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第47話.意図セヌ危機
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私が配属されて一週間、私の進退に関わる危機が訪れる出来事があった。
いまだかつてない、危機である。
雲ひとつない透き通った空気。
黒い帽子に金の帯。静かな朝のその静寂を引き裂くように、明而の軍隊とは思えない、全く陽気な歌が聞こえて来た。
歌声の主は、走り込みをしている屈強な兵らである。初日に問題を起こした三輪(みわ)二等卒も、皆に混じって真面目に教練に励んでいる。
実はこの掛け声を仕込んだのは私だ。
というか、ほんの出来心で在りし日のCMソングを口ずさんでみると、それが意図せず大流行。中隊の中で、駆け足の号令として定着した。
わざと仕込んだわけではないんだが。
「おい、穂高!中隊長がお呼びだ」
「はっ!」
しかし、それが小隊長。そして中隊長の耳にも入ってしまったという訳である。
第三中隊では教練の際に何やら妙な歌を口ずさんでおるというので、他の中隊にも影響が出ているらしい。大目玉だろうか。
緊張の中、大きな声で挨拶をしてから、中隊長の部屋に入った。
「失礼します!」
「うん、来たな。先ごろ教練の折に妙な歌が流行っているようだが。穂高、ハミコンウォーズとはなにか」
「はい、それは……」
中隊長の鋭い眼光が、私の瞳を射抜いた。まるでヒグマと対峙した時のような緊張感。背中に冷たい汗(もの)が流れ落ちる。
「ハミコンウォーズとは、機械化(コンピュータ)大戦(ウォーズ)という意味です。つまりは、来たるルシヤとの近代戦を想定したものであります」
なんとかひねり出した言い訳をする。
ぽかりと、ひとつタバコをふかして再び中隊長が問うた。
「その曲は貴様が作ったのか?」
「はい。いえ、厳密には私が作曲したわけではありませんが。流行の原因となったのは私であります」
「そうか」
直立不動のまま続ける。一気呵成に攻め立てて、許可の言質を取るのだ。
「来たるべき日に向けて、兵らの戦意高揚にと愚考した次第です。問題があれば辞めさせますが」
「いや、良い。創意工夫してくれたまえ」
「はい。了解しました」
部屋から出て、扉を閉めたらホッと一息。無意味に緊張したな。
中隊長からの呼び出しといえば……どうだろうな、学校で言えば校長先生の呼び出しくらいか。そうして外に出てきた所で、九重一等卒に話しかけられた。
「教官殿、点呼完了しました!」
「よし、では今日も教練を始める。駆け足!」
訓練の一環でもあるが、私たちは暇があったら走っている。これくらいの遊び心は許してくれよ、ということだ。
あぁ、この歌が民間にも流行ったら、また歴史が変わるのだろうか。
いまだかつてない、危機である。
雲ひとつない透き通った空気。
黒い帽子に金の帯。静かな朝のその静寂を引き裂くように、明而の軍隊とは思えない、全く陽気な歌が聞こえて来た。
歌声の主は、走り込みをしている屈強な兵らである。初日に問題を起こした三輪(みわ)二等卒も、皆に混じって真面目に教練に励んでいる。
実はこの掛け声を仕込んだのは私だ。
というか、ほんの出来心で在りし日のCMソングを口ずさんでみると、それが意図せず大流行。中隊の中で、駆け足の号令として定着した。
わざと仕込んだわけではないんだが。
「おい、穂高!中隊長がお呼びだ」
「はっ!」
しかし、それが小隊長。そして中隊長の耳にも入ってしまったという訳である。
第三中隊では教練の際に何やら妙な歌を口ずさんでおるというので、他の中隊にも影響が出ているらしい。大目玉だろうか。
緊張の中、大きな声で挨拶をしてから、中隊長の部屋に入った。
「失礼します!」
「うん、来たな。先ごろ教練の折に妙な歌が流行っているようだが。穂高、ハミコンウォーズとはなにか」
「はい、それは……」
中隊長の鋭い眼光が、私の瞳を射抜いた。まるでヒグマと対峙した時のような緊張感。背中に冷たい汗(もの)が流れ落ちる。
「ハミコンウォーズとは、機械化(コンピュータ)大戦(ウォーズ)という意味です。つまりは、来たるルシヤとの近代戦を想定したものであります」
なんとかひねり出した言い訳をする。
ぽかりと、ひとつタバコをふかして再び中隊長が問うた。
「その曲は貴様が作ったのか?」
「はい。いえ、厳密には私が作曲したわけではありませんが。流行の原因となったのは私であります」
「そうか」
直立不動のまま続ける。一気呵成に攻め立てて、許可の言質を取るのだ。
「来たるべき日に向けて、兵らの戦意高揚にと愚考した次第です。問題があれば辞めさせますが」
「いや、良い。創意工夫してくれたまえ」
「はい。了解しました」
部屋から出て、扉を閉めたらホッと一息。無意味に緊張したな。
中隊長からの呼び出しといえば……どうだろうな、学校で言えば校長先生の呼び出しくらいか。そうして外に出てきた所で、九重一等卒に話しかけられた。
「教官殿、点呼完了しました!」
「よし、では今日も教練を始める。駆け足!」
訓練の一環でもあるが、私たちは暇があったら走っている。これくらいの遊び心は許してくれよ、ということだ。
あぁ、この歌が民間にも流行ったら、また歴史が変わるのだろうか。
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