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第二章
88.樹と筋トレ
しおりを挟む「俺、体鍛えるわ」
「「「……は?」」」
握りこぶしを天に高らかに突き出し、キリッとした顔で樹ちゃんが宣言した。
「また、突拍子もない思い付きを…」と、俺ら全員が思ったがみな懸命にも口をつぐんだ。樹ちゃんはいつだってマジだからな。
「た、樹?どしたの急に」
「俺さ、こないだ牧の時になんっっっにも出来なくてさ、同じ男として情けなくて———だから、俺、体鍛えるわ。ムッキムキになるわ!ムッキムキになって二度とあんな事にならないように自分で自分を守れるようになるわ!なんならお前ら全員姫だっこしてやる!」
「お、おう…?」
「やる気に満ち満ちている樹も可愛くってたまらないけど……あんまり無理しないでね」
「樹ちゃんが俺らを姫だっこかぁ~…一緒に筋トレやろうか?」
「え!マジ?!俺、筋トレのやり方とか全然知らないから教えて欲しい!」
「そっかそっか、うん。いいよ。一緒にトレーニングしよっか♪」
「志木……」
「お前……」
「「目がトレーニングだけじゃないのを物語ってる!!」」
篠田たちが俺の邪な考えを正確に読み取って騒いでるけど、当の樹ちゃんは全然聞こえてないみたいで、スマホを俺に見せながら「こんな体になりたいんだ!」と興奮気味に教えてくれる。興奮してちょっと小鼻が膨らんでいるのがポイント。ほんと、バカわいい。たまんないよねー、うちの愛しい人は。
そして、奴らの予想通り、筋トレしつついちゃいちゃして(よくあるネタの腹筋しながらキスするやつとかな)筋肉チェックと称して体中を触りまくって、途中からわざと性感を引き出すような触り方をして、それに煽られた樹ちゃんが「なんで?どうして??」って動揺しつつも、どんどんトロンとしてきた所をガッツリいただいた。
結局、美味しく頂かれた後に「志木のバカ野郎」とぷりぷりしつつも、怒ってるんだぞアピールをして甘えてくる樹ちゃんがバカ可愛すぎてデロンデロンに甘やかした。
甘やかしついでに樹ちゃんのお尻を舐めたらゴングが鳴って、そのまま2回戦に突入して、さらにじっくり愛し合ったら気絶してしまった。
そのままうちにお泊り決定。うーん……控えめにいっても最高。
俺の腕の中ですよすよと気持ちよさそうに眠る愛しい人を見ていると、突然、愛しいという感情と幸せだという多幸感が溢れてきてこっそり泣いてしまった。
俺に、こんな感情を教えてくれた樹ちゃんが本当に大切で仕方がない。
これまでも付き合った彼女は全力で愛してきたつもりだし、大切にしてきた。
俺は、甘やかしと大切のバランスが下手くそで、気づいたら相手が助長して我儘になってしまった。その我儘をしっかりと「ダメだ」と言えたなら良かったんだろうが、その辺りも下手くそで———いや、言っているつもりだったんだが「つもり」でしかなかったんだと今なら分かる。
破局の理由に一方的にどちらかだけが悪いという事はなく、お互いが絶妙に影響しあった結果でしかないんだと知った。
だからこそ、彼女たちには感謝しかない。
今の俺があるのは彼女たちのおかげでもあるのだから。
樹ちゃんと付き合って、その事に気づいたのも樹ちゃんが男であるってのは大きい。やっぱり、相手が同性だと気が楽な部分がある。気を遣う場面とかな。
男だから分かり合える部分とかあって、それで気が楽で居心地が良い。気が付いたら俺が樹ちゃんに精神的にすげぇ甘えているって事もよくある。
そうか、お互いに甘えて支えあうってこういう事なんだって頭だけじゃなくて心でも理解できた。
それに俺らはかなり特殊な関係性だ。なんせ自分の恋人に公認の恋人がいるんだぜ?普通なら耐えられないよな。ぶっちゃけ、字面だけで見ると頭おかしいよなって思うもん。
だけど、他の2人のおかげで客観的に己を見る事が出来るっていうか、俺の暴走を止められるのもあいつらの存在っていうか……俺ら4人で絶妙なバランスを取っているよなって最近思う。
「同志で、ライバルで、もしかしたら、いや、絶対に将来家族になる奴らなんだよなぁ」
あいつらの存在がかなり良い刺激になっていて、自分の夢とかやりたい事、そして樹ちゃんを離さないために日々努力する事がすげぇ楽しい。
勉強だって、より力が入るようになった。知識は身を助く、そう理解するとより一層楽しくなる。
「将来的には海外に住むのもありだよなぁ。樹ちゃんには今から語学をしっかりと勉強してもらうかな」
うにゅー、と変な寝息?寝言?が聞こえて思わず笑ってしまう。
寝返りをしたあとベスポジが見つからないのか、もぞもぞと動いてコロコロした挙句、俺の首元にもぐり込み、スンスンと匂いを嗅いで「むふー」と満足げなため息が聞こえてきて悶えた。ベスポジはここで良いらしい。———あぁ!樹ちゃん!その可愛い額をすりすりと擦りけないで!ただでさえ声を出さないように我慢してるのに、愛しさが爆発して叫びそうだから!!!
「ちき、しゅき……」
やめてぇぇえええ!舌足らずで言うのも、寝言いうのもたまらないから!え?なに?樹ちゃんの夢の中に俺出演させてもらってるの?
夢の中でも一緒にいるの?マジ?嬉しいんだけど。
「俺も好きだよ————」
たまらず、ぎゅうと腕の中に閉じ込めて頬を頭に擦りつけた。樹ちゃんのほんのりと甘い汗と頭皮の匂いがして、幸せを噛み締めながら目を閉じ惰眠を貪る事にした。
ふわふわとした幸せな微睡の中、ふふ、と微かに樹ちゃんの笑った声が聞こえたような気がした。
翌日、ほんのりと気だるげな色気を醸し出しつつも艶々お肌の樹ちゃんと、自覚はないまでも同じく艶っとした俺を見て「やっぱり!!!」と、篠田と暁に詰め寄られた樹ちゃんが一部始終をゲロッてしまい、次回からは持ち回りで樹ちゃんの筋トレコーチをする事になってしまった。
樹ちゃんを堂々と独占できる幸せな時間が減ってしまったのは残念だが、まぁ、2人の悔しい気持ちも分かるから黙って首肯せざるを得なかった。
———その後、ほんの少しのスパルタと、甘い筋トレ時間を経た事で、更に魅力的な体になってしまった樹ちゃんを俺ら3人が貪り喰う事になる未来はもう少し後———
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