乙女ゲームの攻略対象者から悪役令息堕ちポジの俺は、魂の番と幸せになります

琉海

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2.前世を思い出す

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「夢じゃなかった…」

目を覚ましてもやっぱり、俺は幼いままだった。
セフィロスの家にいたのは確か4才から8才までだったから、その辺りの年齢だろうと思う。
鏡を見た感じだと5-6才だろうか?
俺は一応第二王子だが、実質は第一・第三王子が正妃の実子であるため、
表向きはスペアとされていたが、実際はスペアのスペアでしかなく、
更には万が一にも俺が王位につく事がないようにと、正妃と正妃派が俺から
王位継承権をはく奪すべく日々暗躍していた。何度、毒を盛られただろう。何度、暗殺未遂があっただろう。

見かねたブライト公爵当主であり、王立騎士団団長であるセフィロスに
「虚弱体質である俺の養生のために」という名目でブライト公爵家に引き取られていた。
まだ妻帯しておらず、跡継ぎがいないセフィロスは俺を実の子のように可愛がってくれて、
かつ、父との密約で臣籍降下し、養子とする事もほぼ決まっていたらしい。

俺は、それをセフィロスの死後聞かされた。
兄は降下内定を嗤うため俺にその話を聞かせたが、俺はそれで全然良かったし、むしろそうなりたかった。
そのくらい、俺と王家の仲は冷え切っていたし、俺は王位には全然興味がなかった。

王妃はいくら降下したとて脅威が去るわけではないため、反対だったようだが。
要は殺したくてたまらないってやつだ。
俺の母は伯爵令嬢で、正妃であるスフェーン公爵家とはいわば派閥的に政敵でもあった。
パワーバランスを保つために、当時妙齢の女性がルチル伯爵家にしかおらず、母が側室として嫁いできた。

政敵でしかも自分よりも低い爵位の母が第二王子を産んだ事に激怒し、
癇癪を起しまくった結果、王が折れて俺はスペアのスペアとなったわけだ。
パワーバランスどこいった。

俺と母は居場所がなく、文字通り身を寄せ合って後宮に住んでいた。
だが、俺はそれでも大好きな母と一緒にいられたから幸せだった。
その均衡が崩れたのは母が毒に倒れてからだ。一命はとりとめたものの、
子が望みにくい体になり、元々そんなに丈夫ではなかった母はどんどん弱っていった。

俺を置いてはいけないと、気丈に振る舞い闘病していたが、心労がたたり俺が9才の頃に儚くなった。

「そうか!かあさまはまだ生きている!!!」

母を死なせたくはない。どうしたらいいだろう…彼女の体調は王家が手を尽くしても良くなることはなく、
セフィロスが殉職し、後宮に戻った俺がまた毒を盛られ、更にこれまでの中で一番強い毒だったために、
生死の境をさ迷った事が引き金になって病状が悪化してしまった。
毒殺を懸念して耐性はつけていたが、この新種の毒にはかなりやられてしまった。
幸いにも後遺症として頭髪の色がなくなってしまっただけで他は無事だった。

今ならまだ、間に合う。セフィロスも、母も。
殉死とされているが俺はセフィロスは暗殺されたんだと今でも思っている。
もしかしたら違う未来があるのでは?と思って、ドキドキして頭がくらくらしてきた。
そういえば、セフィロスの初恋は母だと聞いたことがある。
本人からではなく風の噂だから信憑性は低いけど、なにかと俺たち親子を気にかけてくれていたし、
もしかしたらもしかするかもしれない。

「かあさまを救うためになにか手立てはないだろうか…」

俺はその日からこっそりとありとあらゆる医療本や、藁にも縋る思いで呪いの本も読み漁った。
読み漁ってメモしまくった挙句———知恵熱を出してぶっ倒れた。
おこちゃまの体力を過信しすぎていたらしい。

ぶっ倒れた俺は、不思議な夢を見た。
初めて見る世界。なのに、俺はそれを知っている。懐かしくて涙が出てきた。
俺の知る世界にはない煌びやかな街並み、発達した医療や科学。

俺じゃないのに俺らしき人物がハマっていたゲーム。
俺は、そのゲームの攻略対象者の1人にどハマりしていた。最推しだ。
基本的に二次元にそこまで興味は無いはずなのに、その二次元でもある推しには恋にも似た思いを抱いていた。

「嘘だろ?そうぎょく?!」

叫んで目が覚めた。目が覚めても記憶は止まらない。
時おりぼやけている割には余計な情報———食べ物(どこそこのなにが美味しいだの)だとか、
ケモ耳万歳だとか、古いネット用語だとか———情報の波に奔流された俺の脳は容量オーバーになり、
また、ぶっ倒れた。

俺が再び目が覚めたのはそれから2日後だった。
目が覚めずうなされる俺を見て、さすがに慌てたブライト家は王都イチと名高い治療師を呼び、
治療を施してくれた…んだけど

「ん。よし!もう大丈夫ね。くぅちゃんのキラキラのお目目がぱっちり開いているわ」
「あぁ…本当に良かった。アカネ様、無理を聞いてくださって本当にありがとうございます」
「いいのよぉ。セイちゃんのためだもの!
おかげでこぉーんなにきゃわゆい子を診れたんですもの。
役得よぉ。あ!くぅちゃん、あんまり根を詰めちゃダメよ?
あなたの体はね、長年に渡る心労と毒の影響で、同じ年の子たちと比べて成長がゆっくりなの。
今のあなたに必要なのは安心できる環境で充分な療養よ!分かった?」
「は、はい」
「も~~~~♡声もきゃわゆい~~♡♡」

目の前でくねくねと身悶えているのは、猫耳・猫尻尾が生えたムッキムキのオッサンである。
それをにこにこと見守っているのはブライト公爵家の執事であるセバスチャンだ。
ちなみに、俺は目が覚めてからセバスチャンという名前を改めて認識して興奮した。
なんとなく、興奮しない?執事のセバスチャン。

「そうね…2,3日は安静にしてること。あと、薬湯はかかさず毎食後飲む事!」
「えぇぇぇっ!!!!」
「えぇぇ!じゃないのっ。美味しくなくてもちゃーんと飲むのよ?
愛情たっっっぷり込めた滋養あふれるアカネ特製の薬湯なんだからっ!」

セバスチャンについてくだらん事を考えて現実逃避していたら無理矢理現実に連れ戻された。
この薬湯、非常に非常にひっじょ~~~にクソまずい!ゲロまずい!!
うえぇぇ…ってなって涙目になる。子供舌だとなおさらだ。

「愛情はあれど良薬は口に苦し、よ!」
「はぁい…」
「んんんっ!意気消沈している姿もきゃわゆ…!はぁ♡」

な、なんかこの治療師大丈夫か?公爵家が呼ぶくらいだから腕は確かなのだろうと思うが、
ちょっと個性が強すぎる…。この世界は魔力・魔法というものが存在していて、
光属性が高いものが治療師になる傾向がある。基本的には治療師は協会に属し、
そこから各地へ派遣されて治療院で人々を診ている。

そんでそれにかかった治療費は患者は1~2割負担ですむ。
なかにはフリーの治療師がいて、彼らは協会に属していない為、自由診療が可能だ。
この場合価格帯はその治療師が決める。
前世で言う国民保険・社会保険みたいなもんか。
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