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第113話.榴弾
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「しかし、穴ぼこだらけだが火は出なかったな」
吾妻が言った。
散々に榴弾を撃ち込まれたのだが、幸いな事に施設は倒壊したが火災はなかった。
「ああ、それに見ろ」
顎でそれを指し示す。
不発弾。榴弾がその形のまま残って、地面にめり込んでいる。砲は通常運用しているだけで不発弾が出るのは当然の現象ではある。
当然それを運用する側は不発弾が一定数出ると予測した上で、砲撃する弾数を決めれば良いだけであるから、その場で問題になる事は少ない。
しかし今回の場合、弾数と比較して顕著に不発弾の数が多いように見える。
「信管の問題か?海軍の砲弾をそのまま持って来たのかな」
「奴らも手探りなんだろうさ」
ルシヤ海軍の使っている大砲には二種類の弾頭があり、一つは徹甲榴弾、もう一つは通常榴弾。どちらも信管の感度を変更することができる。
榴弾という大砲の弾は、曲射によって放物線を描いて高空から目標に着弾する。その時に弾頭などに付けられた信管に衝撃が加わると起爆し、爆発を起こし砕け散った破片によって付近一帯に打撃を与える。
信管にも無数に種類があるが、着弾の衝撃で爆発するものが、この時代ではよく使われているようだ。
「地面がゆるいのに助けられたんだろうか」
「かもしれんな」
信管は、必要な時に確実に起爆して、不要な時にはどうしても爆発してはならない。
装甲面に当たって直ちに爆発すれば内部に被害を与えられないし、かと言って遅緩な信管では、目標に接触した時に抵抗が足りず起爆しない恐れがある。
つまりは砲撃の一個にしても目標物によって緻密に変えねばいかんわけだ。
見誤れば、命中弾が多くても被害の大小がひっくり返る事もある。今回は、地面の状況に対して信管の感度が鈍く、柔らかい地面に接触しても起爆できなかった砲弾が多かったと言う事だ。
「こいつは利用させてもらう。吾妻、ウナ。不発であったものを、この一角に並べるぞ」
地面から露出している不発弾を数発、慎重に瓦礫の中から取り出して地面に並べ置いた。
「気をつけろ、爆発すれば三人ともバラバラだ」
「タカ、これは何に使うんだ?」
「ふん。コイツの恐ろしさをルシヤ共にも味(あぢ)わわせてやろうと思ってな」
……
それからしばらく経ち。
倒壊した施設を監視できる位置に潜んでいると、ルシヤの兵隊らが数名姿を現した。
同じく離れた位置から観察している吾妻とウナにもサインを送る。発砲はするな、敵を施設に引き付けろだ。
静かにその動きを追う。
男らはいくらか施設の残骸を見て回った後、すぐに引き返すような素振りを見せた。吾妻から狙撃するか、と合図が来るが待てと答えた。
しばらくすると、何をするともなくルシヤ兵は去っていった。吾妻が良いのか。と言う目で私を見るが、彼には動くなと重ねて指示した。
同じ体勢のまま更に待ち続ける。無人のその地を見据えたまま動かず。流石に肩が固まってきたころに今度は、人数が増えて二十名程のルシヤ兵が徒党を組んで戻って来た。
彼奴等は何やら軽い調子で話をしながら何かを探して居る。
ある者が何かに気がついたようだ。それは先の砲撃の犠牲になった日本兵。
何をしている。戦死者の確認か?そう熱心に数えなくとも、今からお前たちもそちら側に向かうと言うのに。
そのまま何を企んでいるのかと観察を続けていると、ルシヤ兵は瓦礫から日本兵の遺体を引き摺り出した。それは谷川少尉の変わり果てた姿であった。
何を思ったか男は慣れた手つきで刃物を取り出した。
そして、物言わぬ谷川少尉の耳を切り落としたのだ。なんとも言えぬ嬉しそうな顔で。
「……!!」
男は切り落とした耳を、仲間に誇るように見せている。自分の耳の横にそれを持ってきて、死者への冒涜としか思えん!
腸(はらわた)が煮えくりかえる、とはこの時の為にある言葉だ。マグマのように熱い塊が、腹の底から血管を通って頭に登っていくのを感じる。
ドンッ!
許さん。
そう思った瞬間、銃声が響いた。
瞬間、得意になっていた男の横首に風穴が開いて、たちまち赤い血が噴き出した。
私が発砲したのではない。発砲音の位置からして吾妻が撃ったのだろう。あいつは、ああ見えて激情型だからな。
私は音の方へ目線を向ける事はなかった。視線は切らず、そのまま。少し早くなったが問題無い、哀れにも彼奴等の死ぬのが少しだけ前倒しになっただけだ。
伏射の姿勢のまま、雪兎の銃口を先程並べ置いた不発弾に向ける。
そのま一射。不発弾の横っ面に当たり、一際大きな金属音と火花を散らして弾はハジけた。不発弾の分厚い金属に阻まれ、貫通して炸薬までは到達出来ず。
何事が起こったのかと、ルシヤの兵隊が慌てて声を掛け合っている。
静かに、もう一発。
ボルトハンドルを操作して、全く同じ位置にもう一射。派手に火花をあげて、弾丸は消える。
『敵だ、狙われている!円陣を組め!』
『狙撃地点を見つけろ、射撃の数が少ない、敵は少数だ。恐れるな!』
そうだよ。
三人しかいない。お前たちも、まずは同数まで減ってもらおうか。
三回目の引き金を引く。
雪兎の砲身が轟音をあげて跳ね上がった。弾丸は人の認識を遥かに超越したスピードで、寸分違わず同じ位置に、不発弾の横っ腹に着弾した。
その瞬間。
不発であったその榴弾に火が入った。刹那に膨れ上がり、轟音と高熱を吐き散らかして破裂した。
ごぉん。
炸裂したその場所の程近くにいた者は、熱波と衝撃波で影だけ残して吹き飛んだ。それを逃れた者には、無数に砕け散った榴弾の破片が襲いかかる!
二十名程のルシヤ兵は、一箇所に固まっていたのが災いして、全てが同時に榴弾の餌食となったのである。
良い威力だ、流石に地表で弾けると壮観だな。
吾妻が言った。
散々に榴弾を撃ち込まれたのだが、幸いな事に施設は倒壊したが火災はなかった。
「ああ、それに見ろ」
顎でそれを指し示す。
不発弾。榴弾がその形のまま残って、地面にめり込んでいる。砲は通常運用しているだけで不発弾が出るのは当然の現象ではある。
当然それを運用する側は不発弾が一定数出ると予測した上で、砲撃する弾数を決めれば良いだけであるから、その場で問題になる事は少ない。
しかし今回の場合、弾数と比較して顕著に不発弾の数が多いように見える。
「信管の問題か?海軍の砲弾をそのまま持って来たのかな」
「奴らも手探りなんだろうさ」
ルシヤ海軍の使っている大砲には二種類の弾頭があり、一つは徹甲榴弾、もう一つは通常榴弾。どちらも信管の感度を変更することができる。
榴弾という大砲の弾は、曲射によって放物線を描いて高空から目標に着弾する。その時に弾頭などに付けられた信管に衝撃が加わると起爆し、爆発を起こし砕け散った破片によって付近一帯に打撃を与える。
信管にも無数に種類があるが、着弾の衝撃で爆発するものが、この時代ではよく使われているようだ。
「地面がゆるいのに助けられたんだろうか」
「かもしれんな」
信管は、必要な時に確実に起爆して、不要な時にはどうしても爆発してはならない。
装甲面に当たって直ちに爆発すれば内部に被害を与えられないし、かと言って遅緩な信管では、目標に接触した時に抵抗が足りず起爆しない恐れがある。
つまりは砲撃の一個にしても目標物によって緻密に変えねばいかんわけだ。
見誤れば、命中弾が多くても被害の大小がひっくり返る事もある。今回は、地面の状況に対して信管の感度が鈍く、柔らかい地面に接触しても起爆できなかった砲弾が多かったと言う事だ。
「こいつは利用させてもらう。吾妻、ウナ。不発であったものを、この一角に並べるぞ」
地面から露出している不発弾を数発、慎重に瓦礫の中から取り出して地面に並べ置いた。
「気をつけろ、爆発すれば三人ともバラバラだ」
「タカ、これは何に使うんだ?」
「ふん。コイツの恐ろしさをルシヤ共にも味(あぢ)わわせてやろうと思ってな」
……
それからしばらく経ち。
倒壊した施設を監視できる位置に潜んでいると、ルシヤの兵隊らが数名姿を現した。
同じく離れた位置から観察している吾妻とウナにもサインを送る。発砲はするな、敵を施設に引き付けろだ。
静かにその動きを追う。
男らはいくらか施設の残骸を見て回った後、すぐに引き返すような素振りを見せた。吾妻から狙撃するか、と合図が来るが待てと答えた。
しばらくすると、何をするともなくルシヤ兵は去っていった。吾妻が良いのか。と言う目で私を見るが、彼には動くなと重ねて指示した。
同じ体勢のまま更に待ち続ける。無人のその地を見据えたまま動かず。流石に肩が固まってきたころに今度は、人数が増えて二十名程のルシヤ兵が徒党を組んで戻って来た。
彼奴等は何やら軽い調子で話をしながら何かを探して居る。
ある者が何かに気がついたようだ。それは先の砲撃の犠牲になった日本兵。
何をしている。戦死者の確認か?そう熱心に数えなくとも、今からお前たちもそちら側に向かうと言うのに。
そのまま何を企んでいるのかと観察を続けていると、ルシヤ兵は瓦礫から日本兵の遺体を引き摺り出した。それは谷川少尉の変わり果てた姿であった。
何を思ったか男は慣れた手つきで刃物を取り出した。
そして、物言わぬ谷川少尉の耳を切り落としたのだ。なんとも言えぬ嬉しそうな顔で。
「……!!」
男は切り落とした耳を、仲間に誇るように見せている。自分の耳の横にそれを持ってきて、死者への冒涜としか思えん!
腸(はらわた)が煮えくりかえる、とはこの時の為にある言葉だ。マグマのように熱い塊が、腹の底から血管を通って頭に登っていくのを感じる。
ドンッ!
許さん。
そう思った瞬間、銃声が響いた。
瞬間、得意になっていた男の横首に風穴が開いて、たちまち赤い血が噴き出した。
私が発砲したのではない。発砲音の位置からして吾妻が撃ったのだろう。あいつは、ああ見えて激情型だからな。
私は音の方へ目線を向ける事はなかった。視線は切らず、そのまま。少し早くなったが問題無い、哀れにも彼奴等の死ぬのが少しだけ前倒しになっただけだ。
伏射の姿勢のまま、雪兎の銃口を先程並べ置いた不発弾に向ける。
そのま一射。不発弾の横っ面に当たり、一際大きな金属音と火花を散らして弾はハジけた。不発弾の分厚い金属に阻まれ、貫通して炸薬までは到達出来ず。
何事が起こったのかと、ルシヤの兵隊が慌てて声を掛け合っている。
静かに、もう一発。
ボルトハンドルを操作して、全く同じ位置にもう一射。派手に火花をあげて、弾丸は消える。
『敵だ、狙われている!円陣を組め!』
『狙撃地点を見つけろ、射撃の数が少ない、敵は少数だ。恐れるな!』
そうだよ。
三人しかいない。お前たちも、まずは同数まで減ってもらおうか。
三回目の引き金を引く。
雪兎の砲身が轟音をあげて跳ね上がった。弾丸は人の認識を遥かに超越したスピードで、寸分違わず同じ位置に、不発弾の横っ腹に着弾した。
その瞬間。
不発であったその榴弾に火が入った。刹那に膨れ上がり、轟音と高熱を吐き散らかして破裂した。
ごぉん。
炸裂したその場所の程近くにいた者は、熱波と衝撃波で影だけ残して吹き飛んだ。それを逃れた者には、無数に砕け散った榴弾の破片が襲いかかる!
二十名程のルシヤ兵は、一箇所に固まっていたのが災いして、全てが同時に榴弾の餌食となったのである。
良い威力だ、流石に地表で弾けると壮観だな。
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