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ep.7-4
しおりを挟む彼は頬を緩めたまま、僕の頬にキスをして、こめかみにも落とし、そして耳元でかすれたバリトンで吐息混じりにつぶやく。
「それでもいいのか…、聖…」
「んう…ぅ…、だ、めぇ…ゃ…ぁ、んっ…」
耳朶に舌が這ってきて、くちゅり、と鼓膜が犯されて、全身がふるふると小さく震える。彼によってすっかり悦を得てしまう場所になってしまった耳に彼が熱い吐息をかける。顎が上がって、喉を締めて声を堪える。きゅう、と内腿に力が入って、ナカを締め付けてしまい、彼のくびれにしこりが引っかかって、爪先が宙を蹴ってしまう。
「ぅ、あ、っ、ぁ…っ…」
頭の中が酩酊として、視界がぼやけてくる。口を閉じることはできなくて、つ、とまた口から唾液が零れていく。は、は、と短い呼吸しかできなくて、苦しくて目の前の熱い身体にきつく抱き着く。
「聖」
「ぁ、っ…」
顔をあげた彼が、甘い雰囲気のない声で僕を呼ぶ。滲んだ視界で彼に振り返ると、彼が人差指を立てて唇に当てていた。回らない頭で、いつものキスの合図かと思って、首を伸ばして、唇を寄せるが彼が立てていた人差指が邪魔して、しっかりと合わせることが出来なかった。重い睫毛を持ち上げて小首をかしげると、ナカにいる彼が、ぐぐ、と質量と角度を増した。
「あっ…、んぅ…」
声が漏れてしまい、彼がそれを飲み込むようにキスをした。くちゅ、と舌が合わさって、もう一度唇を軽く吸われると、鼻先を擦り合わせながら、とけた瞳で彼が眦を下げながら、ひっそりと囁いた。
「廊下、誰かいる」
「ぇ…?」
しー、と彼がもう一度人差指を唇に当てる。静かに、という意味のボディーランゲージだったのかとぼんやりと理解する。次第に彼の意味が鮮明に飲み込めてきて、ただでさえ熱い頬に、さらに血が集まってくる。
「ぅ、んんっ…、ん…」
身体が緊張すると、ナカが収縮して彼が奥へと逃げるように滑り込んできた。開いた奥に彼が現れて、みっちりと彼が僕のナカにいて、びりびりと身体が快感に揺蕩いながら、一つの溶け合う多幸感に全身で彼に抱き着く。丸まった爪先の足で彼のたくましい腰に巻き付いて、背中に苦しさを紛らわすように爪を立てる。
彼がいうように耳を澄ますと、階段を上る足音が聞こえた。たん、たん、たん。少し間があって、踊り場を曲がっているのだとわかる。あと数段あがったら、僕の部屋の前に出る。階段の目の前に僕の部屋があり、廊下は左右に別れる。左が両親の部屋で、右に二階の浴室や洗面所などがある。
見つかってはならない。実家で、両親が僕らの結婚を祝ってくれた。それなのに、今、幼い頃から住んでいる自室で、こんな淫らなことをしている背徳感と両親への罪悪感が、さらに僕を高めてしまう。下腹部に意図せず力が入ってしまう。
「あっ…」
うわずった声が出てしまう。肩が、びく、びく、と揺れる。ずっと全身が快楽に支配されてしまい、出口なく渦巻き、勢いを増しているようだった。
「さ、く…さくぅ…、声、でちゃ…んぅ…ぁ、っ…」
羞恥と背徳感に熱は高まり、吐き出してしまいたいのに理性で身体を押し込む。それなのに、悦の波にさらわれてしまいそうで、腕の力を弱めると、彼が顔を上げる。助けて…、と涙を零しながら彼を見上げた。
「聖…」
「ぁ、んぅ…んっ、っ…んぁ、ん…」
ぐじゅ、と後ろから粘りが強い水音が聞こえて、奥に彼が当たる。腰を寄せるように、巻き付けた太腿に力が入ってしまい、大きな声が鼻から抜けかけた時、彼が唇を唇で塞いでくれた。ぐる、とたっぷりと甘い唾液を纏わせた舌が僕のそれを回って、舐めつくす。頬裏をざらり、と舐められると細胞まで食べつくされてしまう。舌に彼の発達した犬歯が甘噛みしてきて、ぞわ、と全身が、うなじが強くざわつく。
とん、と足音が部屋の前で鳴った。それに合わせてか、彼が、僕の奥を、ゆっくりとこする。
(だめ…っ!)
瞼を上げて彼に訴えようとするが、うっとりと目を細めた彼は、眦を染めて、僕と視線が交わると、腰を揺さぶる。ゆす、と身体が、彼に合わせて遅い速度で上下に擦れる。彼の唇が僕の舌を吸って、食みながら離れる。
「ら、らめぇ…っ!」
ばら、と涙が溢れながら彼に必死に声を殺して訴えるのに、彼のペニスは膨らんで僕の奥をいじめた。
「あぅっ、んぅ…!」
ごちゅ、と奥に彼がねじ込むようにやってきて、ぐぽん、とナカから音がした。彼の熱が身体の中に溶けて、濃密で甘い彼の匂いに眩暈がした。それによって、もうダメだ、と声が出たが、すぐに彼が唇を大きく開いて覆って、すべてを彼の口内に吸い込んでくれた。
「んうっ、ん、んうぅ…っ!」
筋肉で盛り上がった背中に、ぎり、と深く爪を立ててしまう。大きな身体に抱き込まれて、ベッドに隠すように押し付けられながら、僕は身体を大きく跳ねさせた。びくん、びくん、と悲鳴をあげそうなほどの強い快楽だが、彼が長い舌で舌根を舐めつくされるほど深い口づけをされて、息苦しくて、頭の中が靄がかる。深い深い悦楽に、身体の熱は吐精して放出されているはずなのに、いつまでもその甘すぎる強い電流が全身をかけめぐり、下腹部に重く残り、神経を焼き切る。
彼の腰に爪先を意識せずとも丸まっている足をくくるが、彼が腰を引いて、ぱんっ、と一度渇いた音を立てて強く挿入される。ちか、と目の前が白くなって、奥深くにぐぽり、と彼が戻ってきて、ゴム越しに彼が放出されるのを感じた。足音が遠くに聞こえて、小さく奥の部屋が開かれて閉まる音がした。それと同時に、僕は頭がぐら、として、意識を飛ばしてしまった。
次に意識を取り戻した時は、カーテン越しに柔らかい朝日が見える。妙に頭がすっきりとしていて、見慣れた風景に、自室に帰ってきたのだと思い出し、温かな体温と最近慣れた重みに振り返ると、彼が健やかに小さく寝息を立てて僕を抱きしめていた。
大好きな彼がすぐそこにいる。ここ毎日、見ているし経験しているのに、やっぱり彼の寝顔があって、体温があって、甘やかな匂いが漂うと身体が温かくなって、寝返りを打って彼の胸元に擦り寄ると、反射的に彼が僕を抱きしめる。そして、また規則正しい寝息を立てる。思わず、ふふ、と頬が緩んでしまう。
(あ…なんで、ここにさくが…)
花蜜の香りを嗅いでいて、心も身体もゆるりとほどけていく中で、ふと思い出す。なぜだ…、と思うと、頭の中で時間がさかのぼり、何があったのかがじわりじわりと蘇ってくる。
「ん…、聖…?」
彼の胸元で、昨夜の出来事に震えていると、彼が目覚めたようで、いつものかすれた甘い声で、おはよう、とつむじにキスをしてきた。しかし、反応を示さない僕の異変に彼が気づいて、身体を起した。僕は顔を覆って、布団の中にうずくまった。その山を手のひらで軽く叩きながら、彼は心配そうに僕の名前を呼ぶ。
「聖、どうした? 聖?」
昨夜の恥ずかしい、両親も執事も、僕の大切な人たちがいる家で、彼との淫らな行為が、身体に余韻として残っていて、自分が情けなくて涙が出た。恥ずかしくて消え入りたい。一番の涙の理由は、そんな状況でも愛する彼に求められて、ましてや、彼と初めて行為をしたこの場所で、うっとりとするほど愛を注がれて、やり直すかのようにたっぷりと身体を甘やかされて、悦んでいた自分が情けない。
めそめそ泣いている僕に気づいて、布団を剥いで彼が覗いてきた。真っ赤な顔で大粒の涙を零す僕を見て、彼は目を見張って、それからすべてを察したようで、頬を染めて微笑んだ。
「聖、ごめんな。俺のわがままに付き合わせて…」
そ、と頬を彼が撫でて、涙を拭う。それから、ありがとう、と彼は溶けた笑みで囁いて、僕の額にキスが落とされる。
「ずるい…っ」
その顔に僕が弱いことも、僕の考えをすべて理解してしまうことも、それから甘やかすように僕は悪くないと慰めてくるところも、全部が胸を切なく締め付けて、さらに彼のことが好きになってしまうのだ。
めそめそと泣く僕を、彼が膝の上で抱きしめたり、キスをしたりして慰めて、ようやく落ち着いた頃に、着替えて朝食を待つリビングへと向かう。両親は先に来ていて、食事を始めていた。それから、執事がいつもの優しい笑みで僕たちを迎え入れてくれて、両親も笑顔で挨拶をしてくれた。変わらない家族たちに、申し訳なくて、恥ずかしくて、情けなくて、僕だけが赤面して涙目になってしまう。それをフォローするかのように、彼が隣で世間話を目の前の彼らにして視線を反らしてくれた。
けれど、全員が何が起こったのかを察し、僕たちを微笑ましく見守ってくれていることに気づく余裕など、もちろんなかった。
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