顔をしてこちらを見た。

「孔雀様、ご内密にお願いします」
「あ、あぁ…分かった。番ってことは、蒼玉は…」
「えぇ。彼には獣人の血が流れておりますの」
「それはまた…口を滑らしちゃったねぇ」
「えぇ。これでは孔雀様のことを言えませんわね」

結構言うねぇ!
まぁ、確かに俺ってば顔で色々とダダ漏れみたいだからな。言われても仕方がないかな。
それにしても蒼玉とヒナが番だって?そんな展開あったっけ。
蒼玉って攻略対象者じゃなかったよな?俺の知らない隠しルートがあったりしたのか?今すでに俺の知っているシナリオから外れてしまっているから、彼らのカップリングが公式のものなのか、シナリオから外れた先の話なのか全然わからない。

2度目の人生を生きていて思ったのが、シナリオの強制力ってのはあるが、この世界はリアルで決してゲームの中の話ではないということ。
異世界人生の中で読んだラノベや乙女ゲームでも異世界転生した主人公が同じセリフを言っていたよな。
自分がその立場になるとよく分かる。

蒼玉に獣人の血が流れていることは実は知っていたが、レティシアの手前知らないふりをしなくちゃいけなくてしれっと演技をした。
バレなかったから、ダダ漏れと言われる俺もなかなかのもんじゃない?
ふふん。

この世界には獣人というものが存在する。
数百年前までは獣人は奴隷とされていて、地位が低かったが近年ではその人権は認められているし獣人の血を引く王族は他国には存在する。

が、この宝玉王国では今だにちょーっとだけ偏見が残っている。
国民の中にも獣人の血が混じった人もいるが、諸外国に比べてその数は少ない。
この学園には貴族が多いから内緒にしておいた方が無難である。
変に絡まれても面倒臭いしな。

俺は元々の異世界記憶のおかげで獣人やもふもふには偏見はないどころかめっちゃ好きだ。
もふもふは正義でしょ!
異世界系でもふもふ好きな人は多かったと記憶している。
それに、俺の番である愛しのさぁちゃんももふもふだからね!

「あれ?」
「どうされましたの?」
「いやなんでもない」

もふもふから連想した妖精たち。
そういや、ヒナが登場したと同時に姿が見えなくなっている。
目の前の衝撃的な光景にすっかり目が奪われてしまっていて気づいていなかった。
世界から愛されている光属性の癒やし手であるヒナといえば妖精っていうくらい妖精に好かれていた。

彼女のスチルではよく妖精と戯れているやつがあったし、その光景が彼女の純真さを言外に表していたのである。
それなのにまるで隠れるかのように消えてしまっていた。

初めて教室に向かっている時に俺の周りにいた妖精は良い匂いがすると魔力に惹かれて我先にと教室に入って行った。
彼らが群がっていたのはレティシアである。彼らにとって大変に好みの魔力であったようだ。
だからヒナが入ってくるまでレティシアの周りでキャッキャとはしゃいでいたのだが…。

大したことじゃないんだろうけど、モヤモヤは感じるよな。
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