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19.祖父母
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伯爵家について、門扉をくぐる。カポカポとのんびりした馬の足音を聞きながら俄かに緊張してくる。膝の上で無意識に握った拳に気づいた母がそっと優しく包み込んでくれた。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
馬車から降りると、数十人の出迎えの使用人と奥に老夫婦が立ってこちらを見ている。あれが、俺の祖父母。
「ただいま戻りました。お父様、お母様お元気そうで何よりですわ」
「お帰り、ジャネット」
「お前も元気そうで良かったわ」
穏やかに、上品に親子の挨拶をしているのをドキドキしながら見守る。一通り終わったあとに、全員の目線が俺に集まった。
「うふふ、そんなに熱心に見たら孔雀さんに穴が開いちゃうわ。孔雀さん、こちらがあなたの祖父母ですよ」
「は、はじめまして、おじい様、おばあ様。孔雀ともうしましゅ」
か、噛んだ。またしても大事な時にっ……!俺のチキンハートめ!顔に血が上って熱い。
「ふ、ふふふ。可愛らしい挨拶をどうもありがとう。初めまして、私があなたのおばあ様のグロリアよ。会えて嬉しいわ。ジャネットの小さい頃にそっくりね……可愛いわぁ。ね、旦那様?」
「………」
おじい様、無言でこちらを見下ろしているんだが。そして表情が険しいんだが。すっげ怖い。歓迎されてない?父(王)への不信感ゆえ??
祖母が母に似た優しい顔を綻ばせてニコニコと出迎えてくれてるのが救い。祖父からの圧を感じて俺が変な汗をかいていると、横でニコニコ笑っていた祖母が高速でスパーーン!と祖父の後頭部をはたいた。
「お二人ともお変わりないですわね。孔雀さん、気にしないでね?これが普通なの。お父様は照れてらっしゃるだけよ」
あまりの早業と、上品な老齢の女性が当主の頭をはたくという暴挙に現実感がなく絶句していると、母がコロコロと笑いながら言った。
なんとなく、祖母と母を見て「親子だな…」と思ったのは心にしまっておく事にした。
「さぁさ、旦那様は放っておいて、お茶にしましょ。孔雀さん、いらっしゃいな」
「は、はい」
「お手々つなぎましょう?————まぁ!可愛い!小さい手ねぇ…ジャネットの幼いころを思い出すわ。この子の子供の頃のエピソードを聞きたくない?それはもう、お転婆でねぇ…手をつけられなかったわ」
「えぇぇ!!」
「お母様!子供の頃の事は言わない約束でしょう?!」
「うふふふふ。あの頃の苦労を取り戻すのよ!」
「あくまっっ!!!」
「オホホホホ!なんとでもお言いなさい!これは、親の特権ですよ」
「~~~~~もう!」
いつにない母の子供っぽい反応と、騒ぎっぷりにぽかんとしてしまう。俺の記憶にある母はいつでもおしとやかで、おっとりと笑っている印象だからだ。
「あら、この様子じゃ孔雀さんにも猫をかぶっているわね?」
「そ、そんな事はないですわ。親として当然の対応を……」
「ジャネットからそんな神妙な言葉が生きているうちに聞けるなんて!これは空から星が落っこちてくるんじゃないかしら?」
きゃいきゃい姦しい女性2人に両端を固められて、促されるままに歩く。じいさんは?と思って後ろを向くと項垂れていて、その横にいる執事らしき人に肩をぽんぽんと叩かれていた。哀愁が漂っているな……。
「———というわけで、この子のお転婆が過ぎた結果、敷地内の池は埋めてしまったの」
「かあさま……」
「そ、それは!でも、あんなに美しい池があるなら泳いでみたくならない?なるわよね?!ならないはずがないわよ!」
「ホホホ。言葉遣いが崩れていてよ?ジャネット」
「ぐぅ」
幼き伯爵家ご令嬢が池で泳ぐってのは、俺もどうかと思うよ。しかも大人の目がないのは危なすぎる。池であっても、ウンディーネ加護効果か川のように澄んでいて淀む事はなかったというから驚きだ。
「ごほんっ!そ、それはそうと、明日はウンディーネのいらっしゃる湖に孔雀さんを案内しようと思っているの」
「あら、それは素晴らしいわね。是非、我れらが領の守護大精霊にご挨拶に行ってらっしゃい。きっと、歓迎してくれるわ」
「道中でも歓迎して頂けたのよ。ね?」
「はい。湖に大きな虹がかかって、すごく幻想的でした」
「あぁ…それで、領民の歓声が上がっていたのね。うふふ。我が領の守護大精霊はノリが良くって…ジャネットも相当、可愛がられているのよ」
「そうみたいですね。母さまから聞きました」
「孔雀さんも、可愛がられそうな気がするわ」
可愛がってくれるかどうかは分からんが、呼びつけられはしました。
「………?」
ふと、視線を感じてきょろりと周囲を見回すと、扉の向こうからこちらを見るじい様と目が合った。
「え………」
「孔雀さん、お気になさらず。旦那様は大変恥ずかしがり屋なのです」
「もう、お父様ったら未だにあぁなの?娘と孫が帰ってきたというのに相変わらずへたれね」
「おぉう…」
母が、なかなかに毒舌だ。俺の知らない母の顔だけど、結構好きだな。
「1週間は滞在するのでしょう?その間に少しでも構ってあげてくれたら嬉しいわ」
「そうね。そのまま交流できなくて帰ったらどうせ泣くのでしょう?」
「えぇ。確実に」
「おぉぉぅ…」
予想以上にヘタレでどうしようもないじい様だな。あんなに緊張感のあるいかつい圧が、実は恥ずかしい圧…恥ず圧だったとは。寂しがり屋で怖がりだけど人間が気になる野良猫みたいなもんか。
ゆっくり距離を縮めるしかないかぁ———って、俺、一応は5歳なんだけどな?
その後、恨めしい目を背中に浴びつつばあ様達と交流を図り、じい様だけ沈黙の夕飯(ちなみにすっげぇ睨まれていたが、目が合うと耳が赤くなってたから恥ずかしかったのだろう。乙女か)じい様だけ沈黙のでる前の懇談が続き、いよいよ眠くなった俺が欠伸を連発していると「今日は慣れない旅をして疲れたでしょうし、お開きにしましょうか」という事で解散となった。
何度も口をパクパクさせて俺に話しかけたそうにしていたじい様を目の端に捕らえていた俺は、母に似た顔で天真爛漫な笑顔を浮かべて
「おじい様、おやすみなさい」
と言うと、みるみる顔が真っ赤になったじい様が膝から崩れ落ちてそのまま五体投地するもんだからビビった。
「あらまぁ、孔雀さんたら小悪魔さんね。将来が楽しみだわ」
「えぇ。私の孔雀さんは、将来が楽しみな小悪魔さんなのよ」
俺は女性2人に揶揄われたのだった。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
馬車から降りると、数十人の出迎えの使用人と奥に老夫婦が立ってこちらを見ている。あれが、俺の祖父母。
「ただいま戻りました。お父様、お母様お元気そうで何よりですわ」
「お帰り、ジャネット」
「お前も元気そうで良かったわ」
穏やかに、上品に親子の挨拶をしているのをドキドキしながら見守る。一通り終わったあとに、全員の目線が俺に集まった。
「うふふ、そんなに熱心に見たら孔雀さんに穴が開いちゃうわ。孔雀さん、こちらがあなたの祖父母ですよ」
「は、はじめまして、おじい様、おばあ様。孔雀ともうしましゅ」
か、噛んだ。またしても大事な時にっ……!俺のチキンハートめ!顔に血が上って熱い。
「ふ、ふふふ。可愛らしい挨拶をどうもありがとう。初めまして、私があなたのおばあ様のグロリアよ。会えて嬉しいわ。ジャネットの小さい頃にそっくりね……可愛いわぁ。ね、旦那様?」
「………」
おじい様、無言でこちらを見下ろしているんだが。そして表情が険しいんだが。すっげ怖い。歓迎されてない?父(王)への不信感ゆえ??
祖母が母に似た優しい顔を綻ばせてニコニコと出迎えてくれてるのが救い。祖父からの圧を感じて俺が変な汗をかいていると、横でニコニコ笑っていた祖母が高速でスパーーン!と祖父の後頭部をはたいた。
「お二人ともお変わりないですわね。孔雀さん、気にしないでね?これが普通なの。お父様は照れてらっしゃるだけよ」
あまりの早業と、上品な老齢の女性が当主の頭をはたくという暴挙に現実感がなく絶句していると、母がコロコロと笑いながら言った。
なんとなく、祖母と母を見て「親子だな…」と思ったのは心にしまっておく事にした。
「さぁさ、旦那様は放っておいて、お茶にしましょ。孔雀さん、いらっしゃいな」
「は、はい」
「お手々つなぎましょう?————まぁ!可愛い!小さい手ねぇ…ジャネットの幼いころを思い出すわ。この子の子供の頃のエピソードを聞きたくない?それはもう、お転婆でねぇ…手をつけられなかったわ」
「えぇぇ!!」
「お母様!子供の頃の事は言わない約束でしょう?!」
「うふふふふ。あの頃の苦労を取り戻すのよ!」
「あくまっっ!!!」
「オホホホホ!なんとでもお言いなさい!これは、親の特権ですよ」
「~~~~~もう!」
いつにない母の子供っぽい反応と、騒ぎっぷりにぽかんとしてしまう。俺の記憶にある母はいつでもおしとやかで、おっとりと笑っている印象だからだ。
「あら、この様子じゃ孔雀さんにも猫をかぶっているわね?」
「そ、そんな事はないですわ。親として当然の対応を……」
「ジャネットからそんな神妙な言葉が生きているうちに聞けるなんて!これは空から星が落っこちてくるんじゃないかしら?」
きゃいきゃい姦しい女性2人に両端を固められて、促されるままに歩く。じいさんは?と思って後ろを向くと項垂れていて、その横にいる執事らしき人に肩をぽんぽんと叩かれていた。哀愁が漂っているな……。
「———というわけで、この子のお転婆が過ぎた結果、敷地内の池は埋めてしまったの」
「かあさま……」
「そ、それは!でも、あんなに美しい池があるなら泳いでみたくならない?なるわよね?!ならないはずがないわよ!」
「ホホホ。言葉遣いが崩れていてよ?ジャネット」
「ぐぅ」
幼き伯爵家ご令嬢が池で泳ぐってのは、俺もどうかと思うよ。しかも大人の目がないのは危なすぎる。池であっても、ウンディーネ加護効果か川のように澄んでいて淀む事はなかったというから驚きだ。
「ごほんっ!そ、それはそうと、明日はウンディーネのいらっしゃる湖に孔雀さんを案内しようと思っているの」
「あら、それは素晴らしいわね。是非、我れらが領の守護大精霊にご挨拶に行ってらっしゃい。きっと、歓迎してくれるわ」
「道中でも歓迎して頂けたのよ。ね?」
「はい。湖に大きな虹がかかって、すごく幻想的でした」
「あぁ…それで、領民の歓声が上がっていたのね。うふふ。我が領の守護大精霊はノリが良くって…ジャネットも相当、可愛がられているのよ」
「そうみたいですね。母さまから聞きました」
「孔雀さんも、可愛がられそうな気がするわ」
可愛がってくれるかどうかは分からんが、呼びつけられはしました。
「………?」
ふと、視線を感じてきょろりと周囲を見回すと、扉の向こうからこちらを見るじい様と目が合った。
「え………」
「孔雀さん、お気になさらず。旦那様は大変恥ずかしがり屋なのです」
「もう、お父様ったら未だにあぁなの?娘と孫が帰ってきたというのに相変わらずへたれね」
「おぉう…」
母が、なかなかに毒舌だ。俺の知らない母の顔だけど、結構好きだな。
「1週間は滞在するのでしょう?その間に少しでも構ってあげてくれたら嬉しいわ」
「そうね。そのまま交流できなくて帰ったらどうせ泣くのでしょう?」
「えぇ。確実に」
「おぉぉぅ…」
予想以上にヘタレでどうしようもないじい様だな。あんなに緊張感のあるいかつい圧が、実は恥ずかしい圧…恥ず圧だったとは。寂しがり屋で怖がりだけど人間が気になる野良猫みたいなもんか。
ゆっくり距離を縮めるしかないかぁ———って、俺、一応は5歳なんだけどな?
その後、恨めしい目を背中に浴びつつばあ様達と交流を図り、じい様だけ沈黙の夕飯(ちなみにすっげぇ睨まれていたが、目が合うと耳が赤くなってたから恥ずかしかったのだろう。乙女か)じい様だけ沈黙のでる前の懇談が続き、いよいよ眠くなった俺が欠伸を連発していると「今日は慣れない旅をして疲れたでしょうし、お開きにしましょうか」という事で解散となった。
何度も口をパクパクさせて俺に話しかけたそうにしていたじい様を目の端に捕らえていた俺は、母に似た顔で天真爛漫な笑顔を浮かべて
「おじい様、おやすみなさい」
と言うと、みるみる顔が真っ赤になったじい様が膝から崩れ落ちてそのまま五体投地するもんだからビビった。
「あらまぁ、孔雀さんたら小悪魔さんね。将来が楽しみだわ」
「えぇ。私の孔雀さんは、将来が楽しみな小悪魔さんなのよ」
俺は女性2人に揶揄われたのだった。
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