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第69話.凶弾

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耳のすぐ横で空を切る音。男達の銃口から放たれた弾丸が、私の身体をかすめて虚空に消えた。彼等は何事か叫んでいるが、意味のある言葉ではない。

突然の出来事に、思考だけが加速する。逃げるか、隠れるか。
物陰までの距離を考えると、背を向けて走るのは得策ではないだろう。背後には浅間中将もいる。
ならば徒手空拳だが、戦う他に無い。
彼奴等との間合いは五歩。いけよ!

グッと一瞬、下半身のバネにエネルギーを溜めてそれを解放する。弾き出されるように私の身体は、矢のように飛んだ。
姿勢は低く保ったまま、一瞬の間にその間合いを詰める。

パァン!

銃口が火を噴く、暗がりに浮かぶそれがはっきり見えた。そのまま当たってくれるなよ!
もう一歩、大地を蹴って間合いに入る。

「つああああっー!!」

雄叫びと共に、手前の男に飛びかかった。
拳銃を持つ手を両手で掴み上げて捻り、それを奪い取る。ついでに顔面に肘打ちを食らわせてやった。

したたかに顔を打たれて、もんどりうって倒れる男を目の端で捉えながら、奪った拳銃を両手で構えた。素早く銃口をもう一人の男に向ける。

しかしその男は自らに向かっている銃口など意に返さぬように、中将を睨んだままだ。ゆっくりと人差し指が曲げられた。

「皇国万歳!!」
「やらせるかッ!」

パァン!パァン!

乾いた音が再び鳴り響く。
私が撃ち出した弾丸は、螺旋を伴って男の胸部にめり込んだ!
同時に着物がおびただしい量の血で染まった。鉛弾(なまりだま)が重要な器官を轢き潰したのだ。致命的な負傷を負った男は、呻き声一つあげることなく、その場に崩れ落ちた。
男らを無力化したことを確認すると、中将に声をかける。

「お怪我は!?」

「……」

「中将閣下!」

彼は身体をくの字に曲げて、膝を折った。右手で抑えた腹から出血が確認できる。すぐに近くに駆け寄った。

「……こんな、場合では、ないだろうに」

気を確かに、そう声をかけながら傷口を確認する。腹部に一つだけ、貫通はしていない。
横にして体勢を安定させてから、手拭いを傷口に押し当てて止血を試みる。彼はぐぅぅと唸り声をあげて苦悶の表情を浮かべている。

彼をこんな場所で失うべきではない。

騒ぎを聞きつけた誰かが通報したのだろうか。しばらくすると辺りに灯りが集まって来たのだった。


……


あれから数日。

凶弾に倒れた中将であったが、病院に担がれたのが早かった事が功を奏し、一命を取り留めた。
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