竜女王テラレグルス

未来おじさん

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第3.5話 Eパート~Fly High~

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「……やはり、決着を付けなければならないようですね」
「そうね、あたしもそう思ってたわ」
 二人の間に、一触即発の空気が流れる。
 元々は敵同士、かつリアナさんはハツネさんにとって仇の仲間だ。そうなるのは自然の道理だろう。
 二人は構える。互いに睨みあい、そして、足を深く踏み込んで……
「では、始めましょう――反復横跳び勝負をッ!」
 反復横跳びを、始めた。
「……なんだかんだ平和的に解決してくれて助かるぜ」
 そうため息を吐く海堂副司令の隣で僕は頷く。ちなみに僕は1分間10回だった。
「本当に、リアナさんには敵意がないみたいですね」
「みたいだな。今日とかお前を暗殺しないのかずっと監視してたんだが、殺気はなかった。本気で星の風習とやらを守る気らしいな」
 俊敏に動く二人を見てたらちょっと怖い言葉が聞こえた気がするけど、確かにそうだ。
 リアナさんは元々僕ら人間サイズの大きさらしく、巨大化変身するには特製の薬が必要らしい。逆に言えばもう敵に戻る気もないということなので、『鋼衣』はもう着ることもないだろうという。
 ある意味では敵にも、そして味方にもならないと言える。敵にならないのはありがたいが、正直ハツネさんの負担は高いままだということが少し心に引っかかってる。おそらく、僕らの壮絶な闘いはこれからも続くのだろう。
「……大丈夫だ」
 ぽん、と肩に手を置いたのは海堂副司令だ。そのいかつい顔には笑みが浮かんでいる。
「不安なこともあるだろうが、俺らもいるんだ。いざとなったらお前らを全力で守ってやる。だから気にすんな、とは言わねぇが……まぁ、頼りになるよう頑張ってやんよ」
 その海堂副司令の言葉に……僕はどこか安心した。
 一人……いや、二人だけじゃない。そう思えることがすごく心地よかった。戦う僕らを支えくれる人がいるというだけで、こんなに心が安らぐなんて……僕は思わずむず痒さを感じた。
 僕らだけじゃない。そう思うだけで力が湧いてくるような気がした。多分、これからも強いラスタ・レルラと戦うことになるだろう。でも、乗り切れる気がする。
 この、GVの皆とのチームなら……
「勇! 見て下さいッ!」
「え……、ッ!!!」
 ふとそう言われてハツネさんの方を見ると……
  ぷるんぷるんぷるんぷるんぷるんっ!
 胸が、激しく揺れていた。
 あまりにも激しく反復横跳びする余り、胸が激しく上下に跳ねていたのだッ!
「私が圧倒的に勝ってますよ! どうです、これで私の方がすごいとわかったでしょうッ!」
「油断してんじゃないわよッ! こっからがあたしの本気よッ! それッ!」
 今度はリアナさんがそう叫ぶ。
 ぷるんぷるんぷるんぷるんぷるんぷるんっ!
 彼女も激しく胸が揺れていた。それなりに大きいハツネさんよりもさらに大きいリアナさんの胸は、それはもうダイナミックに揺れるッ!
「はぁ、はぁ、はぁっ! ふふ、あたしは昔から身体を鍛えてるのっ! ゾルレナス星式格闘術を修めたあたしに、反射神経で勝てると思ってるのかしらッ!」
 ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるんッ!
 その言葉通りリアナさんは怒涛の追い上げを見せ、どんどん電子カウント式計測装置の数が高まっていく。ハツネさんとの差も縮まっていく一方だ。
 でもその前に胸がすごく揺れてるッ! すごいッ!
「くっ……敗けません、勇のためにぃ……っ!」
「ダーリンは、私のものにするんだからぁ……っ!」
 え、これってそういう勝負だったの!?
 そういう突っ込みを入れるのも野暮なくらい、二人の闘いはヒートアップしていた。脚の動きはもはや肉眼では追い切れないぐらい加速し、けれど二人はしっかり床を蹴ってカウントの線を跨いでいく。そして、それに併せて胸も激しく飛び跳ねていく。
 ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるんッ!
「あ、あ、あ、あぁ……」
 僕は視線を二人の顔に戻したくても、もう戻せなかった。胸の揺れが激し過ぎる。
  見ては駄目だ。そう思うのに、眼が勝手に胸へ注目してしまう。
「ぐぅうううう……ッ!」
「んぅううぅううう……ッ!」
 二人の顔が切なげに歪む。一生懸命声を漏らすまいと唇を結び、けれどそれでも漏れる苦悶の吐息に、僕は身体中が脈打つのを感じる。
 そしてそんなことをしてる間に、残り時間が10秒を切ったッ!
「ラスト……スパートぉ……ッ!」
「絶対ぃ……負けないぃ……ッ!」
 二人の動きが、さらに俊敏になる。残像すら浮かぶ身体の動きに、さらに胸が激しく躍動する。
 火花を散らせる二人。そして舞い上がっていく僕。ドクッ、ドクッ、と心臓の高鳴りが増していく度に身体が熱くなっていく僕。どんどん頭がぼうっとする中、血の脈流が増し頭へ血液が過剰に流しこまれていった僕は……
「ラス、トぉおおおおおッ!」
「はぁああああああああッ!」
 ぷるうぅぅんッ!
「ぶッ!」
 二人の胸が一段と激しく揺れるのを見守った上で。
「おい、勇どうし……」
 ブパァァァァァッ!
「うおえぇぇッ!?」
 激しく鼻血をまき散らしながら、空へと舞い上がったのだった。
「い、勇ぅっ!?」
「ちょ、ダーリぃンっ!」
 そしてその最中で見たのは……
「お、おい勇っ、勇ぅううううッ!」
 海堂副司令が持つ検査ボードから見えた……

 氷室 初音……F
 秋山 莉奈(リアナ)……H

 という、謎の文字だった。
「ぷは……っ」
 そして僕は、意識を失った。

 ……

「……はっ!」
「起きましたか、勇」
「あぁ、ハツネさん……ぼ、僕は一体何を……え!?」
 謎の気絶から蘇った僕が見たのは、下からハツネさんを見上げている光景。ローアングルな視点から見るこの光景は、もしかして……
「駄目ですよ勇。まだ疲れてるかもしれません。大人しく私の膝枕の上で眠って下さい」
「ひざまく……っ!?」
 僕は反射的に飛び上がろうとするが、ハツネさんが手で身体を抑えるため敵わない。
 あぁ、僕はハツネさんにも力で敵わないくらい弱いんだな……期せずして、そんなことを思い知らされてしまった。
「回復するまで、ゆっくりしていて下さい。その間、勝者の私の膝枕で寝てていいですから」
「ふん、たった1回だったのに偉そうに言うわね」
 そう頬を膨らますのは、リアナさん。既に着替えた彼女は疲れを癒しているのか、アイスを舐めていた。毒っぽくカラフルな色をしたアイスは彼女らしいと思った。
「ま、でも……敗けは敗けか。仕方ないから、正妻の座はあなたに譲るわ」
「せ、せいさい……?」
 ぼうっとした頭では彼女たちの言ってることはよくわからない。けれどその言葉を聞いてハツネさんは満足気に頷いた。
「当然です、勇は私の王子ですから。ラスタ・レルラを殲滅するために私と一緒に戦ってもらわなければなりませんからね」
 あぁ、そういう意味か、やっとわかった……そう考えてると、途端に眠気が湧き上がってくる。
「勇、まだ眠いなら眠っていいですよ。今日のところはどうやらラスタ・レルラが現れる兆候はありませんから」
 そっか。でも、それなら……
「……ハツネ、さんも、休みなよ……」
「……え?」
「だって、ハツネさんもずっと闘いっぱなしだったし……今日ぐらいは休んで、次に備えよう……」
「で、ですが私はコアで動いてますので、そんな休憩する必要は……」
「でも……今日も頑張ったから……」
「ッ!!!」
 瞬間、ハツネさんは驚いた顔をして……
「……わかりました。では、私も本日はゆっくりしますね。こうして、勇と一緒に……」
 そう言って、ハツネさんは僕の頭をぽんぽんし始めた。とても……心地いい。
「勇、今日はゆっくりしましょうね……そして、また頑張りましょう。この星を、守るために……」
 うん、そうだね……
 そう言いたかったけど、もう上手く口が動かない。眠気が激しくなって、また意識が薄れていく。
 そして、その微睡の刹那に見たのは……
「……ふふ」
 ハツネさんの、優しい笑顔だった。
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