45 / 135
第45話.卒業式
しおりを挟む
陸軍からも出席者を得て、いつも以上に張り詰めた空気の中、卒業式は進行した。
ついに出番が来る。
真っ黒な制服に、これまた真っ黒な頭がずらり。
壇上に登った私の一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)をギョロリとした目玉達が追いかけてくる。
一段高い場所から講釈を垂れるなどというのは、いつ以来だっただろうか。静かに手のひらの内側に汗をかく。
マイクなどないので、努(つと)めて声量を大きく意識し、胸を張った。
「今日(ほんじつ)、ここに多数の来賓各位の御臨席を賜り、卒業の式典を執り行わせて頂きます事は、我ら北部総合学校一期生にとって最高の栄誉であり、心より御礼申し上げます」
一礼と共に、喋り始めた。
「このように式典を迎えることができましたのは、ひとえに赤石校長を始めとする各教官殿のご指導、ご鞭撻の賜物であります。多大なる御尽力に、一期生を代表し拝謝致します」
しんと静まり返った講堂に、私の声だけが響いている。
「すすきが黄金(こがね)に光る時分(じぶん)に卒業と相成りましたが、これは時勢を顧(かえり)みてのことであります。今日我が国を取り巻く状況は激変の一途を辿っており、極東の安全はまさに予断を許さぬ状況にあります。我らは日本皇国の繁栄の為、職務に就きその責任を果さんと存じます」
深々と礼をすると、同期からパラパラと拍手が湧いた。頭を上げてそちらを見る。演説(いいたいこと)はこれで終わりではない。寝ぼけた顔をしている者達に言ってやらねば。
「……一期生諸君!」
「この地は、父母が鍬(くわ)を持ち、手に血を滲ませて開拓(ひら)いた土地である。まさに我らの国だ」
何が始まったのかと、同期の連中は顔をこちらに向けたまま瞳を輝かせている。教諭達は顔を下げて、何か思うところがあるようだ。
北部雑居地の日本人は、維新後から入植したものが多い。戊辰戦争で苦渋を舐めた人々で、新天地(くに)を求めて志願したものも居る。
それこそ成らねば後がない、決死の覚悟の者達である。今日の雑居地の急激な発展はそうした先代、先々代の働きの結果なのである。
「昨今の情勢は知っていよう。我らの国をルシヤの兵が我が物顏で歩くのを許せるか。街を田畑を焼かれるのを見過ごせるのか。母が、姉妹(あねいもうと)が犯され、殺されるのを見過ごせるのか!」
方々(ほうぼう)から、ざわざわと声が漏れ出はじめた。
「国を護(まも)れ!我らの手で護るのだ!」
「「「おおおっ!」」」
右手を握りしめ、大きく振った。それに呼応するように黒い一団が、声を上げる。
「我らは今日を境に、学生としての身分は終わりである。栄誉ある日本皇国陸軍士官として、我らの命は国に捧げよう。血と、肉と、骨の一欠片まですり潰そうとも、死して護国の鬼とならん」
彼らの中には、これが今生の別れとなる者もいるだろう。死して骨を頼む事になる者すらいるかもしれぬ。
万感の思いを込めて、告げた。
「いざ、さらば!」
その言葉に同期達も湧き立ち、応えた。
「「「さらば、友よ!!」」」
万雷の拍手に迎えられ、私の挨拶は終わった。そして、長かった学生生活も終わりを迎えたのだ。
ついに出番が来る。
真っ黒な制服に、これまた真っ黒な頭がずらり。
壇上に登った私の一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)をギョロリとした目玉達が追いかけてくる。
一段高い場所から講釈を垂れるなどというのは、いつ以来だっただろうか。静かに手のひらの内側に汗をかく。
マイクなどないので、努(つと)めて声量を大きく意識し、胸を張った。
「今日(ほんじつ)、ここに多数の来賓各位の御臨席を賜り、卒業の式典を執り行わせて頂きます事は、我ら北部総合学校一期生にとって最高の栄誉であり、心より御礼申し上げます」
一礼と共に、喋り始めた。
「このように式典を迎えることができましたのは、ひとえに赤石校長を始めとする各教官殿のご指導、ご鞭撻の賜物であります。多大なる御尽力に、一期生を代表し拝謝致します」
しんと静まり返った講堂に、私の声だけが響いている。
「すすきが黄金(こがね)に光る時分(じぶん)に卒業と相成りましたが、これは時勢を顧(かえり)みてのことであります。今日我が国を取り巻く状況は激変の一途を辿っており、極東の安全はまさに予断を許さぬ状況にあります。我らは日本皇国の繁栄の為、職務に就きその責任を果さんと存じます」
深々と礼をすると、同期からパラパラと拍手が湧いた。頭を上げてそちらを見る。演説(いいたいこと)はこれで終わりではない。寝ぼけた顔をしている者達に言ってやらねば。
「……一期生諸君!」
「この地は、父母が鍬(くわ)を持ち、手に血を滲ませて開拓(ひら)いた土地である。まさに我らの国だ」
何が始まったのかと、同期の連中は顔をこちらに向けたまま瞳を輝かせている。教諭達は顔を下げて、何か思うところがあるようだ。
北部雑居地の日本人は、維新後から入植したものが多い。戊辰戦争で苦渋を舐めた人々で、新天地(くに)を求めて志願したものも居る。
それこそ成らねば後がない、決死の覚悟の者達である。今日の雑居地の急激な発展はそうした先代、先々代の働きの結果なのである。
「昨今の情勢は知っていよう。我らの国をルシヤの兵が我が物顏で歩くのを許せるか。街を田畑を焼かれるのを見過ごせるのか。母が、姉妹(あねいもうと)が犯され、殺されるのを見過ごせるのか!」
方々(ほうぼう)から、ざわざわと声が漏れ出はじめた。
「国を護(まも)れ!我らの手で護るのだ!」
「「「おおおっ!」」」
右手を握りしめ、大きく振った。それに呼応するように黒い一団が、声を上げる。
「我らは今日を境に、学生としての身分は終わりである。栄誉ある日本皇国陸軍士官として、我らの命は国に捧げよう。血と、肉と、骨の一欠片まですり潰そうとも、死して護国の鬼とならん」
彼らの中には、これが今生の別れとなる者もいるだろう。死して骨を頼む事になる者すらいるかもしれぬ。
万感の思いを込めて、告げた。
「いざ、さらば!」
その言葉に同期達も湧き立ち、応えた。
「「「さらば、友よ!!」」」
万雷の拍手に迎えられ、私の挨拶は終わった。そして、長かった学生生活も終わりを迎えたのだ。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
第一機動部隊
桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。
祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる