黄昏時に染まる、立夏の中で

麻田

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第12話

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 部屋に着いた時には、頭はずっと靄がかっていた。
 自室に入り、ドアを閉めると一気に身体が怠く感じられた。
 あの後、教室から荷物をとって、僕たちの秘密基地へと戻った。僕よりも到着するのに倍の時間がかかるはずなのに、もう透は到着していて、満面の笑みで僕の登場を喜んでいた。たった数十分ぶりなのに、一生ぶりの再会を祝うように笑みを深める大きな年下の透を愛らしいと思えてしまう。
 そのあとは、ポットに水やりをやって、一緒にブルーベリーの収穫をした。獲れたてのものを、彼が口元に運んでくるから、大人しく口に含むと、今まで食べたどのブルーベリーよりも匂い高く、味が濃く、甘みを強かった。それを伝えると、彼は一段と喜ぶ。それが嬉しくて、僕も獲ったブルーベリーを彼につまんで口元にやる。喜んで食べる彼は可愛かった。
 指先がじん、と疼いて、それで唇に触れる。忘れていた腹奥がじゅわ、と熱をにじませて、全身が跳ねる。

(まずい…)

 カバンのポケットから急いでピルケースを出して、一錠飲み込む。
 熱がぞわぞわと身体を這いまわる。それでいて寒気がする。三か月に一度の、いつものものだ。
 そろそろだとわかっていたから、いつでもシェルターに行けるように準備していたカバンをひっぱり出す。薬は即効性のあるものだから、これ以上ひどくなることはないだろう。意を決して、部屋を出る。オメガ寮から地下通路を使って、シェルターのある棟へと移動する。受付で、これまた用意していた申請用紙を提出して、渡されたカードキーで部屋へと入る。
 大した距離でないのに、何十キロも歩いた気がする。時間だって、十分程度の話なのに、何時間にも感じられた。
 オートロックのドアが、がちゃり、と重い音を立てて封鎖されると、身体の熱がさらに高まっていった。
 冷蔵庫から水を取り出して、一口飲んで、ベッドへと倒れ込んだ。
 清潔なシーツの上で、制服のまま横になり、意識がぼんやりとしていく。目の前には、かすみながらも自分の手が見える。

(透…)

 瞼を降ろすと、彼の笑顔が簡単に浮かんでくる。そのまま、僕は、少しの眠りについた。







 睫毛が震えて、うっすらと意識が浮かんでいく。辺りはもう暗くなっている。
 ぐっしょりと汗をかいていて、熱が収まらないことに驚く。

「水…、んうっ」

 重い身体を起すと、その衣擦れだけで、変な声が漏れる。ぞく、と背筋を何かが走り抜けて、頭が混乱する。ベッドサイドに置いたペットボトルを手にして、口に運ぶが、手が震えて、大半が唇からこぼれてしまった。白シャツにじわりと水が沁み込んで、それだけで、身体がぴくぴくと反応をする。

(薬…飲んだよね…?)

 抑制剤はよく効く方だった。
 発情期に入っても、性的興奮が高まることはなかった。意識もはっきりしていた。微熱らしいだるさがあるくらいで、他は何も異常を感じたことがなかったため、自分の身体に戸惑いが隠せない。
 近くに落ちていたカバンを手繰り寄せて、もう一錠、抑制剤を飲み落とす。とにかく、これで薬が効くと信じて、ひりつく肌を唇を噛んで我慢しながら、持ってきたパジャマへと着替える。

「ん、ぅ…う」

 リネン地のシャツが肌を滑ると、胸先からびり、と強い刺激が送られてくる。気にしないふりをして、震える指先でなんとかボタンを留める。ズボンも脱ぎ捨て、ハンガーにかける余裕もなく、とにかく足を通す。下着を替える勇気がなく、なんとか着替えを終えたら、布団を被る。
 ふー、ふー、と荒い息が聞こえる。自分のこんなに乱れた呼吸ははじめてな気がする。
 朦朧とする意識の中、早く眠りにつくことと薬が回ることを祈りながら、目を閉じた。







 息苦しい暑さに目を覚ますと、そこは、いつもの植物園だった。まぶしい日差しが鬱蒼とした葉の間から零れている。その僕にさらなる影を作っているのは、目の前にいる彼だった。

「透…?」

 微笑んだ透の顔がどんどん近づいてくる。

「依織先輩」

 名前を呼ぶ彼の吐息が唇にかかる。くすぐったさとじりつく熱に身じろぐと、長い睫毛に縁どられながら、彼の翡翠色の瞳がすぐそこにあった。
 そして、好きです、という言葉と共に唇が触れ合う。ただ、触れ合った唇はゆっくりと遠のいていき、透を見上げると、ふふ、と頬を染めて笑ういつもの彼がいる。
 大きくて、硬い手のひらが僕の頬を包み、こめかみを撫でる。心地よさに息がもれると、透は、耳元に唇を寄せる。

「かわいい」
「んっ…」

 かすれた声は聞き馴染んだ声よりも、ずっと湿っぽいものを持っていて、脈拍があがる。腰が一気に重くなる。

「好きです、先輩」
「ん、ぁ…とお、る…」

 耳元にリップ音を立てながら、吸い付かれると脳の奥まで痺れるようで、全身が細かく震える。それも、かわいい、と軽く笑って、手のひらの動きがさらに大胆になっていく。
 うなじをたどり、鎖骨をくすぐり、胸元をシャツの上から触れられる。

「ひゃ、っ、ぁ…」

 指の関節が、主張する小さな粒にひっかかり、背中を反ってしまう。変な声が自分から出て、瞠目し、口元を急いで押さえる。彼がのそり、と身体を起すと、僕と目を合わせて柔らかく微笑んだ。それから、見たことない炎を灯す瞳で見つめながら、胸元を大きく揉む。

「ん、ん…や…、と、る…っ」

 ない胸を揉まれる羞恥に顔を染めて、透の手首に触れると、骨ばった男らしい身体で、内腿がひりついた。

「あっ、ぁ、んんっ、やあっ」

 内腿を気づかれないように擦り合わせていると、急に胸元の先端から鋭い電気信号が送られてくる。急いで見下ろすと、四角い爪をした彼の人差指が、小さく勃起した飾りの硬さを確かめるように、何度も弾いていた。いきなりの強い刺激に、びりびり、と背筋が痺れて、手首を握りしめながらベッドの上で、彼の大きな身体の下で、まな板の魚のように跳ねるしかなかった。

「やぁ、っん、あっ、と、るっ、やめっ、だめ、あっ」

 透らしからぬ、やや雑な動きに、何も知らない僕は声を抑えようと必死になるばかりだった。

「依織先輩」

 柔らかい彼の声がする。濡れた睫毛を持ち上げると、眦を染めた彼が微笑んでいる。口を押える指先に、ちゅ、とキスを落とされて力が抜けていく。優しく手首をシーツに留められると、淡くキスをされる。それを僕は、目を伏せて受け止めるしかできない。しっとりと唇が合わさる度に、吐息が漏れて、顔の角度を変えて、もう一度される。

(きもちい…)

 彼らしい口づけに、意識がぼんやりと霞む。心地よさに包まれて、もっとほしくて、透の広い背中に手を這わす。

「依織先輩」
「ん、ぅ…」

 キスの合間に、大切に名前を囁かれる。ぽやつく頭のまま視界を開けると、彼も嬉しそうに笑みを深めていた。

「僕たち、両思いだから、良いですよね?」
「りょう、おもい…?」

 それよりもキスがしたい、と唇がうずいて、すぐそこにあるそれに触れようとすると、少しだけ距離をとられてしまう。
 なぜ、と疑問が浮かび、寂しさに眉根がよる。けれど、シャツの間から差し込まれた手が、素肌の脇腹を撫でてきて、何も気にする余裕がなくなる。

「僕と依織先輩。お互い好きだから、良いですよね?」
「ん、あ、なに…ぁ、ん」

 爪先が輪郭をたしなむように軽く触れながらなぞる。ぞわ、と鳥肌が立つ。円を描くように触れられたあと、へそに指先がひっかかり、下腹部を下に向かってなぞっていく。

「ひゃ、あ…っ!」

 下着ごとパンツを脱がされると、ふる、と勢いよく分身がさらされて、何が起きているのか一瞬わからなくなった。恥ずかしくて身体を起そうとするより前に、透の両手によって、太腿を割り開かれる。すべてを彼にさらけ出す体勢になってしまい羞恥に全身が朱に染まる。

「や、やだ、透っ…!」

 透の指先が、見たこともないほどそそり勃ち、雫を零している僕の分身を撫でる。大げさなほど腰が跳ねてしまい、さらに顔に熱が集まる。くす、と透は笑ってから、僕の柔らかな双丘を撫でて、後孔に指を押し当てた。





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