乙女ゲームの攻略対象者から悪役令息堕ちポジの俺は、魂の番と幸せになります

琉海

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34.幕間3 そのころ紅玉は

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『私は、充分紅玉様に守られ、大切にして頂いております。私の望みは紅玉様の幸せです。だから、私のことは気にしなくとも良いのです』
「僕の幸せのために戦うんだ。スミレもちぃ兄さまも守るんだ。そして、ちぃ兄さまを傷つけた報いも必ず受けてもらう」
『…私はどこまでも紅玉様にお供いたします』
「んふ。ありがと!スミレは僕のものなんだからね!誰も傷つけちゃダメなの!」
『…ありがとうございます』

あの、忌まわしき夜の後にスミレの左腕と声帯は王妃によって奪われてしまった。罪状は″職務怠慢による不敬罪″だそうだ。紅玉へのお仕置きなのだから、罪状なぞなんでもよくこじつけだ。

紅玉と孔雀の交流を許してしまったことによる職務怠慢、王妃の言いつけを破ったのだから不敬罪。不敬罪だと処刑に値するが、それはしなかった。紅玉への罰である。
スミレの腕と失った声を目の当たりにするたび、罪悪感を持つように。
だからこそスミレは側に置くことを許されている。

母に呼ばれ初めて入った部屋にスミレが繋がれていた。数日前から姿が見えなくなっていたスミレを心配し、側使に探させていたのだが、スミレは王妃の手の中にいた。
そこは拷問部屋で、壁に取り付けられた鎖で首と両手足を拘束されたスミレはぐったりとしていた。

泣いて母にスミレの解放を望むと、このまま五体満足で放免にするわけにはいかないから、どこかを選べと。
選ばねば首を落とすと。

泣きながら選んだのは左腕。
せめて利き腕は残さなければと思いそうしたが、母は腕だけではなく、余計なお喋りが出来ないようにと喉を薬剤で潰してしまった。

その時、紅玉の中にほんの少しだけ残っていた母への思慕は跡形もなく消え去り、心に大きな傷を残した。
紅玉は自分を責めた。責めて責めて責め抜いて…一度壊れてしまった。

壊れてしまった紅玉の正気を取り戻してくれたのは長兄とスミレだった。
2人は心の奥底に閉じこもってしまい、人形のようになった紅玉の精神へアクセスして呼び戻してくれたのだ。

長兄が魔力にて道を作り、スミレがダイブした。下手したらスミレは紅玉諸共戻って来れない危ない賭けであったが、無事に戻って来れた。

心の部屋で聞いたスミレの声が、スミレの声を聞いた最後だった。
今は魔道具を使い、擬似声帯にて機械音のような声でスミレは言葉を発している。
あんなにお喋りだったスミレは必要最低限の事しか話さなくなってしまった。

スミレの声を聞くことで紅玉が自身を責めると思っているからだ。
こんな時にですら己よりも紅玉を一番に考えて尽くしてくれるスミレは紅玉にとって宝であり家族である。

紅玉を支えて慈しんでくれるのは長兄とスミレ、そして孔雀とその母である。

スミレの拷問を目の当たりにしたあの日、孔雀を殺されたくなかったら縁を切れと暗に仄めかされた。あの夜のようにまた目の前で毒殺されたくないだろう?と。

だから紅玉は力が欲しい。
守られている末っ子ではダメなのだ。

この残虐非道な行いを父王が知らぬわけがない。
証拠はなくとも、何かしらで報告を受けているはずなのだ。
そもそも己の子供である孔雀すらまともに守れない親である。だから、紅玉は父も憎んでいる。
奴らを玉座から引き摺り下ろして権力を取り上げるためにも兄に王太子になってもらい、なにかしらの瑕疵で2人には表舞台から去ってもらうのだ。

「ま、別に死んじゃってもいいけどね」

そう呟くと、スミレは背中を宥めるように優しく撫でてくれた。
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