樹くんの甘い受難の日々

生梅

文字の大きさ
上 下
59 / 103
第一章

57.覚悟を決めた樹、スマホを前にして正座する

しおりを挟む
「な、なぁ…なんか言えよ。それともやっぱり嫌?」

あまりにも2人が無言で俺を見るから不安になって聞くと、2人は金縛りが消えたようにハッとなった顔をしたと思ったら、ガバリと抱き着かれた。

「樹ぃぃぃぃいい!!嬉しい!嬉しい!!ありがとう!大切にするっ。
好き!好きだよ!愛してるっ!!」
「はぁぁぁぁ~…良かった。本当に良かった。最近のお前見てると、もしかしたら振られるんじゃねーかと怖かった。樹、愛してる。ずっと側にいてくれ」
「あ、愛してるってやっぱり照れるな。嬉しい。俺の我がままを聞いてくれてありがとう。でも、本当にいいのか?志木も??」
「それは——本当はマジで嫌だけど、樹と恋人同士になれるなら仕方ない。
お前見てるとあいつも樹を支えてるのが分かるし、大切にするだろうしな。
もし、もしもあいつが樹を大切にしないなら即、別れさせるぜ?
それだけは了承してくれっか?」
「はぁー…俺も勝と同じ意見だよ。嫌だけど、悪い奴じゃないしね。
樹と恋人になれるならいいよ。些末な事だし」
「ありがとう!雅樹、勝……す、す、好きだよ。あ、愛して…る」

ぐはぁぁぁ!やっぱり、照れるっ!

「樹、これからもよろしくね」
「俺も、よろしくな」
「うん。不束者ですが、これからもよろしく」
「ふふっ。不束者って。結婚するみたい。まぁ、するけど」
「あぁ。社会人になったらどちらかと養子縁組でも組むか」
「ひぃ」

今からそんな話なんて気が早すぎだろ。嬉しいけど重い…。嬉しいけど。
改めて考えても、なんでこいつらが俺に執着してるのか分からない。
とはいえ、俺自身もなんでこいつらに惚れてるのか分からない。
こいつらなら、多少不自由を感じてもいいかなと思える。

絶対的な信頼があるからだろうか。謎だ。だけど、恋愛なんてそんなもんなのかもしれない。
俺は過去に彼女が何人かいたけど、その時に相手に感じていた感情と、
こいつらへの感情は明らかに違った。
なんていうか、こいつらに対する感情は元カノ達とは違ってもっと生々しくて
ドロドロして、でも安心できてこいつらがいればほとんどの事は大丈夫っていう
根拠のない自信が出てくる。

「恋愛って、よー分からんなぁ」
「え?なに?もう迷子?!」

焦った顔した雅樹が詰め寄ってきた。

「違う。なんでお前らの事がこんなに好きなんだろうなって思ったんだよ」
「「たっ…樹…」」

2人は真っ赤になった顔を手で隠してしゃがみ込んだ。

「樹ってさ、時々恐ろしく小悪魔だよね」
「それな。たまに心臓が破裂しそうになる」
「分かる」
「なんだそりゃ。変な奴らだな」

こいつらは時々、分けわからん事をいう。俺が小悪魔なわけねーだろ。

「無自覚って怖いよねー」
「それな」

まだぶつぶつと話してるけど、もう無視した。



◇◇◇◇◇◇

「後は志木か…」

スマホを前にして正座をする。
覚悟を決めたとはいえ、やっぱり緊張する。

-志木、話したいことがあるから近々時間作ってくれねぇ?

あとは、送信を押すだけなのに、親指が宙に浮いたまま静止した。
スーハー深呼吸して、送信を押せたのは更に10分後だった。
俺のヘタレェ……

即既読がついて、そのあとすぐに電話がかかってきた。

『樹ちゃん?!』
「お、おう。送った件だけどよ、話したい事があるから近々時間欲しくて」
『あ、あぁ。分かった…』

志木の声がものすごく固い。なんか、段々と不安になってきてドキドキしてきた。

「わ、悪かったな、急にさ…」
『いや、いい。樹ちゃんからの要件ならなんでもいいよ』
「ありがとう…志木、えぇと、いつ頃なら空いてる?」
『いつでもいいよ。なんなら今すぐでもいい』
「えっ?!もう8時だし遅いからい——」
『会いたい』
「え…」
『会いたいんだ、樹ちゃん』

不安で鳴っていた心臓が、違う意味を持って更にドキドキし始める。

『急で申し訳ないけど、樹ちゃんさえ良ければ、今日会いたい』
「お、俺も。じゃ、じゃあどこに行けばいい?」
『俺がそっち行く。嫌じゃなければ家か、近くを指定してもらえれば。
ちょうど兄貴が帰ってきてるから送ってもらうわ』
「いいのか?」
『気にするな』
「分かった。ありがとう。待ってる…」

落ち着かなくてソワソワ部屋中を歩いたり、座ったり、スマホみたりして時間を潰した。
志木にすごく会いたい反面、緊張して喉がカラカラだ。
俺の浅ましい願望を聞いても嫌わないだろうか。それだけが気になる。


ぶおぉぉん


どのくらい時間が経ったのだろう。外でマフラーが大きくなってハッとして、
慌てて窓から下を覗くと、志木が車から降りる所だった。
ふと志木が上を向いて俺と目が合って、蕩けるような笑顔をしてくれて心臓が痛いくらいに高鳴る。俺、やっぱり志木がすげぇ好きだ。志木ともっともっと一緒にいたい。
階段を駆け下りて急いで玄関を開けると、まさに呼び鈴を鳴らそうとしていた志木がいて
ビックリした顔で俺を見た。

「志木!来てくれてありがとう」
「俺が樹ちゃんに会いたかったからいいよ。気にするな」

照れて顔が真っ赤になったのが分かった。それを見た志木がまた蕩けるような笑顔をするから益々赤くなる一方だ。イケメンの笑顔の破壊力恐るべし。

「お兄ちゃーん。お客さん?」
「こんばんは。ごめんね、夜分遅くに。先日ちょっと顔を合わせたよね?」
「あ!あの時のっ!!!!こっ!こんばんはっ」

突然のイケメンの訪問にゆりの顔が真っ赤になった。
それにしても、志木ってばめっちゃイイ笑顔じゃん。ちょっと妬ける。

「志木、部屋行こうぜ」

志木の指をくぃっと引っ張って俺に注意を引く。

「お、お兄ちゃんお茶持ってく?」
「いいよ。お構いなくー」

志木が勝手に断ってくれて、少しだけ機嫌が上向くのが自分でも分かって呆れる。
俺ってどんだけ嫉妬深いんだよ。3股してるくせに!脳内で悪魔の俺を張り扇でしばく。
ぐいぐい引っ張って部屋に連れ込んだ。
部屋に入った途端、志木に抱きすくめられる。

「———会いたかった」
「俺も」

志木を思いっきり抱きしめて胸板に頭をぐりぐり押し付けた後に、胸いっぱいに志木の匂いを吸い込む。落ち着くけどドキドキして矛盾する感情を喜びをもって噛みしめる。
息を吸い込んで、勢いをつけて声に出す。

「志木に大事な話があるんだ」
「なに?」

また、志木の声が強張った。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

学園の支配者

白鳩 唯斗
BL
主人公の性格に難ありです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

弟の可愛さに気づくまで

Sara
BL
弟に夜這いされて戸惑いながらも何だかんだ受け入れていくお兄ちゃん❤︎が描きたくて…

処理中です...