【元幹部自衛官 S氏 執筆協力】元自衛官が明治時代に遡行転生!〜明治時代のロシアと戦争〜

els

文字の大きさ
上 下
29 / 135

第29話.出発

しおりを挟む
校庭に並んだ、五十名の学生。
黒い制服に外套を纏って背嚢を背負う。さらに小銃を担いでいるから、見た目はまさに軍隊である。

パッパパパーパッパパパー!

白んだ空に響くラッパの音。出発の合図である。
そう、ついに合宿が始まった。
初日の行程は、一日かけて麓(ふもと)の村まで徒歩で行き、そこで一泊する予定だ。大所帯ではあるが、もれなく民泊出来るように手配されているそうだ。

ザッザッと靴が音を重ねる。

岩木教諭を先頭に、歩く学生の顔は上向きだ。初めての行事に期待を持ってのことか。それとも学外に出るのが新鮮なのか。
昨日までの雨雲は消え、お天道様も私達の行く道を後押ししてくれているようだった。

半長靴が泥(ちゃいろ)と雪(しろ)を跳ねて弾む。二列縦隊、五十名の百脚が一つの生き物のように規則正しく流れていった。
集団で一塊となると、己が大きな一(いち)の部品であると、そんな目に見えない心の動きが現出した。そういった錯覚めいたモノが不思議な自信を与えてくれる。
つまり気が大きくなるということだ。

皆がこうしているのだから大丈夫だ、間違いは無いだろう。そういった錯誤が起こるのだ。この場合はそれが命取りになりかねん。

はぁっと、ひとつ白い息を吐いて気持ちを落ち着ける。
私がすべきは、危険を事前に察知すること。今、皆と同じ気持ちになってどうするのか。
独り風を聴き、山と語らねばならない。
ああ役割をこなすのだ。人知れず決意を胸に秘めたのだった。

白い丘を二つか三つか。
道中は天候にも恵まれ、雪も深くない。良くできた道を歩くのは苦にならない。首を回せば、景色を楽しむ余裕すらあった。
目的の村に着いたのは、その日の夕方だ。

四、五人が一つのグループになり、それぞれ民家に世話になって一泊することになっている。かくいう私も他の三名と共に、村民の自宅に厄介になった。

存外と言えば語弊があるが、私達の一団は彼らに歓迎された。どうやら学校からは、きっちり宿泊料が払われているようだ。
これは本当に助かった。明日の昼飯の握り飯まで、用意して貰えるという事である。

夕飯の後には、外を歩いた。
雲間から降る頼りない月明かりの下、明日登る予定の山を見上げた。雪に包まれて、のっぺりとしたその表情からは何も感じられない。
そして朝の快晴は何処へやら、西の空は雲に包まれている。

「おっ穂高ぁ、どうした?」
「吾妻か。明日の天候が気になってな」

ぶらぶらと表を徘徊する私を不審に思ってか、吾妻が声をかけてきた。

「曇ってるなぁ」
「うん」

二人並んで空を眺める。
男と、それも丸刈りの大男と並んで空を見ても楽しくはない。吾妻が「ぶえっくしょい!」と大きな声でくしゃみをした。

「ズズっ……まぁ明日次第だな」

それが結論であるだろう。
心配事は尽きないが、明日は明日の風が吹くか。今、気に病んでもしようがない。当日の天気に賭けるしか無いのだ。

「そうだな。いや、ありがとう」

早々に吾妻は手を上げて屋内に帰っていった。それを見送った私も、寝床に戻るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死んだ一人の少女と死んだ一人の少年は幸せを知る。

タユタ
SF
これは私が中学生の頃、初めて書いた小説なので日本語もおかしければ内容もよく分からない所が多く至らない点ばかりですが、どうぞ読んでみてください。あなたの考えに少しでもアイデアを足せますように。

銀河英雄戦艦アトランテスノヴァ

マサノブ
SF
日本が地球の盟主となった世界に 宇宙から強力な侵略者が攻めてきた、 此は一隻の宇宙戦艦がやがて銀河の英雄戦艦と 呼ばれる迄の奇跡の物語である。

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

乾坤一擲~権六伝~

響 恭也
SF
天正11年、燃え盛る北庄城。すでに覚悟を決めた柴田勝家の前に一人の少年が現れる。 「やあ、権六。迎えに来たよ」 少年に導かれ、光る扉を抜けた先は、天文16年の尾張だった。 自身のおかれた立場を理解した勝家は、信長に天下をもたらすべく再び戦うことを誓う。 これは一人の武士の悔恨から生まれた物語である。

処理中です...