【元幹部自衛官 S氏 執筆協力】元自衛官が明治時代に遡行転生!〜明治時代のロシアと戦争〜

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第48話.感謝二人

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「おい、三輪二等卒。言ってみろ」
「もう良いだろ?」
「いいから言えよ」
「じゃあ、もう一回見本を見せてくれ」
「またか。教官殿、こいついかんですよ」

九重と、三輪がなんだかんだと言い合っている。小休止の最中に急に話を振られた。

「良い。教えてやれよ、九重一等卒」
「……はい。東北鎮台第十一特設聯隊第一大隊第三中隊第二小隊だ、覚えたか?」

すらすらと所属を言う九重。彼はわりと優秀というか上手く世渡りをする。年季の差もあろうが、三輪は逆にそういうのが兎角下手である。
悪いやつじゃあない、やるべき事はわりと真面目にする。でも要領が悪いっていうのか、態度が悪いっていうのか、妙に目立ってしまう。

「ほら復唱しろ」
「東北鎮台第十一……あー聯隊(れんたい)第……なんだったか」
「いつになったら覚えるんだ!貴様、脳みそまで筋肉が詰まってるんじゃないのか?」
「うるせえな!」
「あぁ喧嘩するな。九重一等卒、貴様が責任持って覚えるように面倒見てやれ」

九重が姿勢を正して、こちらを見て言った。

「はい。善処しますが、頭に詰まった筋肉を退(の)けるのに時間がかかるかもしれません」
「……ッチ」
「貴様上官の前で、その態度は何か!」

九重が三輪の頭をぱあんと叩く、丸刈りの頭がいい音を立てた。なんだかんだと言い合いをしているが、九重と三輪の間柄は、険悪といったものでもない。
どちらかといえば、彼らは仲が良い。この辺りの手腕は、九重の人柄のおかげというべきか。上手く先輩をやってくれている。

「東北鎮台第三聯隊……」
「違うだろうが!」

ぱあん!

「痛ェ!」

仲が良い。良いんだと思うが、たぶん。
私の目がふし穴でなければ。

しばらくしてから、例の二人が並んで私の前に現れた。

「教官殿、三輪二等卒の暗唱訓練完了いたしました!」
「良し。三輪二等卒、言ってみろ」
「はい!東北鎮台第十一特設聯隊第一大隊第一中隊第一小隊であります!」

ぱぁーん!

「痛ェ!」
「もう忘れたのか貴様!」

できの悪い漫才コンビを見ている気分だ。三輪と九重、三(さん)と九(きゅう)でサンキューコンビと言ったところか。

「もういい訓練を続けておけよ」
「「はいっ!」」


……


とある昼休み。

「おい!少ねえぞ!」
「はぁ?そうかぁ」
「明らかにに少ねえだろ、お前ふざけんなよ!」

トラブルメーカーの三輪が、また騒動を起こしたのだろう。食事が配膳されている最中(さなか)に彼の声が響き渡った。
食事について、私と兵達は同じ食事を同じ大部屋で食す事になっている。同じ釜の飯を食うというやつであろうか。ちなみに天城小隊長は、士官の集会所で食べるので別である。

「騒がしいぞ!何をしている!」
「俺のおつゆがよ、少ないんですよ」

これ見よがしに見せたおわんの中の味噌汁は、半分にも満たない僅かな量であった。飯上げ当番の国見(くにみ)二等卒は空の食缶を指しながら言った。

「ほらもうねえんだから、それがお前の分だろう。黙って食えや」
「なんだと……!?」

喧嘩だ喧嘩だ、と。そんな空気が流れた時に、横合いから九重が出て国見の襟首を掴んだ。

「国見(くにみ)二等卒!貴様何をしとるか」
「まぁ待て」

この教育班では私が一番序列が高い。待てと声をかけると、皆が一様に黙って采配を待った。

「恐れ多くもこの兵食は、お上から与えられたものである。勝手な判断で誰それに与えぬなどと決めてはいかん。おい、一度全員の味噌汁を食缶に戻し、もう一度均等に配膳しなおせ」

そう言って、なみなみ注がれた自分の味噌汁を食缶に戻した。

「国見二等卒。いいか、平等に分けろ」

そう言って念を押した。
彼は、私や古参の兵のおわんには規定量より多く盛っていた。誰からか入れ知恵をされたのか、自ら考えてのことか。
気を利かせたのだろうが、あまり無茶はいかん。食事は栄養摂取だけでなく、数少ない娯楽の一つでもある。不公平感を出しては士気に関わる。公平感が必要だ。本当に公平かどうかは別にしてもな。
ばつが悪そうな表情で、国見が配膳をやり直した。

「……ッチ」
「おい」

九重につつかれながら、三輪がこちらに寄ってくる。黙っているので何かと聞くと、ゆっくり口を開いた。

「あーその、教官殿。ありがとうございます」
「腹がへるのは上官も何もないからな、当然の権利だ。礼はいらんよ、腹が減ったから早く食おう」

そう言ってやると、三輪はにかっと笑顔を見せた。世話のかかる男だ。
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