樹くんの甘い受難の日々

生梅

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第一章

23.樹、身に染みる

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それから本当にびっくりするほど来店者が詰めかけた。
お目当ては2人なんだろうと高を括っていたら、男女問わず俺ご指名の人もかなり多く、俺はてんてこ舞いだった。
コンテストは投票の結果、非常に屈辱な事に俺が優勝した。
辞退しようとしたが、委員長はじめ女子の強固な反対により、不本意ながら優勝トロフィーを受取る羽目になった。
受取は影の功労者でもあるイケメン2人でいいじゃんと言ったが綺麗に無視された。
もう一回パンチラよろしくー!とかいうお下品な声援に手を振って舞台を降りた。


ーーーで、現在。

「いいじゃん。俺らと遊ぼうぜー」
「近くで見るとマジで可愛いのな。女にしか見えねぇ」
「し、仕事があるので俺もどらないと」
「これも仕事のうち~」

ゲラゲラと下品に笑う他校の生徒(不良)たちに絡まれてます。
なぜ俺が絡まれているかというと、1人で暗い場所にノコノコ行ったからです。
暗いつっても校舎の裏なんだけど。
これをフラグ回収というのでしょうか。
伝言をもらって呼び出された先に行くと誰もいなくて、しばらく待って誰も来ないから戻ろうとした道すがら、彼らに絡まれたというわけだ。

「いやぁ~…俺なんかと話すよりも、可愛い女子と話した方が100倍も楽しいデスヨ」
「まぁまぁまぁ。俺らとイイコトしようぜ?」
「はっ?!」
「別に男に興味あるわけじゃねぇけどよー。これはこれでっつーかな?」
「まだ紐パン履いてる~?」
「や、やめろってば!」
「…」

最後のやつ、紐パン履いてる?とか言いながらスカートに手をかけてめくろうとしてきやがった!

「抵抗されると燃えるなぁ」
「俺、男とヤるのちょっと興味あったんだよな」
「絶対、女子とヤる方がいいってば!おっぱいあるし!」
「俺、ツルペタ好き~。まな板くらいなのがいい」
「…」

知らねぇよ!聞いてねぇよ!
そんでもって、約2名顔がマジ。1人はずっと無言でそれがまた怖い。

「いった!」

マジ顔のうち1人が俺を壁に押し付けて両腕を背中できつく拘束した。
勢いよく壁に顔を押し付けられて頬を壁で擦った。

「な?減るもんじゃねぇし、いいだろ?」

耳元で言われてゾワッと鳥肌が立った。
煙草くさい口臭に思わず顔を顰めた。

「減るし!腕痛いし!顔も痛いし!!」
「元気だなぁ。元気な女は嫌いじゃないぜ」
「俺は女じゃねぇ!!!」
「これからなればいいじゃねぇか。なぁ?」

他の奴らはゲラゲラ笑って止めるどころか煽ってくる。

「お。すげぇいい匂いする」

首元に鼻を突っ込まれて匂いを嗅がれた。マジで気持ち悪い。

「んー…背徳感っていうの?興奮して勃ってきた」
「キモイ!ちんこ押しつけんな!」
「ちょっと震えてる?かーわいい」

腕をほどこうとするけどビクともしない。

「やめろ!」
「おぉ!レース!!!そそるなぁ」

スカートをまくられて耳をぞろりと舐められて気持ち悪くて涙が出てきた。

「ーーおい、さすがにやりすぎだろ」
「あ?」

ずっと黙っていた奴が見かねたようで止めに入ってくれたが、興奮したバカは腕を離そうとしない。

「そいつの言う通り、男とヤっても仕方ねぇだろ?
それに、男とヤるのって大変らしいぜ?お前流血沙汰になっていいわけ?」
「はぁ?」

男はそれまでの雰囲気と打って変わってニコリと笑って楽しそうに言った。

「だからさー、ケツ切れんの。分かる?裂けんの。
女のまんこじゃねぇんだから濡れねーよ?
言い訳きかねぇよ?あと、ケツの括約筋ってすげぇんだって。そいつがビビってケツの穴がきつく締まったらお前のちんこ抜けなくなるぜ?俺、置いてくぜー。抜けねぇちんこ出したままいりゃいいよ」
「な…は…」

バカ男が間抜けな顔で口をパクパクさせたまま何も言えなくなった。

「あぁ。そーだ。うんこまみれになるかもよ?」

今度こそ耐えきれないって体で男がギャハハと笑った。
その様子にさっきまでのおかしな興奮状態が霧散した。
た、助かった…?

「ちっ。なんか醒めたわ」
「そうそう。やめとこうぜ。騒ぎ起こしたら来年から来れなくなるぜー」
「なんかごめんねぇ。タツキちゃん」

口々に言って、ぞろぞろと男たちがその場から去っていく。最後まで残った助けてくれた男が近寄ってきてビクッとする。

「ごめんな。すぐに止めれば良かったんだけど、あいつらバカだからまともに止めると余計に暴走するんだわ」
「いや…いいよ…結果的に何もなかったわけだし。
助けてくれてありがとう」

男が目を細めて俺の頬を指先でやさしく撫でた。

「すまん。擦れて赤くなってる」
「う、うん。大丈夫」

なんかドキドキして耳がかぁっと熱くなるのが分かった。
少し着崩した制服のワイシャツから覗く胸元に色気を感じる。
涼しげな目元、すっととおった鼻筋。少し薄い唇が弧を描いて笑みを作った。
正樹や勝とはまた違ったイケメンだ。
そしてこいつも背が高い。ちくしょう。

「男って分かっていても可愛いな、タツキちゃんは」
「は…?」

男の顔が近づいて、頬に柔らかいものが軽く触れて離れた。

「タツキちゃんて、無防備すぎない?」

色素の薄い瞳がやさしく細められて俺を見ている。
明るめの柔らかそうな髪が風に吹かれて揺れていてーーー

「って、えぇ?!」
「あっははははは!そんな面白い顔すんなよ」
「失礼だな!」
「あはは。ごめんごめん」

男は目じりに浮かんだ涙を指で拭った。
ーーーそんなに面白い顔してた?ちょっと恥ずかしくなるじゃないか。
さっき、助けてくれた時のバカ笑いはきっと演技だったんだろうなと、なんとなく思った。

「まぁいいや。さっきは本当にありがとう」
「いや、こっちが悪い。あと、これは忠告。
タツキちゃんさ、身の回り気を付けた方がいいと思うぜ」
「え?どういう意味?」
「他校の俺らがここに来たの変だと思わないか?さっき、タツキちゃんに絡んでた奴ーー大木ってんだけど、あいつがここの女子生徒に何か言われてたっぽいんだよな。俺らは大木に連れられてここに来たってわけ」
「え?え?…えぇ?!」
「なんか心当たりある?」
「い、いや全然…」
「ふぅん。まぁ、でも気をつけろよ」
「う、うん」

俺は男の話に頭が混乱した。
誰かが…俺を陥れようとした?んなバカな。
でも、俺は俺でここに誰かに呼び出された。
伝言だったから、誰かは分からない。後でその子に確認してみよう。

「んじゃ行くわ」

男の声で我に返った。

「本当にありがとう。えぇと…」
「志木。志に木って書いて志木」
「ありがとう志木」
「おう。あ。お礼頂戴?」
「ほぇ?お礼?」

志木の顔が近づいてきてちゅっとキスされた。

「~~~~!!!!」
「助けたお礼ってことで。また会おうな。タツキちゃん」
「な、な、な…」
「あ」

去ろうとした志木が振り返って言った。

「タツキちゃん、人気のない所で一人でうろうろしちゃダメだよ~」
「…」

今、その忠告がこれほど身に染みたことはない。
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