樹くんの甘い受難の日々

生梅

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第一章

54.さゆりちゃんと魔性の男……?

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「小鳥遊先輩、ちょっと良いですか?」

そう呼び止められて振り向くと、さゆりちゃんが立っていた。相変わらず美少女だ。むちゃくちゃ可愛い。
前にちらっとだけ彼女のおっぱいを見たから知ってるけど、華奢な体躯になかなか豊満なものをお持ちだった。けしからん。

「な、なに?雅樹なら…」
「いえ。小鳥遊先輩に用があるんです」

こうして俺は美少女に校舎わきに呼び出された。
何も知らなければ浮かれてただろうけど、雅樹狙いであると分かっている今は俺にとって全然嬉しい展開じゃない事だけは分かる。

「あの。単刀直入に言いますけど、雅樹先輩から手を引いてくれません?」
「は?」
「出来れば友達もやめて欲しいところですけど、それはさすがに難しいと思います。なので、今の爛れた関係から手を引いて欲しいんです」

何が爛れてるのか言わなくても分かるよね?という顔で首をコテンと傾げられた。

「えぇーーと…」
「いいんです。誤魔化さなくても。私、見ちゃったんですよ。先輩たちがエッチしてるの」
「ひぇ!」

いつ?いつだ?どこでだ???
冷や汗がダラダラと流れる。顔は真っ青だろう。

「前に、雅樹先輩を探してた時に…サボり部屋で。。」

あぁ。あそこか。
あそこでセックスは何度もしている。いつの日なのかは思い当たる節がありすぎて分からん。なんなら昨日もした。

「正直いうと、めちゃくちゃ気持ち悪いです。ドン引きしてます。男が男に突っ込まれてよがってるとかキモイです」
「うっ」

ごりりと精神力が削られる。

「雅樹先輩が何を考えて小鳥遊先輩とエッチしてるのかはさっっっっぱり分かりませんけど、先輩のあの奔放さを考えればまぁ…許容範囲かなぁと」

ものっそい力入ってる。俺もさっっぱり分かりませんのでその気持ちは分かります。
更にごりごり削られたけど。

「えぇと……俺の一存だけでは」
「は?一存で充分じゃないですか?嫌だって言えばいいだけじゃないですか。
それともなんですか、エッチが目的だからですか?
なら、他の人探せばいいじゃないですか。そんな手ごろな近くの人じゃなくても」

き、きついな。おっしゃる通りなんだけど。

「それに、小鳥遊先輩って三条の人ともイイカンジですよね?」
「ふぁ?!」
「見たんですよ。2人がイチャイチャとデートしてる所。あの人もイケメンじゃないですか。あの人でいいじゃないですか。ていうか、先輩ってビッチ?」
「え、いや、その」

さゆりちゃんの勢いに押され気味でしどろもどろになってしまう。

「同時に複数とか更に引きます。男なら誰でもいいんじゃないですか。
なら、雅樹先輩から手を引いてください。それに、どう考えても女の子の方がいいに決まってるじゃないですか。柔らかくて抱きしめてても気持ちいいみたいだし?
今は高校生だから結婚とか現実的じゃないですけど、そういう意味でも未来ってなくないですか?」
「まぁ、そうだけど」
「雅樹先輩は、何がいいのか小鳥遊先輩ばっかり優先して私の事はほったらかしにするし…先輩がいると邪魔なんです。後ろ指を刺されるような関係はすっぱり止めて、雅樹先輩を解放してくれません?」
「………」

後ろ指、なぁ。確かにそうだよな。
雅樹がヤリチンなのは周知の事実だけど、さすがに男に突っ込んでるとは誰も思ってないだろう。

「さゆりちゃんの言いたいことは分かったよ」
「!なら、手を引いてくれ———」
「悪いけど、それは俺では決められない。それに他人に言われて決めるような事でもないし」
「はぁ?別に付き合ってる訳じゃないんですよね?雅樹先輩だし。そんなに雅樹先輩とのエッチ気持ちいいですか?マジでキモイ」
「キモイキモイと言うけど、俺に突っ込んでるの雅樹だからね?!」
「分かってますよ。でも、あの極上の男ならなんか許せるじゃないですか」
「あー…確かに」
「でしょ?だけど、小鳥遊先輩って全然魅力ないじゃないですか。これで美人さんとかだったら百歩譲って、分からないでもないですけど」
「さゆりちゃんてさ、すげぇ失礼な人だね」
「そうですか?事実しか言ってないですよ?」

おぅふ。俺のHPはゼロですよ。

「うぅーん…でもさ、さゆりちゃんと雅樹は恋人じゃないよね?なら、決めるのは雅樹だし、さゆりちゃんが口出しする事じゃないよ…ね?」
「んな事わーかってますよ!だけど、雅樹先輩に言えるわけないじゃないですか!」
「えぇ~…」
「余計な事いって嫌われたくないし?それに、性別を脇に置いても先輩と雅樹先輩の組み合わせより私と雅樹先輩の方が見た目的にも断然いいじゃないですか!」
「それは、うん。そうだね」
「でしょでしょ?先輩だって、私を見て鼻の下伸ばしてたクチじゃないですか。やっぱり、美男美女カップルの方が説得力あるじゃないですか!」

なんだろう…めちゃくちゃな事を言われてるけど、段々面白くなってきてしまった。

「さゆりちゃんて、そんなキャラなんだね」
「なんですか?悪い?」
「いいや。開けっ広げで話しやすいし、見た目はもちろんだけど可愛いなぁって」
「知ってます」
「そ、そうだよね」
「先輩ももっとジメジメしてるかと思ってましたけど、案外イイヒトですね?雅樹先輩の事がなければよき先輩後輩の仲になれたのに」
「お、おう」
「そんなわけで、雅樹先輩から手を引いてください!」
「どんなわけか分からないけど、それはごめんて」
「えぇ~!三条のオトコで手を打ちましょうよぉ」
「なんだよそれ…」

ピロンピロンピロンと連続で着信音が鳴った。
さっきから鳴ってたけど、無視してた。

「急ぎの用かな?ごめんね、ちょっと確認させて?」
「どうぞ」

ラインの着信があって、全部雅樹と勝からだった。
どうやら2人とも俺を探しているようだ。
どこだどこだと連投されている。怖い。

「うわっ」

返信しようとタップしてたら、ピリリリと電話が鳴った。

「もしもし?雅樹?」
『樹?いまどこいるの?』
「あ、えーと…」
『ちょっと!また変な人に掴まってるじゃないでしょうね?』
「だ、大丈夫!もう戻るから!!」
『ダメ。迎えに行く。どこ?勝は探し回ってるよ?』
「げっ」
『げって何?』
「と、とにかく戻るから!切るな!」
『ちょっと樹!!!ま…』

こえぇ。俺の親友たちこえぇ。

「雅樹先輩ですか?どうしたんです?」
「あ、えーと。俺もう戻るね」
「え?話はまだ終わってないというか、先輩から了承もらえるまで離しませんよ?」
「だから、それについては無理だと…」
「なんですかそれ!納得でき———「樹!!」」
「ひゃい!」

振り向くと、勝がすげぇ顔してこっちに走ってきていた。

「お前、なんで返信しねぇんだよ!心配するだろ?」
「ご、ごごごごごめん」
「雅樹から電話あったか?電話頼んでたんだが」
「あったよ!もう戻るって言ったよ!!」
「まったく。心配かけんなよ。これはやっぱり、雅樹と話していたとおりGPSアプリ入れるか…」
「いやいやいやいやいや!ちょっと待って?何いっちゃってんの?」
「何って。お前の位置は常に把握しておかないと」
「サラッとこえー事いってるよ?大丈夫?お前らそんなキャラだったか?」
「は?お前に関しては別だ。前もやべぇ事あったろ?それに、志木みたいな事だって今後もあるかもしれんしな」
「いや、ねぇよ?」
「お前に関しては分からん」
「えぇぇぇー…」

どうしよう。親友がヤンデレ化してる。

「まぁとにかく見つかって安心したわ。———と、すまん。話し中だったか。えぇと、東十条…だっけ?」
「は、はい」

さゆりちゃんは戸惑った顔で俺と勝を見ていた。だよな。

「俺はあっちで待ってるから、話が終わったら来いよ。帰るぞ」
「あ、うん」

勝は俺たちから離れた所にある木にもたれた。
声は聞こえないけど、俺らが見える所だ。

「えぇと…なんです?あれ」
「うーーーん…過保護な親友?」
「いや、あれ過保護超えてますって。正直ドン引きですよ」
「デスヨネー」
「しかも、聞き間違いじゃなければ雅樹先輩も…?」
「あー、まぁ。ハイ」
「え?!待って?もしかして、勝先輩も…」

俺は目が泳ぎまくっている自覚がある。しかし、動揺を止められないし、どう誤魔化していいのかもテンパって分からない。

「はぁ?えぇ?!さ、3人?!うそでしょ。え。マジでビッチじゃん」
「……」
「えぇぇぇぇ…待ってまってまって。すっごい混乱してる」
「だよね。分かるよ、うん」
「いや、分かるよ、じゃねぇわ」
「スミマセン」

さゆりちゃんは心を落ち着かせるように、スーハースーハーと深呼吸した。

「えぇと、雅樹先輩と勝先輩と三条の男と関係を持ってるんですね?」
「黙秘」
「いや、黙秘が逆に雄弁に語ってますって」
「うぐぅ」
「はぁ?マジですか?!えぇ~!小鳥遊先輩のどこがいいんですか?!」
「し、知らねぇよ」
「ハッ!もしかして、先輩って床上手?」
「ぶほっ」
「きったな!唾飛ばさないでくださいよ。えー…マジかぁ。先輩って魔性の男…」
「とは、真逆の位置におりますよ」
「ですよねぇ」

さゆりちゃん容赦ないし、失礼だな!
そのとおりだけど…。
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