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第36話.行方不明
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「高尾教諭はどうした?」
再び学生らに尋ねた。追い詰めるよう詰問するのではなく、自然な様相を心がけて。この場に教諭が居ない以上、何かが起こった事は確実だ。下手に刺激しない方が良いだろう、彼らも消耗しているのだ。
すると緩慢な動作でお互いの顔を見合わせたあと、一人の男が口を開いた。
「高尾教諭(せんせい)は……歩いている最中に消えた。斜面を落ちたんだと思う」
「落ちた?」
滑落したのだろうか、だとすれば。
「厳密には滑ったんだろうと思う。あの時は強風で真っ直ぐ歩けなかったから。視界も白いし声も届かなかったし、ハッキリ分からないが」
「おれもいなくなった瞬間は見ていない。気がついて、しばらく大声で名前を呼んで探したが反応が無かった。だからはぐれた場所に銃剣を目印に置いて、その場を離れたんだ」
「すまん穂高……自分達の事で必死で」
一人の学生が口を開いたあとは、雪崩のように口々に学生たちが声を上げる。極限状態とはいえ不明になった者を置いて去ったのだ。それも教諭とあっては、思うところもあるんだろう。
「いや仕方ない、危険が迫っていた。負い目を感じる必要は無い。まずは自らの安全の確保が優先だ」
お前達の判断は正しかった、そうでなければ助けられるものも助けられないだろう、と。
沸かした湯を飲ませながら一人一人にそう伝える。
彼らはぐずぐずと涙ぐみながら、両手で何とかカップを保持して湯を飲んでいる。どうやら落ち着いて来たらしい。他の人間の心配ができる程に回復している証拠だ。
しかし滑落したとなると大事になる。斜面下まで降りて捜索するのか。天候は回復してきたとはいえ、そうできるか。
自分の分も雪を溶かして作った湯を飲んで、一息いれた。
そもそも高尾教諭を捜索すべきなのか。
彼らにも言ったように、我々の安全を確保するのが先決ではないのか。捜索を行ったとして行方不明の人間を見つける為に、いたずらに体力を使う事になるのではないか。他多数の仲間を無為に危険に晒すだけではないのか。
「……」
「おい、穂高」
「おい」ともう一度、先程より大きな声で呼びかけられて気がついた。
「凄い顔をしていたぞ」
「そうか。すまんな、少し考え事をしていた」
凄い顔とはどんな顔か、鏡も無いので見ることは叶わないが。どうせろくな表情では無いだろう。
「それで、これからどうする。野営地まで戻るのか」
凍傷で手の大きくなった男からそう提案が出た。「ほぉ」と白い息を一つ吐いて天井を見上げる。答えは決まっていた。全くいばらの道になるが。決心して言った。
「いや、わしは高尾教諭を捜索する。お前達はしばらくここで休んでいろ。体力が戻ったら野営地に戻り、岩木教諭に保護を求めるんだ」
「捜索ってお前。高尾教諭はどこに消えたとも分からんのだぞ」
「天候が良くなった今が好機だろう。これを逃すともう無い……それに」
「それに?」
「それに、こういう性分なのだろうな。やらねば、とわしの血が言って聞かんのだ」
「穂高、お前」
何か言いそうになった男を、手のひらで制する。「まぁ」と言いながら立ち上がりながら続けた。
「危険とあればすぐに引き返す心算だ。大丈夫だ、わしならやれるよ」
そう言って、彼らを置いて小屋を出たのだった。
再び学生らに尋ねた。追い詰めるよう詰問するのではなく、自然な様相を心がけて。この場に教諭が居ない以上、何かが起こった事は確実だ。下手に刺激しない方が良いだろう、彼らも消耗しているのだ。
すると緩慢な動作でお互いの顔を見合わせたあと、一人の男が口を開いた。
「高尾教諭(せんせい)は……歩いている最中に消えた。斜面を落ちたんだと思う」
「落ちた?」
滑落したのだろうか、だとすれば。
「厳密には滑ったんだろうと思う。あの時は強風で真っ直ぐ歩けなかったから。視界も白いし声も届かなかったし、ハッキリ分からないが」
「おれもいなくなった瞬間は見ていない。気がついて、しばらく大声で名前を呼んで探したが反応が無かった。だからはぐれた場所に銃剣を目印に置いて、その場を離れたんだ」
「すまん穂高……自分達の事で必死で」
一人の学生が口を開いたあとは、雪崩のように口々に学生たちが声を上げる。極限状態とはいえ不明になった者を置いて去ったのだ。それも教諭とあっては、思うところもあるんだろう。
「いや仕方ない、危険が迫っていた。負い目を感じる必要は無い。まずは自らの安全の確保が優先だ」
お前達の判断は正しかった、そうでなければ助けられるものも助けられないだろう、と。
沸かした湯を飲ませながら一人一人にそう伝える。
彼らはぐずぐずと涙ぐみながら、両手で何とかカップを保持して湯を飲んでいる。どうやら落ち着いて来たらしい。他の人間の心配ができる程に回復している証拠だ。
しかし滑落したとなると大事になる。斜面下まで降りて捜索するのか。天候は回復してきたとはいえ、そうできるか。
自分の分も雪を溶かして作った湯を飲んで、一息いれた。
そもそも高尾教諭を捜索すべきなのか。
彼らにも言ったように、我々の安全を確保するのが先決ではないのか。捜索を行ったとして行方不明の人間を見つける為に、いたずらに体力を使う事になるのではないか。他多数の仲間を無為に危険に晒すだけではないのか。
「……」
「おい、穂高」
「おい」ともう一度、先程より大きな声で呼びかけられて気がついた。
「凄い顔をしていたぞ」
「そうか。すまんな、少し考え事をしていた」
凄い顔とはどんな顔か、鏡も無いので見ることは叶わないが。どうせろくな表情では無いだろう。
「それで、これからどうする。野営地まで戻るのか」
凍傷で手の大きくなった男からそう提案が出た。「ほぉ」と白い息を一つ吐いて天井を見上げる。答えは決まっていた。全くいばらの道になるが。決心して言った。
「いや、わしは高尾教諭を捜索する。お前達はしばらくここで休んでいろ。体力が戻ったら野営地に戻り、岩木教諭に保護を求めるんだ」
「捜索ってお前。高尾教諭はどこに消えたとも分からんのだぞ」
「天候が良くなった今が好機だろう。これを逃すともう無い……それに」
「それに?」
「それに、こういう性分なのだろうな。やらねば、とわしの血が言って聞かんのだ」
「穂高、お前」
何か言いそうになった男を、手のひらで制する。「まぁ」と言いながら立ち上がりながら続けた。
「危険とあればすぐに引き返す心算だ。大丈夫だ、わしならやれるよ」
そう言って、彼らを置いて小屋を出たのだった。
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