17 / 135
第17話.学校ヘ行コウ
しおりを挟む
結局あれからも何人かに道を聞き直し、ようやく学校に到着したのが昼を回っての三時過ぎだった。
見上げると洋風の大きな校舎だ。真っ白な外壁、大きな塔にガラス窓。それに瓦屋根。
洋風建築。いやこれは擬洋風建築と言うべきものだ。急激な西洋化によって和風建築に携わって来た職人達が、見よう見まねで建てたもの。
和洋折衷と言うべきか、実に見事な建造物である。一言で言うなれば美しいと言う言葉が良いだろう。文化の過渡期における日本的感性と、西洋にならえの技術的革新が究極たるマーブル模様を呈したのだ。百年後でも通用する美術的価値がある。
前世の記憶を持つ私から見るとクラシックな風情であるが、この時代の日本人達には先進的なそれ映っていたであろう。
しかし、門のどこを探しても「北部方面総合学校」の表記は無い。敷地内の小さな詰め所で座っている制服の男に話しかける事にした。
「もし、そこな人。ここは北部方面総合学校ではありませんか?」
「ん、何だ貴様。何用か」
「わしは穂高進一、雪倉宗太郎(ゆきくらそうたろう)戸長より推薦状を賜って来た者です」
そう言って書状を差し出す。それを受け取った男は、こちらを一瞥もせずに言った。
「うん。貴様の言う通り、ここは北部方面総合学校で間違いない。入学希望者は推薦状を持って校舎に入れ」
「はい」
ぶっきらぼうに返された書状を大事に仕舞った。この男の態度の悪さに、内心よろしくない気持ちを覚えつつも校舎の扉をくぐった。
校舎に入ると、すぐに事務所然とした一部屋に案内された。引き戸を開けて中に一歩入ると、煙草の煙が立ち込めている。
立派な革のソファに深く腰掛けている男が、こちらに気付いて手招きした。
「穂高進一です!雪倉宗太郎戸長の推薦で、入学希望に参りました!」
大きな声で挨拶をすると、一礼して男の前に立った。
「私は校長の赤石(あかいし)だ。穂高くんだね、ようこそ。紹介状を見せてくれるかな」
「はい」
言われるがままに書状を差し出した。革のソファに深く腰をかけた校長は紹介状を隅まで眺めると言った。
「よし。では早速試験を受けて貰おうか」
「試験ですか?」
「なんだ聞いておらんのかね」
聞いていない。
紫煙を一息。校長は煙草を灰皿に置きながら、まるで意外な事のように言った。私は正直に応える。
「聞いておりません」
「そうか。数学、英語、漢文、歴史とあるが出来るだろうね」
「数学と英語なら」
「では受けたまえ」
どうやら日時を決めて、同じテストを一斉に受ける平成の入学試験とは仕組みが違うらしい。できると言った二つの科目の試験を言われるがまま、すぐに受ける事になった。
数学は中高生程度の問題であり易しかったが、英語は難題であった。小難しい英文を訳して、自らの見解を述べよと言うものだ。
これには参った。
それでもどうにか答案を仕上げると、鉛筆を置いた。久しぶりの試験と言うものに緊張しただろうか、いや今更だな。
「ではまた、追って合否の連絡があるから沙汰を待てよ」
「はい、本日はありがとうございました」
赤石校長に礼を言って、立ち去ろうとした時に呼び止められた。
「ところで君は、下宿は決まっておるのかね」
「いえ、まだ決まっておりません」
「それはいかんね、寮があるからそこに住まいなさい。私から連絡しておこう」
「ありがとうございます」
校長は私の風貌を見て、住まうところに困っていると判断したのだろうか。まぁ実際にどうすべきかと考えていたので、渡りに船であるのだが。
その後、寮へ案内された。
四畳半ほどの一間に、文机(ふづくえ)が置いてある部屋だった。私は学生生活をこの部屋で過ごす事になるのだ。
見上げると洋風の大きな校舎だ。真っ白な外壁、大きな塔にガラス窓。それに瓦屋根。
洋風建築。いやこれは擬洋風建築と言うべきものだ。急激な西洋化によって和風建築に携わって来た職人達が、見よう見まねで建てたもの。
和洋折衷と言うべきか、実に見事な建造物である。一言で言うなれば美しいと言う言葉が良いだろう。文化の過渡期における日本的感性と、西洋にならえの技術的革新が究極たるマーブル模様を呈したのだ。百年後でも通用する美術的価値がある。
前世の記憶を持つ私から見るとクラシックな風情であるが、この時代の日本人達には先進的なそれ映っていたであろう。
しかし、門のどこを探しても「北部方面総合学校」の表記は無い。敷地内の小さな詰め所で座っている制服の男に話しかける事にした。
「もし、そこな人。ここは北部方面総合学校ではありませんか?」
「ん、何だ貴様。何用か」
「わしは穂高進一、雪倉宗太郎(ゆきくらそうたろう)戸長より推薦状を賜って来た者です」
そう言って書状を差し出す。それを受け取った男は、こちらを一瞥もせずに言った。
「うん。貴様の言う通り、ここは北部方面総合学校で間違いない。入学希望者は推薦状を持って校舎に入れ」
「はい」
ぶっきらぼうに返された書状を大事に仕舞った。この男の態度の悪さに、内心よろしくない気持ちを覚えつつも校舎の扉をくぐった。
校舎に入ると、すぐに事務所然とした一部屋に案内された。引き戸を開けて中に一歩入ると、煙草の煙が立ち込めている。
立派な革のソファに深く腰掛けている男が、こちらに気付いて手招きした。
「穂高進一です!雪倉宗太郎戸長の推薦で、入学希望に参りました!」
大きな声で挨拶をすると、一礼して男の前に立った。
「私は校長の赤石(あかいし)だ。穂高くんだね、ようこそ。紹介状を見せてくれるかな」
「はい」
言われるがままに書状を差し出した。革のソファに深く腰をかけた校長は紹介状を隅まで眺めると言った。
「よし。では早速試験を受けて貰おうか」
「試験ですか?」
「なんだ聞いておらんのかね」
聞いていない。
紫煙を一息。校長は煙草を灰皿に置きながら、まるで意外な事のように言った。私は正直に応える。
「聞いておりません」
「そうか。数学、英語、漢文、歴史とあるが出来るだろうね」
「数学と英語なら」
「では受けたまえ」
どうやら日時を決めて、同じテストを一斉に受ける平成の入学試験とは仕組みが違うらしい。できると言った二つの科目の試験を言われるがまま、すぐに受ける事になった。
数学は中高生程度の問題であり易しかったが、英語は難題であった。小難しい英文を訳して、自らの見解を述べよと言うものだ。
これには参った。
それでもどうにか答案を仕上げると、鉛筆を置いた。久しぶりの試験と言うものに緊張しただろうか、いや今更だな。
「ではまた、追って合否の連絡があるから沙汰を待てよ」
「はい、本日はありがとうございました」
赤石校長に礼を言って、立ち去ろうとした時に呼び止められた。
「ところで君は、下宿は決まっておるのかね」
「いえ、まだ決まっておりません」
「それはいかんね、寮があるからそこに住まいなさい。私から連絡しておこう」
「ありがとうございます」
校長は私の風貌を見て、住まうところに困っていると判断したのだろうか。まぁ実際にどうすべきかと考えていたので、渡りに船であるのだが。
その後、寮へ案内された。
四畳半ほどの一間に、文机(ふづくえ)が置いてある部屋だった。私は学生生活をこの部屋で過ごす事になるのだ。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
死んだ一人の少女と死んだ一人の少年は幸せを知る。
タユタ
SF
これは私が中学生の頃、初めて書いた小説なので日本語もおかしければ内容もよく分からない所が多く至らない点ばかりですが、どうぞ読んでみてください。あなたの考えに少しでもアイデアを足せますように。

本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる