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ep.7-2
しおりを挟む彼と少し前に進めた。そう感じられて、嬉しくて身体が熱くなっていた。ふふ、と笑って彼の大きな手のひらに指を絡ませて、薬指のリングがかちり、と重なった。彼とのペアリングをこするように、何度も握り直す。彼に微笑みかけると、彼も微笑んでくれる。
「聖」
名前を優しく呼ばれると、ありがとう、と小さく囁かれて、僕は小さく首を横に振った。そんなお礼を言われるようなことはしていない。それでも、彼は笑みを深めて、僕の頬に唇をあてた。
「聖のような天使に好きになってもらえて、俺はなんてしあわせ者なんだろうか…」
神に憎まれそうで怖い…。
そんな甘言を囁かれて、鼓膜から脳を伝って、背中から全身へと疼きに変わって侵略されていく。
「そ、なことない…」
肩をすくめる。視線を下げて、そんなことを言われるようなことは一切していないと首を横に振る。合わせていた手をさらに力を込めて握り直される。耳をくすぐられて、ひく、と喉が鳴ってしまう。その指先は輪郭をなぞり小さな喉仏をくすぐる。鎖骨をさすり、毛糸のあたたかなカーディガンの中に差し込まれる。脇腹を包まれると、膝頭が跳ねてしまう。大きな手のひらは背中に回って、腰を撫でて、太腿を柔く揉む。声が出てしまいそうで、口元を覆う。彼とつながっている指にさらに力が入ってしまう。自由な手が足の付け根をかすめると、内腿がびくん、と大きく揺れる。きゅ、とつむってしまった瞼をおそるおそる上げると、じりついた彼の瞳に捕まる。
「聖…」
かすれたバリトンに囁かれると、急に、ぐるん、と視界が回った。きし、ベッドが鳴り、彼越しに天井が見える。柔らかい枕に頭を預けていることに、ぱち、と瞬きをすると、瞳を潤ませて赤い頬をした彼が僕を見下ろしていた。赤い唇が僕の名前に動くと、こめかみにキスをしてから、耳元でうっとりと囁かれる。
「聖、抱きたい…」
「っ…、さくっ…」
色香がひどく滲んだ声に鼓膜が犯される。つないでいた左手の力が弱まると、彼の指先は、手のひらをいやらしくなぞる。むず痒くて指先を捕まえようとすると、水かきをくすぐられて指先が震える。手首に触れると、皮膚の薄い内側を少し爪を立てて撫でられる。唇を噛んで声を我慢していると、とん、と唇を指先が叩いて、睫毛と共に、ふるり、と開ける。彼が食べつくしてしまうかのように湿った唇で覆ってしまう。ぬる、と口内に熱い舌が入り込んできて、とろりと甘い唾液を流し込んでくる。僕はそれを、懸命に飲み下すしかなくて、そうすると頭の中がひりつくように熱くなって、神経が焦げていってしまう。彼の顎に、そ、と触れると舌の大胆な動きに合わせて動く。舌の側面を撫で、歯裏を辿って、上顎を舐めつくされると、もう何もできなくなる。
「ぁ、ふ…んぅ…っ、ん…」
手のひらが、首を撫で、鎖骨をくすぐる。パジャマのボタンを、一つ、ひとつと外される。外気に肌が冷えると、彼の手のひらがすぐに僕の体温を上げてしまう。
オメガに身体が寄るにつれて、肉付きの良くなってしまった胸を柔く揉まれる。女性がされるような手つきに、か、と身体が熱くなる。思わず瞼を上げると、彼はうっとりと熱に潤んだ瞳で僕を見つめていた。その瞳に捕まってしまうともう、何もできなくなってしまう。彼のたくましい二の腕をさすり、背中に手を回す。
ぐじゅ、ぐぢゅ、と口内を舐めつくし、吸いあげると彼は銀の糸を引きながら唇を離した。舌先が彼を追って、少し出てしまい羞恥に頬に熱が集まる。彼は頬を緩めて、その舌を最後に強く吸う。ぞわぞわ、とうなじから全身へと甘い鳥肌が立つ。
はふ、と呼吸をなんとか整えていると、彼が首筋や鎖骨に吸い付き、舐める。そして、谷間を舌でなぞると、僕と目線をあわせてから口角をあげて赤い舌がすでに勃ちあがった乳首の周りの皮膚の薄い桃色の部分をなぞる。硬く滑った舌先がすべる度に、じわりじわりと快感が身体の奥に溜まる。くすぐったいのに、もどかしくて、それでも悦に腰が跳ねてしまいそうになるのを堪える。彼のパジャマをめいっぱい握りしめて、声を、快感を押し殺す。
涙をにじませて悶える僕を見て、彼は熱い吐息を尖ったそれに吹きかけるように、恍惚と僕の名前を囁く。
「聖…」
「ぅっ、んっ…あっ」
僕の乳首を彼がぬかるんで温かな口内に含む。ざらついた舌がこねるように舐め倒し、柔らかな舌裏が慰めるように撫でてくる。唾液をたっぷりと含ませて音を立てて吸われてしまうと、目がちかちかと光り、びくん、と身体が仰け反ると、彼の発達した犬歯が先端をかすめて声が出てしまう。急いで口元に手をやって、必死に耐える。彼を涙で重い睫毛をあげて睨むように見下ろすと、くす、と微笑んで、また嬉しそうにもう片方にしゃぶりつく。
「さっ、ぁ…っ、っ! …だ、め…っ」
声を落として、彼の肩を叩く。ちゅぽ、と吸い付いた唇から解放された胸元は、ぷる、と元の位置に弾力をもって戻ってくるように見えて、さらに恥ずかしくなる。乱れ震える吐息をつきながら、ひそめた声のまま彼に訴える。
「よご、れちゃうから…、ぬが、して…」
僕は自分の腰元に指を指し込んで、下着ごとパジャマのズボンをずらす。もうすでに、後ろが濡れている感覚があって、さすがにパジャマを汚して出すには、執事たちに申し訳ない。足の間には、彼の身体があって、僕の意思ではもう、脱ぐことすらもできなかった。
彼は、ごく、と唾を飲んで、僕のズボンを下着ごと足から抜いた。する、と肌をシルクが滑るだけで肌が粟立ち、吐息が漏れた。すでに、僕の中心はふるり、勃ちあがっていて、ズボンを脱いでから、彼の漂わせるフェロモンが濃密さを一気に加速させた。
「さく…」
甘えるように名前を呼んでしまう。手を差し伸べると、彼は僕の望む通りに唇を寄越してくれる。彼の背中に手を回して、唇を味わう。その隙に、内腿をしっとりとした手のひらが撫で、会陰をくすぐったり、やや押し込んだりして僕の反応を楽しんでから、ぬかるんだ後孔に長くて美しい彼の指が挿入される。ほぐすように数本の指が出入りして、拡張していく。その間に、僕の身体を知り尽くした彼は、ぐ、と弱いしこりを押し込んで甘やかしてくれたり、わざとその周りをなぞってじらしたり、すっかり僕の理性を溶かし切ってしまう。
「ぁ…ん、さく…さ、くぅ…んっ…」
(ほしい…)
ぐずついた神経で、僕は悦に犯された瞳で彼を見上げ、キスの隙間から名前を呼ぶしか出来ない。もちろん、毎日のように身体をつなげている彼は、僕の求めていることが何かをわかっている。僕の髪に指を指し込んで、地肌を撫でてくれる。子どもにするように優しい手つきなのに、相変わらず口内への愛撫はひっきりなしで混沌としてしまう。
「聖…、愛してる、聖…」
「ん、うぅ…あ、くぅ…、すき…」
唇を淡く吸いながら、低くかすれた声で囁かれる。僕も、同じ気持ちだ。と答えるけれど、翻弄されてしまって言葉にいつもできない。けれど、彼にはちゃんと伝わっているらしく、目元をさらに細めて、顔中にキスを注がれる。
きし、とベッドが鳴って、彼がパジャマの上下を手早く脱ぎ捨てる。足の付け根の中央には、たくましく凶暴な肉棒がそそり勃ち、淡いライトを受けて、ぬらり、と存在を示していた。どこからか用意したコンドームを手早くつけて、僕は両足を立てて太腿裏に軽く手を添え、彼を受け入れる準備をする。は、は、と短い呼吸とうるさい心音に、彼が挿入されるのを悦んで待っている自分にすら興奮を覚える。
「聖…、入るぞ…」
「ん、さく…」
彼は僕に覆いかぶさると、唇を甘く吸う。その優しいキスを僕も応える。くちゅ、と後孔に薄いものに包まれた熱があって、期待に入口が開閉してしまう。そこ同士もキスをしているようで、羞恥に涙が零れた。角度を変えて、また唇をあわせていると、ずにゅり、と頭が胎内に入ってくる。それを僕の身体は、ようやく出会えた彼に悦んで、ぎゅうぎゅうきつく抱き着いてしまう。いつも、もっと楽に彼が入ってこられるように力を抜きたいのに、まだ、緊張してしまう。
「ん、んぅ、…っ、ん」
彼が弱いしこりを通り過ぎて奥を目指す。彼の太い腿に足をかけて、僕も腰を誘う。彼と一つになれる。それは何度も経験してきているのに、どうしても、毎回ごとに彼が求めてくれることが嬉しくて、素肌を交わらせる心地よさに、彼への愛おしさが膨らんで、たまらなくて涙になって零れ落ちる。
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