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第30話
しおりを挟む夢を見ていた。
懐かしい夢。
僕は受験票を握りしめて、桐峰学園の掲示板の前にいた。周りは喜びで歓声をあげる人や悔しさに涙を静かに流す人やそれぞれだった。僕は自分の番号を探す。周りの空気に圧倒され、冬にも関わらず僕は汗を流した。どくどくと脈打つ身体を堪えて掲示板を見つめていた。番号を見つける前に肩を叩かれた。驚いて急いで振り返ると、ジャージ姿に大きなスポーツバックを下げた笑顔の輝く好青年が立っていた。
「なんて名前?俺、陽介」
もう一度笑顔でフルネームを名乗った陽介にたじろぎながらも、答えると一層華やいだ笑顔で、よろしくなと手を握られた。初めて、人とこんなに距離を詰めて話したものだから、心臓がばくばくして痛かった。それから彼の勢いに負けて連絡先を交換して、彼は練習があると言って走り去っていった。合否を見にきている大勢の中から、たった一人の僕を見つけ出し声をかけてきたことを不思議に思うが、嵐のような、でも陽だまりのような明るさの彼の背中を見送り、姿が見えなくなると、は、と気づいて掲示板に目線を戻した。これで不合格では元も子もない。せっかく声をかけてくれて友達になれそうな人と出会えたのに。そんな心配も杞憂で終わり、僕は帰り道、憧れの高校に通い太陽のような明るさを持つ友達と過ごせる日々に心躍らせていたのだ。
意識が朦朧としていたが、ゆっくりと瞼を上げる。初めて見る高い天井があり、どこだ、と記憶を探ろうとする。
「ああっ、んぅ」
その前に強い快感に声が漏れる。視線を落とすと、僕の足の間で、男性器を頬張る顔と目があった。
「なな、起きたの?」
へにゃりととろけた笑みを見せて陽介は優しく声をかけてきた。
「な、なんで、ようす、っあっあ…」
状況が読めずに目を見張ると、陽介が握りしめていた僕のそれをぐちゅぐちゅと上下に擦り、先端をぐりぐりと指先でいじめてきた。やめて、と手を伸ばそうとして、ちゃり、と金属の音がして手首の違和感に気づく。そこに目をやると、左手首には柔らかい布で保護された手錠がかけられていて、ベットヘッドと繋がっていた。がちゃ、と嫌な金属音にひやりと背中が冷えてだんだんと状況が読めてきた。
そうだ、僕はシェルターで佳純を待っていたんだ。そしたら、秀一が入ってきて、そのまま発情期に入って…それで…それで……?
「ひゃあ、あっあ」
考え込んでいるとびん、と強い痺れが爪先に走る。陽介は瞼をおろし、うっとりと僕の陰茎を呑み込み頭を上下に振っている。熱い唇を窄め、強く吸われたり裏筋やくびれを尖らせた舌先で細かく振動を起こされると、身体が跳ねてしまう。内股で彼の頭を挟みこんでしまうと、彼は嬉しそうに腿に頬擦りをし、唇と僕の性器に透明な粘っこい糸を繋がせながら微笑む。そそり勃ち涙を流す僕のそれに吐息を吹きかけてから、柔らかい内股に唇をあてる。ぢゅ、と強く吸われて震えると、その痕を舌先でなぞるように舐める。
「な、にっ、やめ、て…よ、すけ…」
表情は甘いのに、瞳はぎらぎらと獲物を狙う狩人の色を見せる陽介は、僕の陰茎に唇で吸い付き、玉に降りて会陰を柔く唇で喰み、そして愛液溢れるそこにキスをする。じゅるじゅると大きな音を立てながら啜り、熱い舌を差し込む。
「や、だぁっ!きたな、いよ!や、めて!」
やめて、と何度懇願しても、陽介はその声を聞けば聞くほど興奮しているのか、舌をくぽくぽと出し入れする。そして、思い出したかのように愛液をすするのだ。その大きな音に自分の身体がどれだけ乱れているのかをまざまざと見せつけられる気がして、恥ずかしさに指先が震え、涙があふれる。
「よ、すけ…や、らぁ…ぁ…」
ちゅぽ、と舌が抜かれ、呼吸を乱しながらも一安心する。はぁ、はぁ、と酸素を健気に身体は取り込もうと動く。陽介は、裸で僕の上にのしかかってきた。久しぶりのその体温に心臓は思い出したかのように、どきりと跳ねたが、すぐに、僕が求めている熱はこれではないと頭がはっきりと拒絶した。
「や…やめて……陽介…」
あの時のように迫ってくる唇を首を曲げて避ける。僕が、キスをしたいのは…
「んむぅっ」
力任せに顔を向かされて唇を塞がれる。歯を閉じて侵入を拒むが、陽介が全身から強いアルファのフェロモンを惜しみなく溢れさせる。鼻腔から身体に入り込み、むせ返るようなそのフェロモンに、口呼吸を思わずしてしまうと見計らったように陽介は舌をねじ込んでくる。甘い唾液を流し込まれ、自分のものとぐちゃぐちゃに混ぜ込まれてしまうと嚥下せざるを得なく、飲み込んだ瞬間に頭がぐらぐらと揺れる。頬裏を丹念に舐められると、その快感に、腰を震わせて吐精する。それを指で掬うと陽介は僕の口内に白濁のついた指を押し込んだ。そして、舌を弄びながら、息絶え絶えに喘ぐ僕を見つめ、口角をあげている。
「ななぁ…」
「んぅうっ!」
ぬぷ、と熱い肉棒が挿入され、与えられる熱に身体は歓喜に震える。
なんで、と涙が次から次へと溢れる。
僕が、いて欲しいと心から求めていたときに、君たちは、僕を見捨てたじゃないか。
別の人間の手を取り、微笑んでいたじゃないか。
やっと、やっと、君たちに与えられた傷が、癒やされ、足を進めたんだ。
彼のおかげで…
目の前の男は、愉悦に浸った顔で僕を見つめている。僕の視線の先には、彼越しに揺さぶりに合わせてぶらぶらと揺れる足先が見える。
「ななっ、ななっ、ずっと、こうしたかった、俺の、俺のななっ」
「あんっ、あっああっ、きもちいっ、いいっ、あんっあっ、いぃ、よぉ」
こんなに心は冷たいのに、甘く強い匂いに僕の脳髄は溶け切り、快感に攻め立てられている。喘ぎ声は絶え間なくもれ、それに気を良くした陽介は顔中を舐め回してくる。僕の涙の真意なんて、わからないだろう。
汗に混じって、ほんのかすかにあの大嫌いなオメガのにおいがして、鼻をしかめて唇を噛む。
「んぅ、ぅ、や、ら、やらぁっ、もぉ、や、らあ!」
「大丈夫、だよ、ななっ、たっくさん、種付け、してあげるからっ」
大きいベットが、ぎしぎしと彼の動きに合わせて耳につく音を響かせる。
「あぁ、俺のなな、好き、好きだよ、ずっと、誰にも、渡さない」
肩口を強く噛みつかれ頭が真っ白になる。それを快感だと認識したのか、僕の愚かな身体は吐精し、ねだるように陽介の性器を締め上げた。その瞬間、陽介は確かに射精した。それなのに、気づいていないのか、ずっと同じ速度で腰を押し進める。むしろ速さを増している気もする。
「よ、すけぇ、とま、とまっ、てぇ、イッ、イッてるっ!こわ、こわれちゃ、あああっ!」
「なな、好き、好きだよ、なな、俺のなな、俺のななっ!」
全身が耐えられず大きく何度も跳ね、痙攣する。身体の中は強い電流が帯電しており、びりびりと爪先が痺れる。それでも、陽介は止まらない。壊れてしまったのか、ずっと同じことを口走り、腰を動かすのだ。どれだけの長さそうしていたかわからないが、僕は陽介の三回目の射精を待たずに意識を失った。
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