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第5話 Eパート~竜の爪~
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「……さぁ、いつ来るのかしらね」
そう言って待ってるのはイザベラ。
夜明け前の空に輝く黄金の『鋼衣』は、まるで暁の太陽のようだ。
そこに、僕らも現れる。白銀の光に包まれ現れるテラレグルスの姿は、まるで今正に沈みかけている月のよう。
「来たわね。流石に腕の方は修理できなかったみたいだけど……覚悟は決めてきたのかしら?」
「……もちろんです」
そう強く言い切るハツネさんの声に、もう迷いはない。僕らは構えを取る。
「私たちは、あなたを倒す。何があっても……絶対にッ!」
ダッ!!!
そして、戦いが始まった。
「はぁッ!」
駆けだした僕らへ向かって、イザベラはクォールハンマーを振りかぶる。僕は減速し警戒するような動きを見せ……その行動をフェイントに、身体を屈めながら前へ出た。
ガッ!
「ッ!?」
イザベラと彼女に接近した低空姿勢のテラレグルスが肉薄する。ハンマーの柄を掴み、攻撃力が最小になる地点で受け止めた僕ら。そしてそのまま相手の身体を掴み上げ、柔道の形車の要領でイザベラを横へ投げ飛ばしたッ!
ブオォンッ!
「くっ……!」
それをイザベラは間一髪で受け身を取る。辺りの山面が、スライディングで抉り取られる。
「アンタバカなの!? あんな近づいたらタダじゃ済まな……」
「タダで済ますつもりはもうありません」
「ッ!」
「あのままだと街に被害が出てました。だからあれが正解です。それに……私と勇は、もう覚悟を決めましたから」
そう言い切ったハツネさんの言葉に、イザベラは硬直する。
「私たちは、あなたたちを倒す……我がセレーラ星を奪い皇帝を名乗る無礼者、グアテガルまでもッ!!!」
「……はッ、それ本気で言ってるわけ? 言っとくけどそれって銀河団一千万を超える兵力を持ち、さらにそれと比肩する皇帝陛下までも倒すということよッ! そんなことあなたたちに出来るわけ――」
「やってみせるさ」
そこに、僕は口を挟む。その言葉に、イザベラは言葉を失った。
「グアテガルって男がどんな奴かは知らない」
この先に何が待っているかもわからない。もしかしたら地獄が待ってるかもしれない。
「だけど、その男がハツネさんを苦しめる敵というなら」
彼女を困らせるというのなら。
「例え銀河の果てまで行ってでも……僕は絶対に、グアテガルを倒してみせるッ!」
それが……僕の決意だ。
僕の言葉に、イザベラはしばらく無言になる。
「……そう。あくまで陛下に歯向かうのね」
そして、イザベラも構えを取る。
「ならまずはこの私、皇帝陛下が腹心、イザベラが相手になるわッ!」
それと同時に、再び彼女のスカートのドローンが飛翔する。
「さぁ、やれるならやってみなさいッ! さっきたった一撃で気絶したアンタらの力、見せてみなさ……くァッ!?」
瞬間、イザベラの横っ面から爆発の煙が上がった。
僕らは同時に海の方を見る。そこには……こちらへ向かって砲撃する、4隻の戦艦があった。
……
「ええ、私たちの力、それはもうたっぷり見せてあげるわ……副司令ッ! 準備はどうッ!」
「あぁ、バッチリだッ! テストなしシミュレーションなしのぶっつけ本番、いつでも行けるぜッ!」
「あぁ、結局こうなるのか……また修理が大変だぁッ!」
「それも全部勝ってからの話ですよッ! 司令、こちらもいつでも行けますッ!」
「了解、それじゃ行くわよッ!」
司令のその声と同時に、手に持っていた所員証が入ったケース……その中から、鍵を取り出す。
「さぁ、テンション上げていくわよ……グローゥィリー・シップッ、承認ッ!」
それを、目の前のコンソールに設置された鍵穴へ向かって……一気にブチ刺したッ!!!
ガキィンッ!!!
押し込まれた鍵によって封印されていたコンソールが解放、同時に梶野オペレータの前に最終解放タッチ画面が現れたッ!!!
「承認確認ッ! グローリー・シップ、ジョイント・フォメーション、コレクト……アンド、ネイル・アーップッ!」
そして僅かな時間さえ惜しんだ梶野はコンソールへ必要な情報を入力した後、画面に映った最終承認タッチのアイコンを……
バリィンッ!!!
正拳突きで、貫いた。
ブブゥーッ!!!
瞬間、僕らテラレグルスの周辺にいた戦艦たちからアラームが鳴り響く。
同時に背部に付いていたブースターが一斉に点火し……大きな炎を上げる。
そして船の切っ先が空を向くと……なんと、戦艦が大空へ飛びあがったッ!!!
「な……ッ!?」
「ネイル・コネクトッ!!!」
舞い上がった戦艦たちは艦橋部分を内部に収納、その代わりに鋼鉄の壁を纏いながらテラレグルスの右手へと飛んでいき、そのまま彼女の指に接続される。
接続面から甲高い金属音が響き、最後に巨大なリングが接続されジョイントの固定がされる。瞬間、テラレグルスは右手を動かす。機体と完全に一体化した鉄の爪が、金属の軋みを上げて彼女の指と共に動く。
彼女の指が4本指……つまり人間より指が一本少ないため、僕は中指と薬指を合わせ一本の指をコントロール下へと置く。
そうした手の形のシルエットが、竜の掌のようで……僕は、少し笑みを浮かべた。
ドゥウルルルルルルルルルルルルゥッ!!!
そしてジェネレータエンジンユニットである爪身から流れてくるエネルギーのまま……僕らは、魂から溢れる声を叫ぶッ!
「爪・心・合・体……ドラグオン・フィンガーッ!!!」
瞬間……ドラグオン・フィンガーが、ギラリッ、と獰猛な光を走らせたッ!
テラレグルスに接続された巨大な鋼爪。その姿にイザベラは、しかし冷静さを保ったままだった。
「ふん……それが何なのよ。だったら、こっちも奥の手を見せてあげるわッ! ビットッ!」
そうイザベラが叫ぶと、彼女の周囲を舞い上がっていたビットがクォールハンマーを大きく囲む。
瞬間……ビットから強力な電磁波が発せられたッ!
「はぁぁぁぁぁ……ッ!」
そしてそれぞれの磁場が接続、クォールハンマーを覆うようにして発生した磁場は……まるで、さらに巨大なハンマーの形を形成するッ!
「対惑星破壊兵器……ッ、クォールクラッシャーッ!!!」
それは、山どころか山嶺をハンマーにしたような電磁武器。
まさに都市を圧し潰そうとするかのごとくクォールクラッシャーを掲げ、イザベラはニヤリと笑う。
「さぁ、行くわよ……堪えられそうにないのなら避けても構わないわ。その時は、あんた達の街はペシャンコになっちゃうけどねぇッ!」
そうしてイザベラは大きく構えを取る。このまま振り下ろす気だ。
「……どうする、ハツネさん」
「――そんなのわかりきっているでしょう、勇」
「うん、そうだよね。だって僕らは……」
そして僕らは……手に装備された鋼爪を軋ませる。
ギシイィ……ッ!!!
「正義の、味方だからッ!!!」
そして、頭上のイザベラへ向かって、構えを取ったッ!
「はぁ……ッ、喰らいなさぁいッ!!!」
瞬間……イザベラのハンマーが、僕らに向かって振り下ろされるッ!
「はぁああああああッ!!!」
同時に、それを迎撃するように僕らは鋼爪ドラグオン・フィンガーを、迫り来るハンマーの面へ向かって振り上げたッ!
そして天地が合わさるように、振り下ろされた武器と振り上げた武器が重なった瞬間……
――ドッガァアアアアアアアアアンッ!!!
激しいエネルギーの衝撃波が、辺りへ響き渡るッ!
ガァァァァァァァァァァッ!!!
それに続くように、クォールクラッシャーの電磁場が弾ける音とドラグオン・フィンガーに形成された超高圧エネルギーフィールドが軋む音が交錯するッ!
ガガッ、ガガガガガ……ッ!
そして……クォールクラッシャーが、その巨大な槌身をドラグオン・フィンガーへと押し付けてきたッ!
「ほらほらほらぁッ、どうしたのッ! このままだと負けちゃうわよ、正義の味方さぁんッ!」
「おぉおおおおお……ッ!」
「――勇ッ!」
「あぁ、わかってる、ハツネさん……僕たちは」
ガガッ、ガガガガ……ッ
「こんなところで……」
ガッ、ガ、ガ、ガ……ッ
「……負けたりなんか、しないッ!!!」
ガッ、ガガ、ガ、ガ、ガァ……ッ!
「うおお……おおおおおおぉっ!!!」
ガ……ッ、ピキ、ピキ……ッ!
「なッ……ま、まさかッ!?」
瞬間、クォールクラッシャーを掴む手から何かが砕ける音が聞こえる。
指が動く……ッ!
そう咄嗟に感じた僕はドラグオン・フィンガーの内臓エンジンをさらに回転させ、エネルギー磁場へ向かい一気に力を入れる。すると、指先に形成された超高圧エネルギーフィールドが、クォールクラッシャーに発生した磁場を砕き割っていくッ!
ピッ、ピキピキピキッ、ピキ……バリッ!
「う、嘘よッ! こんなことあるはずが……ッ、あ、あぁッ!」
僕らはどんどん腕をクォールハンマーの磁場の中へ突っ込んでいき……ついにハンマー本体を掴み取るッ!!!
「はぁあああああああああッ!!!」
グッ、グゥウウウ……ッ!!!
硬いハンマー本体を掴み取った僕らは、そのまま力を込める。それと同時に、巨大な槌身がひび割れる音が辺りに響き渡ったッ!
……ピキッ、ピキピキピキ……ッ!
「あ、ありえない……こんなのありえないわ……ッ! わ、私のクォールハンマーが、負けるなんて、ありえ――」
「おおおおおおおぉッ!!!」
さらに僕らは力を入れる。
ネイルに、指に、腕に、渾身の力を込めて……クォールハンマーを握り潰すためにッ!
瞬間……テラレグルスの金属筋肉が、大きく唸りを上げた。
「おおおぉ……ウオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
グシャ……
そして。
グ……グシャアアアアアアアアアアッ!!!
ついに……イザベラのクォールハンマーを、掴み砕いたッ!!!
「あ……あぁあああああッ!!!」
そして、驚愕に目を見開くイザベラへ向かって再びドラグオン・フィンガーを構えるッ!
「ま、待ちなさいッ! そ、それ以上は止めな――」
「――あなたは、それで星の皆への攻撃を止めたのですか?」
「あ……」
「……鋼・鉄・圧・砕ッ!!!」
そして僕らは突き出した手で彼女の身体を掴み……ネイルに力を込め、中心のコアごと敵を圧し潰したッ!!!
「レグルス・プレッシャアアアアアアアアァァァァァッ!!!」
グシャアアアアアアアアアアアッ!!!
「あ……あぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
襲い掛かる鋼爪の圧殺。全身が超圧力によって潰される感覚に、イザベラは悶える。
これは正解なのか……そう思いながらも、僕は攻撃を止めない。
彼女らが、この星を奪おうとする限りッ!
グシャアアアアアアアアァッ!!!
「あ、あ、あぁ……ぐ、グアテガル様ぁ……ッ!!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
ヒュ――ドガァァァァァァァァンッ!!!
そして、彼女の身体が爆発した。押し潰される苦しみを味わいながら……イザベラは、光となって消えていった。
……
「……うん、バイタル問題なし。でもしばらくは安静よ。よく反省してね、勇君」
「……はい」
戦闘が終わった後。僕は再びGVの医療室のベッドで横になっていた。
幸い傷口は開いてなかったが、それでも大怪我を負った後ということで、絶対安静を言い渡された。仕方ないとはいえ、少し辛い。
「……」
そしてずっと側にいるハツネさんが、ずっと僕を見つめていることが気になってしょうがなかった。
「あ、あの、ハツネさん……どうしてそんなに僕を見つめてくるの?」
「当然です。私たちは共に戦う仲なのです。なら常に側にいるのは当然でしょう」
そういう意味で言ったんじゃないんだけどな……。
だがハツネさんはそんな僕の気持ちを気にせず、ギュッと手を握ってくる。
「大丈夫ですか勇。どこか痛いところはありませんか。苦しくないですか。そうです、リンゴを食べましょう。こういう時はリンゴを食べるのが地球の習慣だそうです」
「だ、大丈夫、大丈夫だから……」
「遠慮しないで下さい。ほら、ここに丁度よくリンゴが。それじゃ、皮を剥きますね……」
ガリッ。
「……」
「……」
言わんこっちゃない。ハツネさんは一剥き目からモロに指をナイフで抉った。
幸いハツネさんのボディは金属だ。見ると切り傷どころか凹みすら存在しない。頑丈で助かった。
「……ふふっ、ふふ……」
でも、駄目だった。僕は笑いを抑えきれなかった。
「も、もうッ! 笑わないで下さい勇ッ! これでも私は真面目にやってるんですよ!」
「ご、ごめん、でも何だかおかしくって……」
僕は笑いが止まらず、ハツネさんも終始膨れ顔だった。
けれど、心地よかった。
何だか落ち着ける時間が僕らの間に流れて……とても、幸せな気分になれた。
そう言って待ってるのはイザベラ。
夜明け前の空に輝く黄金の『鋼衣』は、まるで暁の太陽のようだ。
そこに、僕らも現れる。白銀の光に包まれ現れるテラレグルスの姿は、まるで今正に沈みかけている月のよう。
「来たわね。流石に腕の方は修理できなかったみたいだけど……覚悟は決めてきたのかしら?」
「……もちろんです」
そう強く言い切るハツネさんの声に、もう迷いはない。僕らは構えを取る。
「私たちは、あなたを倒す。何があっても……絶対にッ!」
ダッ!!!
そして、戦いが始まった。
「はぁッ!」
駆けだした僕らへ向かって、イザベラはクォールハンマーを振りかぶる。僕は減速し警戒するような動きを見せ……その行動をフェイントに、身体を屈めながら前へ出た。
ガッ!
「ッ!?」
イザベラと彼女に接近した低空姿勢のテラレグルスが肉薄する。ハンマーの柄を掴み、攻撃力が最小になる地点で受け止めた僕ら。そしてそのまま相手の身体を掴み上げ、柔道の形車の要領でイザベラを横へ投げ飛ばしたッ!
ブオォンッ!
「くっ……!」
それをイザベラは間一髪で受け身を取る。辺りの山面が、スライディングで抉り取られる。
「アンタバカなの!? あんな近づいたらタダじゃ済まな……」
「タダで済ますつもりはもうありません」
「ッ!」
「あのままだと街に被害が出てました。だからあれが正解です。それに……私と勇は、もう覚悟を決めましたから」
そう言い切ったハツネさんの言葉に、イザベラは硬直する。
「私たちは、あなたたちを倒す……我がセレーラ星を奪い皇帝を名乗る無礼者、グアテガルまでもッ!!!」
「……はッ、それ本気で言ってるわけ? 言っとくけどそれって銀河団一千万を超える兵力を持ち、さらにそれと比肩する皇帝陛下までも倒すということよッ! そんなことあなたたちに出来るわけ――」
「やってみせるさ」
そこに、僕は口を挟む。その言葉に、イザベラは言葉を失った。
「グアテガルって男がどんな奴かは知らない」
この先に何が待っているかもわからない。もしかしたら地獄が待ってるかもしれない。
「だけど、その男がハツネさんを苦しめる敵というなら」
彼女を困らせるというのなら。
「例え銀河の果てまで行ってでも……僕は絶対に、グアテガルを倒してみせるッ!」
それが……僕の決意だ。
僕の言葉に、イザベラはしばらく無言になる。
「……そう。あくまで陛下に歯向かうのね」
そして、イザベラも構えを取る。
「ならまずはこの私、皇帝陛下が腹心、イザベラが相手になるわッ!」
それと同時に、再び彼女のスカートのドローンが飛翔する。
「さぁ、やれるならやってみなさいッ! さっきたった一撃で気絶したアンタらの力、見せてみなさ……くァッ!?」
瞬間、イザベラの横っ面から爆発の煙が上がった。
僕らは同時に海の方を見る。そこには……こちらへ向かって砲撃する、4隻の戦艦があった。
……
「ええ、私たちの力、それはもうたっぷり見せてあげるわ……副司令ッ! 準備はどうッ!」
「あぁ、バッチリだッ! テストなしシミュレーションなしのぶっつけ本番、いつでも行けるぜッ!」
「あぁ、結局こうなるのか……また修理が大変だぁッ!」
「それも全部勝ってからの話ですよッ! 司令、こちらもいつでも行けますッ!」
「了解、それじゃ行くわよッ!」
司令のその声と同時に、手に持っていた所員証が入ったケース……その中から、鍵を取り出す。
「さぁ、テンション上げていくわよ……グローゥィリー・シップッ、承認ッ!」
それを、目の前のコンソールに設置された鍵穴へ向かって……一気にブチ刺したッ!!!
ガキィンッ!!!
押し込まれた鍵によって封印されていたコンソールが解放、同時に梶野オペレータの前に最終解放タッチ画面が現れたッ!!!
「承認確認ッ! グローリー・シップ、ジョイント・フォメーション、コレクト……アンド、ネイル・アーップッ!」
そして僅かな時間さえ惜しんだ梶野はコンソールへ必要な情報を入力した後、画面に映った最終承認タッチのアイコンを……
バリィンッ!!!
正拳突きで、貫いた。
ブブゥーッ!!!
瞬間、僕らテラレグルスの周辺にいた戦艦たちからアラームが鳴り響く。
同時に背部に付いていたブースターが一斉に点火し……大きな炎を上げる。
そして船の切っ先が空を向くと……なんと、戦艦が大空へ飛びあがったッ!!!
「な……ッ!?」
「ネイル・コネクトッ!!!」
舞い上がった戦艦たちは艦橋部分を内部に収納、その代わりに鋼鉄の壁を纏いながらテラレグルスの右手へと飛んでいき、そのまま彼女の指に接続される。
接続面から甲高い金属音が響き、最後に巨大なリングが接続されジョイントの固定がされる。瞬間、テラレグルスは右手を動かす。機体と完全に一体化した鉄の爪が、金属の軋みを上げて彼女の指と共に動く。
彼女の指が4本指……つまり人間より指が一本少ないため、僕は中指と薬指を合わせ一本の指をコントロール下へと置く。
そうした手の形のシルエットが、竜の掌のようで……僕は、少し笑みを浮かべた。
ドゥウルルルルルルルルルルルルゥッ!!!
そしてジェネレータエンジンユニットである爪身から流れてくるエネルギーのまま……僕らは、魂から溢れる声を叫ぶッ!
「爪・心・合・体……ドラグオン・フィンガーッ!!!」
瞬間……ドラグオン・フィンガーが、ギラリッ、と獰猛な光を走らせたッ!
テラレグルスに接続された巨大な鋼爪。その姿にイザベラは、しかし冷静さを保ったままだった。
「ふん……それが何なのよ。だったら、こっちも奥の手を見せてあげるわッ! ビットッ!」
そうイザベラが叫ぶと、彼女の周囲を舞い上がっていたビットがクォールハンマーを大きく囲む。
瞬間……ビットから強力な電磁波が発せられたッ!
「はぁぁぁぁぁ……ッ!」
そしてそれぞれの磁場が接続、クォールハンマーを覆うようにして発生した磁場は……まるで、さらに巨大なハンマーの形を形成するッ!
「対惑星破壊兵器……ッ、クォールクラッシャーッ!!!」
それは、山どころか山嶺をハンマーにしたような電磁武器。
まさに都市を圧し潰そうとするかのごとくクォールクラッシャーを掲げ、イザベラはニヤリと笑う。
「さぁ、行くわよ……堪えられそうにないのなら避けても構わないわ。その時は、あんた達の街はペシャンコになっちゃうけどねぇッ!」
そうしてイザベラは大きく構えを取る。このまま振り下ろす気だ。
「……どうする、ハツネさん」
「――そんなのわかりきっているでしょう、勇」
「うん、そうだよね。だって僕らは……」
そして僕らは……手に装備された鋼爪を軋ませる。
ギシイィ……ッ!!!
「正義の、味方だからッ!!!」
そして、頭上のイザベラへ向かって、構えを取ったッ!
「はぁ……ッ、喰らいなさぁいッ!!!」
瞬間……イザベラのハンマーが、僕らに向かって振り下ろされるッ!
「はぁああああああッ!!!」
同時に、それを迎撃するように僕らは鋼爪ドラグオン・フィンガーを、迫り来るハンマーの面へ向かって振り上げたッ!
そして天地が合わさるように、振り下ろされた武器と振り上げた武器が重なった瞬間……
――ドッガァアアアアアアアアアンッ!!!
激しいエネルギーの衝撃波が、辺りへ響き渡るッ!
ガァァァァァァァァァァッ!!!
それに続くように、クォールクラッシャーの電磁場が弾ける音とドラグオン・フィンガーに形成された超高圧エネルギーフィールドが軋む音が交錯するッ!
ガガッ、ガガガガガ……ッ!
そして……クォールクラッシャーが、その巨大な槌身をドラグオン・フィンガーへと押し付けてきたッ!
「ほらほらほらぁッ、どうしたのッ! このままだと負けちゃうわよ、正義の味方さぁんッ!」
「おぉおおおおお……ッ!」
「――勇ッ!」
「あぁ、わかってる、ハツネさん……僕たちは」
ガガッ、ガガガガ……ッ
「こんなところで……」
ガッ、ガ、ガ、ガ……ッ
「……負けたりなんか、しないッ!!!」
ガッ、ガガ、ガ、ガ、ガァ……ッ!
「うおお……おおおおおおぉっ!!!」
ガ……ッ、ピキ、ピキ……ッ!
「なッ……ま、まさかッ!?」
瞬間、クォールクラッシャーを掴む手から何かが砕ける音が聞こえる。
指が動く……ッ!
そう咄嗟に感じた僕はドラグオン・フィンガーの内臓エンジンをさらに回転させ、エネルギー磁場へ向かい一気に力を入れる。すると、指先に形成された超高圧エネルギーフィールドが、クォールクラッシャーに発生した磁場を砕き割っていくッ!
ピッ、ピキピキピキッ、ピキ……バリッ!
「う、嘘よッ! こんなことあるはずが……ッ、あ、あぁッ!」
僕らはどんどん腕をクォールハンマーの磁場の中へ突っ込んでいき……ついにハンマー本体を掴み取るッ!!!
「はぁあああああああああッ!!!」
グッ、グゥウウウ……ッ!!!
硬いハンマー本体を掴み取った僕らは、そのまま力を込める。それと同時に、巨大な槌身がひび割れる音が辺りに響き渡ったッ!
……ピキッ、ピキピキピキ……ッ!
「あ、ありえない……こんなのありえないわ……ッ! わ、私のクォールハンマーが、負けるなんて、ありえ――」
「おおおおおおおぉッ!!!」
さらに僕らは力を入れる。
ネイルに、指に、腕に、渾身の力を込めて……クォールハンマーを握り潰すためにッ!
瞬間……テラレグルスの金属筋肉が、大きく唸りを上げた。
「おおおぉ……ウオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
グシャ……
そして。
グ……グシャアアアアアアアアアアッ!!!
ついに……イザベラのクォールハンマーを、掴み砕いたッ!!!
「あ……あぁあああああッ!!!」
そして、驚愕に目を見開くイザベラへ向かって再びドラグオン・フィンガーを構えるッ!
「ま、待ちなさいッ! そ、それ以上は止めな――」
「――あなたは、それで星の皆への攻撃を止めたのですか?」
「あ……」
「……鋼・鉄・圧・砕ッ!!!」
そして僕らは突き出した手で彼女の身体を掴み……ネイルに力を込め、中心のコアごと敵を圧し潰したッ!!!
「レグルス・プレッシャアアアアアアアアァァァァァッ!!!」
グシャアアアアアアアアアアアッ!!!
「あ……あぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
襲い掛かる鋼爪の圧殺。全身が超圧力によって潰される感覚に、イザベラは悶える。
これは正解なのか……そう思いながらも、僕は攻撃を止めない。
彼女らが、この星を奪おうとする限りッ!
グシャアアアアアアアアァッ!!!
「あ、あ、あぁ……ぐ、グアテガル様ぁ……ッ!!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
ヒュ――ドガァァァァァァァァンッ!!!
そして、彼女の身体が爆発した。押し潰される苦しみを味わいながら……イザベラは、光となって消えていった。
……
「……うん、バイタル問題なし。でもしばらくは安静よ。よく反省してね、勇君」
「……はい」
戦闘が終わった後。僕は再びGVの医療室のベッドで横になっていた。
幸い傷口は開いてなかったが、それでも大怪我を負った後ということで、絶対安静を言い渡された。仕方ないとはいえ、少し辛い。
「……」
そしてずっと側にいるハツネさんが、ずっと僕を見つめていることが気になってしょうがなかった。
「あ、あの、ハツネさん……どうしてそんなに僕を見つめてくるの?」
「当然です。私たちは共に戦う仲なのです。なら常に側にいるのは当然でしょう」
そういう意味で言ったんじゃないんだけどな……。
だがハツネさんはそんな僕の気持ちを気にせず、ギュッと手を握ってくる。
「大丈夫ですか勇。どこか痛いところはありませんか。苦しくないですか。そうです、リンゴを食べましょう。こういう時はリンゴを食べるのが地球の習慣だそうです」
「だ、大丈夫、大丈夫だから……」
「遠慮しないで下さい。ほら、ここに丁度よくリンゴが。それじゃ、皮を剥きますね……」
ガリッ。
「……」
「……」
言わんこっちゃない。ハツネさんは一剥き目からモロに指をナイフで抉った。
幸いハツネさんのボディは金属だ。見ると切り傷どころか凹みすら存在しない。頑丈で助かった。
「……ふふっ、ふふ……」
でも、駄目だった。僕は笑いを抑えきれなかった。
「も、もうッ! 笑わないで下さい勇ッ! これでも私は真面目にやってるんですよ!」
「ご、ごめん、でも何だかおかしくって……」
僕は笑いが止まらず、ハツネさんも終始膨れ顔だった。
けれど、心地よかった。
何だか落ち着ける時間が僕らの間に流れて……とても、幸せな気分になれた。
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