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第16話.札幌ト学校
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「ほお……すごいな、これが近代化か」
大通りを通る馬車、黒い煙を噴き出す鉄道。
人は尽きる事無く、沢山の人力車が行き交い、声をかけて走り去る様は圧巻だ。
人の活気にあてられて、キョロキョロと辺りを見回している私は完全にお上りさんに映っているだろう。
生まれ育った山奥と違った、都会の空気というものに呑まれている。北部方面総合学校は、札幌にあった。この町は明而の世でも、人の集まる中心地として大いに栄えているようだ。
女学校が近くにあるのだろうか。
きゃぁきゃあと高い話し声を響かせて歩く女学生達は、海老茶色の袴にブーツを合わせた、まさに和洋折衷の装いをしている。
「あぁ、しかし若い女生徒のかしましいというのは明而でも平成でも変わらんな」
一世紀以上昔の、明而の女子であるから「大和撫子(やまとなでしこ)」なんて言葉が似合う淑女を空想していたが。人間の性質なんていうのは、そう変わらないのかも知れない。
ほぅと橋の上で人の流れるままを眺めていると、トンと軽く肩が触れた。
「あっ」
「おっと、失礼」
私とぶつかって、ひょっと転げかけた女の子の腕を掴んで支えた。ぐっと片手で引き起こす。
赤い和柄のリボンに束髪崩し、女学生らしい。黒い髪がふわりと舞う。
態勢を立て直し、顔を上げた彼女と目があった。
こちらから何か言おうと口を開きかけた時、彼女は「失礼致しました」と言って頭を下げた。行儀の良いお嬢さんだ。
「いや、お嬢さん。こちらこそ申し訳ない。田舎から出てきたばっかりなもので、足が地についていなかったんです」
「まぁ、それは!」
彼女は慌てて私の足元を見る。
「ついていますわ」
「たとえ話ですよ」
少し間を開けて、彼女がぱっと明るい顔をして言った。
「まあ嫌ですわ、わたくしったら!」
「ははっ」
女の子の身の丈は私とあまり変わらない。
今更、身長にコンプレックスというでも無いんだが、比べる対象があると自らの低身長が目立つよな。そんなくだらない事を考えていると、彼女が口を開いた。
「わたくしも、この街には来たばかりですの。右も左もわからなくって」
手振り身振りを加えながら話すクセがあるらしい。手に持ったオレンジ色の巾着袋が振り回されている。
「そうですか、大きな町ですからね。人通りも多い、お気をつけて」
「ありがとうございます。では、ご機嫌よう」
そう言うと、再びぺこりと頭を下げて去っていった。
表情豊かな女の子だったな、名前くらい聞いてやれば良かったか。いや、そんな事をしている暇は無いか。
そうだ、日暮れまでに学校に着かねばならないのだ。それには問題が一点だけある。
「……そう、他人に気をつけてと言ったばかりだが。わしも道に迷っておるんだよな」
雪倉戸長から預かった住所を見る、がイマイチ要領を得ない。どうにもしようがないので、たまたま近くを通った男に道を尋ねた。
「もし、そこの人。北部方面総合学校へはどうやって行けば良いだろうか」
「ん?総合学校、聞いたことねぇな。北方女学校じゃあないのか」
「いや、そうでは無いのだが」
住所を見せると、その場所は知っていると言う。案内を受ける事は出来たが、学校を知らないと言うのは気になるな。
まだ名が知られていないのだろうか。
「まさか雪倉戸長にかつがれている、なんて言うのは勘弁願いたいな」
ぶらりぶらりと町並みを見ながら、教えて貰った方向へ歩いて行くことにした。
大通りを通る馬車、黒い煙を噴き出す鉄道。
人は尽きる事無く、沢山の人力車が行き交い、声をかけて走り去る様は圧巻だ。
人の活気にあてられて、キョロキョロと辺りを見回している私は完全にお上りさんに映っているだろう。
生まれ育った山奥と違った、都会の空気というものに呑まれている。北部方面総合学校は、札幌にあった。この町は明而の世でも、人の集まる中心地として大いに栄えているようだ。
女学校が近くにあるのだろうか。
きゃぁきゃあと高い話し声を響かせて歩く女学生達は、海老茶色の袴にブーツを合わせた、まさに和洋折衷の装いをしている。
「あぁ、しかし若い女生徒のかしましいというのは明而でも平成でも変わらんな」
一世紀以上昔の、明而の女子であるから「大和撫子(やまとなでしこ)」なんて言葉が似合う淑女を空想していたが。人間の性質なんていうのは、そう変わらないのかも知れない。
ほぅと橋の上で人の流れるままを眺めていると、トンと軽く肩が触れた。
「あっ」
「おっと、失礼」
私とぶつかって、ひょっと転げかけた女の子の腕を掴んで支えた。ぐっと片手で引き起こす。
赤い和柄のリボンに束髪崩し、女学生らしい。黒い髪がふわりと舞う。
態勢を立て直し、顔を上げた彼女と目があった。
こちらから何か言おうと口を開きかけた時、彼女は「失礼致しました」と言って頭を下げた。行儀の良いお嬢さんだ。
「いや、お嬢さん。こちらこそ申し訳ない。田舎から出てきたばっかりなもので、足が地についていなかったんです」
「まぁ、それは!」
彼女は慌てて私の足元を見る。
「ついていますわ」
「たとえ話ですよ」
少し間を開けて、彼女がぱっと明るい顔をして言った。
「まあ嫌ですわ、わたくしったら!」
「ははっ」
女の子の身の丈は私とあまり変わらない。
今更、身長にコンプレックスというでも無いんだが、比べる対象があると自らの低身長が目立つよな。そんなくだらない事を考えていると、彼女が口を開いた。
「わたくしも、この街には来たばかりですの。右も左もわからなくって」
手振り身振りを加えながら話すクセがあるらしい。手に持ったオレンジ色の巾着袋が振り回されている。
「そうですか、大きな町ですからね。人通りも多い、お気をつけて」
「ありがとうございます。では、ご機嫌よう」
そう言うと、再びぺこりと頭を下げて去っていった。
表情豊かな女の子だったな、名前くらい聞いてやれば良かったか。いや、そんな事をしている暇は無いか。
そうだ、日暮れまでに学校に着かねばならないのだ。それには問題が一点だけある。
「……そう、他人に気をつけてと言ったばかりだが。わしも道に迷っておるんだよな」
雪倉戸長から預かった住所を見る、がイマイチ要領を得ない。どうにもしようがないので、たまたま近くを通った男に道を尋ねた。
「もし、そこの人。北部方面総合学校へはどうやって行けば良いだろうか」
「ん?総合学校、聞いたことねぇな。北方女学校じゃあないのか」
「いや、そうでは無いのだが」
住所を見せると、その場所は知っていると言う。案内を受ける事は出来たが、学校を知らないと言うのは気になるな。
まだ名が知られていないのだろうか。
「まさか雪倉戸長にかつがれている、なんて言うのは勘弁願いたいな」
ぶらりぶらりと町並みを見ながら、教えて貰った方向へ歩いて行くことにした。
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