樹くんの甘い受難の日々

生梅

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第二章

69.聖上学院高校へ

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「マサくーん!!」

久しぶり~!って言いながらキラキラしたエフェクトがかかったような美少女が笑顔で雅樹に抱きついた。

「みぃ久しぶり。元気だった?」
「うん!時間が合わないとお隣さん同士でも全然会わないねぇ」
「そうだな」

雅樹がその子の頭をすっごい優しい目でヨシヨシと撫でながら答えている。

「お、おいなんだこの絵面…眩しい!眩しいぞ!」
「え?可愛い女子が混ざってる??」
「いや、違うだろ…違うよな?」

俺も含めたギャラリー全員が目が潰れたような表情で遠巻きに話している間も2人はキラキラエフェクトを飛ばしながら笑顔で話している。

180センチの長身の王子然としたイケメンと、おそらく160センチ前半の美少女と見まごう聖上の制服を着て雅樹の腰に抱き着いたまま話している男子が並んでいるとどう見ても美男美女のカップルだ。制服を着ていなかったら、ここが聖上との打合せ会場じゃなかったら誰もが女子だと思っただろう。
男のはずなのになんだか間違っているような気にさせられる説得力がパない2人である。

「みぃ、お前よくも俺を面倒ごとに巻き込んでくれたな?」
「だってぇ!せっかくなら一緒にやりたいと思ったんだもん。マサ君に会いたかったし!…マサ君は僕に会いたくなかった?」
「そんな事ないよ。俺も会いたかったよ」

みぃと呼ばれたその子はうふふと花がほころぶような、可憐でありながら咲き誇るような眩しい笑顔で笑った。その場にいたほとんどは目が潰れるかと思ったと後に語ったほどだ。

「あー…篠田。紹介してくれるか?」

ほっとけばずっと2人の世界が続きそうな雅樹たちにしびれを切らした実行委員の1人である鈴木が皆を代表して割って入った。

「あぁ、すまん。こちらは、聖上の実行委員長サマ兼、俺の幼馴染の朱雀美鈴だよ」
「幼馴染ぃ?!」

俺らを除くその場にいた全員が素っ頓狂な声でハモった。もちろん、聖上側の生徒も。

「自己紹介が遅れてごめんなさい。僕が聖上学院高校の実行委員長を務めます、朱雀美鈴と申します。ご存じのとおりうちは学園祭といっても身内だけを対象にしてきたので、色々と不慣れな面もあってご迷惑をおかけする事もあるかと思いますが、今回の合同学園祭を成功させて次へ繋げるためにも精一杯、頑張りますのでよろしくお願いします!
あ。マサ…篠田雅樹くんとは幼馴染です」

キリっと代表らしく挨拶をした後、チラッと雅樹を見上げてエヘヘと頬を染めながら可憐に笑った。男だと分かっているのにちょっとドキドキした。
ドキドキしたのは俺だけじゃない。他の奴らもそうだし、何なら聖上の中にも同じような反応をしている奴らもいた。

「そ、そうか。なら、委員長同士の結束力や情報交換はバッチリだな!」
「そうだね。それは任せてよ」
「はい!お任せください!」

トン、と自分の胸を叩いて笑顔で答える朱雀はとにかく可愛かった。雅樹が可愛がっている感じだとか、笑顔だとか物怖じしない所とか、頭も性格も良さそうだなと思った。

その後は両校の委員全員の自己紹介と役割分担などを決めて、その日は懇親を兼ねて軽く飲食をしながら雑談に移行する事になった。
俺ら4人と朱雀、朱雀の補佐を務める獅子尾 大我ししお たいがの6人がテーブルについた。獅子尾は飲み物をついだり、お菓子を取ったり、ゴミをまとめたりと朱雀の世話を甲斐甲斐しくやっている。

「全然会わなくなったし、見かけてもマサ君いっつも違う女の子連れてたりして話しかけられなかったからさ、せっかくの機会だし思い出作りしたいなぁって思って巻き込んじゃった。ごめんね?」
「面倒ってのが本音だけど、確かに思い出作りにはなるな。やるからには成功させたいから頑張ろう」
「うん!…いっつもありがと。マサ君大好き!」
「はいはい。俺も好きだよ」
「お、おい。俺らお邪魔じゃね?」
「う、うん…俺もそう思う」
「同感」
「……」

相変わらず2人の世界にいて朱雀と隣同士に並んだ雅樹が朱雀の頭をポンポンと撫でて、俺ら3人はなんだか居心地が悪くてそわそわしてしまう。獅子尾は無表情で何を考えているのか全く分からん。

「あ、あの、獅子尾…君は何かスポーツやってるの?」
「武道を、少々」
「そ、そうなんだ。体格がガッシリしてるし背も高いし、男らしくて羨ましいよ。武道って何やってるの?」
「合気道を」
「へぇ!カッコいいな!合気道って、アレだろ?相手の力を利用して、てやっ!て投げたりするやつ。静かで無駄のない動きで的確に!って印象がある。そうかぁ。姿勢とか所作も綺麗なのはそれでなのかな?」
「…ありがとう」
「あ。ちょっと笑った!獅子尾って笑うと渋くてカッコいいな!」
「……」
「ご、ごめん。不快だったか?」
「いや…そんな事は…」
「あはは!大我は照れ屋さんなんだ!でも、この顔は喜んでるよ!」
「お、おい。美鈴…」
「えー。いいじゃないか。本当だもん」
「……」

そうか。照れてたのか。不快に思われたんじゃなくてホッとしたと同時に獅子尾に対して好感を持った。図体デカくて笑うと渋くて照れ屋とかなにそれ。強そうだし、可愛いの極みじゃん。

「そうか!不快じゃなくて良かったよ。俺も委員長補佐だから獅子尾と仲良くやれたら嬉しい。改めてよろしくな!」
「…あぁ。こちらこそよろしく」

獅子尾はそう答えてほんのり笑った。渋いけど、照れ屋という情報がくっ付いたせいで可愛く見えてくるから不思議だ。ちょっとだけキュンとしたぞ!

「僕も!僕も改めてよろしくね!」

朱雀がにっこり笑って言ってくれて、ちょっとドキドキしながらも嬉しくて頷いた。
そのまましばらく歓談が続いて、本日は解散という事になった。
委員会のグループラインを作って迅速に連絡が取れ、かつ気軽にやり取りが出来るようにと委員長2人が提案し、俺らも否はなく快諾した。
雅樹たちは家がお隣さん同士だからと一緒に帰る事になり、俺らはそこで別れた。
ふと振り向くと、雅樹の腕に朱雀が抱きつくようにして歩く後ろ姿があった。

「…あいつら、仲良すぎねぇ?」
「雅樹はあぁ見えてパーソナルスペースはしっかり線引きするタイプだけど、朱雀にはそれがゼロ距離だな。なんか意外だった」

自分でもよく分からない気持ちを持て余しつつ、勝と志木がそんな事を話すのを聞くともなしに聞きながら歩いた。
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