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第100話.決闘

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射殺すると同時に身を隠した。後一人、後一人だ。どこにいる?
排莢すると飛び出した薬莢が残雪の上に落ちた。高温になったそれが、ずぶりと雪に埋まる。
硝煙の匂いが鼻腔を刺激するなか、新しい実包を薬室に放り込んだ。

しばらく観察するが、もう一人の敵兵の姿が見えない。
ウナと吾妻が接触したようだ。二人とも無事である旨のジェスチャーを受け取る。一安心であるが、未だに所在不明の敵が一名。
一息つくには早すぎる。
私も合流するべきか、と一歩踏み出そうとした瞬間。背中にぞわりとした感覚。

「……ッ!」

慌てて身を引くと目の前を小銃弾が通過した。風切り音と、一瞬遅れて発砲の音。まるでスローモーションのように時間がやけにゆっくりと感じた。泥まみれの地面を転がるように匍匐で移動する。

「フゥッフゥッ」

どこから撃って来た。やけに大きな心臓の音が聞こえる中、それを見つけた。

「そこか」

見えたのは、例の女のルシヤ兵。高級将校の副官らしかった彼女だ。長い金髪を後ろで束ねて帽子に収めている。膝撃ちの姿勢で、私を探しているようだ。
女の頭に狙いを定めて引き金を引く、その瞬間。見計らったかのように素早く頭を左に動かして、雪兎の弾頭を避けた。

「何だと」

女がこちらを振り向く。敵はこちらの位置を確認すると、あろうことか立ち上がって一直線に走ってきた。小銃を持っているのにも関わらず、それを撃ち込む事もなく。どう言う事だ、馬鹿な。狙い撃ちだぞ。
手早く次弾を装填して、構え直す。

ドンッ!!

今度は身体のど真ん中を狙って再び吠えた雪兎も、これも引き金を引く瞬間に、身をよじって避けられた。
ライフル弾だぞ!音速より遥かに早いライフル弾。それが銃口を飛び出してから回避するなど不可能だ。
私が何処を狙って、いつ撃つのか。それがわかっているとしか思えない。私が弾道を見えているように、向こうも見えているというのか?
不可解な事象は山積みだが、ルシヤ兵が一直線に走って来ているという事実は変わらない。ウナと吾妻は彼女より遠い位置にいる。彼らの援護を期待する事はできない。
自分の力で活路を開かねば。

「ならば!」

スピードを緩めぬ彼奴を、もう一度照準に捉える。狙うは彼女本体ではない、今度は足下の岩、照準を下げて硬い岩を撃ち抜いた。
困惑したような表情が見える。

だが。
けたたましい音を上げて、大口径の弾頭の直撃を受けた岩が砕ける。同時にその砕けちった破片が彼女を直撃した。まるで散弾銃のように彼女のもつ小銃と、その腕を粉砕する。

『ぐッ!!?』

堪らず、小銃を取り落とした。あれではもう銃は使えまい。上手くいった事にどこか安心した。しかしそれは間違いであった。
彼女は、偉大なルシヤの兵隊はそれでもなお、走るスピードを緩めずにこちらに向かってきたのだ。
武器も持たずに、素手で。真っ直ぐに!

「何を考えている!」
『うぉぉおおおおっ!!』

もはや肉弾が届く距離。お互いの叫びが聞こえる。雪兎を手放して軍刀を抜く。
袈裟斬りに振り下ろすが、どこに隠し持っていたのか黒いナイフでそれを防がれた。そしてその勢いのまま、腰にタックルを仕掛けてくる。
虚を突かれたが、させるかと膝蹴りをその顔に浴びせかける。ゴッと骨と骨がぶつかり合う音がしたが、そのまま腰に組み付かれた。

「お前は、痛みや恐怖というものが無いのか!?」
『そんなものは置いてきた!』

私も彼女も武器を取り落とし、素手での組み合いとなって地面を転がる。その状態でも数発肘打ちをくれてやったが、掴みかかる力は緩む事は無い。
泥塗れの斜面を転がったのちに、顔面に頭突きを食らわして始めて拘束が緩んだ。鼻血を出しながら仰け反る女を目の端に置いて立ち上がろうとした、その時。
最後の力を振り絞ったのか、すがるように足に組み付かれた。いつの間にか背後には崖のような斜面。

「まさか、貴様!」
『終わりだよ』

ずるりと足が滑った。
崖から足を踏み外した私は、ルシヤ兵の女とともに崖を滑落していった。
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