初恋と花蜜マゼンダ

麻田

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ep.1-4

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 じゅ、と残った精子を彼に吸い出されて、僕の前後は解放された。

「ん、…」

 後ろが何もなくなった寂しさに、開閉している感覚がする。けれど、は、は、と短い呼吸を、甘い余韻が残る身体で整える。脱力して、ただベッドに横たわることしか出来なかった。
 もぞ、と足元で彼が動いていて、視線を落すと、スラックスを床に脱ぎ落したところだった。筋肉がきれいに影をつくるお尻は僕のものとは全く違った。きゅう、と腹の奥がうずくようで、彼に手を伸ばした。ベッドに戻ってきた彼は、僕の手を見つけるとすぐに捕まえてくれて、とろける笑みで顔を寄せてくれた。

「さく…」
「聖」

 恋しくて、胸がしめつけられて、名前を呼ぶと彼も甘く囁き返してくれる。そして、彼も横になるから、僕は首に腕を回して擦り寄って、何度も飽きない唇に吸い付いた。
 もっと彼と密着したくて、邪魔なパジャマを脱ぎたい。けど、手を離したくなくて、裸の足で彼の足を抱きしめる。ふ、と太腿が彼のものに当たってしまい、また硬度を持っていることに気づいてしまった。開いた唇に彼が舌を、そろ、と差し入れてきて、唇を食んで、喜んで舌先をちろちろ、と舐める。ふ、と彼が笑っているのがわかって、嬉しくて僕も頬が緩む。それから、手のひらで彼の身体を撫でる。鎖骨は張り出していて、くぼみがある。肩も胸も、腹も、筋肉が隆起していて、かっこいい。瞳がとろりと溶けてしまう。ざり、と下生えに指を指し込んでから、彼のたくましいアルファに触れる。

「ん」

 触れている唇が少し閉じられて、鼻から声が漏れた。彼の艶やかな声は腰に響く。もっと聞きたくて、熱いその棒をそ、と撫でる。手で覆うと、大きくて、熱くて、硬い。

(ほしい…)

 腹の奥が、きゅう…、と切なく絞られた。ひくん、と後ろが疼いて、さみしくなる。

「さくぅ…」

 くちゅ、と舌を混ぜながら、いつの間にか恋しいその棒を両手で撫でる。彼の身体に寄りかかると、僕を身体の上に乗らせるように彼が仰向けに倒れた。柔らかい筋肉の上に乗ると、全身が彼の熱で溶け落ちてしまいそうで、また強い花蜜の香りに身体包まれて、後ろがずっとむせび泣くように訴えていた。いつの間にか、僕は彼のアルファに自分自身を擦り付けるように腰を揺らめかしていた。

「さく、さくぅ…、ん…」
「聖…ん、今日は、ここまで…」

 またお預け? と、さすがに彼を、眉間に皺を寄せてにらみつけると、彼は僕よりも皺を寄せて、汗をかいて耐えているようだった。

「ゴム、ないから…」

 明日な、と頭を撫でられる。それに首を横に振って拒否する。

「ゃだ…、もう、ずっと…おなか、くるしい…」

 彼の愛液で濡れた手を、彼の胸元に置いて身体を起す。すっかり勃ちあがったそれに後ろをあてる。どく、と力強い存在を感じて、きゅう、と後ろがキスをするように反応した。

「さくに、触られると…ここ…変に、なる…」

 へその下。下腹部を手で撫でると、ぬる、と彼の愛液がそこに着く。それすらも気持ち良くて、吐息が漏れる。きし、とベッドが鳴るから何かと思ったら、自分が後ろに彼をこすりつけるように腰を揺らしていた。

「あ…、あぅ…、ん…とま、ない…」
「ひ、じり…っ」

(ほしい…、さく…いれて…)

 ちゅ、と孔が彼の先端に吸い付くと、彼は急いで身体を起した。そして、僕の肩を抱き寄せて、腰を離させた。

「聖っ、ダメ、だ…っ」
「さく…」

 耳元で苦し気に息をつく彼から放たれる色香はあまりにも強くて、僕もぼんやりとしてきてしまう。すぐそこにあった耳朶を口に含んだ。彼の肩が、ぴく、と跳ねる。柔らかいそこを甘噛みすると、匂いが強くなって、もっといい匂いが欲しくて、耳を舐める。ちゅ、ちゅ、とそこにある孔にキスをしたり、舌を刺し込んだりする。その度に、彼が僕を強く抱きしめて、耳元で小さく喘ぐから、嬉しくて気持ち良くて、夢中で味わう。

「全部、僕のせいにしていいから…」

 ちゅぱ、と耳朶を離して、そう囁きかけると肩を強い力で押されて、ベッドに倒れ込む。

「そんなエロいこと、どこで覚えてきた…」

 ぎり、と肩を掴む指が食い込んで痛みに目をつむる。そろり、と瞼を上げると、頬を上気させているのに瞳の奥は驚くほど冷たく濁らせている彼がいた。

「わか、な…、さくがいると、なんでも、したくなる…」

 思ったままに伝えると、彼から甘い香りが溢れて、嬉しくて顔がゆるんだ。

「大好き…さく…」

 ふふ、と笑ってしまう。胸が温かくて、抱き着きたいのに彼が肩を離してくれない。不思議に思って、俯き気味の彼の頬に指をやると、その手をぎゅ、と力強く握りしめられる。指先に淡く口づけが落とされて、眦を染めて、彼は溶けた瞳で僕を見つめた。

「聖…、俺も、聖がいるとなんでもしたくなる…」
「あ、ぁ…っん…」

 彼が腰をゆすって、僕の狭間に猛ったそれを擦り付けた。熱いのに全身の肌が粟立って歓喜する。彼は顔を寄せて、僕に囁く。

「なんでも叶えてやりたい…優しくしたい…、それなのに、ひどくもしたくなる…」

 聖…、と甘えるように彼は僕の名前を呼んだ。眉が下がって、泣きそうな顔にも見えた。だから僕は、出来るだけ優しく彼の名前を呼んでつぶやいた。

「さくになら、ひどくされてもいいよ…けど、」

 首を伸ばして彼の頬にキスをする。視線を交えながら離れていく。

「いつだって、僕のこと、一番に愛して…」

 背中がむずむずして、つい笑ってしまう。顔が熱くて、近くで見てほしくなくて、口元を隠すように手のひらを彼に向けて顔に置いた。

「世界で一番、愛してる」

 彼は僕の手のひらに囁いて、淡く吸い付いた。何度もキスをするから、恥ずかしいけど、唇にしてほしくて手をどける。彼はとろけた笑みを見せて、僕の下唇を吸った。だから僕も、角度を変えて、彼の上唇を食む。唇の裏側を舐めると、すぐに熱い舌が入ってきて、舌の側面をくすぐる。彼の尖らせた舌、入念に表面を撫でて、甘い唾液を流し込んでくる。もっと欲しくて、首に手を回して密着し、こく、こく、と飲み落としていく。飲む度に、身体に広がって、じわ、と下腹部がにじむように熱くなる。

「ぁ、くぅ…」

 舌を混ぜながら、彼の名前を囁く。じ、と僕を見つめる深い青は、情欲に燃えていた。何度も唇を吸い付きながら、聖、と名前を呼ばれると、ぞくぞくと背中を電流が駆け巡り、頭を溶かし、腰を重くさせた。

「俺を、受け入れてくれるか…?」

 彼が、熱い屹立を僕の後ろに、ぴたり、と宛がった。ひくん、と疼いて、ようやく出会えた熱に、顔がだらしなくゆるんだままうなずいた。彼も同じようにゆるんだ顔で、好きだと囁き、キスをしながら、ゆっくりと、僕のナカに挿入ってきた。

「あ、ぁ…ぅ、あ…っ」

 みち、みち、と身体が割り開かれていく感覚がする。それが痛いはずなのに、嬉しくて、恍惚としてしまう。

「聖…っ」

 ぎゅう、と抱きしめられて、彼の喘ぎが耳元から直接、脳へと送り込まれて、全身がびりびり、と痺れる。後ろは、ようやく出会えた愛しい存在に、ぎゅうぎゅうとめいっぱい抱き締めていた。
 彼が、腰を止める。みっちりと、空虚だった部分に求めていたものが帰ってきた。それを、溶かして、混ぜて、一つになってしまおうと身体が求め合っているようだった。彼の汗ばんだ背中に必死に抱き着いた。

(ようやく…)

 ようやく、彼と、ひとつになれた。
 胸が苦しくて、涙があふれた。僕の様子に気づいた彼が、涙を何度も払って、優しく名前を呼んでくれる。

「嫌か…?」

 腰を引こうとした彼の太腿に足をひっかけて、腰を止めさせる。首を横に振って、涙で潤んだ瞳を彼に向ける。

「うれし…、さく…さくぅ…っ」
「…聖…、聖…」

 僕のナカで、彼が、ぐう、とまた膨らんだ。さらに、僕のナカが満たされて、身体が震える。頬を擦り寄せて、彼が鼓膜に囁きかける。

「聖、愛してる…、愛してるんだ…心から」
「さく…、さく…」

 互いの頬が、どちらの涙かで濡れている。それでも、僕たちは必死に抱き寄せあって、思いを伝えあった。

「さく、好き…大好きだよ…」

(諦めなくて、良かった)

 彼に拒絶をされた、昔の記憶が蘇ってくる。
 彼を守りたくて、彼の迷惑になりたくなくて、我慢した。たくさん。
 でも、それが一番、彼を傷つけるなんて、考えもしなかった。
 だから、傷ついた彼も、僕を傷つける道を選んだ。終わりたくないのに、終わってしまって。どちらとも言えず、ただただお互いがお互いに依存し、傷つけあって、遠のいていた。
 それでも彼は、僕の手を取った。
 彼は、ずっと僕を待っていてくれた。
 僕は、僕を好きになれなかった。彼がいない僕を、僕は認められなかったのだと思う。
 彼が離れて、それでも彼と並びたいと思ったから、努力できた。
 努力できる自分を、僕は好きになれた。

「聖」

 涙で重い睫毛を持ち上げると、眉間に唇が降ってきた。瞳が交わると、どちらともなく、キスをして微笑んだ。
 大好きな人が、僕だけを見て、微笑んでくれる。キスができる。
 好きだと伝えられる。
 それがどれだけのしあわせなのを僕は強く噛み締めた。


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