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ep.10-4
しおりを挟む「やあ…、どっちも、どっ、ちも、さくの、いいにおい、するからあ…っ」
色々な苦しさの混じった大粒の涙に溺れそうになる。彼のパーカーの袖で必死に拭いながら、懸命に呼吸をする。喉がひきつってきて、苦しさが増していくが、彼の衣類を脱ぐことも嫌で首を振りながら必死に息を吸う。
ぎゅう、と力強く身体が包み込まれる。一気に甘やかな香りが鼻腔を埋めてきて、くら、と視界が揺れる。震える吐息でなんとか呼吸をしながら、力の入らない指先で彼に抱き着く。素肌の背中はしっとりと汗ばんでいた。それに触れるだけでも、腹の奥が重くなってしまう。すると、彼の腰が密やかに動き、ずぬ、とたくましい彼がナカへと入り込んできた。
「あ、あぅ…あ…、さ、く…っ」
開いた口の端からは唾液がつ、と溢れていく。僕をだめにするしこりを撫でて、さらに奥へと、ゆっくりと腰が進められる。ぐう、と彼の登場を悦ぶ身体は強く抱きしめてしまう。彼が耳元で息をつめているが、身体はいうことを聞かない。
「っ、聖…っ、聖…」
「ん、んう…ぁ…」
かすれた彼の色香あふれる声が鼓膜をくすぐり、こめかみに、優しく吸い付いてくる。身体から力が抜けると、ぐじゅ、と後孔に包まれている彼がさらに奥を目指して僕を開いていく。ある程度まで進むと、身体が強張って、びくん、と身体が跳ねた。ぶるぶると全身が震えて、快感の波にさらわれてしまう。それなのに、小さく勃ち上がった僕のペニスからは透明な液体がたらたらと零れるだけで射精ができない。熱が身体の中でさらに増して、暴発できずにいた。
はく、はく、と開けたままの口を小さく動かしていると、彼が顔を上げて僕を見降ろした。瞳が合わさって、声が出ないまま、さく、と彼の名前を唇で形作った。彼は、汗をしたらせて、僕の頬を宝物に触れるかのように撫でた。それから、眉を寄せて頬を染めたままの苦し気な表情で、口角を上げて顔を寄せた。
「んぅ…」
「聖、愛してる…」
ちゅう、とうっとりと唇を吸われると、また全身が痺れて彼の背中に爪を立ててしまう。けれど、彼はそれを嫌がるどころか、より笑みを深めて、角度を変えて、もう一度下唇を強く吸った。
「なんて可愛いんだ…俺の番…、好きだ、聖…」
俺を選んでくれてありがとう。
甘言を果てることなく尽くしながら、彼は僕に何度もキスの雨を降らす。時節、ちろ、と舌先が僕の舌先をくすぐる。鼻から声がもれる。
(足りない…)
じゅくじゅくと後孔が崩れているのがわかる。きっと彼だってわかっている。
ナカはずっと待たされて、彼とようやく巡り合えて、悦びで濡れそぼり、ぎゅうぎゅうと締め付けている。唇を吸われる度に、ひくついて彼のものが質量を増すのがわかる。
(もっと…)
彼だって、欲しいはずだ。
それなのに、本能を理性で殺して、僕に微笑みかけて、優しいキスをする。
ナカで今にも弾けてしまいそうな彼のアルファが感じ取れる。それでも、僕を大切にしようと、優しくしようと、震える腰を止めている彼に気づく。
「聖、好きだ…俺を受け入れてくれて、ありがとう…俺の天使…」
「ん、ぅ…さく…さくぅ、…っ」
腕を伸ばして、彼の太い太腿に手をかける。そして、唇を弄ばれながら、僕は腰をゆらめかす。彼を腿を引き寄せるように力をこめながら、僕は腰を反らしたり前に押し出したりして、しとどに濡れた後ろを彼の凶器に擦りつける。
「んうっ、ん、あ…んっ」
彼の張り出した段差にしこりがひっかかり、強い電流に背中を仰け反らす。その瞬間、唇にあてられていた彼の柔らかな下唇を、がり、と噛んでしまった。
「いっ…」
「あ、ご、ごめ…んぅ、さく、ぁ…っ」
彼が顔を離して身体を起した。その動作すらもナカがこすれて、僕は感じ入ってしまう。痛がった彼の声が聞こえて謝りたいのに、ばかな身体は快感に意識を寄越してしまう。
見上げると、彼の唇が赤くにじんでいて、それを滑り光る舌が、べろりと舐めた。前髪をかき上げた彼の目からは光が失われて淀み、さらに汗をぽたぽた、と落とした。香りがさらに強まって、うなじがじりじりと焦げ付くように痛くうずく。その瞳から逃れることができなくて、僕はシーツを握りしめて、足先で蹴り、後退りをしてしまう。
「聖…俺の、オメガ…」
「さ、さく、あうっ!」
手首を掴まれ強い力で引っ張られると、ごちゅん、と奥深くまで一気に彼のペニスが差し込まれた。その最奥で、彼の熱い精子が解放され、どくどく、とナカが火傷してしまいそうなほど熱くなる。彼は項垂れ、大きな身体を震わせながら、びゅうびゅうと力強く射精をする。その情熱的な高まりに、僕も顎を上げて、ようやく射精した。僕の射精は終わるのは早かったけれど、彼のそれはまだまだ終わらなくて、勢いも変わらずナカへと大量に注ぎ込まれているが腹への圧迫感でわかってしまう。頭の先から爪先まで何度も強い電流が駆け巡って、頭の中が真っ白のままだった。それは、彼の射精がようやく終わる頃に、強く握られた手首の痛みでだんだんと現実へと戻されていった。
なんとなくわかる頃には、彼のアルファはもうすでに硬くなっていて、僕への律動が始まっていた。
「あっ、らめ、あ、あぅ、さく、さくぅっ」
「聖…、聖っ…」
目線を落とすと、彼の大きな手のひらに握りしめられた両手首の間で小さいペニスが律動に合わせて、ぷる、ぷる、と弾け、雫を飛ばしていた。ナカからはおびただしい彼の精液がぐじゅぐじゅとかき混ぜられて、入口から泡立って溢れている感覚があり、それすらも肌が粟立ち、快感とさせてしまう。腰を引いた彼が、打ちつけると同時に手首を引き寄せられて、身体の奥底まで、彼のアルファでいっぱいになってしまいそうだった。
「あっ、あ、なに、これ、あん、あっ」
今までとは入り込んでいる場所が異なるように感じられた。
以前までは、くぽ、とさらに腰の奥に入り込むと、ぞわぞわする場所を撫でられていた感覚だった。それもたまらなくて、僕をいつもおかしくさせた。
今回は、へそ側にある壁に、ぶつかっている。そこにキスをするかのように、彼の亀頭が合わさると、内腿から寒気のような強い快感が溢れて背中をたどって全身に巡る。ぱん、ぱん、と肌がぶつかり、粘っこい水音を立てると、そこの周りの壁を押し開くように乱暴に突かれ、ぞわあ、と感じた事のない強い刺激と、多幸感に頭の中で火花が散るようだった。
「ひゃ、あ、これっ、ら、めえ…っ、や、あ、あぅ、んん…あぁっ」
今度は強い快楽に涙が溢れて、首を横に振って散らす。身体が変わったのだとまざまざと感じさせられる。そして、目の前のアルファは、僕を必死に孕ませようと腰を振っていた。
「聖、聖っ…好きだ、聖…っ!」
「さく、さくぅ、あ、あん、ぅ、さくっ」
手首を握っている手になんとか指で触れると、その手から力が抜かれた。彼の手首を引くと、奥をじっとりとこねるように腰を回しながら、彼が身体を倒す。そして、二の腕を撫でて背中に手を回すと、希望通りにキスをしてくれる。ちゅ、ちゅ、と軽く吸い付いてから、角度を変えて、熱い舌が口内へと現れる。滑った甘いそれに絡みついて、吸い付くと彼の瞳が、とろり、と溶けて細められるのが至近距離でわかった。僕も勝手に頬が緩んで、瞼を降ろして愛おしい彼との口づけに夢中になる。
「ん…んう…、ぁく、ん…す、き…さく、ん…」
彼の舌を唇で挟んで吸い付く。上あごを尖らせた舌で奥に向かって撫でられると食べつくされてしまいそうで、ぞわぞわと背中がむずがゆくなる。腰が重くなって、腹の奥がしぼられて、彼が子宮口を丹念にこねて、キスをしているのを感じてしまうと、さらに鼻から声が漏れてしまう。頭の中は彼でいっぱいで、身体の中も彼でいっぱいで、こんなにしあわせなことがあるんだろうかと考えてしまう。うっすらと瞼をあげると、深夜の海底の色をした瞳が細く、僕を見つめている。好きだと唱える僕を嬉しそうに見つける穏やかな瞳の奥には、情欲に燃える熱が隠れていて、それにさらに身体が絞られるように苦しくなる。
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