樹くんの甘い受難の日々

生梅

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第二章

78.ありがとう。大好き。

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朱雀が説明してくれた内容によると、実は雅樹と朱雀がイチャイチャしてるように見えたのは作戦で、誰に対してかというと雅樹に纏わりついていた宝生に対してだった。
宝生は顔合わせの時に雅樹に一目惚れをしていたのだそうだ。
それだけなら問題はないんだけど、この宝生、見た目に反してかなり強かで欲しいものを手に入れる為なら手段を選ばないかなりゲスい奴らしい。

これまでにも惚れた男を手に入れる為にかなりあくどい手段を使ってきていたそうで、その中でも一番質が悪いのが手に入れたい男に恋人や思い人がいた場合、自分の親衛隊に対象者を強姦させるというもの。

かつ、宝生家がかなりの有力者ということ、鉄砲玉の役割で実行犯が黒幕を明かさずに名乗り出て処分を受けるためなかなか宝生まで辿り着かない。
学園の部外者である樹が狙われた場合、学園外では守り切るには範囲が広すぎて、今回は朱雀が囮となる事でけん制していたとの事だった。

朱雀は生徒会会長だし、親衛隊もかなり規模が大きいし、何よりも番犬役の大我がいたからそう簡単に手を出すことが出来ない。
早い段階で雅樹に相談して、勝や志木も巻き込んで秘密裏に動いていたらしい。

「え…じゃあ、今回の…」
「それがねぇ…宝生じゃなかったんだ」
「は?」
「佐久間って野郎だったんだよ。勝に入れ上げてる奴だ。佐久間の親衛隊が牧たちだ」
「あぁ…じゃあ、佐久間が姫」
「そう。佐久間のお願いで、樹を襲った。志木に惚れている北河も一枚かんでるらしいがな」
「あ、あぁー…なるほどな。だから、椎名は“2人”って言ったんだ」

あの時、椎名は「イケメン2人咥え込んで」と言っていた。俺の恋人は3人だから、なんの話をしてるんだと思ったんだ。

「でも、よく倉庫が分かったね」
「あれは———謎のタレコミが入ったからだ」
「タレコミ?」

俺が拉致されている間、真っ先に気づくであろう3人は学園から遠ざけられていた。上手いこと誘導されて隣駅まで買い出し等で出かけていた。
勝や志木も俺に構い過ぎて佐久間たちを刺激しないように、ある程度はお願いを聞いてあげていたから、今日も「おねだり」だと分かっていて学園の外に連れ出されていた。

「俺が気づくのが遅れてしまったから…」

大我が落ち込んだ声で言った。
俺が会場から離れていたのは休憩だと思い込んでいたらしい。20分くらいしていつもの中庭に迎えに行ったら俺がいないから、あちこち探し回っているとステアドでメールが届いて、内容は俺が拉致られて学園の東側に閉じ込められていると書かれていた。
東側といってもかなり広大なため、風紀委員と手分けして探したらしい。

探しながら雅樹たちにも連絡を取って、急いで引き返してくるように要請した。雅樹が俺に電話をかけた時、ちょうど倉庫付近に大我がいた。
こんな所で着信音がするのはおかしいからと俺がいた倉庫が怪しいと思って近づいて中の様子を伺うとまた着信音が鳴り、中を確認するために扉を開けようとすると中に慌てたような人の気配がしたため俺の名前を呼んだと。
あの時、反射的に力いっぱい叫んで良かったと心底思った。

「篠田に連絡を取った時、樹の着信音はダー〇ベイダーのテーマだと言われたからな。あれが決め手だった。樹の声が聞こえなくても踏み込むつもりでいた」
「よく鍵もってたね?」
「あぁ。俺は風紀委員長だからな」
「ぶはっ!それっぽすぎてウケる!!」
「うちの学園てさ、嘆かわしい事にレイプ事案がそこそこあるから、生徒会と風紀委員は各所のマスターキーを所持してるんだ」

大まかに分けて鍵はマスターキーで開けられるように統一してるらしい。そらそうだよな。全て持ち歩いたら鞄が必要になる。

「今回、僕らが学園の外に出ていたのは宝生のおねだりだけど本当に偶然だったんだ。最悪な事が重なって起きてしまった。本当にごめんなさい」
「いいよ。朱雀たちも色々動いてくれていたし、何よりも未遂ではあるし」

朱雀が深々と頭を下げて謝罪してくれたけど、これは朱雀たちが悪いわけではなくて、指示した人間と実行犯が一番悪いのだから、これ以上はもういいよと思う。

「ただもう、こんな事が二度と起きないように俺も自衛するし、しっかり処罰してくれ」
「もちろんだよ!」
「みぃ、調書とか必要なのは分かるんだけど、ちょっと樹と2人きりにしてもらっていい?」
「あ。そうだね。樹くんの為にもその方がいいね。大我、出ていよう」
「あぁ……」

俺を支えてくれていた大我の体温が離れていく。ちょっとだけ、寂しいと思った。

「大我、色々ありがとうな」
「いい。じゃあ、俺らは出ているから…」

2人が部屋を出ていって、部屋に沈黙がおりた。雅樹はその場から動かずに立ち尽くしている。

「雅樹?」

じれた俺が雅樹を呼ぶと、駆け寄ってきた雅樹がベッドに乗り上げた。けど、勢いよくきたのに俺に触れようとした腕が迷うように宙を彷徨った。

「雅樹、抱きしめて」

俺は、雅樹の胸にぶつかるようにして飛び込んだ。

「樹…樹…!」

ぎゅうと苦しくなるほど抱きしめられて、その抱擁からごめんという気持ちが流れてきた気がした。

「雅樹、ごめんな。俺さ、勘違いして雅樹にひどい態度取ってた」
「いい。俺こそごめん。樹が俺を見る目で苦しんでるの分かってたのに…」
「本当は俺にも伝えるつもりだったんだろ?だけど俺が避けるから、言えずにいたんだろ?」
「……」

沈黙で、正解だと悟った。

「雅樹、ありがとう。今回は勘違いから起きた嫉妬だったけどさ、離れて気づいたんだよ。お前らの愛って当たり前じゃなくって奇跡でありがたい事なんだって。
甘やかされててさ、そこ見落としてたよ。奢ってた。いつもありがとう。俺を好きになってくれて、恋人になってくれてありがとう。好きだ。大好きだよ。
俺、雅樹たちがいない人生なんて耐えられないよ……」
「樹……」

さらにぎゅうと強く抱きしめられて息がぐふっとなったけど、でもすごく嬉しい苦しさだったからそのまま感じ続けた。あぁ…俺の大好きな恋人が戻ってきた。
勘違いだったけど、それでもそう思った。
雅樹の香水を胸いっぱいに吸い込む。

「樹…好きだよ。大好きだ。愛してる」
「うん。俺も…」

泣き笑いをした雅樹が優しくキスをしてくれた。唇から、雅樹の好きだという気持ちが流れてきたような気がして、すげぇ満たされた。



☆後書き☆
王道学園やってみたかった。
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