カミサマカッコカリ

ミヤタ

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盗賊団(加筆有)

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「ここここうやですねええええ」
「ししししたかかかむかっらあああああ」
 荒野の赤茶けた大地を土煙を上げながら爆走するバギーは目的地に向かっていた。上下に激しく揺れながら、運転するほうも助手席に乗っているほうも後部荷物置き場に置かれた荷物でさえも命がけだ。真正面に階段状の崖、赤の大階段と呼ばれる観光名所が徐々に大きく眼前に迫る。荒野にぽつんと現れた階段状の巨大な岩は岩山を削り取らねば出来ないのではないかと言われるほどに継ぎ目のないものであった。四段からなる巨大な階段状の岩は周りに岩山すらない平原とほんの少しの岩が転がる荒野にぽつんとある。まあこれ事態がバグなのだが、榛名はそれを黙っていることにしたのだった。今は盗賊団の根城として穴を穿ち、中に部屋をつくりありの巣のような状態になっているとは市長の話だ。観光名所となっているなら無理に削除しなくてもいいかな。と十数年前に見た時に思ったのだが削除するかと吟味する。
「盗賊がいなくて観光としてみるだけなら立派かもしれませんね」
 距離としては大階段まで後半分ほどといったところでスピードを落とす。そびえたつ巨大な階段は天然にできたとしてはあまりにも人工物にもみえるそれは圧巻としか言いようがない。松宮の感想に確かに初めて見たら感動するだろうなと榛名は思う。
「巨人のための階段ですかね。神様がいたら聞いてみたいんですけどね。こんな岩なんで作ったのかって。しかも荒野の中にぽつんとあるっていうのがまたすごいですよね」
「バグなんだけどね。この世界が墜ちたときの衝撃で出来ちゃったみたいなんだけど、いつも削除するかどうかで迷うところなんですよ」
 榛名が首をかしげる。バグはバグだが観光名所になっているなら消すか消さないかで毎回悩みの種だ。他の術式者も手を出してないのはわかっており、彼らが削除していないので榛名も保留にしているバグの一つである。
「先生、何言ってるんですか」
「何って、君は本当に私のこと信じてないよねぇ」
「信じてないわけじゃないんですよ。ただ時々変なこと言うから」
「ほら、信じてない」
「ま、いいからいいから。正面突破でいいんですか?」
「いいよ。大丈夫。どっちにしろ来るよ!」
 松宮が一瞬空を見上げる。きらりと光るそれは巨大な槍。
「先生、捕まって!」
 アクセルを踏み込み、ハンドルを切る。土煙とともに爆走するバギーは飛んできた槍をかわしながら近づく。蛇行するバギーが石に乗り上げ、大きくバウンドした。必死にドア枠にしがみつきながら榛名は執行するプログラムの準備を行う。槍はプログラムだ。本物ではない。槍のプログラムを分析するもののプログラム自体にノイズがかけられており、うまく解析することができない。
「あいつじゃないのか?うぐっ」
 思わずつぶやいたとたん舌を噛む。
「しゃべっちゃだめっつたでしょ!」
 ぎゅんと曲がり、遠心力がかかる。遠心力に屈しそうになりながらも必死に耐えれば、半回転したのちに爆走。正面に捕らえていたはずの赤の大階段はいまや右手側にある。先ほどよりも近づき、ほぼ見上げるほどになった崖はまるで壁のようでもあり、圧倒される。
「松宮!ストップ!」
 急停止してつんのめりそうになるがその前に榛名は待機させていた防御壁を展開させた。
「防御壁の三重付け」
 ドーム状に覆われた防御壁。その厚さに驚く松宮は目を見張った。青空にきらきらと輝く何かを見つけた。声を上げる間もなくそれは雨となって防御壁へと当たる。
「矢?」
「そう。すごい密度で降らしてくれるね」
 一射が終わり、もうもうと立ち込める土煙。
「あそこの亀裂まで移動」
「了解」
「防御壁」
 土煙を破るように急発進したバギーを追って第二射が降る。崩れた防御壁二枚を消去させ二枚を張りなおす。雨のようなそれをはじきながらそれでもダメージの蓄積はすさまじい。あっという間に二枚半壊れて、榛名は三枚を張りなおした。
「これだけの量を降らせるとはなかなか」
「一回目よりも量が多いんですけど!」
「術式者が中にいるのかしら。三枚張りなおしたから」
「さっき二枚半もってかれましたよ?」
 壁に沿って移動し、亀裂の前に到着する。真正面に対峙する形でバギーを止めれば、榛名はよろよろと降りた。
「正直、吐きそう」
「だからしゃべるなって言ったじゃあないですか。先生」
 空が輝き、第三射が降り注ぐ。
「スキャン」
 赤の大階段を丸裸にする。すべてをあらわにするそれは、亀裂の内部に作られた蟻の巣のようなアジトであった。窓もある。人の手で作り出すには膨大な時間がかかるだろうそれは赤の大階段自体のプログラムを弄って作られたものだろう。内部構造、人の形を鮮明に浮かび上がらせる。中では人があわただしく動いているのが表示される。
「人質は」
 盗賊たちだろうそれらを無視し、とらわれた女性たちを探す。一番奥の部屋に折り重なるように人の気配を見つけ、拡大する。
「うっ」
 榛名はわずかに目を見開き、思わずうめいて口を押さえたのは松宮であった。ぱきんと一枚目の防御壁が崩される。三射目は先ほどよりも量が多い。土煙と振ってくる矢の音だけが二人を周りから隠す。ひゅんひゅん、バキバキ。バラバラバラバラ。ビキリと防御壁に皹が入る。
「防御壁」
 一枚目が割れた時点で一枚張る。
「あっ、先生!誰かいる!」
 その部屋は地獄のようであった。彼女たちには、おそらく地獄だったはずだ。服は裂かれ、全裸の者もいる。体中についた暴力の跡。中には切り刻まれたのだろう血まみれで息絶えた者もいる。その部屋に外から男が飛び込む。女性が折り重なっていてわからなかったが誰かが立ち上がった。榛名は視点をずらす。男が何かを言いながら服装をただし、部屋から出る。床に横たわった女はうつろな目をしていた。まるで榛名と視線が合っているかのようにゆっくりと手を伸ばす。割れた唇からもれた声は届かない。見ているのかもわからない。ただかすかに動いた唇が二度と動くことはなく。彼女の目から光が消えた。
「むごい」
「生体反応。診察」
 人質全員が性的暴力暴行を受けて死亡したと示されていた。
「連れ去られた直後から徐々に殺されていますね。もう人質としての価値がないといういみではなく最初から生きて返すつもりもなかったのでしょう」
「それじゃあ、人質とは名前だけってことですか」
「松宮くん、ここにいなさいね。うっとおしい。消えろ」
 指示を与え、降り注ぐ矢の雨を瞬時に消す。
「えっ」
「神の怒りに触れたんだから、天罰をくださないといけないでしょう」
 今まで聞いたことのないほどの冷たい声に松宮は硬直して動けない。本能が恐怖を訴えるのに時間はかからなかった。
「そう、いい子」
 恐怖を抱く松宮に声であやす。それは常のやさしさすら含まれない声でしかし口調は子供をあやすそれだ。
「隔絶、保護。檻。天使の慈悲。神隠し」
 隔絶と言った瞬間、赤の階段の周りに防御壁とは比べ物にならないほどの透明で巨大な壁が赤の大階段を囲む。彼女たちが倒れているところに檻が出現すると彼女たちの体に虹色のベールが一人ひとりに掛けられて包み込むと鳥の羽が描かれて消えた。檻に布がかぶせられてその檻ごと彼女たちが消える。
 それをスキャニングされているところを見るまでもなく目の前で実行していく。大階段からの攻撃が始まった。銃や弓、はては爆弾も投げてくるが榛名は眉ひとつ動かさずそれらを見ており、無論壁に阻まれて届くこともなかった。
「神火」
 傷ひとつついていない二人をいぶかしんだ盗賊たちが焦る。全員が攻撃を始めた。甲高い金属を打ち付けたような音が鳴る。耳が痛いと眉をしかめた松宮の前で、細長い光の槍が吸い込まれるように大階段に落ちる。一瞬静寂が支配し、そしてすさまじい爆発が起きた。その音は壁があっても轟き、大地が揺れる。悲鳴を上げる暇もなかっただろう中の爆風は上へと抜ける。頭上高く舞い上がった黒煙と爆風にあおられるように空気が動き上昇していく。シャツがばたばたとはためく。地面から上昇する風は榛名のコートをはためかせ、まるで黒い翼のようだと松宮は思う。一瞬で灰燼となった盗賊団は痛みもわからず、ただ一瞬で絶命した。松宮の前に展開しているスキャナに生きている人物の反応はない。盗賊団を捕縛するということもせず、話し合いもせず、ただ一方的に殺戮した。それを、自分の師が実行した。信じたくはないが目の前で見せ付けられれば、信じるしかない。いや信じるも何も事実だと突きつけられている。混乱する松宮を置いて、高熱で崩壊する大階段はその表面を溶かしていた。すべてが収まり徐々に静まり返る。壁が解かれ、汗が出る程度の熱気が風となって吹く。はためく黒いすそが落ち着いて細身の体を隠していく。きているものはすべて真っ黒だ。それがポリシーというわけではないのだが黒いのは何も考えなくていいからと笑っていた師の顔が思い出せない。
「せんせ、い」
 震える声がかすれていた。恐怖がにじみ出た呼びかけに、ただ前を見ていただけの榛名の視線が松宮を捕らえる。
「どうしました」
 普段と変わらぬ声なのに、それが怖いと松宮は思う。何もいえない弟子から視線をはずすと榛名は熱で岩肌が溶け出した大階段に視線を向けた。
「いるんだろう。出て来い」
 声を張り上げる。その言葉に反応するように空間にじりじりとノイズが走った。空間そのものに直接プログラムを仕掛ける。ノイズが赤と灰色に点滅しながら赤いノイズが空間を侵食して口を開けた。ずるりと出てきたのは男だ。
「やあ、榛名。久しぶり」
 彼の姿をそして声を聞いた榛名の目が見開く。フードを深くかぶったマント姿の男だ。空間はすぐに閉じ、バグすら残さず元に戻る。
「あま、の」
「元気そうだね。榛名」
 穏やかに微笑む男は、フードを払いのけた。声に驚いていた榛名はまさかと唇をわずかに動かすだけで声も出ないほど驚いている。
「そんなに、驚くことかな」
 くすりと笑った彼が榛名の胸を指す。
「さようなら。榛名」
「展開!防御壁!」
 指先に集まった赤い光が榛名を貫こうとした瞬間、壁が立ちふさがる。大きな音を立てて割れた防御壁はそれでも赤い光を逸らすのに十分だった。
「へぇ。何もできないただのワンワンかと思っていたけど」
「せんせぇ!」
 間に合ったのが奇跡だと松宮は思う。背中は冷や汗でぐっしょりだ。圧倒的に自分よりも、下手すれば榛名よりも上の存在だとわかる。防御壁が、ありったけの厚みをこめた防御壁が一瞬だ。それでも弾いただけましかもしれない。榛名を前にでて背中にかばいながら防御壁を張る。彼との距離は二メートル程度。背後で驚いたまま強直している榛名に向かって叫ぶ。
「大丈夫。驚いただけです。申し訳ない」
 背中をぽんと叩かれて、松宮は目の前の男から視線をはずした。にらみつけていたが、師のほうが心配なのは当然だ。
「彼は、私の古い友人でね。ずっと探していた相手だよ」
「えっ?こいつが?先生の探し人ですか」
「そう。私が殺した、私の親友。天野、本当に君なのか?」
 驚いて尋ねる松宮に肯定を返し、目の前の死んだはずの友人に尋ねた。否定して欲しいようなそうであってほしいような、複雑な感情がない交ぜになった声。縋るような声に、彼は目を細めてそれから微笑んだ。
「そうだよ。榛名。天野だ。間違いないよ」
 肯定する男にひゅっと息を呑んだ。

「あまのなのか?」
「そうだよ。疑い深いね。ああ、そうか。うん。お前から見れば、変質しているように見えるのかな」
「姿かたちは天野そのものだけれど、受け答えも私の知っている天野だが、それでも違う」
「そりゃあそうだ。だって私は一度死んでいるんだよ」
「あのとき、私が手を離したばかりに」
「そう。あの時。あの時お前が手を離したから。榛名、君が私を助けてくれようとしたことはわかるんだ」
 目を細めて頷く天野は口を開いた。あの時何が起こったのか、彼は思い出すように少し遠くを眺める。
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