9 / 13
故郷
しおりを挟む
目を開ける。ぐるぐると回る星星は流れて散る。世界は回る。巡る。すべての楔が途切れて、切れる。魂を保護したのは紛れも無く天野のプログラム。よかったと安心しながらそばにある松宮のプログラムを大事に抱えた。離さないようにしっかりと抱きかかえて榛名は眠る。
「目が覚めましたか」
ぱちりと覚醒して驚いた。覚醒するまどろみすらなく目を見開いて、あれと混乱する。見知らぬ顔、しかし肌は完全に作り物に似ている。
「榛名、お帰りなさい」
柔らかな波紋のような声に混乱する。
「どなたでしょうか」
声はまともに出た。両手を上げる。天野のウイルスに犯されていたはずの左手にウイルスの影はない。握ったり開いたりを繰り返す。肉体があった。
「混乱しているでしょう。起きますか?」
「はい」
ベッドごと起こされる。腹の上にはやわらかく丸いプログラムが乗っていた。
「あなたの肉体は欠損無く変なウイルスもすべて削除して元のとおりに戻してあります。その体はホロでも何でもありません、あなたの血肉です。その子も元に戻しておきましょうか?」
「あ、いえ。一次元上げるので。この子はゼロから一次元へと」
「そのように修復しましょう」
「できるのですか?」
「ええ。ここは第三次元。第五次元との戦争の最前線にあります。滅ぼされた第四次元を境にこちらへ侵入できないよう、防御措置を取っているところです。そして榛名。あなたはもともとこの第三次元に生まれてくるはずの子でした。ですがあなたは生まれたときに次元の隙間をすり抜けて第一次元まで落ちてしまった。そこで生まれたので私たちでは手に出せなくなったのです。魂は第三次元なのに、肉体は第一次元。あなたがゼロにとらわれ、そして死んだときにあなたのお友達の子がこちらへと飛ばしてくれたのですね」
「そうみたいです。天野のことをご存知なのですか?」
「あれは第一と第二の間の子のようなものです。厳密に言うと魂が一次元よりぬきんでています。たぶん第二ぐらいに生まれていてもおかしくないほどに次元が違う。時折生まれてくる亜種の子なのかもしれません。あの子が次元に吸い込まれて第五に飛ばされました。次元の狭間だけは私たちでもどうすることも出来ません。死んだあなたの友人は蘇生させられて、そして第四次元の体と第五次元の爆弾を抱えていました。それでも魂はまだ本人のままのようでしたが、第五からゼロに渡りをつけてゼロから侵略しようとしている忌まわしい次元です。榛名、この世界は多重構造となっています。ゼロを一番下に、第八を一番上に、層を重ねているのです。ゼロを原始、八はこの多重構造のこの宇宙を支配する階級です」
そこで彼女は区切り、榛名の腹の上にゆらゆらと揺らめく松宮のプログラムを両手で救い上げる。
「そこでお待ちなさい」
そういうと彼女は隣のベッドに松宮をそっと置く。ベッドのボタンをひとつ押し、パネルを操作するとベッドの脇から丸い透明な囲いが現れて閉じる。中を白い何かが満たしていくのをベッドに座って眺める。
「体がだるいでしょう」
松宮から視線をはずした彼女は榛名のベッドをリクライニングにすると体を預けさせた。
「質問はありますか?」
「私がこの次元に生まれるはずだったという証拠が無い」
「天野という子はあなたがここの次元に生まれるはずだった者だといえば納得しましたけれどね」
「質問は全部聞いてからにする。証拠も後で、いいので全部教えてください」
「そうね。ごめんなさい。まさか本当に帰ってきてくれるとは思わなかったから、うれしくて」
「そうですか」
松宮の修復を眺めながら彼女の後姿を眺める。肌は陶器のようだというよりはビスクドールの球体関節のような人だと榛名は思った。どこか似ているが地球にいるときに見た限りなので、なんとなくそう思うだけで口には出さない。
「ゼロは原始。何も無い世界。そこに命を与えるのが第一次元の役目。第二次元は第一とゼロを守るためにある。第三は上位との調整役。第四は第五とのけん制。第五が、これが難しいのです。なぜこんな風になったのだろうかと思うほど、第五は好戦的でした。己の次元の中だけで侵略し、殺し合い、そして最後に勝ったのがあれです。第五といえばもうあれとあれに付き従う奴隷のような連合だけでしょう。あれは自分たちの第五を滅ぼしました。それで飽きればよいものを、第四に侵略したのです。基本的に上位が下位に手を出すことは許されておりません。下位を助けたり、時に手をくわえて良いほうへと導いたりは出来るのですが侵略することは出来なかった、はずでした。第五は第四を侵略しました。拮抗しましたがそれでも滅ぼされたのです。第四を滅ぼし、第八はこれ以上のバランスが崩れることを良しとはせず、われらに第四を巻き込んだ防波堤を作り上げた。どのようなものであれ、第五から下位にいけないようにしたのです。その防波堤の維持と管理をまかされたのが私たち第三レイヤー。それでも穴はあります。次元の狭間と呼ばれるものです。あれが次元と次元をつなぎます。本来でしたら上から下へ、下から上へは極まれにしかありません。今回天野はその極まれに、を引き当てた。彼の体は第一レイヤーです。ゼロをはぐくむ下層。ですがゼロとはこの宇宙の楔です。基礎なのです。ここを侵略されてしまうと宇宙自体が崩壊します。第五はそれがわかっていた。自分たちはほかの宇宙へと侵略することが出来ない。だからこそ、ゼロを侵略したいのです。基礎を壊して崩壊させてしまえば、自分たちはほかの宇宙へと飛び出せる。侵略できるのですから。彼らはそれだけしか頭にありません。殺戮と、侵略。支配よりも蹂躙して殺すほうを好む。次元の狭間に引っかかった天野を殺して引き上げた。次元の狭間だけは何にも干渉されないのです。どういう理屈でしょう、天野を捕らえて殺し、死んだことによって第五次元に持ち帰った。そして復活させ肉体を第四、魂の一部に第五を植えつけた。本来ならば第五次元のものとして防波堤で引っかかるはずだったのですが、交わされてしまった。肉が第四次元だった事が悔やまれる。魂に第一次元の本来の彼も残っていたので。そして、落ちた。第一次元、ゼロに。あなたの作り出した星を侵略してしまえば、そこに穴を開けてしまえばもう彼らは防波堤をすり抜けることが出来る。それだけはなんとしてでもとめないといけません」
榛名に背を向けて、松宮のベッドの前でパネルを操作する。紐解かれていくプログラムが混ざり合い、うごめいている。
「だが、次元が違いすぎる」
「ですからあなたをこの次元に戻します。間違って滑り落ちていった魂ですもの。外殻は一次元でコーティングされていたのは幸いでした。こちらで手を入れさせてもらいますよ。次元を上げることで対抗しやすくなります。むしろ第八次元からの介入によってわれわれの世界は第五と拮抗するまでになった。あなたが天野と対峙するのであれば今のままでは勝てません。私たちはここで第五次元を食い止めるしかできません。助けてあげたいのは山々ですが、あなたは自分で自分の世界を救わなければならない。見守ることしかできない私たちを許してください」
「それで、勝てるのですか?」
「天野の体は第四次元。中身は第五、橋渡し役として利用されています。それでも第一次元の部分を残していないと完全にここの障壁に引っかかってしまう。ですから本来の彼と改造されてしまった彼がいる。それらが混ざり合い、第一次元に落ちて、さらにゼロへと到達できた。彼の中にある第五次元のデータが橋となってしまう。彼自身を殺さない限りは、だめでしょうね。そして今のままでは勝てない」
「なぜ、天野のことを詳しく知っているのです」
「第一次元に落ちる前、目くらましをかけてこちらに落ちてきました。彼自身が。第五に捕らえられ改造されたのですから、私どものほうで捕らえ、処分しようと思いました。しかし、彼は自分が死んだこと偶然で遺体が第五にとびそこで改造されたこと。第一を、ひいてはゼロにわたるための橋になること。そのためにあなたの世界を壊さなければならないこと。そしてそれに逆らえるほどの力を持ち得ないこと。ほぼ言いなりになってしまうのでできれば榛名に止めをさしてもらいたい。改造されてわかった。榛名は第三次元のものだと。彼には第一次元のものが持つ能力を超えているものがある。あの世界を守るには、私が殺された方がいい。だから私は敵対する。どうか、榛名を頼む。といわれまして」
ちらりと、榛名をみやる。驚きすぎて絶句している榛名はただただ彼女を見上げてほうけているばかりだ。その表情に少しだけ笑い、彼女は続きを話す。
「あなたの能力、無意識のうちにプログラムを改変したり、削除したりする事ですね。どんなにロックをかけていても、壁を作って隠していても隠されたプログラムに触れてしまう。それを発動させてしまうのか、消してしまうのか。まだあなた自身がちゃんとつかめていない無意識で発動させている能力ですね。ゼロ次元、第一次元を見たら、あなたの能力は異質でしょう。ですがわれわれから見たら頼もしい限りです。その能力は対敵に対して有効ですよ。たぶん切り札となるでしょう。あなたは「相手の隠したもの、隠されたもの、ロックそのすべてを無効にして直接プログラムを触れる」ということができるのですよ。ああ、天野が言っていました。「それでも、ゼロ次元のルールに縛られるだろう。あの世界はゼロだからこそ適応できるのだから。ひとつ上のわれらでさえ、星のルールに従うしかない。神として光臨はできるがそれ以上の力は制約される。星を壊さないようにするためのルールだな。プログラムされた星である以上、制約が入るのは仕方がない。こちらに引っ張り戻すためのプログラムは撒いた。戻ってきて、彼がこの次元のものとして覚醒して、もう一度この世界に戻るのであれば、外殻を一次元のものにしてやってくれ。じゃないと榛名の世界が消滅する。紐付けされた私が消滅する分にはかまわないのだが、問題はその消滅の力を使って第五が侵略してきた場合、誰も止められなくなる」と。ですので、全体的にこちら側で再構築しましたが、一番外側には第一次元のプログラムを纏わせています。本質はここですので力はこちら基準となりますし、あなたは自分の力を使うことができる」
「途方もない話だ。使いどころがあるのかわからないけれど、やっとあいつの言う意味がわかった。しかし実際に使えるといえど、どうすればいいのか」
「実践してみるしかないでしょう。さてそろそろ終わりますけれど、この子の核から第一次元へと生まれ変わらせましたが、ほかに何かする事はありますか?」
「私が実際に触ってみてもよろしいか?」
「では操作方法の説明を。体は大丈夫ですか?」
「はい」
腰を上げて隣に並ぶ。女性は榛名より背が高い。彼女以外今のところ見ていないので、どうなのかはわからないが細長い印象を受ける。彼女から操作方法を教わり、再構築されていく彼のデータを展開させる。すべてを眺めてからデータに手を翳し、手の中に吸い取ってしまう。いらないものを捨て去り、必要なものを足してもう一度かれの器の中に戻す。上書き保存された松宮の目がうっすらと開いた。
「あ、れ」
「おはよう。気分はどうだい?」
「まだ」
「寝ていていいよ」
ぼんやりしている彼は榛名の言葉に目を閉じて眠りに入る。
「なるほど」
手のひらを見て、くずとなったプログラムの破片が消えていく。人間を作るのはプログラムに任せてる。彼自身のプログラムのすべてを榛名が知っているわけではない。人間としてあるべき制限などのロックをすべて解除し削除するのも簡単だった。自分で作り出しておきながら、知らないことがたくさんあるのだと突きつけられたような気がして苦笑いを浮かべる。
「なんとなくわかりましたか」
「はい」
松宮のデータを第一次元のものに書き換える。ほんの少しほかのやつらよりもスペックを上乗せしてしまったがこれで榛名は自分が神様ですらないのだなと痛感した。神の代替わりなんて今まであっただろうかとちょっとだけ笑う。
「お眠りなさい。あなたが死んだその場所へもう一度お返ししましょう」
いわれるがまま、ベッドに横たわる。すでにまぶたは重く、うとうととしながら最後に口を開いた。
「あなたは誰」
「私はこの第三宇宙を統べる女王。おやすみなさい。そしてさようなら、いとし子よ」
ふっつりと意識が途絶えた。
「目が覚めましたか」
ぱちりと覚醒して驚いた。覚醒するまどろみすらなく目を見開いて、あれと混乱する。見知らぬ顔、しかし肌は完全に作り物に似ている。
「榛名、お帰りなさい」
柔らかな波紋のような声に混乱する。
「どなたでしょうか」
声はまともに出た。両手を上げる。天野のウイルスに犯されていたはずの左手にウイルスの影はない。握ったり開いたりを繰り返す。肉体があった。
「混乱しているでしょう。起きますか?」
「はい」
ベッドごと起こされる。腹の上にはやわらかく丸いプログラムが乗っていた。
「あなたの肉体は欠損無く変なウイルスもすべて削除して元のとおりに戻してあります。その体はホロでも何でもありません、あなたの血肉です。その子も元に戻しておきましょうか?」
「あ、いえ。一次元上げるので。この子はゼロから一次元へと」
「そのように修復しましょう」
「できるのですか?」
「ええ。ここは第三次元。第五次元との戦争の最前線にあります。滅ぼされた第四次元を境にこちらへ侵入できないよう、防御措置を取っているところです。そして榛名。あなたはもともとこの第三次元に生まれてくるはずの子でした。ですがあなたは生まれたときに次元の隙間をすり抜けて第一次元まで落ちてしまった。そこで生まれたので私たちでは手に出せなくなったのです。魂は第三次元なのに、肉体は第一次元。あなたがゼロにとらわれ、そして死んだときにあなたのお友達の子がこちらへと飛ばしてくれたのですね」
「そうみたいです。天野のことをご存知なのですか?」
「あれは第一と第二の間の子のようなものです。厳密に言うと魂が一次元よりぬきんでています。たぶん第二ぐらいに生まれていてもおかしくないほどに次元が違う。時折生まれてくる亜種の子なのかもしれません。あの子が次元に吸い込まれて第五に飛ばされました。次元の狭間だけは私たちでもどうすることも出来ません。死んだあなたの友人は蘇生させられて、そして第四次元の体と第五次元の爆弾を抱えていました。それでも魂はまだ本人のままのようでしたが、第五からゼロに渡りをつけてゼロから侵略しようとしている忌まわしい次元です。榛名、この世界は多重構造となっています。ゼロを一番下に、第八を一番上に、層を重ねているのです。ゼロを原始、八はこの多重構造のこの宇宙を支配する階級です」
そこで彼女は区切り、榛名の腹の上にゆらゆらと揺らめく松宮のプログラムを両手で救い上げる。
「そこでお待ちなさい」
そういうと彼女は隣のベッドに松宮をそっと置く。ベッドのボタンをひとつ押し、パネルを操作するとベッドの脇から丸い透明な囲いが現れて閉じる。中を白い何かが満たしていくのをベッドに座って眺める。
「体がだるいでしょう」
松宮から視線をはずした彼女は榛名のベッドをリクライニングにすると体を預けさせた。
「質問はありますか?」
「私がこの次元に生まれるはずだったという証拠が無い」
「天野という子はあなたがここの次元に生まれるはずだった者だといえば納得しましたけれどね」
「質問は全部聞いてからにする。証拠も後で、いいので全部教えてください」
「そうね。ごめんなさい。まさか本当に帰ってきてくれるとは思わなかったから、うれしくて」
「そうですか」
松宮の修復を眺めながら彼女の後姿を眺める。肌は陶器のようだというよりはビスクドールの球体関節のような人だと榛名は思った。どこか似ているが地球にいるときに見た限りなので、なんとなくそう思うだけで口には出さない。
「ゼロは原始。何も無い世界。そこに命を与えるのが第一次元の役目。第二次元は第一とゼロを守るためにある。第三は上位との調整役。第四は第五とのけん制。第五が、これが難しいのです。なぜこんな風になったのだろうかと思うほど、第五は好戦的でした。己の次元の中だけで侵略し、殺し合い、そして最後に勝ったのがあれです。第五といえばもうあれとあれに付き従う奴隷のような連合だけでしょう。あれは自分たちの第五を滅ぼしました。それで飽きればよいものを、第四に侵略したのです。基本的に上位が下位に手を出すことは許されておりません。下位を助けたり、時に手をくわえて良いほうへと導いたりは出来るのですが侵略することは出来なかった、はずでした。第五は第四を侵略しました。拮抗しましたがそれでも滅ぼされたのです。第四を滅ぼし、第八はこれ以上のバランスが崩れることを良しとはせず、われらに第四を巻き込んだ防波堤を作り上げた。どのようなものであれ、第五から下位にいけないようにしたのです。その防波堤の維持と管理をまかされたのが私たち第三レイヤー。それでも穴はあります。次元の狭間と呼ばれるものです。あれが次元と次元をつなぎます。本来でしたら上から下へ、下から上へは極まれにしかありません。今回天野はその極まれに、を引き当てた。彼の体は第一レイヤーです。ゼロをはぐくむ下層。ですがゼロとはこの宇宙の楔です。基礎なのです。ここを侵略されてしまうと宇宙自体が崩壊します。第五はそれがわかっていた。自分たちはほかの宇宙へと侵略することが出来ない。だからこそ、ゼロを侵略したいのです。基礎を壊して崩壊させてしまえば、自分たちはほかの宇宙へと飛び出せる。侵略できるのですから。彼らはそれだけしか頭にありません。殺戮と、侵略。支配よりも蹂躙して殺すほうを好む。次元の狭間に引っかかった天野を殺して引き上げた。次元の狭間だけは何にも干渉されないのです。どういう理屈でしょう、天野を捕らえて殺し、死んだことによって第五次元に持ち帰った。そして復活させ肉体を第四、魂の一部に第五を植えつけた。本来ならば第五次元のものとして防波堤で引っかかるはずだったのですが、交わされてしまった。肉が第四次元だった事が悔やまれる。魂に第一次元の本来の彼も残っていたので。そして、落ちた。第一次元、ゼロに。あなたの作り出した星を侵略してしまえば、そこに穴を開けてしまえばもう彼らは防波堤をすり抜けることが出来る。それだけはなんとしてでもとめないといけません」
榛名に背を向けて、松宮のベッドの前でパネルを操作する。紐解かれていくプログラムが混ざり合い、うごめいている。
「だが、次元が違いすぎる」
「ですからあなたをこの次元に戻します。間違って滑り落ちていった魂ですもの。外殻は一次元でコーティングされていたのは幸いでした。こちらで手を入れさせてもらいますよ。次元を上げることで対抗しやすくなります。むしろ第八次元からの介入によってわれわれの世界は第五と拮抗するまでになった。あなたが天野と対峙するのであれば今のままでは勝てません。私たちはここで第五次元を食い止めるしかできません。助けてあげたいのは山々ですが、あなたは自分で自分の世界を救わなければならない。見守ることしかできない私たちを許してください」
「それで、勝てるのですか?」
「天野の体は第四次元。中身は第五、橋渡し役として利用されています。それでも第一次元の部分を残していないと完全にここの障壁に引っかかってしまう。ですから本来の彼と改造されてしまった彼がいる。それらが混ざり合い、第一次元に落ちて、さらにゼロへと到達できた。彼の中にある第五次元のデータが橋となってしまう。彼自身を殺さない限りは、だめでしょうね。そして今のままでは勝てない」
「なぜ、天野のことを詳しく知っているのです」
「第一次元に落ちる前、目くらましをかけてこちらに落ちてきました。彼自身が。第五に捕らえられ改造されたのですから、私どものほうで捕らえ、処分しようと思いました。しかし、彼は自分が死んだこと偶然で遺体が第五にとびそこで改造されたこと。第一を、ひいてはゼロにわたるための橋になること。そのためにあなたの世界を壊さなければならないこと。そしてそれに逆らえるほどの力を持ち得ないこと。ほぼ言いなりになってしまうのでできれば榛名に止めをさしてもらいたい。改造されてわかった。榛名は第三次元のものだと。彼には第一次元のものが持つ能力を超えているものがある。あの世界を守るには、私が殺された方がいい。だから私は敵対する。どうか、榛名を頼む。といわれまして」
ちらりと、榛名をみやる。驚きすぎて絶句している榛名はただただ彼女を見上げてほうけているばかりだ。その表情に少しだけ笑い、彼女は続きを話す。
「あなたの能力、無意識のうちにプログラムを改変したり、削除したりする事ですね。どんなにロックをかけていても、壁を作って隠していても隠されたプログラムに触れてしまう。それを発動させてしまうのか、消してしまうのか。まだあなた自身がちゃんとつかめていない無意識で発動させている能力ですね。ゼロ次元、第一次元を見たら、あなたの能力は異質でしょう。ですがわれわれから見たら頼もしい限りです。その能力は対敵に対して有効ですよ。たぶん切り札となるでしょう。あなたは「相手の隠したもの、隠されたもの、ロックそのすべてを無効にして直接プログラムを触れる」ということができるのですよ。ああ、天野が言っていました。「それでも、ゼロ次元のルールに縛られるだろう。あの世界はゼロだからこそ適応できるのだから。ひとつ上のわれらでさえ、星のルールに従うしかない。神として光臨はできるがそれ以上の力は制約される。星を壊さないようにするためのルールだな。プログラムされた星である以上、制約が入るのは仕方がない。こちらに引っ張り戻すためのプログラムは撒いた。戻ってきて、彼がこの次元のものとして覚醒して、もう一度この世界に戻るのであれば、外殻を一次元のものにしてやってくれ。じゃないと榛名の世界が消滅する。紐付けされた私が消滅する分にはかまわないのだが、問題はその消滅の力を使って第五が侵略してきた場合、誰も止められなくなる」と。ですので、全体的にこちら側で再構築しましたが、一番外側には第一次元のプログラムを纏わせています。本質はここですので力はこちら基準となりますし、あなたは自分の力を使うことができる」
「途方もない話だ。使いどころがあるのかわからないけれど、やっとあいつの言う意味がわかった。しかし実際に使えるといえど、どうすればいいのか」
「実践してみるしかないでしょう。さてそろそろ終わりますけれど、この子の核から第一次元へと生まれ変わらせましたが、ほかに何かする事はありますか?」
「私が実際に触ってみてもよろしいか?」
「では操作方法の説明を。体は大丈夫ですか?」
「はい」
腰を上げて隣に並ぶ。女性は榛名より背が高い。彼女以外今のところ見ていないので、どうなのかはわからないが細長い印象を受ける。彼女から操作方法を教わり、再構築されていく彼のデータを展開させる。すべてを眺めてからデータに手を翳し、手の中に吸い取ってしまう。いらないものを捨て去り、必要なものを足してもう一度かれの器の中に戻す。上書き保存された松宮の目がうっすらと開いた。
「あ、れ」
「おはよう。気分はどうだい?」
「まだ」
「寝ていていいよ」
ぼんやりしている彼は榛名の言葉に目を閉じて眠りに入る。
「なるほど」
手のひらを見て、くずとなったプログラムの破片が消えていく。人間を作るのはプログラムに任せてる。彼自身のプログラムのすべてを榛名が知っているわけではない。人間としてあるべき制限などのロックをすべて解除し削除するのも簡単だった。自分で作り出しておきながら、知らないことがたくさんあるのだと突きつけられたような気がして苦笑いを浮かべる。
「なんとなくわかりましたか」
「はい」
松宮のデータを第一次元のものに書き換える。ほんの少しほかのやつらよりもスペックを上乗せしてしまったがこれで榛名は自分が神様ですらないのだなと痛感した。神の代替わりなんて今まであっただろうかとちょっとだけ笑う。
「お眠りなさい。あなたが死んだその場所へもう一度お返ししましょう」
いわれるがまま、ベッドに横たわる。すでにまぶたは重く、うとうととしながら最後に口を開いた。
「あなたは誰」
「私はこの第三宇宙を統べる女王。おやすみなさい。そしてさようなら、いとし子よ」
ふっつりと意識が途絶えた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
寝起きでロールプレイ
スイカの種
SF
起きたら二百六十年経ってて、しかも若返っていた?!
文明は二度崩壊し、新たな社会秩序の形成された世界で人生を歩むハードSF。
二百年後のネットインフラはどうなっているのか。
魔法をSFに落とし込むにはどうすればいいのか。
未来へのワクワクを全部詰め込んだらこうなった。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。アルファポリスの方が挿絵付きです。
作者:まりお
単語、用語解説データベース(外部サイト)
https://roleplay.sumikko-love.com/
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
異世界配信で、役立たずなうっかり役を演じさせられていたボクは、自称姉ポジのもふもふ白猫と共に自分探しの旅に出る。
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
ファンタジー
いつだってボクはボクが嫌いだった。
弱虫で、意気地なしで、誰かの顔色ばかりうかがって、愛想笑いするしかなかったボクが。
もうモブとして生きるのはやめる。
そう決めた時、ボクはなりたい自分を探す旅に出ることにした。
昔、異世界人によって動画配信が持ち込まれた。
その日からこの国の人々は、どうにかしてあんな動画を共有することが出来ないかと躍起になった。
そして魔法のネットワークを使って、通信網が世界中に広がる。
とはいっても、まだまだその技術は未熟であり、受信機械となるオーブは王族や貴族たちなど金持ちしか持つことは難しかった。
配信を行える者も、一部の金持ちやスポンサーを得た冒険者たちだけ。
中でもストーリー性がある冒険ものが特に人気番組になっていた。
転生者であるボクもコレに参加させられている一人だ。
昭和の時代劇のようなその配信は、一番強いリーダが核となり悪(魔物)を討伐していくというもの。
リーダー、サブリーダーにお色気担当、そしてボクはただうっかりするだけの役立たず役。
本当に、どこかで見たことあるようなパーティーだった。
ストーリー性があるというのは、つまりは台本があるということ。
彼らの命令に従い、うっかりミスを起こし、彼らがボクを颯爽と助ける。
ボクが獣人であり人間よりも身分が低いから、どんなに嫌な台本でも従うしかなかった。
そんな中、事故が起きる。
想定よりもかなり強いモンスターが現れ、焦るパーティー。
圧倒的な敵の前に、パーティーはどうすることも出来ないまま壊滅させられ――
【完結】マギアアームド・ファンタジア
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
ハイファンタジーの広大な世界を、魔法装具『マギアアームド』で自由自在に駆け巡る、世界的アクションVRゲーム『マギアアームド・ファンタジア』。
高校に入学し、ゲーム解禁を許された織原徹矢は、中学時代からの友人の水城菜々花と共に、マギアアームド・ファンタジアの世界へと冒険する。
待ち受けるは圧倒的な自然、強大なエネミー、予期せぬハーレム、そして――この世界に花咲く、小さな奇跡。
王道を以て王道を征す、近未来風VRMMOファンタジー、ここに開幕!
ちょいダン? ~仕事帰り、ちょいとダンジョンに寄っていかない?~
テツみン
SF
東京、大手町の地下に突如現れたダンジョン。通称、『ちょいダン』。そこは、仕事帰りに『ちょい』と冒険を楽しむ場所。
大手町周辺の企業で働く若手サラリーマンたちが『ダンジョン』という娯楽を手に入れ、新たなライフスタイルを生み出していく――
これは、そんな日々を綴った物語。
マホウノセカイ
荒瀬竜巻
ファンタジー
2050年、日本の中心千代田区から男が消えた。人類史上最強の科学兵器「魔力炉管解放機」によって、全ての人類は魔術を得た。地球温暖化、食糧難、多くの社会問題が解決された。更には男女に偏りなく平均が一律の魔力のお陰で、男女平等に大きく近づき、世界はより良くなっていていた。
しかしその時日本では、女性しかいない魔術研究所からなる「新生魔術党」が政権を奪取。世界で魔術の優先度が高まるなか当然のことであり、魔力炉管が確立されていない時代に女性に魔術を押し付けた政治家の怠慢だと当時の諸外国は沈黙した。
そして2080年現在。多少の反乱はあるものの、男性を排除した千代田区での女性の女性による女性のための政治が執り行われていた。
これは男女平等を目指す主人公伊藤妃芽花とその仲間達、そして志を高く持つライバル達との領地奪い合い系現代ファンタジー物語である。
カクヨムにも同じ名義で投稿しております。
転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です
途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。
ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。
前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。
ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——
一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——
ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。
色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから!
※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください
※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる