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第14話.事件ノ後

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ヒグマが討伐された事により事件は収束した。里に引きずり降ろされたヒグマの胃からは、数人分の未消化の骨と着物の切れ端が発見された。
それを見た村民のある者は烈火の如く怒り、ある者は悲嘆にくれた。それぞれ反応は違えど、強い憎しみの心を抱いているようであった。

役場の前でしばらく晒されたヒグマの死骸だが、その処分は意見が分かれた。最終的に村民の協議の結果、残さず火葬されることになった。
皮も肉も、骨も。
全てが灰になり、空に消えていった。

皆、無言で空を眺めたのだった。

傷を負った者は、幸いにして皆回復する事ができた。全く以前のようにとはいかないが、日常生活支障が送れるようになったのは僥倖であると言えるだろう。

しかし、死んだ者は帰っては来ない。

この事件は村民に深い傷を残したが、「土地を再建する」と戸長と村民が一丸となって荒らされた屋敷や田畑を建て直し、見事に復興する事となる。
村は維新以降に本州から移り住んだ者たちのものであった。原野を自分達で切り拓いた、その土地を「自らが拓いた土地である」という気概を持っていた故に、耐え忍ぶ事ができたのかも知れない。
それぞれが事件を乗り越え、自分の生活に戻って行った。


そして、私は……。


この国を、世界を知るために動き出した。
この事件が無ければ、役場で「北部領土開拓史」を開かなければ思いもよらなかっただろう。一生を山で狩人(マタギ)として生きていただろう。

本当は、それで良かった。
穂高信吉(マタギ)の孫として、そうして山と共に生きて、そして死ねば良かった。

でも、それは出来なかった。

この明而(めいじ)の、我が国の現状に気がついてしまったからだ。良く知る歴史から少しずつズレている、この世界を垣間見たからだ。
そうして、もっと知りたいと思ってしまった。もっと詳しく我が国を知り、そして前世の記憶を持つ私の力で、この国を良い方向に持っていきたい。

そんな少年じみた、夢のような。全く青くさい考えが頭をよぎってしまったのだ。
かつての明治を、大正を昭和を平成を。あの日本の歴史を知っている私ならば、と思ってしまったのだ!

そんな妄想がぐるぐると頭の中を駆け巡り、いよいよ制御ができなくなって雪倉戸長にこう切り出した。

「戸長、わしを役場で雇って頂けないか。ここで働かせて欲しい」

そんな突然の志願だったが、雪倉戸長の返事は良かった。

役場も人手不足で、読み書き算盤ができる者はいつでも欲しいという事だった。それに鉄砲も撃てるというのは、里に獣が出た時に頼りになる。
そう言う訳で二つ返事で働き口を得たのだった。事後承諾になるが爺様に話を持っていくと、好きにしろと言う事であった。
本当に爺様(じさま)には頭が上がらない。

そうして私は、戸長役場に住み込みで働く事となった。それは十六歳の、雪の降る日の事であった。
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