樹くんの甘い受難の日々

生梅

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第二章

91.もっ君の顔

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慣れてる?!
ちょっと気だるげな雰囲気で物怖じせず青野に対峙しているその雰囲気が、段々と手たれなそれに見えてきた。この雰囲気……只者じゃねぇ。。

「もっ君……チミはどんな修羅場を経験してきたんだ」
「ぶふっ!もっ君?!もっ君ってなに?!こいつのあだ名?!」
「小鳥遊先輩に付けられたんすよ……」
「ぐははははは!!マジかよ。柴ぁ!お前のセンスどうなってんの?昭和?
てかお前、それでいいの?」
「よくねぇっすよ!キラキラネームも嫌だったけど、これもまた微妙…」
「はぁ?!そこまで言う事ねぇだろ?————そんな悪い?」
「う…あ、いや…ま、まぁ、ちょーっと個性的か、なぁ?…なぁ?!」
「そ、そっすね。てか、最初もっとひでぇ名前で呼びそうになってましたよね?」

じとりとした目で見られてヤバいと冷や汗が出る。

「うへぇ?!」
「マジか。どんな名前?」
「ボサ……」
「わぁぁーーー!ごめんてぇ!!!!ていうか、聞こえてた?!聞こえてたのか?!」
「俺、耳いいんで」
「ボサ…?うはははははは!!!見たまま?ひでぇな、それもう悪口じゃねぇか。しかもそれ途中だろ。本当はなんて呼んでたんだ?ん?」
「……ボサお」
「「「「ぶふぅ!!」」」」

いつの間にかこちらの話を聞いていた大我たちも噴き出した。他の面々は笑っているけど、大我だけは笑いを堪えて震えているのが分かる。
そんなに悪い?いや、悪口だよな…すまんな、ボサおよ。でも心の中だけで呼んでいたから許してくれ。言われた本人も一緒になって笑ってるから怒ってないのかな。
ボサおいい奴だな…。

「はーっ、おもろ。ボサおねぇ…言い得て妙だな。てかお前、ちゃんとしたら美形だろ?」

青野がそう言いながらボサおのボサである前髪をちょいと脇にずらすと、その顔(かんばせ)が露わになって俺らは息を飲んだ。それをやった青野本人すらも息を飲んだのが分かる。

「う…お、まさかここまでとは思わなかったぜ」
「木蓮ってば…こんなに美人さんだったんだねぇ。どうして隠してるの?勿体ないよ?」
「うん…この顔を隠すのは勿体ない。目も悪くなんぜ?」
「いいんすよ!俺は!これで!!」

ボサおはシュババ!と慌てて髪の毛を元に戻してボサボサにした。

「まぁ、お前の好きにすりゃいいけどよ。ボサお…ボサ…なんか、まりもみてぇだな。まりもって呼ぶか!その方が可愛くね?語呂の感覚のみだけどよ」

青野がそう言うと、ボサおが鋭く息を飲んだ音が聞こえた。

「そ、それはやめて下さい…す」
「ど、どした?もっ君、顔色悪いよ?」
「いえ、別に……俺、トイレ行ってくる…す」
「あ!待って!僕も一緒に行くよ!」

足早にその場を去ったボサおを、チヨちゃんが慌てて追いかけていった。

「なんか知らんけど、地雷だったみたいだなぁ」
「おう…なんか、悪ぃことしたな。ボサおよりいいと思ったんだけどよ」
「お前もお前で微妙なネーミングセンスなんじゃね?ケケケ!」

さっきバカにされたから意趣返しもあって、ボサおには悪いけどちょっとだけ愉快な気持ちになって笑うと頬っぺたを抓られてギリギリされた……すぐに大我が剝がしてくれたけど。暴力はんたーい!

「いはい…ひろい…」
「躾は飼い主の義務だからな」
「誰が飼い主や、誰が!!!そして俺は犬じゃぇ!」
「あー、これこれ!この無意味なラリーがたまんねぇのよ」
「もういいや、こいつめんどくさ!大我行こうぜー」
「樹、頬っぺたが赤くなってる…大丈夫か?」
「うん」
「おーおーおー、目の前でいちゃつくなや」

心配そうな顔した大我が俺の頬っぺたを優しくさすさすしてくれる。仲間はずれにされた青野が吠えてるけど、無視だむし……ハッ!

「青野…アホ野…お前はたった今からアホ野じゃ!ばか!」
「アホなのかバカなのかハッキリしろ!この駄犬!そんで、高校生にもなって閃いた!ってキラキラした目で言うな!バカ可愛いだろうが!なぁ、志々尾!」
「う…そ、そうだな。樹は…バカ可愛いな」
「大我までっっっ!!!!———ハッ!悪寒っっ!!!!」



「ひーーーーーーーめーーーーーーーー♡」

悪寒を感じた途端に、後ろからドン!と衝撃がきて抱きつかれた。

「どふぅ!げほっ。て、てめぇ…半径100メートル以内に入るな!変態っ!!!」
「あぁぁ~♡姫ぇぇえ♡久しぶりだね?相変わらず可愛いね♡ん~~…姫の匂いだ…久々すぎて勃つわ」
「ぎゃわーーーーーーー!!!!!!マジで勃ってる!!!押し付けるな!バカ!!!」
「やだーーーー…ぐえぇ」
「「樹(チビ)から離れろ」」
「うわぉ!番犬が増えてるっっ!!!———青野って、そんなんだったっけ?」
「ひぃぃ…た、助かった…ありがと、大我」
「牧、お前なんでここにいる」
「えぇ~?だって、俺は聖上の学生だよ?そりゃいるでしょう」
「お前はここに用がある課じゃないだろうが。それに———学祭が終わるまではお前は立ち入り禁止区画のはずだ。」

えぇぇ!?そんな事になってるの?

「だぁぁぁってぇぇぇ!姫が聖上に来てるんだよ??愛しい姫に会いたいじゃん!」
「俺は会いたくねぇけどな」
「そんなぁ!」
「ほら、そう言ってんだからよ、さっさと行けよ」
「青野まで冷たいっっ!!!!」

俺とアホ野でシッシ、と手で払う仕草をするとオーバーリアクションでウソ泣きしながら崩れ落ちた。こいつって、いちいち劇場型だよな。

「姫に会いたくて来たってのもあるけど、情報提供もあって来たんだよ。うちのさぁ、主がねぇ、ちょーっとよからぬ動きしてるんだよね。俺は俺でやれる事をやるけどさ、姫の旦那たちと獅子尾にも気を付けてもらおうと思ってね」
「宝生が?分かった、情報提供感謝する。樹は俺らが守る」
「あの姫さんも懲りねぇな。俺も加勢するぜ、あいつは前からやり方が気に入らねぇんだよな。———牧、てめぇなんであいつについてんだよ」
「ん~…まぁ、うちも色々あんだよねぇ。そう簡単には切れないって事だよ」
「ハッ、腰抜けが!」
「青野君は青いねぇ~……青野だけにっ♪」
「やんぞコラ」
「あ~怖いこわいっ!」
「牧~…それはないわ。マジないわ。寒いわそれ。変態なうえに寒いとかないわ~」
「姫ボロクソ言うね?!」
「「「あ……」」」
「あ?————あだだだだだだ!!」
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