樹くんの甘い受難の日々

生梅

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第一章

41.樹、異世界転移する(番外編①)

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「うわぁ!!」
「「樹?!」」

美術室を出ようとした時に、足元にポッカリ穴が開いていてそこにスポンと落ちた。
悲鳴を上げた時に雅樹と勝が振り向いて、驚きに目が見開いて
落ちていく俺の手を取ろうとしてーーーふと掻き消えた。

暗い暗い穴の中を落下し続ける。
どう考えても非常識な出来事に、最初は混乱していた頭も徐々に冷静になっていく。
この状況はどう考えてもファンタジーだ。

「異世界転移とかだったりしてな。ハハハ…」

落ちた時と同じようにスポンと放り出される。

「うぎゃ!」

硬い地面にお尻から着地した。

「いてぇぇぇ…」

地面に転がりながら半泣きでお尻をさする。
しばらく悶えて落ち着いてから周囲を見ると、石壁の12畳くらいの部屋の中で、
俺の足元には変な魔方陣みたいな模様が描かれていて、
その円の外側には金の紐と杭で囲われていた。
周りには長いローブを着たオッサン達が俺を遠巻きに見ていた。

「「神子が2人…だと?」」

オッサン達が当惑した表情でそんな事をいう。
(神子??)
横を見ると、むちゃくちゃ可愛い男が呆然とした顔で俺を見ていた。
同じくらいの年の、どうみても日本人の男を見てちょっと安堵した。

「なぁ、お前聖学??」

その可愛い男は聖上学院の制服だった。おぼっちゃん進学学校だ。
ぱちりと瞬きをしたそいつは、こくりと頷く。

「俺、鳳凰の2年。小鳥遊ってんだ。ここどこ?」
「わ、分からない。移動教室で移動していたら、光に包まれて
気が付いたここにいたんだ」

なんだよこいつ。声まで可愛いのかよ。女子と見紛う美少年っぷりだな。
しかも、光に包まれてだと?俺なんか穴に落ちて放り出されたのに…。

「小鳥遊君が突然、空中から現れて落ちてきたんだ」
「放り出されたからな…てか、あのオッサン達なに?」
「分からない。気が付いたらここにいて、次の瞬間に小鳥遊君が来たから」

「神子どの」

紫色のローブをまとったオッサンが俺じゃなくて、隣のカワイ子ちゃんを見ながらそう言った。俺は無視かよ。このハゲ!

「神子?僕は神子なんて名前じゃないです」
「いえ、お名前ではなく、あなたは神の御子として遣わされた神子様なのです」
「何の事を言っているのか全く分からない」

可愛い顔を顰めて、呟いた。だよな。俺も全然分からない。

「えぇーと、こいつが神子で呼ばれたんだったら俺は用済みだろ?帰してくんない?」

俺がそのオッサンに言うと、蔑むような目で見られた。
こいつ失礼な奴だな。

「はぁ…ところで、あなたは?」
「は?」
「クワトロ様…神子様にそんな事をおっしゃっては…」
「神子様は1人だ。この不届き者をつまみ出せ」

他のオッサンが失礼なオッサンーークワトロを咎めると、
俺をゴミを見るような目で見た奴は俺をつまみ出せとか言いやがった。
なんだこいつ。マジで腹が立つな。

「あ、あの。彼は僕の同郷の人間なんです。つまみ出すなんて事やめてください」

顔だけじゃなくて心も奇麗なのかよ!!!
感動した俺はカワイ子ちゃんの手をギュッと握った。

「ありがとう!お前、すげぇいい奴だな!!!」
「そ、そんな事は…」

ちょっと恥ずかしそうに目をそらした彼はほんのり頬を上気させた。
これが女子だったら即、恋に落ちるのに!!!!
神子様に触れるなとかギャーギャー言ってるクワトロを無視する。

「そうだ。名前は?」
「僕は朱雀美鈴朱雀 美鈴すざく みれいだよ。よろしくね」
「おぉ…すげぇキラキラしい名前だな。似合うな!おう。よろしくな」

我々より先に神子の名前を聞く名誉を賜るとはーー!とかハゲ(クワトロ)が叫んでるけど無視だ無視。ここは、俺ら2人はよそ者でアウェーなんだ。
仲間を得るのは大事だ。

「ところで…これってさぁ、まさか異世界とか言わないよな」
「う、うん。まさかそんな事…あるわけないよね」
「だよなぁ。陰謀論の国、アメリカの新しい軍事関係とか?」
「う、うーん?」

困った顔で微笑まれた。
それから俺らはそこから出されて別室に通された。
クワトロは相変わらず俺に塩対応だったが、他のオッサン達は暫定神子の俺も
丁重に扱ってくれた。

「やっぱり、文明とはほど遠いよな、ここ。。」
「うん。そうだね」

通された部屋には電気などなく、ランプと蝋燭が置いてあった。
今は昼間だけど夜になったらけっこう薄暗いんだろうなと想像がつく。
ただ、おそらくこの部屋はいい部屋だろうと思う。
テーブルも椅子も重厚で、カーテンなども品が良い。
窓から見える景色も、どう見ても現代とは思えない。
高いビルなどは一切なく、遠くに高い塀が見える。多分この建物をぐるりと囲んでいるんだろう。嫌な予感しかしない。

「ここさ、多分城だよな」

この部屋に通される間にもすれ違った人たちは物語に出てくるような恰好ーーー男は甲冑だったり女はメイドみたいな服を着ていたし、甲冑を纏ってない男は教科書で見たような貴族の恰好をしていた。

「そう、だね。俄かには信じられないけど、ここは現代じゃない。
僕らが知らない国である可能性も残ってはいるけど」
「俺らが考えてる事が現実に起きてるんだろうな。ていうか、あまりにも非常識すぎて取り乱す暇がねぇよ。小説の中の出来事が自分の身に起きるとは…」
「神子って言ってたよね。僕ら召喚?ってのをされたのかな」
「もし、ファンタジー小説みたいな事が起きてるんだとしたら、そういう事だよな」

部屋には侍女よろしく女の人が控えていて、さっきまで俺らにお茶とお菓子の給仕をしてくれていた。今は部屋の隅でひっそりと立っている。
お、落ちつかねぇ…。

「そういえば、小鳥遊君は鳳凰なんだよね?篠田君って知ってる?」
「雅樹を知ってるのか?!親友だよ!!」
「えっ?マサ君の親友なの?わぁ!僕、篠田君と幼馴染なんだ。
最近は全然遊んでくれないけど…」

寂しそうに目を伏せた彼の艶やかな頬にまつ毛の影がかかって、
その気がない自分でも変な気持ちになる。

「雅樹たちの目の前で転移されたんだ…すげぇ心配しているだろうし、早く帰りたい」
「さっきの人たちに帰り方を聞かないとね。でもこういう時ってさ、一方通行だったりするんだよね…僕も早く帰りたい。。」
「神子って何をさせられるんだろうな。小説だと、魔王とかがいて瘴気とかを祓えとか言われるんだよな」
「ふふふ。小説だとそういう展開だよね。…小鳥遊君が一緒で良かった。僕一人だったら今頃こんな風に笑うなんて絶対無理だったよ」
「俺も。朱雀がいるからのんびりお茶なんて飲めてる。樹って呼んでよ。俺の下の名前は樹っていうだ」
「じゃあ、僕の事も美鈴って呼んで」
「分かった。美鈴!」
「あはは。樹くん」

扉が開いて、偉そうな美丈夫が入ってきた。眼鏡をかけたイケメンを傍らに伴っている。後ろにはハゲじじぃのクワトロもいる。
甲冑を着込んだ兵士が数名入ってきて、壁際に控えた。

「神子様方にはご不便をおかけし、申し訳ございません」

眼鏡のイケメンが口を開いた。
イケメンはサディアスと名乗り、宰相で、偉そうな美丈夫は国王のアディーロというらしい。そして、サディアスは神子の役割を語った。

「はぁ?じゃあ、俺らはその…国王と…セックスしろと?!」
「えぇ。神子様の神気を頂くために、陛下と性交していただきます」

この世界には魔獣が存在していて、普段は冒険者たちや国軍が討伐をしているらしい。
ただ、100年に1回、瘴気が溜まりたまるポイントが発生する。
これをほっとくと魔獣などがスタンピードを起こし、これが連鎖して各地で起きるらしい。
そこで、国王であるアディーロが神気を使って抑えるんだが、膨大な神気が必要となり、持っている神気が枯渇すると命に関わるため、その補充として神子からもらうと。
そしてその神気の譲渡がセックスであると。
どこのエロゲだよ。

―――――――――――――――――――
唐突に始まる番外編…。
ここからしばらくお付き合いくださいませ(><)
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