【元幹部自衛官 S氏 執筆協力】元自衛官が明治時代に遡行転生!〜明治時代のロシアと戦争〜

els

文字の大きさ
上 下
94 / 135

第94話.新設部隊

しおりを挟む
その日は唐突に訪れた。
私の仮住まいに、懐かしきあの丸刈りが現れたのだ。

「吾妻じゃないか!達者だったか?」
「ああ、なんとかな。そっちはどうだ、いくらか噂は聞いてるぞ。出世したって」

軽く互いの手のひらを打ち合わせた。大きな彼の手に、遠慮なく手を打ち付ける。乾いた音が短く鳴った。
吾妻勝。北部方面総合学校(ほくそう)の同期の、あの吾妻だ。甘いものに目がなくて、お涙頂戴に弱いあの吾妻だ。暫く合わなかっただけで、大きな懐かしさを感じた。

「変わってないな、丸刈りもそのままだ。まだ学生気分が抜けないのか?」
「ははは、これが良いんだよ。穂高は相変わらずだな」
「それで、なぜお前が?」
「それは……」

言い終わる前に、もう一人部屋に入ってきた。「入るぞ」という声に、聞き覚えがあるその声に直立する。私と吾妻が同時に、入り口の方へばっと敬礼をした。全く同じタイミングで敬礼が揃ったのは、あの学校生活があったからだろう。現れたのは浅間中将であった。

「浅間中将閣下!」
「うん」

どこまでも無理をするお方だ。動き回っては治る負傷も治らぬと言うのに、どこの世界に腹に鉛弾を食らってウロウロする将軍がいるか。

「お身体に障ります、なぜこんな場所へ」
「雲(どくがす)が薄くなって来ているだろう、会戦だ」
「いつですか」
「敵(ルシヤ)の都合もあるからな、戦争は一人ではできん。いつとは言えんが、明日とも明後日とも知らぬ、目前だ。それに穂高君に頼まねばならん事もある」

腰を据えて話を聞く事になった。
阿蘇(あそう)大将率いる軍が正面、及び右翼に展開しており。浅間中将率いる軍が左翼及び、正面部隊の予備隊を担当する計算であるという事である。
机の上に温かい珈琲が三つ、湯気を立てている。

「おおよそ緊迫している事はわかりました。それで私は何を?」
「狙撃隊を結成する」
「狙撃隊?」
「うん、三名ないし四名の選抜した優秀な者たちで一組。それをいくらか作った。穂高君にもその一つとなって動いてもらう」
「はい」

中将が言う狙撃隊とやらの任務はこうだ。
隠密行動によって気づかれぬように敵部隊へ接近、観察する。そして脅威度の高いもの、即ち敵機関銃や高級将校の位置をつぶさに味方へ報告する。また可能であれば長距離からの狙撃により、これを排除する。
我が軍の歩兵に先んじて、これを行うことにより後発の味方突撃の成功率が上がるというものだ。
確かに。上手く事が運べば、敵を錯乱せしめる。もしくは突出させることができるかもしれない。それも限りなく少ない兵数でだ。

「非常に危険な任務だ、君を失いたくはないが……穂高君であれば戦果を上げられるのは見えている。行って貰いたい」
「買いかぶりすぎです中将閣下。しかし、やらせて下さい。この戦、少々無理をしなければ勝ち目は無い」

一つ息を吐くと、中将は小さく呟くように「だろうな」と口にした。

「それでだ。その狙撃銃を使うのは穂高君だとしても、この吾妻を護衛に連れて行ってくれたまえ」
「はい、了解しました。それで吾妻が」
「ああ」

吾妻ならば気心もしれているし、腕が立つというのもわかる。安心して後ろを任せられるだろう。

「吾妻君は優秀だ。射撃も格闘も人より抜けている、体格も良い。敵と接近戦に陥った場合に役に立つだろう」

それに、と続ける。

「彼は君を識者だと知っている一人だ」
「吾妻がですか?」

ぱっと彼の顔を見ると、静かに頷いた。

「ああ。知ったのは最近、中将閣下に伺ってからだがな。驚いたよ」

どうやら彼も浅間中将とはなんらかの繋がりがあったらしい。世間は狭い。

「穂高君が射手。吾妻君が護衛。そうだな後一人、観測する者が要るな。誰かあるか。目がいい者が良い、それにこの辺りの地理を知っている者が」
「そうですね」

そう言いながら珈琲を口に含んだ。
その瞬間、大きな音を立てて盛大に扉が開いた。音に驚きつつも、私と吾妻が同時に立ち上がって、中将の前に出る。
何者だ、話を聞かれていたか?中将がここにいると知っての事か?瞬間的に頭の中でいくつもの疑問が浮かんだ。しかし、それらは一瞬で消えた。

「俺が行くぞ!タカ、俺を連れて行け!」

そこにはウナが居たからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

蘭癖高家

八島唯
歴史・時代
 一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。  遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。  時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。  大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを―― ※挿絵はAI作成です。

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

処理中です...