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第3.5話 Dパート~バーベル囁き音声~
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「さ、次はウェイトリフティングだ。ここに寝て、バーベルをあげてみろ」
「……はい」
トレーニグルーム、本当の意味で憂鬱なイベントが始まった。
僕は寝て、目の前のバーベルの持ち手を握る。
「さ、まずはこれで上げてみろ」
そう言って何もつけてない状態でバーベルを持たせる。
そして、僕はぐっと目の前へ向かって力を入れ……
……
1ミリも持ち上げることが出来なかった。
「んっ、んぅう……っ!」
「……あー、大丈夫だ。ま、ウチのは特別製でこの錘つけてない状態でも20kgあるんだ、気にすんなよ」
そうフォローしてくれる副司令の言葉が胸に刺さった。正直、どこか惨めな気持ちになりながらバーベルから退こうとした、その時……
「……駄目よダーリン、諦めちゃ」
「っ!?」
突然耳元から、リアナさんの声が聞こえた。
「ほら、ちゃんとあたしがサポートしてあげる……だからあたしの言うとおりにやってみて?」
「え、あ、はい……っ!」
そして僕が反射的に頷くと、うふっ……と小さい声を漏らしながら耳元に声を掛ける。
「ほら、まずはバーベルを優しく握って……持ち上げる前からそんな力を入れなくていいわよ? 力を抜いた状態で、手は肩幅の間隔をとって……」
緊張した僕はリアナさんの言うとおりに持ってみる。相変わらず力は入っていたが、なんだかこれまでと違う気がする。
どこか、力が入るような……
「そう、それでいいの……それで、そのまま持ち上げてみて……ゆっくり、ゆっくりでいいからね……」
その言葉に従い、僕はバーベルを上げてみる。すると、少しだけ持ち上がった気がする……すごい!
だが、次の瞬間。
「……ふぅっ」
「ひぅうっ!?」
リアナさんが、耳に息を吹きかけてきた。
「くす、駄目じゃない。そんな突然力を抜いちゃ」
「だ、だってリアナさんが突然……」
「あら、あたしはただ呼吸をしただけよ……全く、えっちなんだから、ダーリン」
「うぁ……っ!」
リアナさんの言葉が、耳に響く。くすくすと微笑する声が骨にまで響いてるようで……力が入らない。
こ、こんな状態でバーベルを持ち上げられるわけ……っ!
「……駄目ですよ、勇。集中しないと」
「っ!?」
そして今度は、ハツネさんが逆側から耳元に囁いてきた!
「もっとしっかりバーベルを握って……腕に力を入れるのです。前に押し出すように……そうすれば、きっとバーベルは持ち上がるはずです」
「うぁあああ……っ!」
ハツネさんのハスキーボイスが耳の中に広がる。耳管の中に溶け込んでいく声はどこか魔性を併せ持っていて……僕の体から、どんどん力を奪っていく。
「ほら、駄目ですよ……もっと、しっかりなさい」
「もう、駄目よそんな厳しくしちゃ……ダーリンだって頑張ってるじゃない」
「駄目です。勇には、もっとしっかりしてもらわなくてはなりませんから……」
「ふふふ、そんな虐めちゃかわいそうじゃなぁい……」
両耳から、二人の声が囁かれる。甘い女性らしい音色はまるで脳内にしみこんでくるように甘く……脳を溶かしていく。
その甘やかな響きに……僕の脳はどんどん沸騰を増していく。
「ほぉらダーリン、頑張れ、頑張れ♪ あたしがいっぱい応援してあげる……♪」
「もっとしっかりして下さい、勇……もっと私に、男らしいところを見せて……」
そしてそれと相乗するように加速していく二人の甘い囁き。その蕩けるような声に囲まれて脳をドロドロにされた僕は、目の前が霞んできたのを感じる。
「さぁ、上げてダーリン。このままバーベルを上げて……」
「ファイトです勇。あなたなら出来る。きっと出来る……だから」
そして……二人はとどめの一撃を与える。
「あ・げ・て……」
甘く、柔らかい声で……
「……あぁあああああああああああッ!!!」
そして、僕は上げた。
体にたまる何かを発散するように。体からの発露を前方に押し出すように。
僕は、バーベルを初めて持ち上げることができた。
「……あー、一回だけじゃ駄目なんだよな。五回はあげねぇと」
そして僕は重さに負けて、胸へバーベルを落とすのだった。
「……はい」
トレーニグルーム、本当の意味で憂鬱なイベントが始まった。
僕は寝て、目の前のバーベルの持ち手を握る。
「さ、まずはこれで上げてみろ」
そう言って何もつけてない状態でバーベルを持たせる。
そして、僕はぐっと目の前へ向かって力を入れ……
……
1ミリも持ち上げることが出来なかった。
「んっ、んぅう……っ!」
「……あー、大丈夫だ。ま、ウチのは特別製でこの錘つけてない状態でも20kgあるんだ、気にすんなよ」
そうフォローしてくれる副司令の言葉が胸に刺さった。正直、どこか惨めな気持ちになりながらバーベルから退こうとした、その時……
「……駄目よダーリン、諦めちゃ」
「っ!?」
突然耳元から、リアナさんの声が聞こえた。
「ほら、ちゃんとあたしがサポートしてあげる……だからあたしの言うとおりにやってみて?」
「え、あ、はい……っ!」
そして僕が反射的に頷くと、うふっ……と小さい声を漏らしながら耳元に声を掛ける。
「ほら、まずはバーベルを優しく握って……持ち上げる前からそんな力を入れなくていいわよ? 力を抜いた状態で、手は肩幅の間隔をとって……」
緊張した僕はリアナさんの言うとおりに持ってみる。相変わらず力は入っていたが、なんだかこれまでと違う気がする。
どこか、力が入るような……
「そう、それでいいの……それで、そのまま持ち上げてみて……ゆっくり、ゆっくりでいいからね……」
その言葉に従い、僕はバーベルを上げてみる。すると、少しだけ持ち上がった気がする……すごい!
だが、次の瞬間。
「……ふぅっ」
「ひぅうっ!?」
リアナさんが、耳に息を吹きかけてきた。
「くす、駄目じゃない。そんな突然力を抜いちゃ」
「だ、だってリアナさんが突然……」
「あら、あたしはただ呼吸をしただけよ……全く、えっちなんだから、ダーリン」
「うぁ……っ!」
リアナさんの言葉が、耳に響く。くすくすと微笑する声が骨にまで響いてるようで……力が入らない。
こ、こんな状態でバーベルを持ち上げられるわけ……っ!
「……駄目ですよ、勇。集中しないと」
「っ!?」
そして今度は、ハツネさんが逆側から耳元に囁いてきた!
「もっとしっかりバーベルを握って……腕に力を入れるのです。前に押し出すように……そうすれば、きっとバーベルは持ち上がるはずです」
「うぁあああ……っ!」
ハツネさんのハスキーボイスが耳の中に広がる。耳管の中に溶け込んでいく声はどこか魔性を併せ持っていて……僕の体から、どんどん力を奪っていく。
「ほら、駄目ですよ……もっと、しっかりなさい」
「もう、駄目よそんな厳しくしちゃ……ダーリンだって頑張ってるじゃない」
「駄目です。勇には、もっとしっかりしてもらわなくてはなりませんから……」
「ふふふ、そんな虐めちゃかわいそうじゃなぁい……」
両耳から、二人の声が囁かれる。甘い女性らしい音色はまるで脳内にしみこんでくるように甘く……脳を溶かしていく。
その甘やかな響きに……僕の脳はどんどん沸騰を増していく。
「ほぉらダーリン、頑張れ、頑張れ♪ あたしがいっぱい応援してあげる……♪」
「もっとしっかりして下さい、勇……もっと私に、男らしいところを見せて……」
そしてそれと相乗するように加速していく二人の甘い囁き。その蕩けるような声に囲まれて脳をドロドロにされた僕は、目の前が霞んできたのを感じる。
「さぁ、上げてダーリン。このままバーベルを上げて……」
「ファイトです勇。あなたなら出来る。きっと出来る……だから」
そして……二人はとどめの一撃を与える。
「あ・げ・て……」
甘く、柔らかい声で……
「……あぁあああああああああああッ!!!」
そして、僕は上げた。
体にたまる何かを発散するように。体からの発露を前方に押し出すように。
僕は、バーベルを初めて持ち上げることができた。
「……あー、一回だけじゃ駄目なんだよな。五回はあげねぇと」
そして僕は重さに負けて、胸へバーベルを落とすのだった。
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