樹くんの甘い受難の日々

生梅

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第一章

29.このクラスはおかしい。それでよし。

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あれから、俺を呼び出した人物については進展なし。

俺に伝言してくれた子に確認したけど、どうやら学年も違う子でその子も喫茶店に来店するついでに伝言を伝えただけだったようで、学際の混乱の最中、知らない人から頼まれて受けたから特徴とかほとんど覚えてなかった。
当日は制服を来てる人もそんなに多くないし、学年が違うと顔が知れてない限り誰が誰だか分からない。


「意図的に仕組んだんだったら絶対に許さないけど、表立ってなにかあったわけじゃないからこれ以上は大々的に探れないな。うちの生徒とも限らないし。でも、これからも手掛かりは探るわ」
「うん。頼むよ。俺も探るし」
「2人共ありがとな。俺なんかのために…」
「はぁ?なに言ってんの?俺らの大事な樹が狙われたんだよ?許すわけないじゃない。俺なんか、じゃないの。分かった?」
「そうだぜ。あれが意図的に仕組んだものだったら、これからも何かしら起こる可能性あるだろ?何かあってからじゃおせぇの。樹も用心はしとけよ」
「う、うん。気を付ける…」
「「分かればよろしい」」


2人にわしゃわしゃと頭を撫でられた。
やめろ。髪の毛がぐちゃぐちゃになるじゃないか。


「雅樹くん、これ使って?」


自分たちでぐちゃぐちゃにした俺の髪の毛を今度は手櫛で直し始めた雅樹に女子がブラシを渡した。


「ありがと。あ、これいいやつじゃん」
「うん。絨毛ブラシだから、小鳥遊くんの髪の毛さらに艶が出ると思うの」
「ありがたく使わせてもらうね」


鼻歌まじりに俺の髪の毛をブラッシングし始めた。
こうなるとこいつは長い。気が済むまでブラッシングに付き合わないといけない。

……眠くなってきた。

何故、人に髪の毛を触られるとこんなに眠くなるんだ。


「ふふふ。樹きもちいいの?船こいでる」
「樹ちゃん恋でもしてんのかなぁ?最近ぐっと綺麗になったよねー」
「ほんとほんと。前は可愛い小動物って感じだったのに、今は美人っていうか、なんか艶が出た?たまに色っぽくてドキッとするんだよね」
「そうっ!!私、男のうなじにドキドキしたの初めてだよ」
「あとさぁ、樹ちゃんてなんか甘い匂いしない?」
「するする!!人工的な香りじゃないんだよねぇ。本人に聞いても何もつけてないっていうしさ。羨ましいったら」
「本人は嫌がると思うけどますます、男っぽさから遠のいてくよね…」
「まぁー…ナイトが甲斐甲斐しくお世話してるからねぇ」
「俺らの特権ですから~」
「自然すぎんのよねぇ。違和感なさ過ぎて逆に目の保養」
「「「わかる」」」


皆が好き勝手話してるのを子守歌にぐっすり寝てしまった。


「はっ!!!」
「樹、おはよ」
「お、おはよう…?」


雅樹の顔が上に…あぁ。膝枕で寝てたのか。いつの間に。
前は勝の膝の上に対面で抱っこされて胸にもたれて寝ていた。
体温が心地よすぎて全然目が覚めなかった。
こいつら好き勝手にしてるよな。まぁ、いいけどさ。


「樹ちゃんおはよ。自習時間中ずぅっと寝てたよ。お疲れだね?」
「うーん…塾に通い始めたから夜寝るのが遅くなってさ」
「「塾?!」」
「あれ?お前らに言ってなかったけ?母さんに叩き込まれたんだよ。前回成績すげぇ上がったのがお前らのおかげって知ってさ。あんまり迷惑かけるなって言われて、入塾させられた。
でも確かにこれからもお前らに甘え続けるわけにもいかねぇし」
「「はぁ?!」」
「ちょ、樹ちゃん!そんな事言っちゃダメだよ!」
「ほぇ?」


なんで雅樹と勝笑顔に圧があるんだ?こえぇ。


「はぁ…ナイトの心、姫しらず…」
「??」
「ぐぅっ!首をこてん、ってやって可愛い生き物初めてみたっ!」
「ぐぅかわってこういう事ねっ!!」


最近、クラスの女子がおかしい。学際の後からクラス外でも俺をちゃん付けで呼ぶ女子も増えて、いちいち注意するのも疲れて今じゃ放置だ。


「あ。ライン入ってた」
「…樹、最近ラインばっか見てない?」
「あー、すげぇ筆まめ?ラインまめ?な奴でさ。俺もメッセージやり取り好きな方だし、ついつい返しちゃうんだよな」
「…誰?」
「ん?志木」
「「はぁぁぁぁ?!」」
「うっわ!びっくりした急にでかい声出すなよ」
「ちょっと!いつの間に繋がってたの?俺ら聞いてないけど?」
「そうだぜ。初めて聞いたんだけど?」
「はぁ?なんでいちいちそこまでお前らに言う必要あんだよ」
「「……」」



「絶句したわね」
「これは樹ちゃんが正論だわ」
「正論なんだけど、見てて切ない」
「うん。でも、最高」
「分かる」


女子が訳分からん話で盛り上がりながら爛々とした目で俺らを見ている。


「とにかく!相手は志木。今、教えたしこれで文句ないだろ?」
「うぅ…な、何はなしてるの?」
「ん~?特にねぇな。お前らみたいな感じで中身のある会話じゃない」
「へ、へぇ。それで盛り上がるんだ?」
「おう。だからこそラリーが続くって感じかな?」
「お、俺にはあんまり返さないくせに…」
「勝のはくだらなさすぎなの!自己完結の報告ばっかじゃん」
「ぐはぁ!」


「こ、これは…ライバル出現??」
「意味のない会話が延々と続くって、相当よ?」
「相手も樹ちゃんの返信にすぐ返してるんだもんね」
「これは、ナイトもうかうかしてられないねぇ」
「新たな展開だわ。滾るっ!!」


ー樹ちゃん、今度俺の地元の祭りこねぇ?

ー祭り?こんな時期にか?

ーそっ。初夏にな。氏神様のお祭り。規模はしょぼいけど打ち上げ花火もあるんだぜ
 浴衣着てきてもいいぜ?脱がしちゃうけどな。

ーへぇ!面白そうだな
 バカじゃねぇの。着ていかねぇし、脱がせねぇし。

ーwwwじゃあ決まりな!

ーおけー



スタンプ送って終了。
雅樹の膝で上向きに寝転がったままスマホ弄ってたから腕が痛い。
そろそろ起きよう。次は数学かぁ。
体を起こして席に戻ろうとしたら、雅樹にぎゅぅっとハグされた。


「雅樹どした?」
「…樹不足」
「なんだそれ」
「!!!」


何か弱ってるみたいだから、俺からもぎゅうっとハグしてやった。
蕩けるような笑顔になったからもう大丈夫だろ。


「樹!樹!!俺も!俺も樹不足!!」
「お前は大丈夫そうだ」
「えぇぇぇええ!!」


仕方ないから勝もぎゅっとハグしてやった。


「…足りねぇ」
「甘えんな」


教室のどっかからまた激しい連写音が聞こえたけど、
最近は日常になってしまい、もう気にもしなくなった。

このクラスはおかしい。それでよし。
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