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第114話.移動ノ方針
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もやが晴れて、榴弾の被害が目に見えた。その場に立っている者は、一人もない。我々と同数位は残るかと思ったが、思ったより効果があったようだ。
しばらくは生き残った者達のうめき声が聞こえていたが、もうそれも無くなった。彼方から吹く風が運んで来るのは、火薬の匂いと、血の匂いだけだ。
無数に飛び出した榴弾の破片は、彼奴等のはらわたを掻き回して突き抜けた。このような爆弾というのは、熱と衝撃波より破片効果で殺傷する人間の方が多い。そしてそれを狙って設計されている。
私は即死を逃れたルシヤ兵らから目を離さず。その動きが止まるまで、ジッと照準を向け続けた。
呼吸も心臓の鼓動も、一定のリズムを刻む。
私の身体は平静を告げている。
いつからか死なせる事に慣れてしまった。人間が死ぬ事に慣れてしまった。
ルシヤの兵隊を殺したと言うのに、なんの感情も抱かない。ただ死んだな、と思うだけだ。そこにはやってしまったという罪悪感も、やったぞという興奮も無い。
やるべきことをやった、と言う実感だけだ。
引き金を引くその瞬間までは、これ以上無い緊張感を感じていた。しかし、そのあとは。
私の心は麻痺してしまったのか。
吾妻とウナと。果たして彼らはどう受け止めているのだろうか。どうにもその表情を見る事ができなかった。
一つ風が吹いた。
「移動する」
彼らの方を見もせず、そう告げた。
……
ルシヤ兵が足下にある銃を身を屈めて拾おうとした瞬間。彼の頭部は吹き飛んで消えた。先の榴弾で死んだ兵士から奪った小銃を、囮として地面に置いたのだ。
「命中。頭だ」
ウナが言った。
潜む場所を変えて施設跡地を監視していると、再びルシヤの兵隊が近くまでやって来た。彼らは警戒していたが、好奇心には勝てず自軍の小銃に近づいてしまった。それが仇となったのだ。
素早く次弾を装填すると、次の標的に狙いを定めて引き金を引いた。
人体を撃ち抜くにはあまりにも過剰性能の銃弾が、なんの抵抗も感じさせずそれらを破壊する。
私の左目には未だ眼帯があり、視野に不自由のある身である。しかし、それもこの蜘蛛の糸すなわち弾道を予知する線には関係がないようだ。
片目を閉じていても見えると言うか、銃を構えた状態であれば、両目を閉じていても見える。目を閉じているのに見えると言うのはおかしいが、不思議な事に認識できるのだ。
順番に先頭にいる数人の兵隊を撃ち抜いたところで、彼らは混乱を極めて撤収して行った。
いくらか反撃を試みようとしていたが、我々の姿を見つけることもできず諦めたようだった。
それを一つ目で追って、視界から消えた事を確認すると、離れた場所にいた吾妻を呼び寄せた。
「上手くいったな」
「うん」
上手くいったと言えばそうか。適当に吾妻に返事を返すと、彼は続けて言った。
「それで、どうする。逃げた敵を追うのか?」
「いや。ここまでルシヤ兵の侵攻を許しているとなると、状況が気になる。一体どうなっているのか」
「ならば」
「師団司令部に向かおう。そこに中将閣下も居るはずだ」
我々は言うならば浅間中将の直轄部隊。状況が変わり、さらに連絡が取れないとなれば、直接指示を仰ぐ他ない。
「何事も無ければ良いが」
「同感だ。しかし、想定はしておかねばならんな。いくらか考えられる想定を」
懐中より地図を取り出して見せた。
「現在地はここだ」
指を指して吾妻とウナに言った。指先に視線は集中しているが、しかと頷いた。
「師団司令部はここ……今から出発すれば、明日の昼には到着できるだろう」
「夜通し移動するのか」
「細かな休憩は取ろう。ただ状況が状況だけに、出来るだけ急いだ方が良い」
そう言って、彼らの目を交互に見る。
「了解」
「りょーかい」
方針は決まった。
しばらくは生き残った者達のうめき声が聞こえていたが、もうそれも無くなった。彼方から吹く風が運んで来るのは、火薬の匂いと、血の匂いだけだ。
無数に飛び出した榴弾の破片は、彼奴等のはらわたを掻き回して突き抜けた。このような爆弾というのは、熱と衝撃波より破片効果で殺傷する人間の方が多い。そしてそれを狙って設計されている。
私は即死を逃れたルシヤ兵らから目を離さず。その動きが止まるまで、ジッと照準を向け続けた。
呼吸も心臓の鼓動も、一定のリズムを刻む。
私の身体は平静を告げている。
いつからか死なせる事に慣れてしまった。人間が死ぬ事に慣れてしまった。
ルシヤの兵隊を殺したと言うのに、なんの感情も抱かない。ただ死んだな、と思うだけだ。そこにはやってしまったという罪悪感も、やったぞという興奮も無い。
やるべきことをやった、と言う実感だけだ。
引き金を引くその瞬間までは、これ以上無い緊張感を感じていた。しかし、そのあとは。
私の心は麻痺してしまったのか。
吾妻とウナと。果たして彼らはどう受け止めているのだろうか。どうにもその表情を見る事ができなかった。
一つ風が吹いた。
「移動する」
彼らの方を見もせず、そう告げた。
……
ルシヤ兵が足下にある銃を身を屈めて拾おうとした瞬間。彼の頭部は吹き飛んで消えた。先の榴弾で死んだ兵士から奪った小銃を、囮として地面に置いたのだ。
「命中。頭だ」
ウナが言った。
潜む場所を変えて施設跡地を監視していると、再びルシヤの兵隊が近くまでやって来た。彼らは警戒していたが、好奇心には勝てず自軍の小銃に近づいてしまった。それが仇となったのだ。
素早く次弾を装填すると、次の標的に狙いを定めて引き金を引いた。
人体を撃ち抜くにはあまりにも過剰性能の銃弾が、なんの抵抗も感じさせずそれらを破壊する。
私の左目には未だ眼帯があり、視野に不自由のある身である。しかし、それもこの蜘蛛の糸すなわち弾道を予知する線には関係がないようだ。
片目を閉じていても見えると言うか、銃を構えた状態であれば、両目を閉じていても見える。目を閉じているのに見えると言うのはおかしいが、不思議な事に認識できるのだ。
順番に先頭にいる数人の兵隊を撃ち抜いたところで、彼らは混乱を極めて撤収して行った。
いくらか反撃を試みようとしていたが、我々の姿を見つけることもできず諦めたようだった。
それを一つ目で追って、視界から消えた事を確認すると、離れた場所にいた吾妻を呼び寄せた。
「上手くいったな」
「うん」
上手くいったと言えばそうか。適当に吾妻に返事を返すと、彼は続けて言った。
「それで、どうする。逃げた敵を追うのか?」
「いや。ここまでルシヤ兵の侵攻を許しているとなると、状況が気になる。一体どうなっているのか」
「ならば」
「師団司令部に向かおう。そこに中将閣下も居るはずだ」
我々は言うならば浅間中将の直轄部隊。状況が変わり、さらに連絡が取れないとなれば、直接指示を仰ぐ他ない。
「何事も無ければ良いが」
「同感だ。しかし、想定はしておかねばならんな。いくらか考えられる想定を」
懐中より地図を取り出して見せた。
「現在地はここだ」
指を指して吾妻とウナに言った。指先に視線は集中しているが、しかと頷いた。
「師団司令部はここ……今から出発すれば、明日の昼には到着できるだろう」
「夜通し移動するのか」
「細かな休憩は取ろう。ただ状況が状況だけに、出来るだけ急いだ方が良い」
そう言って、彼らの目を交互に見る。
「了解」
「りょーかい」
方針は決まった。
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