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1.いっしゅうめ

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「無様ですね、元第二王子孔雀。貴方は王族としての権力を勘違いしていた。
これまでも何度もチャンスはあったはずですが、甘言にしか耳を貸さなかったツケが回ってきたまで。
愚かな女に現を抜かし、入れ込んだ挙句、王族としての責務も学生としての責務も放棄した結果です」

冷徹な眼差しが俺を射抜いた。体が震える。首元に突きつけられた刃だけのせいではない。
これまでも憎悪をぶつけられた事は幾らでもあるが、この男の憎悪と憤怒、侮蔑が混じった
複雑な眼差しが俺を情けなくも心底震えあがらせた。

「う、うるさい…お、私は…私は…間違ってなんか…ヒナを愛していたから」
「ふん。その女はどうしました?貴方だけじゃなく貴方と同じく愚かな側近共も
咥え込んでいる淫乱と名高いじゃないですか」
「うるさ…い!!!ヒナは愛情深いんだ!!だから…だから…」
「死ぬ時までも己の行いを顧みれないですか…。本当に愚かですね。
だから、爵位を剝奪されて戦の最前線に放り込まれるんですよ。貴方の剣技などお遊びのようなものなのに」

男は、ほんの、ほんの少しだけ痛ましそうな目をしたが、すぐに元の冷たく刺すような目に戻ってしまった。
本当は分かっている。俺が愚かで間違った選択しかしてこなかった事を。
この男のいう事が正しい事も。だけどもう認める事が出来なかった。
それがクソの役にも立たない間違ったプライドであっても。

「レティシア様も気の毒に…こんな男の為に…。
先ほど無事に救出されましたが、貴方の所業のせいで無益な争いが起き、
流さなくても良い血が流れている事をしっかりと自覚しなさい」
「……」

レティシアに惚れているこの男は腸が煮えくり返っているだろうに、
騎士としての矜持でその怒りを押し込めているのが分かる。
あまりにも自分と———男としても人としても違いすぎて、こんな時なのに情けなくて笑いがもれ、
その拍子に血を吐いた。
さっきからヒューヒューと自分の呼吸音が煩い。血が流れ過ぎたのだろう。
どんどん意識が遠ざかっていくのが分かる。

「腑抜けになる前は…貴方ならと思っていたのに…」

最後に聞こえた言葉は、現か俺の願望が見せた幻聴か…その言葉が心に染みて、
今さらではあるが改めて心底後悔した。


———そして、なにも見えなくなり、聞こえなくなった。




ぴろん♪ 『シークレットルートが解放されました』



「うぅ…うっく…う?」

目を開けると、見慣れた天蓋が目に入った。

「??????」

さっきまで俺は、土煙舞う戦場にいて、地面に這いつくばっている所をあの男に見下ろされていたはず。
夢?なんて生々しい夢だ…心臓がバクバクしていて呼吸が荒いし、顔が涙でびしゃびしゃになっていて鬱陶しい。
顔を拭くために起き上がり、ベッドから下りようとして気づいた。

「足が…」

戦場で切り落とされたはずの両足がちゃんとある。
しかし、床まで余裕でついていた足が浮いている。しかもかなりの高さで。
嫌な汗が背中を伝い、慌ててベッドから飛び降りて全身が見れる大鏡の前に走り寄った。

「嘘だろ…」

鏡に写っていたのは、先ほどの夢の中の自分(18歳)ではなく、まだまだ幼いちんちくりんな己だった。
目の前の光景が信じられなくて、思わず顔をぺたりと触ると、鏡の中の自分も同じ事をした。それでも混乱が続いて思いっきり頬っぺたを抓ると、痛すぎて小さく叫んでしまった———うん。現実だね。
しかし、なぜ夢の中で頬を抓る行為が夢か否かの判断基準となったんだろうか。

「…………って、現実とうひしてる場合じゃねぇっつーの!」

思わず天を仰いで叫んだ。

「孔雀様…?!———失礼します!!!」

扉がバンと開いて部屋付近に待機していたらしき護衛達がワラワラと入ってきた。

「孔雀殿下…?如何されましたか?」
「あ…あぁ…すまん。ちょっと寝ぼけちゃって」

耳に入ってくる己の声が児童独特の高く甘い声で、やはりこれは夢ではないのだと悟る。

「殿下。まぁた寝ぼけたんだって?まったく、まだまだおしめの取れない赤ちゃんだなぁ。
おねしょしてねぇか?」
「!!!!!!!!」

そんな失礼な事を言いながら大柄な男が入ってきた。

「せふぃろす…」
「おいおいおいおい。どうしたんだよ。怖い夢でも見たか?」
「せふぃぃぃいい~~~!!!!」

大柄な男———騎士団長のセフィロスの腰に抱き着いてオイオイ泣いた。
後で散々揶揄されると分かっていたけれど、今はセフィロスを堪能したかったから。



「落ち着いたか?どうしたんだよ。こんなに泣くなんて久しぶりじゃねぇか」
「ん」

まだ鼻をずるずると啜っているけど、こくりと頷いた。
泣き止まない俺を抱き上げてウロウロと部屋の中を歩き回るセフィロスに、
部屋に残っていた部下が笑いをこらえているのが分かって、額に青筋が立っているけど俺を優先してくれる。
俺は、セフィロスの首に齧り付いてぎゅうぎゅうに抱き着いた。
セフィロスの匂いだ!セフィロスの体温!セフィロスの声…また涙がじわりと湧いて慌てて堪える。

「怖い夢みたのか?」
「うん…」
「ははは!そうか。まぁ、今日は色々あったからなぁ…一緒に寝てやりゃ良かったな」
「うぅん。大丈夫。さわがせてごめんなさい」
「ガキが変な気を使うんじゃない。気にすんな。ほら、寝るぞ」
「うん!」

頭をぐりぐり力強く撫でられて首がぐらぐらして視界が揺れる。あぁ…セフィロスだ。
セフィロスの懐に抱き込まれて、暑くて息苦しいけど嬉しくてくふくふ笑ってしまい、
セフィロスに怒られた。だけど、嬉しくてうれしくて幸せが込み上げてどうにもこうにもままならない。
なかなか寝付けなかったけど、2人の体温が馴染んでとろりとした眠気に引きずり込まれた。

もし、もしもこれが実は夢だったとして、今際の際に見せられた幻だったとしても、
もう一度セフィロスに会えたから思い残す事はないなと思えた。
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