拗れた初恋の雲行きは

麻田

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第79話

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 副会長にも佳純から連絡がいっていたらしい。アルファとしては正しいが、会長としては間違っていると、笑顔を貼り付けたまま静かに怒り狂っていた。この貸しはでかそうだ。佳純にもよく言いきかせようと誓い、礼を伝えておいた。
 始業式は、副会長の機転により滞りなく進められた。会長挨拶は副会長が請け負い、持ち前の笑顔で生徒たちを魅了していた。俺の挨拶も理央との練習の甲斐があって、特別なことは起きずに無事終えられた。午前下校の生徒たちを見送ったあと、午後の巡回、入学式の打ち合わせ、新入生名簿のチェックとせわしなく過ごした。だから、意識的に思いかけないようにすれば、なんてことはなかった。
 その分の反動が、下校時にやってくるとは思いもしなかった。
 待ち焦がれていたような、来てしまったことを残念に思うような、そんな気持ちで昇降口で緊張した面持ちで待つ理央を見つけてしまった。もう寒さも和らいで、心地よい気候となったのに、理央の頬は赤かった。わざとゆっくり上履きから履き替えていると、待ちきれなくなった理央が、かかとがまだ履けていない俺を無視して、手首をひっつかんで、生徒会寮へと大股で歩き始めてしまった。わたわたとしながらも、なんとかその長い脚の歩幅に合わせる。恥ずかしくて、目線をあげることができなかった。理央も、ずっと無口で、エントランスをくぐり、エレベーターのボタンを何度も押しながら到着を待った。ポン、と聞きなれた電子音を鳴らして、エレベーターは目的の階でドアを開く。ドアが開ききる前に理央は身体を滑り込ませて足早に自室の前に立つ。乱暴に鍵をあけると強い力を俺を引っ張り入れた。

「あっ、ちょ…理央っ」

 ぐん、と手首を引っ張られる。玄関を通り、廊下を抜け、リビングの隣のドアを開け放とうとする手に飛びついた。

「理央、だめだって、その…」

 準備をしないと。
 俺は、オメガと違って、ベータの男だ。性行為には、事前準備が必要だった。
 おそるおそる理央を見上げると、瞳を細くしてぎらぎらと光らせ息が荒い顔に気づいてしまう。まるで、ラットのようだった。

「だめ?何いってんの?」

 理央が乱暴に寝室のドアを開けようとするのを、懇親の力でその腕に抱き着く。

「ちが、その…俺、まだ…」

 すがるように潤む瞳で見上げる。骨っぽい理央の手にのせていたそれが痛いほどの力で握り込まれ、抱きすくめられる。

「んぅ、っ」

 身動きできないと、にゅる、と舌が侵入し暴れ始める。はふはふ、となんとか呼吸だけは得るが、頭がくらくらする。む、と強いフェロモンの匂いがする。身体を蝕むようにその匂いは俺の体内に入り込み、思考を晦ます。

「んっ!」

 ごり、と高ぶりをこすりつけられて、身体が硬直する。目を見開いてしまうと、劣情に悶える瞳とぶつかる。ふーふー、と荒い鼻息が聞こえて、じわじわと身体の熱が増すのがわかった。
 この乱暴さは、俺を求めている証拠なのだと思うと、胸が張り裂けそうになる。ゆっくりと、柔らかい髪の毛を撫でる。黒染めした痛んだ髪の毛は、すっかり柔らかい本来の理央の猫っ毛に生え変わった。何度かそうしていると、理央がうっとりと瞼を降ろし始める。しっとりと唇を合わせて、理央の頬にキスをして、抱き着いた。

「いい子だから、ちょっと待って」

 理央は、う~と唸りながら、俺を抱きしめて、頬ずりをした。

「俺は逃げないから…」

 ちゅ、と頬にキスをして離れると、和らいだ表情の理央が眉を下げながら俺を見つめていた。泣き出しそうな顔で、くす、と笑って、唇に吸い付く。ゆっくりと瞳を見ながら離れていくと、理央が唇を追いかけてキスをしてくる。しばらくその柔らかいキスを堪能して、そ、と手の甲でズボンの上から主張するそれを撫でる。びく、と大きく身体が揺れた。

「これ、抜いてやろうか?」

 下を見やると、しっかりと大きく存在を表していた。うっ、と呻く理央を見上げると、首を横に振った。

「この後、いっぱいしたいから…我慢、する…」

 ふーっ、と荒い息で、汗をにじませた顔で苦し気に答える。ちゃんと理性で自分をコントロールしている可愛い年下を早く甘やかしてやりたいと思う。理央をソファに座らせて、俺は風呂場に向かった。
 一人になると、ようやく息をつけた。しゅる、とネクタイを抜くことにすら、身体は何かを期待して、うずかせる。鏡を見ると、ぼおっと顔を赤くしてうつろな自分が見えた。こんなにセックスに期待していることは生まれて始めてた。
 服を脱ぎきると、理央が随所に隠してあるローションをとる。この部屋に引っ越して、しばらくしてから見つけた。なんだか、身内のエロ本を見つけた気分になって、いたたまれず本人にはいっていない。理央はバレていないと思っているようだが、脱衣所の洗面台下、キッチンのシンク下の引き出し奥、そして、寝室のベットサイド。俺が見つけた限りだと、この三か所にローションと場所によっては何箱もコンドームが準備されていた。ずっと前から、準備をしていたどこでもやる気満々な理央に、申し訳ない気持ちと、恥ずかしさとむずがゆさでいっぱいになったのを覚えている。どれもちゃんと新品で、おまけにコンドームはその辺では売っていない大きさのもので、ぞく、と身体が痺れる。一度だけ、理央の性器とは戯れた日があったが、その時も大きさに驚いた。
 ふう、と熱い吐息が漏れてしまう。あれが、今日、ここに入るのだろうか、とシャワーに打たれながら、下腹部をさすった。それだけ、じん、と奥が熱を持つ。
 それを打ち消すように乱雑にシャンプーをする。オメガのようにフェロモンが出て、いい匂いがするわけではない。嫌な臭いでもしたら嫌だ、と念入りに身体を清める。そして、もう使うことはないだろうと思っていた後孔に手を伸ばした。



 バスローブを身にまとい、浴室を出るとソファに座っていた理央が立ちあがって俺を真正面から迎えた。興奮で指先が震えるのを握りしめて誤魔化すようにする。二人で選んだ履きなれたスリッパを擦りながら、近づき目の前に立つ。どぎまぎとしていると、理央の手がゆっくりと伸びてきて、俺の手を包んだ。そして、促されるままに寝室に入り、ベッドの淵に並んで座る。ぎ、と柔らかなベッドが沈む。そろ、と長い指先が頬をかすめて、緊張で肩がすくむ。

「りん先輩…」

 湿度をもった囁きに、おそるおそる視線をあげると、リビングからのこぼれ灯が理央の端正な顔を照らした。頬を染めて、瞳にはうっすらと膜がはったように潤んで見えた。

「先輩…好きだよ…」

 なんで泣きそうな顔して言うんだよ。つい、頬が緩んだ。

「うん…」
「俺で、いいんだよね?」

 す、と頬を両手で覆われて、それを手で包みながらうなずいた。

「理央が、いい…」

 しっとりと汗ばんだ手のひらに頬を擦り寄せる。かさついた親指が、唇を撫でてきて、目線をあげると理央が近づいてくる。瞼を降ろして、その柔らかい唇を迎え入れる。ちゅぅ、と柔らかく吸い付いた唇を吸い返す。それを合図と言わんばかりに、理央の中から何かが切れる音が聞こえた気がした。ベッドに押し倒される。必死に首に抱き着く。脇の下に手を入れられて、引き上げられる。

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